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嘔吐恐怖症で「吐くのが怖い」あなたへ|原因・症状・克服法を解説

嘔吐恐怖症は、特定の状況下で「自分や他人が吐くこと」に対して、強い恐れや不安を感じる状態です。
この恐怖は日常生活に大きな影響を与えることがあり、電車や飛行機に乗るのが怖い、外食ができない、体調の悪い人に近づけない、妊娠中のつわりが過度に怖いなど、様々な形で現れます。
この記事では、嘔吐恐怖症の原因や症状、そして自分でできる対処法から専門的な治療法まで、詳しく解説します。
嘔吐恐怖症に悩むあなたが、一歩踏み出すためのヒントとなれば幸いです。

目次

定義と診断基準

嘔吐恐怖症(おうとぎょふしょう)は、特定の恐怖症の一つで、嘔吐すること、または他人が嘔吐することに対して、極端な恐怖や不安を感じる心理的な障害です。
医学的には「Specific Phobia(特定恐怖症)」の中の「Situational Type(状況型)」や「Other Type(その他の型)」に分類されることがあります。

定義と診断基準

嘔吐恐怖症は、国際的な診断基準であるDSM-5(精神疾患の診断・統計マニュアル第5版)においては、特定の恐怖症として扱われます。
診断の主な基準は以下の通りです。

  • 特定の対象または状況(この場合は嘔吐または嘔吐に関連すること)に対する、顕著な恐怖または不安:自分自身や他人の嘔吐、または嘔吐につながる可能性のある状況(例:乗り物酔い、体調不良、飲酒、特定の食べ物など)を極端に恐れる。
  • 恐怖または不安の対象に直面した際に、ほぼ常に即時的な恐怖反応または不安反応を示す:嘔吐に関連する状況に遭遇すると、パニック発作に近い強い不安を感じる。
  • その恐怖または不安が、実際の危険性よりも著しく不釣り合いである:客観的に見て嘔吐する可能性が低い、あるいは嘔吐したとしても生命に関わる危険がないにも関わらず、過剰な恐怖を感じる。
  • その恐怖または不安の対象を避けるか、さもなければ強い恐怖または不安を伴って耐え忍ばれる:嘔吐する可能性のある状況を回避したり、避けられない場合は非常に強い苦痛を感じながらその場にいる。
  • この恐怖、不安、または回避が、臨床的に意味のある苦痛、または社会的、職業的、または他の重要な領域における機能の障害を引き起こしている:恐怖や不安のために、仕事に行けない、学校に行けない、友人との付き合いができない、旅行に行けないなど、日常生活や社会生活に支障が出ている。
  • この障害は、他の精神疾患の症状ではうまく説明されない:例として、強迫症(嘔吐への恐怖が汚染への恐怖の一部である場合を除く)やパニック症(嘔吐への恐怖がパニック発作の一症状である場合を除く)など。

これらの基準を満たす場合に、嘔吐恐怖症と診断される可能性があります。
しかし、自己判断ではなく、必ず専門家による診断が必要です。

他の恐怖症との関連性

嘔吐恐怖症は、他の不安障害や恐怖症と関連して見られることがあります。
特に、以下のものとの関連が指摘されています。

  • 広場恐怖症 (Agoraphobia): 予測困難な状況(例:公共交通機関、開けた場所、閉鎖された空間、群衆の中、家から遠く離れた場所)でパニック発作やその他の耐えられない症状(嘔吐を含む)が起きることを恐れ、そこからの脱出や援助が得られない場合に困難を感じる恐怖症です。
    嘔吐恐怖症の人が、もし公共の場で吐いてしまったらどうしよう、という恐れから電車やバス、人混みを避けるようになり、広場恐怖症を併発することがあります。
  • 社会不安障害 (Social Anxiety Disorder): 他者からの注目が集まる社会的状況(例:人前で話す、食事をする、文字を書く)で、恥ずかしい思いをしたり、屈辱的な状況に陥ることを極度に恐れる障害です。
    嘔吐恐怖症の人が、もし人前で吐いてしまったら恥ずかしい、という恐れから外食や会食を避けるようになるなど、社会不安障害と似た回避行動をとることがあります。
  • 特定の恐怖症 (Specific Phobia): 嘔吐恐怖症自体が特定の恐怖症の一種ですが、高所恐怖症、閉所恐怖症、動物恐怖症など、他の特定の恐怖症を併せ持っている人もいます。
  • 強迫症 (Obsessive-Compulsive Disorder, OCD): 潔癖症のように、特定の病原体や汚れによる汚染を極度に恐れ、それを避けるための強迫行為(過度な手洗いなど)を行う障害です。
    嘔吐恐怖症の中には、吐くこと自体だけでなく、吐物による汚染や感染を恐れる要素が強く、強迫症的な特徴を併せ持つケースも見られます。

これらの関連性から、嘔吐恐怖症を治療する際には、他の併存する障害も考慮に入れることが重要です。
専門家は、一人ひとりの状況に合わせて、最も適切な治療計画を立ててくれます。

嘔吐恐怖症の主な原因

嘔吐恐怖症が発症する原因は一つではなく、様々な要因が複雑に絡み合っていると考えられています。
一般的には、過去の経験、個人の性格や気質、現在のストレスなどが影響すると言われています。

過去のトラウマ経験

嘔吐恐怖症の最も一般的な原因として挙げられるのが、過去に嘔吐に関連する強いトラウマ体験をしたことです。
これは、必ずしも自分自身が吐いた経験だけではありません。

  • 自身のつらい嘔吐経験:
    • 過去に重い胃腸炎にかかり、激しい嘔吐を長時間繰り返して苦しんだ経験。
    • 乗り物酔いでひどく吐いてしまい、強い不快感や恥ずかしさを感じた経験。
    • アルコールによって制御不能な嘔吐を経験し、恐怖を感じた経験。
    • 手術や病気の際に嘔吐を経験し、それに伴う苦痛や不安が強かった経験。
  • 他人の嘔吐を目撃した経験:
    • 家族や友人がひどく体調を崩して嘔吐するのを見て、強い衝撃や嫌悪感を抱いた経験。
    • 公共の場所で誰かが嘔吐しているのを目撃し、ショックを受けたり、自分が巻き込まれるかもしれないという不安を感じた経験。
    • 幼少期に、身近な人が嘔吐して苦しんでいる姿を見て、それが強い恐怖として心に残った経験。

これらの経験が、単なる嫌な出来事としてではなく、「嘔吐は危険で恐ろしいものだ」「嘔吐したら大変なことになる」といった強い否定的な感情や信念として、心の奥深くに刻み込まれてしまうことがあります。
特に、その時の状況がコントロールできないと感じたり、誰にも助けてもらえなかったと感じたりした場合、恐怖はより強固になる傾向があります。

ただし、嘔吐恐怖症の人の中には、明確なトラウマ経験がないという人もいます。
そのため、トラウマ経験だけが原因とは限りません。

性格や気質

特定の性格や気質を持つ人は、嘔吐恐怖症になりやすい傾向があると言われています。

  • 心配性・不安を感じやすい: 元々、物事を心配しやすく、不安を感じやすい傾向がある人は、嘔吐といった不快な身体感覚や予測不能な事態に対して、より強く反応してしまう可能性があります。
  • 完璧主義・コントロール欲求が強い: 物事を完璧にこなしたい、自分の体の状態や周囲の状況を常にコントロールしておきたいという気持ちが強い人は、予測不能で制御困難な「嘔吐」という現象に対して、強い不快感や恐怖を感じやすいことがあります。
  • 内向的・敏感: 他人の感情や場の雰囲気に敏感で、内向的な人は、他人の嘔吐によって引き起こされる可能性のある否定的な反応(周囲の嫌悪感や混乱)を過度に恐れることがあります。
  • ネガティブ思考: ポジティブな側面よりもネガティブな側面に目を向けやすく、「もしこうなったら最悪だ」といった破局的な思考パターンを持ちやすい人は、嘔吐という出来事に対して過度に悲観的に考えてしまうことがあります。

これらの気質は、トラウマ経験と組み合わさることで、恐怖症の発症リスクを高める可能性があります。

ストレスや不安の影響

現在のストレスや不安レベルも、嘔吐恐怖症の発症や悪化に影響を与えます。

  • 慢性的なストレス: 仕事、人間関係、経済的な問題など、日常生活における慢性のストレスは、心身の緊張を高め、不安を感じやすい状態を作り出します。
    このような状態では、些細な吐き気や胃の不調でも、嘔吐への強い恐怖に繋がってしまうことがあります。
  • 急激な環境の変化や危機: 就職、結婚、引っ越し、病気、身近な人の死など、人生における大きな変化や危機は、強いストレスとなり、不安障害を発症する引き金になることがあります。
  • 健康不安: 自分の体の些細な変化(軽い吐き気、胃もたれなど)に対して過度に敏感になり、「何か重大な病気ではないか」「これから吐いてしまうのではないか」といった不安を感じやすくなります。

ストレスや不安が高まると、身体的な症状(吐き気、腹痛、動悸など)も現れやすくなります。
これらの身体症状が、さらに嘔吐への恐怖を増幅させるという悪循環に陥ることもあります。

その他の可能性

上記以外にも、嘔吐恐怖症の発症に関わる可能性が指摘されている要因があります。

  • 遺伝的要因: 家族に不安障害や恐怖症の人がいる場合、本人も同様の障害を発症しやすい傾向があるという研究があります。
    特定の遺伝子が、ストレスや不安に対する反応の仕方に影響を与えている可能性が考えられます。
  • 生物学的要因: 脳内の神経伝達物質のバランスの乱れや、扁桃体(恐怖を感じる脳の部位)の過活動なども、不安障害の発症に関与している可能性が研究されています。
  • 学習: 家族や身近な人が嘔吐に対して強い嫌悪感や恐怖を示しているのを見て育った場合、それを学習して自身も嘔吐を恐れるようになることがあります(モデリング)。

これらの要因が単独で、あるいは複合的に作用することで、嘔吐恐怖症が発症すると考えられます。
原因を特定することは、治療法を選択する上で重要な手掛かりとなります。

嘔吐恐怖症の症状と「あるある」

嘔吐恐怖症の症状は、人によって程度や現れ方が異なりますが、主に身体的症状、行動の変化(回避行動)、認知の歪みという3つの側面があります。
また、多くの嘔吐恐怖症の人が経験する「あるある」な困りごとも多数存在します。

身体的な症状

嘔吐恐怖症の人が、嘔吐に関連する状況に直面したり、嘔吐について考えたりする際に現れる身体的な症状は、強い不安反応によるものです。
これらは実際に吐く兆候ではなく、あくまで不安による身体の反応です。

  • 吐き気: 最も典型的で、本人をさらに不安にさせる症状です。
    しかし、これは実際に胃の内容物が逆流してくる吐き気ではなく、心因性の吐き気であることがほとんどです。
    胃の不快感、ムカムカ感として感じられます。
  • 動悸・心拍数の増加: 不安や恐怖を感じると、自律神経が刺激されて心拍数が上がり、ドキドキします。
  • 呼吸困難・過呼吸: 息苦しさを感じたり、浅く速い呼吸(過呼吸)になったりすることがあります。
    これにより、さらにパニックが増すことがあります。
  • 発汗・冷や汗: 手のひらや脇の下に汗をかいたり、全身に冷や汗をかいたりします。
  • 震え: 手足や全身が震えることがあります。
  • めまい・ふらつき: 血圧が変動したり、過呼吸になったりすることで、めまいやふらつきを感じることがあります。
  • 口の渇き: 不安によって唾液の分泌が減り、口がカラカラになります。
  • 胃腸の不調: 吐き気だけでなく、腹痛、下痢、便秘などの胃腸症状が現れることもあります。
  • 顔面蒼白: 血の気が引いて顔色が悪くなることがあります。

これらの身体症状は、恐怖や不安が高まることで現れ、さらに「もしかしたら本当に吐いてしまうのではないか」という恐怖を増幅させるという悪循環を生み出します。

行動の変化(回避行動)

嘔吐恐怖症の人は、嘔吐に関連する状況や場所を避けるようになります。
これは「回避行動」と呼ばれ、一時的に不安を軽減させますが、長期的には恐怖症を維持・悪化させてしまう原因となります。

具体的な回避行動の例:

  • 乗り物への乗車回避: 電車、バス、飛行機、船など、乗り物酔いをする可能性があるもの、あるいは途中で降りられないものを避けます。
    乗るとしても、短距離にしたり、座席を選んだりします。
  • 外食・会食の回避: 他の人が体調を崩す可能性、自分自身が緊張で体調を崩す可能性、衛生状態への不安などから、レストランや友人との食事を避けます。
    食べるものを極端に制限することもあります。
  • 特定の食べ物・飲み物の回避: 腐敗しやすいもの、生もの、刺激物、油っこいもの、アルコールなど、吐き気を催す可能性があると考えられるものを避けます。
  • 体調不良の人への接近回避: 家族や友人が風邪や胃腸炎で体調を崩していると、うつされることや目の前で吐かれることを恐れて、距離をとったり、看病を避けてしまったりします。
  • 妊娠・出産への躊躇: つわりによる嘔吐を極度に恐れ、妊娠や出産に対して強い不安や抵抗を感じることがあります。
  • 人が集まる場所の回避: 映画館、コンサート会場、満員電車など、人が多くて気分が悪くなる可能性や、もし吐いてしまった場合に注目を浴びることへの恐れから避けます。
  • 体調管理への過剰なこだわり: 体調を崩さないように、睡眠時間や食事内容、手洗いうがいなどを過剰に管理するようになります。
  • 場所の確認: どこに行ってもトイレの場所を確認したり、すぐに外に出られる出口を確認したりする癖がつきます。

これらの回避行動は、日常生活の自由度を著しく制限し、社会的な孤立を招くこともあります。

認知の歪み

嘔吐恐怖症の人は、嘔吐やそれに関連する事柄に対して、非現実的で否定的な思考パターン(認知の歪み)を持っていることが多いです。

  • 破局的な思考: 「もし吐いたら、取り返しのつかないことになる」「人前で吐いたら、一生の恥だ」「吐いたら死んでしまうかもしれない」など、実際にはそうならないことを極端に悪い方向に考えてしまいます。
  • 確率の過大評価: 自分が吐く可能性、あるいは他人が自分の近くで吐く可能性を、実際よりもはるかに高く見積もってしまいます。
  • 結果の過大評価: もし嘔吐が起きた場合の結果(例:周囲からの評価、自分の精神状態)を、実際よりもはるかにひどいものだと想像してしまいます。
  • 完璧主義的な考え: どんな状況でも絶対に吐いてはいけない、体調が悪くなる兆候すらあってはいけない、と考えます。
  • 危険の過剰な検出: 些細な身体の不調(軽い胃もたれ、げっぷ、咳など)を、嘔吐の前兆だと過度に警戒します。

これらの認知の歪みは、不安を増幅させ、回避行動を強化する原因となります。

嘔吐恐怖症「あるある」事例

嘔吐恐怖症の人が日常生活で経験する具体的な「あるある」な困りごとをいくつかご紹介します。

  • 電車で少しでもお腹がゴロゴロすると、「吐くかも」とパニックになり、次の駅で降りてしまう。
  • レストランで注文する際に、新鮮さや調理法を過剰に気にして、食べられるものが限られる。
  • 友人と飲みに行っても、少しのアルコールで吐き気を感じてすぐに帰ってしまうか、全く飲まない。
  • 風邪が流行る時期や、身近な人が体調を崩すと、過剰に恐れて近づけなくなる。
  • 妊娠はしたいけれど、つわりが怖くて踏み切れない。
  • 遠出や旅行が苦手。特に乗り物での移動が不安で計画自体を諦めることが多い。
  • 子どもが風邪をひいて吐くと、看病するのが怖い。
  • 外で食事や飲み物を口にする前に、衛生状態を異常に気にする。
  • 体調が少しでも悪いと感じると、会社や学校を休んでしまう。
  • 「気持ち悪い」という言葉を聞くだけで、自分も気持ち悪くなる気がする。
  • 酔っ払いを見るのが怖い。
  • 自分の吐き気だけでなく、他人が咳き込んだり、えずいたりする音を聞くだけでも動揺する。
  • 食後に胃もたれを感じると、吐いてしまうのではないかと不安になる。
  • 新しい食べ物や慣れない場所での食事が怖い。

これらの「あるある」は、嘔吐恐怖症が単なる「好き嫌い」や「潔癖」ではなく、日常生活を困難にさせる深刻な悩みであることを示しています。

嘔吐恐怖症の自分でできる対策・落ち着かせる方法

嘔吐恐怖症の症状はつらいものですが、自分でできる対策や、不安を感じた時に落ち着かせる方法はいくつかあります。
これらのセルフケアは、専門的な治療の助けにもなりますし、症状が軽い場合にはこれだけでも効果を感じられることがあります。

不安を和らげるリラクセーション法

不安が高まった時に、体の緊張を和らげ、心を落ち着かせるためのリラクセーション法は非常に有効です。

  • 腹式呼吸:
    1. 楽な姿勢で座るか横になるかします。
    2. 片方の手をお腹に置きます。
    3. 鼻からゆっくりと息を吸い込み、お腹が膨らむのを感じます。
      息を吸う際に、心の中で「4つ」数えるくらいの時間をかけます。
    4. 口からゆっくりと、お腹をへこませながら息を吐き出します。
      息を吐く際には、吸うときの倍くらいの時間をかけます(例:8つ数える)。
    5. これを数回繰り返します。
      呼吸に集中することで、ネガティブな思考から注意をそらすことができます。
  • 筋弛緩法:
    1. 体の各部分の筋肉を順番に意図的に緊張させ、それから一気に力を抜くことで、体のリラックスを促します。
    2. 例えば、まず両手を強く握りしめ、数秒間緊張を保ちます。
    3. 次に、一気に力を抜き、手のひらが緩む感覚、腕の重さを感じます。
    4. これを、腕、肩、首、顔、お腹、脚など、体の様々な部分で行います。
  • マインドフルネス:
    1. 今この瞬間の自分の五感(見る、聞く、嗅ぐ、味わう、触れる)や、体の感覚、思考、感情に、評価を加えずただ注意を向けます。
    2. 例えば、座っている椅子がお尻に触れている感覚、呼吸の出入り、聞こえてくる音などに意識を向けます。
    3. 不安な思考が浮かんできても、それを追い払おうとせず、「あ、不安が浮かんできたな」と客観的に観察し、再び今の瞬間に意識を戻します。
    4. 短い時間から始めて、徐々に慣れていくと良いでしょう。

これらのリラクセーション法を、不安を感じた時だけでなく、日頃から練習しておくことで、いざという時に効果的に使えるようになります。

思考パターンへのアプローチ

嘔吐恐怖症に伴う非現実的な思考パターン(認知の歪み)に気づき、それを修正していくことも重要です。

  • 思考記録(コラム法):
    1. 不安を感じた状況を書き出す。
    2. その時、心に浮かんだ思考(例:「吐いてしまうかもしれない」「もし吐いたらどうしよう」)を書き出す。
    3. その思考がどのくらい正しいと思うか、感情の強さ(0~100点)を書き出す。
    4. その思考を支持する根拠と、反論する根拠を書き出す(例:支持する根拠「少し胃がムカムカする」、反論する根拠「昨日から何も食べていない」「過去に同じようなムカムカ感で吐いたことはない」「これは不安による身体症状かもしれない」)。
    5. 反論する根拠をもとに、より現実的でバランスの取れた思考を書き出す(例:「ムカムカするけど、これは不安のせいかもしれない。実際に吐く可能性は低いだろう」)。
    6. 新しい思考を信じられる度合いと、現在の感情の強さを書き出す。
      この作業を繰り返すことで、自分のネガティブな思考の癖に気づき、より客観的に状況を捉える練習ができます。
  • 「もしそうなったら?」と問い直す:

    「もし人前で吐いたら、どうなるだろう?」と、最悪の事態を具体的に想像し、その結果が本当に耐えられないほどひどいものなのか、現実的に考えてみます。
    意外と「思っていたほどひどいことにはならないかもしれない」と思えることがあります。

回避行動を少しずつ見直す

回避行動は一時的に不安を軽減しますが、長期的には恐怖を強化します。
恐怖に少しずつ慣れていくためには、回避行動を段階的に見直すことが有効です(これは専門的な治療である「ばく露療法」の考え方に基づいています)。

  • 恐怖階層リストの作成: 嘔吐に関連する状況の中で、自分がどのくらい不安を感じるか、低いものから高いものまでリストアップします。

    例:

    1. 「嘔吐恐怖症」という言葉を聞く(不安レベル10)
    2. 吐いている人を見る動画を見る(不安レベル30)
    3. 体調が悪い友人から連絡を受ける(不安レベル40)
    4. 電車で一駅乗る(不安レベル50)
    5. 乗り物酔いの薬を見る(不安レベル60)
    6. 満員電車に乗る(不安レベル70)
    7. 友人との外食を計画する(不安レベル80)
    8. 実際に友人と外食する(不安レベル90)
    9. 少し体調が悪い時に外出する(不安レベル95)
  • 段階的な挑戦: リストの一番下の項目から、実際にその状況に身を置いてみます。
    不安を感じても回避せずに、その場にとどまり、不安が自然に軽減するのを待ちます。
    不安が軽減したら、次のレベルの項目に挑戦します。
    これを繰り返すことで、恐怖に慣れていきます。
    最初は非常に簡単なことから始め、成功体験を積み重ねることが重要です。
    例えば、「嘔吐恐怖症」という言葉が書かれた紙を見る、吐き気を感じる描写のある本を読む、といったことから始められます。

日常生活でのセルフケア

心身の健康状態は、不安や恐怖に大きく影響します。
基本的な生活習慣を見直すことも、嘔吐恐怖症の症状緩和に繋がります。

  • 十分な睡眠: 睡眠不足は不安を増幅させます。
    規則正しい生活を心がけ、質の良い睡眠を確保しましょう。
  • バランスの取れた食事: 特に胃腸に負担をかけるような食事(脂っこいもの、刺激物、冷たいものなど)は控えめにし、消化の良いバランスの取れた食事を心がけます。
    空腹や満腹すぎも吐き気を感じやすいことがあるため、適量を規則正しく摂るようにしましょう。
  • 適度な運動: 定期的な運動はストレス軽減に役立ち、精神的な安定をもたらします。
    ウォーキングやジョギング、ヨガなど、自分が楽しめる運動を見つけましょう。
  • カフェインやアルコールの制限: カフェインは不安を増幅させることがあります。
    アルコールは一時的に不安を紛らわせるように感じても、体調を悪化させたり、翌日の不安を高めたりすることがあります。
    これらの摂取は控えめにするのが賢明です。
  • 日記をつける: どのような状況で不安を感じたか、その時の思考や身体症状はどうだったかなどを記録することで、自分のパターンを理解し、対処法を考えるヒントになります。
  • 信頼できる人に話す: 家族や友人など、信頼できる人に自分の悩みを打ち明けることで、気持ちが楽になることがあります。
    ただし、理解が得られず傷つくこともあるため、相手は慎重に選びましょう。

症状が出た時の具体的な対処法

急に不安や吐き気を感じてパニックになりそうな時に、その場でできる具体的な対処法を知っておくと、少し落ち着きを取り戻すことができます。

  • その場から離れる(可能であれば): 安全だと感じられる場所(例:静かな場所、トイレ、外の空気にあたれる場所)に移動します。
    しかし、回避行動にならないよう、必要以上に逃げるのではなく、一時的に落ち着くための移動と割り切ることが重要です。
  • 深呼吸: 上記の腹式呼吸を行います。
    ゆっくりとした深い呼吸は、心拍数を落ち着かせ、リラックス効果があります。
  • 五感に意識を向ける: 今、見えているもの(5つ)、聞こえているもの(4つ)、触れているもの(3つ)、嗅げるもの(2つ)、味わえるもの(1つ)に順番に意識を向けます。「グラウンディング」と呼ばれる方法で、現実の世界に意識を戻すことで、不安から注意をそらします。
  • 注意をそらす: スマートフォンでゲームをする、音楽を聴く、本を読む、景色を観察するなど、意図的に何か別のことに集中しようとします。
  • 冷たい飲み物を飲む: 冷たい水を少量ずつ飲むと、胃の不快感が和らぐことがあります。
    ただし、一気に飲むと逆効果になることもあります。
  • ガムや飴を口にする: ガムを噛んだり飴を舐めたりすることで、唾液の分泌が促進され、吐き気が和らぐことがあります。
    また、口の中に別の感覚を与えることで、吐き気から注意をそらす効果もあります。
  • ツボを押す: 手首の内側にある「内関(ないかん)」と呼ばれるツボは、吐き気や乗り物酔いに効果があると言われています。
    軽く押してみるのも良いでしょう。
  • 肯定的な言葉を繰り返す: 心の中で「大丈夫」「これは不安のせいだ」「落ち着こう」といった肯定的な言葉を繰り返します。

これらの方法は、あくまで一時的に不安を軽減するためのものです。
根本的な克服のためには、次に説明する専門的な治療が必要となることが多いです。

嘔吐恐怖症の治し方・治療法

自分でできる対策だけでは症状の改善が見られない場合や、日常生活に大きな支障が出ている場合は、専門機関に相談し、適切な治療を受けることが非常に重要です。
嘔吐恐怖症は、適切な治療によって克服が十分に可能な障害です。

専門機関への相談の目安

どのような状況になったら、専門機関に相談することを検討すべきでしょうか。

  • 症状による苦痛が強い: 嘔吐への恐怖によって、毎日強い不安を感じている、パニック発作を繰り返しているなど、精神的な苦痛が大きい場合。
  • 日常生活に支障が出ている: 恐怖のために、学校や会社に行けない、友人との交流を避けている、外出が困難になっている、食事を十分に摂れないなど、生活の様々な側面に具体的な問題が生じている場合。
  • 自分で対策しても改善が見られない: リラクセーション法や思考の修正など、自分なりに対策を試みたが、症状が軽くなるどころか悪化している、あるいは全く効果を感じられない場合。
  • 症状が長期間続いている: 嘔吐恐怖症の症状が数ヶ月以上続いており、自然に良くなる兆候が見られない場合。
  • 他の精神的な問題を併発している: うつ病、他の不安障害、摂食障害などを併発しており、全体的な状態が悪化している場合。
  • 妊娠を希望しているが、つわりが怖くて踏み切れない: 妊娠・出産というライフイベントに対して、嘔吐への恐怖が大きな障壁となっている場合。

これらのいずれかに当てはまる場合は、一人で抱え込まず、専門家のアドバイスを求めることを強くお勧めします。

認知行動療法(CBT)

認知行動療法(Cognitive Behavioral Therapy, CBT)は、嘔吐恐怖症を含む不安障害に対して、最も効果的な心理療法のMethodsの一つとして広く認められています。
CBTは、「私たちの感情や行動は、物事の捉え方(認知)に強く影響される」という考え方に基づいています。
嘔吐恐怖症におけるCBTでは、主に以下の点に焦点を当てます。

  • 認知の修正: 嘔吐やそれに関連する状況に対する非現実的で破局的な思考パターン(認知の歪み)を特定し、それをより現実的でバランスの取れた思考に修正していく練習をします。
    思考記録(コラム法)などを用いて、自分の思考の癖に気づき、客観的に評価するスキルを身につけます。
  • 行動実験: 恐怖に基づいた回避行動が、実は恐怖を維持していることを理解します。
    そして、安全だと分かっていても避けている状況に、少しずつ挑戦する計画を立てます。
  • 曝露療法(後述): 意図的に恐怖を感じる状況や刺激に段階的に身を置き、不安に慣れていくことを目指します。

セラピストとの対話や宿題を通じて、自分の思考や行動のパターンを理解し、より適応的なものに変えていくことを目指します。

ばく露療法

ばく露療法(Exposure Therapy)は、CBTの一環として、または単独で嘔吐恐怖症の治療に用いられる非常に効果的な手法です。
「恐怖を感じる対象や状況に意図的に身を置くことで、その恐怖に徐々に慣れていく」という原理に基づいています。
嘔吐恐怖症におけるばく露療法は、主に以下のステップで行われます。

  • 恐怖階層リストの作成: 自分にとって嘔吐に関連して不安を感じる状況を、不安の度合いが低いものから高いものまでリストアップします(上記「自分でできる対策」の項目を参照)。
  • 段階的な曝露: リストの一番下の項目から始め、実際にその状況に身を置きます。
    例えば、嘔吐について書かれた本を読む、嘔吐する場面のある映像を見る、吐き気を感じやすい食べ物を少量食べる、といったことから始めます。
  • 反応妨害: 曝露中に不安や吐き気を感じても、回避行動(その場から逃げる、過剰な手洗いをする、過度に水を飲むなど)をとらずに、不安が自然に軽減するのを待ちます。
    不安は時間とともに波のように変動し、やがて必ず収まることを体験的に学びます。
  • 繰り返しの練習: 一つの項目に対する不安が十分に軽減したら、次のレベルの項目に挑戦します。
    これを繰り返すことで、より強い恐怖刺激にも耐えられるようになり、最終的には最も恐れている状況にも対処できるようになることを目指します。

ばく露療法は、セラピストの指導のもと、安全かつ効果的に行うことが重要です。
無理のないペースで、成功体験を積み重ねながら進めていきます。
自宅での宿題として、リストの簡単な項目に自分で挑戦することもあります。

嘔吐恐怖症のばく露療法で用いられる具体的な刺激の例:

  • 嘔吐に関する言葉や写真、動画
  • 吐き気を感じる描写のある物語や映像
  • 乗り物酔いをしやすい乗り物に乗る
  • 体調の悪い人がいる場所に短時間いる
  • 少し古くなった食品の匂いを嗅ぐ
  • 自分が吐いたふりをする、あるいは吐いている音を出す
  • 意図的に少し気分が悪くなるような運動をする(例:ぐるぐる回る)
  • 外食する

これらの刺激に段階的に慣れていくことで、「嘔吐は恐ろしいものではない」「嘔吐しても大丈夫だ」「不安な状況でも回避しなくても大丈夫だ」ということを学んでいきます。

薬物療法

薬物療法は、嘔吐恐怖症の根本的な治療法というよりは、不安症状を和らげるために補助的に用いられることがあります。
特に、不安症状が非常に強く、心理療法に取り組むのが難しい場合などに検討されます。

使用される主な薬の種類:

  • 選択的セロトニン再取り込み阻害薬 (SSRI): 不安障害やうつ病の治療に広く用いられる薬です。
    脳内のセロトニンという神経伝達物質の働きを調整し、不安や抑うつ気分を和らげます。
    効果が現れるまでに数週間かかることがありますが、依存性が低いとされています。
  • ベンゾジアゼピン系抗不安薬: 即効性があり、強い不安やパニック発作を一時的に抑えるのに効果的です。
    しかし、依存性や眠気、ふらつきなどの副作用があるため、漫然とした使用は避けるべきで、頓服薬として使うことが多いです。
  • 制吐剤: 実際に吐き気がある場合に処方されることがありますが、嘔吐恐怖症に伴う心因性の吐き気には必ずしも効果があるわけではありません。
    ただし、安心感を得るために医師と相談の上、処方されることもあります。

薬物療法を行うかどうか、どの薬を使用するかは、医師が症状の程度、他の健康状態、他の服用薬などを考慮して慎重に判断します。
薬物療法と心理療法(特にCBTとばく露療法)を組み合わせて行うのが、最も効果的なアプローチとなることが多いです。

どこに相談すればいい?(何科?)

嘔吐恐怖症で専門機関に相談したい場合、いくつかの選択肢があります。

相談先 特徴 適しているケース
精神科・心療内科 医師による診察を受け、診断に基づいた治療(薬物療法、必要に応じて心理療法)を受けることができます。保険診療が可能です。 症状が重く、日常生活に大きな支障が出ている場合。薬物療法も検討したい場合。
カウンセリングルーム 臨床心理士や公認心理師といった心理専門家によるカウンセリングや心理療法(CBTやばく露療法など)を受けることができます。自由診療が多いです。 薬物療法より心理療法を中心に受けたい場合。特定の技法(CBTなど)に特化している場合。
大学病院の精神科 専門的な治療や研究が行われており、複雑なケースや難治性のケースにも対応できる場合があります。 他の医療機関で十分な効果が得られなかった場合。専門性の高い治療を受けたい場合。
精神保健福祉センター 公的な相談窓口で、精神的な健康に関する相談を無料で受けられます。適切な相談先や医療機関を紹介してもらうことも可能です。 まずどこに相談すれば良いか分からない場合。経済的な負担を抑えたい場合。

まずは、精神科や心療内科を受診するのが一般的です。
そこで医師に症状を詳しく伝え、診断を受け、治療方針について相談します。
心理療法を受けたい場合は、医師から心理療法士を紹介してもらったり、自分で心理療法を行っているカウンセリングルームを探したりする必要があります。

相談する際には、自分の症状や困っていることを正直に伝え、どのような治療を希望するか(例:薬は避けたい、心理療法に興味があるなど)を相談してみましょう。

嘔吐恐怖症と妊娠中のつわり

妊娠中のつわりは、多くの妊婦さんが経験する症状ですが、嘔吐恐怖症の女性にとっては、つわりの吐き気や嘔吐が大きな不安の種となり、特別な困難を伴うことがあります。

つわりにおける嘔吐恐怖症のリスク

妊娠によるつわりは、実際に吐き気を伴ったり、嘔吐したりすることがあります。
嘔吐恐怖症の女性にとって、この「実際に吐く」という体験は、以下のリスクを高める可能性があります。

  • 嘔吐恐怖の悪化: 実際に吐いてしまうことで、これまで抑えていた恐怖が現実のものとなり、嘔吐恐怖症が著しく悪化することがあります。
  • 栄養不足や脱水: 吐き気や嘔吐を恐れるあまり、十分に食事が摂れなくなり、栄養不足や脱水症状を引き起こすリスクが高まります。
    これは母体だけでなく、胎児の成長にも影響を与える可能性があります。
  • 精神的な負担の増大: つわりと嘔吐恐怖の両方に苦しむことで、精神的な負担が非常に大きくなり、抑うつやパニック発作を頻繁に起こすなど、精神状態が悪化する可能性があります。
  • 妊娠・出産へのネガティブな感情: 妊娠やつわりに対する強いネガティブな感情が生まれ、マタニティブルーや産後うつに繋がりやすくなるリスクも考えられます。

通常のつわりであっても辛いものですが、嘔吐恐怖症がある場合は、心身両面でより手厚いサポートが必要となります。

妊娠中の対策と注意点

嘔吐恐怖症の女性が妊娠した場合、つわりを乗り切るために、そして恐怖症を悪化させないために、いくつかの対策と注意点があります。

  • 妊娠前から専門家に相談する: 妊娠を希望する段階で、嘔吐恐怖症であることを精神科医やカウンセラーに相談しておくことが非常に重要です。
    妊娠中の精神状態を安定させるためのサポート体制を事前に整えておくことができます。
  • 産婦人科医との連携: 妊娠が分かったら、嘔吐恐怖症であることを必ず産婦人科医に伝えてください。
    つわりの症状について、嘔吐恐怖の視点も考慮して対応してもらうことができます。
    必要に応じて、つわり対策のための薬を処方してもらったり、精神科との連携を図ってもらったりすることができます。
  • 精神科医やカウンセラーとの併診: 妊娠中も、精神科医や心理専門家によるサポートを継続または開始することが推奨されます。
    つわりによる不安や恐怖に対して、認知行動療法的なアプローチや、不安を和らげるための具体的な方法を一緒に考えてもらうことができます。
    妊娠中でも安全に使用できる薬について、精神科医と相談することも可能です。
  • つわり対策の工夫: 嘔吐恐怖があるなしに関わらず、一般的なつわり対策も有効です。
    • 空腹にならないよう、少量ずつ頻回に食べる。
    • 水分補給をこまめに行う。
    • 吐き気を誘発しやすい匂いや食べ物を避ける。
    • 休息を十分に取る。
    • 生姜など、吐き気を和らげると言われるものを試してみる。
    • 医師に相談の上、つわり対策の薬を検討する。

    嘔吐恐怖症の場合、これらの対策を講じる際に、「これを食べたら吐くかもしれない」「水分を摂ったら気持ち悪くなるかもしれない」といった不安が伴うことがありますが、専門家と相談しながら、無理のない範囲で取り組むことが大切です。

  • パートナーや家族のサポート: パートナーや家族に嘔吐恐怖症について理解してもらい、精神的なサポートや家事の協力を得ることも非常に重要です。「吐きそう」といった訴えを軽く見たり、「気のせいだ」と否定したりせず、不安な気持ちに寄り添ってもらうことが大切です。
  • 「完璧を目指さない」という心構え: 妊娠中はつわりがあるのが自然なことであり、吐いてしまう日があっても自分を責めないことが大切です。
    完全に嘔吐を避けることは難しい場合もあるという現実を受け入れ、「できる範囲で」乗り越えようという柔軟な姿勢を持つことも重要です。

妊娠中のつわりは期間限定のものです。
適切なサポートを受けながら、この期間を乗り越えることが、その後の育児生活にも良い影響を与えます。

嘔吐恐怖症の克服に向けて

嘔吐恐怖症は、適切に治療を行えば、症状を大幅に軽減させたり、克服したりすることが十分に可能です。
完治を目指す道のりでは、ご自身の努力だけでなく、周囲の理解やサポートも重要な役割を果たします。

完治は可能なのか?

「完治」の定義にもよりますが、嘔吐恐怖症の症状に悩まされることなく、以前のように自由な日常生活を送れるようになることは十分に可能です。
心理療法、特にばく露療法や認知行動療法は、多くの研究でその効果が証明されており、これらの治療を受けることで、嘔吐への過剰な恐怖が和らぎ、回避行動が減少し、日常生活の質が向上することが期待できます。

ただし、一度克服したとしても、ストレスが高まった時や体調を崩した時などに、一時的に不安がぶり返す「再燃」のリスクはゼロではありません。
重要なのは、再燃した場合でも、症状が悪化する前に自分で気づき、これまで学んだ対処法を使ったり、必要であれば再び専門家に相談したりできるスキルを身につけていることです。

完全に「吐くことに対する嫌悪感や不快感がなくなる」わけではありません。
多くの人にとって、嘔吐はもともと気持ちの良いものではありません。
克服というのは、「嘔吐に対する過剰で非現実的な恐怖がなくなり、たとえ吐くことになったとしても、その状況を冷静に受け止め、対処できる自信がつくこと」を目指すものです。

克服への道のりは人それぞれ異なり、時間もかかります。
焦らず、一歩ずつ進んでいくことが大切です。

周囲の理解とサポートの重要性

嘔吐恐怖症は、周囲から「わがまま」「潔癖すぎる」「考えすぎ」などと誤解されやすい症状です。
そのため、本人も悩みを打ち明けにくく、孤立感を深めてしまうことがあります。
嘔吐恐怖症の人が克服を目指す上で、周囲の理解と適切なサポートは非常に力になります。

周囲の人(家族、友人、職場の同僚など)ができること:

  • 病気であることの理解: 嘔吐恐怖症が単なる「好き嫌い」や「甘え」ではなく、治療が必要な精神的な障害であることを理解する。
  • 否定しない、軽視しない: 本人が感じる恐怖や不安を「大したことない」「気のせいだ」と否定したり、軽視したりしない。
    本人にとっては真剣な悩みであることを尊重する。
  • 話を聞く: 本人が悩みや不安を話したい時に、批判せずに耳を傾ける。
    無理にアドバイスをする必要はありません。
  • 無理強いしない: 恐怖を感じる状況への参加や、特定の食べ物を食べることを無理強いしない。
    ばく露療法は専門家の指導のもと、本人のペースで行うべきものです。
  • 情報提供をサポート: 信頼できる医療機関や心理専門家についての情報を一緒に探したり、予約を手伝ったりする。
  • 治療への協力を検討する: もし専門家から協力をお願いされた場合(例:自宅でのばく露練習のサポートなど)、無理のない範囲で協力する。
  • 回復を信じ、見守る: 克服には時間がかかることを理解し、焦らせずに、本人のペースで回復していく過程を温かく見守る。
    小さな進歩でも褒め、励ます。
  • 「これだけは大丈夫」なことを知る: 本人が安心してできること、苦手なこと、特定の食べ物や状況について把握し、配慮する。

特に家族は、本人の日常生活における回避行動を目の当たりにし、サポートすることが多くなります。
家族自身も疲弊しないよう、必要であれば家族も専門家に相談したり、サポートグループに参加したりすることも検討しましょう。

まとめ

嘔吐恐怖症は、自分自身や他人の嘔吐に対する強い恐怖や不安を特徴とする特定の恐怖症です。
過去のトラウマ経験、性格、ストレスなどが原因となり、吐き気や動悸といった身体症状、電車や外食などを避けるといった回避行動、そして「もし吐いたら大変なことになる」といった認知の歪みを引き起こします。
これらの症状は日常生活に大きな影響を与え、特に妊娠中のつわりなども大きな困難となることがあります。

自分でできる対策として、腹式呼吸や筋弛緩法などのリラクセーション、思考の記録、そして段階的な回避行動の見直し(ばく露練習の考え方)などが有効です。
しかし、症状が重く、日常生活に支障が出ている場合は、一人で抱え込まず専門機関(精神科、心療内科、カウンセリングルームなど)に相談することが非常に重要です。

専門的な治療としては、認知行動療法(CBT)やばく露療法が最も効果的であり、必要に応じて薬物療法が併用されることもあります。
これらの治療を受けることで、嘔吐への過剰な恐怖を克服し、回避行動を減らし、生活の質を向上させることが十分に可能です。

嘔吐恐怖症の克服には時間と努力が必要ですが、決して不可能ではありません。
周囲の理解とサポートも大きな力になります。
もしあなたが嘔吐恐怖症で悩んでいるなら、この記事が、症状への理解を深め、適切な対策や治療へ繋がるための一歩となることを願っています。
希望を持って、専門家の助けを借りながら、症状の軽減、そして克服を目指していきましょう。

免責事項: 本記事は、嘔吐恐怖症に関する一般的な情報提供を目的としています。
医学的な診断や治療法に関する具体的なアドバイスを行うものではありません。
個々の症状や状況については、必ず専門の医師や医療従事者にご相談ください。
本記事の情報に基づいて行った行為の結果に関して、当方はいかなる責任も負いかねます。

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