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「躁鬱チェック」双極性障害かも?気になる症状を簡単セルフチェック

「躁鬱チェック」とは、双極性障害(躁鬱病)の可能性を自己評価するためのチェックリストや質問を指します。双極性障害は、気分が高ぶる「躁状態」と、気分が落ち込む「うつ状態」という、正反対の気分の波を繰り返す精神疾患です。この気分の波は、日常生活や社会生活に大きな影響を与えることがあります。自分がもしかしたら双極性障害かもしれない、あるいは身近な人がそうかもしれないと感じたときに、まずは簡易的なチェックを行うことは、病気について理解を深めたり、専門の医療機関への相談を検討する一つのきっかけとなります。ただし、これらのチェックはあくまで目安であり、正確な診断は医師にしかできません。少しでも気になる点があれば、必ず専門医の診察を受けることが重要です。この記事では、双極性障害の概要から、セルフチェックの項目、主な症状、うつ病との違い、原因、そして医療機関での正確な診断について詳しく解説します。

躁鬱病として知られる双極性障害は、脳の機能障害によって引き起こされる精神疾患の一つです。その最大の特徴は、異常に気分が高揚し活動的になる「躁状態」と、気分がひどく落ち込み何もできなくなる「うつ状態」という、両極端な気分の変動を繰り返す点にあります。これらの気分の波は、健康な人が経験する一時的な気分の変化とは異なり、より強烈で持続的であり、その人の思考、感情、行動、さらには身体的な機能にまで影響を及ぼし、日常生活や仕事、人間関係に重大な支障をきたします。

双極性障害の気分の波は、数週間から数ヶ月、あるいはそれ以上の期間続くことがあります。うつ状態が長く続き、たまに躁状態が現れる場合や、比較的短い周期で躁状態とうつ状態を繰り返す場合など、そのパターンは人によって大きく異なります。躁状態のときには、本人は自分が病気であるという認識を持ちにくく、周囲の人々が異変に気づくことが多いですが、うつ状態のときには、本人が苦しさを感じ、医療機関を受診することが一般的です。

双極性障害は早期に発見し、適切な治療を継続することで、気分の波をコントロールし、安定した日常生活を送ることが十分に可能です。しかし、診断されずに放置されたり、誤った治療を受けたりすると、症状が悪化し、社会生活からの孤立や経済的な問題、人間関係の破綻などを引き起こすリスクが高まります。そのため、自身や周囲に双極性障害の可能性を疑わせるサインが見られた場合には、速やかに専門家へ相談することが非常に重要となります。

双極性障害のタイプ(I型・II型)

双極性障害は、症状の程度やパターンによって主に2つのタイプに分けられます。この分類は、診断や治療方針を決定する上で重要となります。

  • 双極性I型障害:
    • 重症の躁状態(本格的な躁病エピソード)とうつ状態(大うつ病エピソード)の両方を経験するタイプです。
    • 躁状態の症状は非常に顕著で、多くの場合、入院が必要になるほど重度です。活動性が異常に高まり、睡眠時間が極端に短くなったり、無謀な行動(衝動買い、危険な運転、無責任な投資など)をとったりすることがあります。現実との乖離が見られることもあります。
    • うつ状態の症状は、うつ病の診断基準を満たす大うつ病エピソードとなります。
    • 躁状態のインパクトが大きいため、周囲が病気だと認識しやすい傾向があります。
  • 双極性II型障害:
    • 軽躁状態(より程度の軽い躁状態)とうつ状態(大うつ病エピソード)の両方を経験するタイプです。
    • 軽躁状態は、躁状態ほど極端ではありませんが、通常の状態よりも気分が高揚し、活動的になります。しかし、社会生活や仕事に重大な支障をきたすほどではない場合が多く、本人も周囲も「調子が良い」「いつもよりエネルギッシュだ」程度にしか感じないことがあります。そのため、病気だと気づかれにくく、うつ状態でのみ医療機関を受診し、「うつ病」と誤診されているケースも少なくありません。
    • うつ状態は、I型と同様に大うつ病エピソードとなります。
    • うつ状態の期間が長く、苦しさを感じやすいため、うつ病と診断されることが多いのが特徴です。

この2つのタイプ以外にも、急速交代型(ラピッドサイクラー、1年間に4回以上の気分のエピソードを繰り返す)や、特定不能の双極性障害など、さまざまな病状の現れ方があります。どちらのタイプであっても、適切な診断と治療が不可欠です。特に双極性II型障害は、軽躁状態が見逃されやすいため、うつ状態だけでなく、過去の気分の波についても詳細に医療者に伝えることが重要になります。

あなたは大丈夫?躁鬱チェックリスト(セルフチェック)

ここに示すチェックリストは、あくまで自己診断の目安であり、医療機関での正式な診断に代わるものではありません。過去のある一定期間の自分の状態を振り返り、以下の項目に当てはまるものが複数あるかどうかを確認してみてください。もし多くの項目に当てはまる場合や、これらの状態によって日常生活に支障が出ていると感じる場合は、専門医への相談を強くお勧めします。

躁状態・軽躁状態のチェック項目

以下の項目について、「通常の状態ではないほど明らかに異なる」、かつ「一定期間(躁状態なら1週間以上、軽躁状態なら4日以上)継続した」かどうかを評価してください。

  • 気分の高揚・開放的・易刺激的:
    ✔︎ 妙に気分が高揚し、幸福感や自信に満ち溢れていると感じた。
    ✔︎ いつもより開放的になり、人との交流が活発になった。
    ✔︎ ちょっとしたことでイライラしたり、怒りっぽくなったりした。
  • 自尊心の肥大・誇大性:
    ✔︎ 自分が特別な人間だと感じたり、偉大な能力や才能があると思い込んだりした。
    ✔︎ 根拠のない自信に満ち溢れていた。
  • 睡眠欲求の減少:
    ✔︎ 普段より睡眠時間が短くても、疲労を感じずエネルギッシュだった。
    ✔︎ ほとんど眠らずに活動し続けることができた。
  • 多弁・喋りっぱなし:
    ✔︎ 普段より非常によく喋り、早口になった。
    ✔︎ 話題が次々に変わり、他人が話す隙を与えなかった。
  • 観念奔逸・考えが次々に浮かぶ:
    ✔︎ 頭の中で次から次へとアイデアや考えが浮かび、まとまらなかった。
    ✔︎ 会話の途中で関連性の低い話題に飛んでしまうことがよくあった。
  • 注意散漫:
    ✔︎ 集中力がなくなり、気が散りやすかった。
    ✔︎ ちょっとした刺激(外部の音や出来事)に注意を奪われやすかった。
  • 活動の増加・精神運動性の興奮:
    ✔︎ 仕事や趣味、社会活動などに異常なほど熱心に取り組んだ。
    ✔︎ そわそわして落ち着かず、常に何かをしていないと気が済まなかった。
    ✔︎ 目標指向的な活動(例:新しいプロジェクトを始める、旅行の計画を立てる、執筆活動など)が著しく増えた。
  • 快楽を伴う活動への過度の傾倒:
    ✔︎ 後で問題が起きるとわかっていても、快楽的な活動(買い物、ギャンブル、性的活動、無謀な投資など)に衝動的に手を出した。
    ✔︎ 危険を顧みない行動が増えた。

軽躁状態のチェック項目補足: 軽躁状態では、上記の項目に複数当てはまるものの、その程度が躁状態ほど重くなく、入院が必要になったり、社会生活や職業機能に著しい障害を引き起こしたりするほどではないことが特徴です。しかし、普段の自分とは明らかに異なっており、周囲の人が「いつもと違う」と感じるレベルの変化が見られます。

うつ状態のチェック項目

以下の項目について、「ほとんど終日、かつほとんど毎日」「少なくとも2週間以上継続した」かどうかを評価してください。特に、1または2のどちらか、あるいは両方に当てはまることが重要です。

  • 抑うつ気分:
    ✔︎ ほとんど一日中、悲しい、空虚、希望がないといった気分が続いた(他者から見てもそう見えた)。
    ✔︎ 何事にも興味や喜びを感じられなくなった。
  • 興味または喜びの喪失:
    ✔︎ これまで楽しめていた趣味や活動に対し、全く興味や喜びを感じられなくなった。
  • 体重または食欲の変化:
    ✔︎ 無理なダイエットをしていないのに、明らかに体重が増減した(1ヶ月で体重の5%以上の変化など)。
    ✔︎ 食欲が異常に増したり、逆に全くなくなったりした。
  • 睡眠の変化:
    ✔︎ 眠れなくなった(不眠)か、あるいは眠りすぎになった(過眠)。
    ✔︎ 夜中に何度も目が覚める、朝早く目が覚めてしまう、寝つきが悪いといった不眠症状があった。
    ✔︎ 一日中眠くて仕方がないといった過眠症状があった。
  • 精神運動性の焦燥または制止:
    ✔︎ 落ち着きがなく、そわそわしたり、イライラしたりした(精神運動性の焦燥)。
    ✔︎ 動作や話し方が遅くなり、考えがまとまらなかったり、反応が鈍くなったりした(精神運動性の制止)。
  • 疲労感または気力の減退:
    ✔︎ 理由もなく疲れやすく、気力が湧かず、何もする気が起きなかった。
    ✔︎ ちょっとしたことでも非常に疲労を感じた。
  • 無価値感または罪悪感:
    ✔︎ 自分には価値がないと感じたり、些細なことに対して過度に罪悪感を感じたりした。
    ✔︎ 自分を責めたり、後悔したりすることが多かった。
  • 思考力または集中力の減退:
    ✔︎ 物事に集中できず、考えがまとまらなかった。
    ✔︎ 決断を下すのが難しくなった。
    ✔︎ 忘れっぽくなった。
  • 死について繰り返し考える:
    ✔︎ 死について繰り返し考えたり、自殺を考えたり計画したりした。
    ✔︎ 自分がいなくなったら楽になるのに、などと考えた。

これらのチェックリストは、あくまで自己評価のツールです。当てはまる項目が多いからといって、必ずしも双極性障害であると断定することはできません。また、これらの症状は他の精神疾患や身体的な問題でも起こり得ます。正確な診断と適切な治療のためには、必ず専門医の診察を受けるようにしてください。

躁鬱(双極性障害)の主な症状

双極性障害の主な症状は、「躁状態」「うつ状態」、そしてこれらの状態が混在する「混合状態」に分けられます。それぞれの状態は、気分、思考、行動、身体症状に様々な影響を及ぼします。

躁状態・軽躁状態の症状

躁状態または軽躁状態では、気分が異常に高揚したり、開放的になったり、あるいは易刺激的(怒りっぽい)になったりすることが中心的な症状です。これに加えて、以下のような症状が複数現れます。軽躁状態は躁状態よりも程度が軽いですが、基本的な症状の質は似ています。

カテゴリ 躁状態・軽躁状態の具体的な症状
気分 高揚・開放的: 過剰なまでに楽しく、根拠なく自信に満ち溢れている。世界が明るく見える。自分が何でもできると感じる。
易刺激的: ちょっとしたことでイライラし、怒りっぽくなる。攻撃的な言動をとることも。
思考 観念奔逸: 頭の中で考えが次から次へと湧き上がり、まとまらない。思考のスピードが速くなる。
誇大妄想・現実との乖離: 自分が特別な能力を持つ、莫大な富を得る、有名人になるなど、非現実的なことを信じ込む(特に躁状態)。
行動 活動性の増加: 異常なほど活動的になり、休むことなく動き続ける。仕事、趣味、社交活動などが過剰になる。
衝動的な行動: 計画性なく高価な買い物をしたり、ギャンブルにのめり込んだり、無謀な投資をしたり、不特定多数との性的関係を持ったりするなど、後で問題を引き起こすような行動をとる。
多弁・早口: 一方的に話し続け、他者が口を挟むのが難しい。声が大きくなることも。
注意散漫: 集中力がなく、すぐに気が散る。一つのことに長く取り組めない。
身体症状 睡眠欲求の減少: 睡眠時間が極端に短くても、疲労を感じない。数時間しか眠らずに元気に活動できる。
食欲の変化: 食欲が増加したり、逆に食事が疎かになったりする。
対人関係 社交的になる: 普段より人との交流を求めるようになるが、一方的だったり、場の空気を読めなかったりすることも。
トラブル: 衝動的な言動や易刺激性から、人間関係に亀裂が入ることが多い。
病識 乏しい: 躁状態の最中は、自分が病気であるという認識がほとんどないことが多い。「最高の自分」と感じている。

軽躁状態の場合は、これらの症状が比較的軽く、本人にとっては「いつもの自分より調子が良い」と感じられる程度であることも少なくありません。しかし、周囲の人から見ると「いつもと違う」「少しやりすぎ」と感じられる変化が見られます。軽躁状態は、本人にとって心地よいため、うつ状態から回復した良い状態だと誤解されやすく、病気として認識されにくいのが特徴です。

うつ状態の症状

うつ状態は、気分がひどく落ち込み、気力や興味を失うことが中心的な症状です。双極性障害のうつ状態は、通常のうつ病(単極性うつ病)と似ていますが、治療法が異なるため区別が重要です。

カテゴリ うつ状態の具体的な症状
気分 抑うつ: 悲しい、落ち込む、ゆううつ、空虚感、絶望感を感じる。涙もろくなることも。
無気力・興味喪失: これまで楽しめていたこと、興味があったことに対し、全く関心や喜びを感じなくなる(アパシー)。
思考 思考力の低下: 考えがまとまらない、物忘れが増える、集中力が続かない。決断が難しくなる。
悲観的・自己否定的: 自分には価値がない、将来に希望がない、過去を後悔するといった考えにとらわれる。自分を責める。
希死念慮: 死にたいと考えたり、自殺を計画したりすることがある。
行動 活動性の低下: 何をするにも億劫になり、動きが遅くなる(精神運動性制止)。ベッドから起き上がれない、身だしなみを整えることができないなど、日常的な活動も困難になる。
精神運動性焦燥: 不安や焦りから、じっとしていられず、落ち着きがない場合もある。
引きこもり: 人との接触を避け、家に閉じこもりがちになる。
身体症状 疲労感: 理由もなく体がだるく、疲れやすい。少しの活動でもひどく疲れる。
睡眠障害: 眠れない(不眠)、あるいは眠りすぎる(過眠)など。寝つきが悪い、夜中に何度も目が覚める、朝早く目が覚めてしまう(早朝覚醒)といったパターンが多い。
食欲の変化: 食欲がなくなって体重が減るか、逆に過食になって体重が増えることがある。
体の痛み: 頭痛、肩こり、胃の不快感など、身体的な不調を訴えることがある。
対人関係 回避: 人との交流を避け、孤独を感じやすい。
病識 ある: 自分が病気であると認識していることが多い。苦しさを感じ、助けを求めようとする。

うつ状態の期間は、躁状態や軽躁状態よりも長く続くことが多い傾向にあります。特に双極性II型障害では、うつ状態がほとんどの期間を占めることも珍しくありません。このうつ状態が深刻であるため、うつ病と間違われやすいのです。

混合状態の症状

混合状態とは、躁状態とうつ状態の症状が同時に、あるいは非常に短期間のうちに入れ替わりながら現れる状態です。例えば、「気分は落ち込んでいるのに、頭の中は考えでいっぱいになり、落ち着きがない」「イライラして活動的になっているのに、同時に強い疲労感や自己否定感がある」といった状態です。

混合状態は、躁状態やうつ状態よりも苦痛が大きいことが多く、自殺のリスクが高いとも言われています。症状が複雑で、診断や治療が難しくなる場合があります。

混合状態の例:

  • 悲しい、絶望的な気分なのに、頭の回転が異常に速い。
  • 強い不安や焦燥感があり、じっとしていられないのに、同時に体が鉛のように重く感じられる。
  • 怒りっぽく攻撃的になっているが、同時に自分がダメな人間だと感じている。
  • 睡眠時間は短いのに、疲労感がひどい。
  • 衝動的な行動をとりたいという欲求がある一方で、何もする気力が湧かない。

これらの症状は、躁状態、うつ状態、混合状態と明確に分けられない場合もありますし、症状の現れ方や程度は人によって大きく異なります。もし自分や身近な人にこのような気分の波が見られる場合は、専門家への相談を検討することが非常に大切です。

躁鬱病の前兆や初期症状

双極性障害の気分の波は、ある日突然劇的に始まることもありますが、多くの場合、気づきにくい前兆や初期症状を経て徐々に現れてくることがあります。これらのサインに早期に気づくことができれば、早めに医療機関に相談し、症状の悪化を防ぐことにつながる可能性があります。

前兆や初期症状は、躁状態やうつ状態の本格的なエピソードに入る前に現れる、普段とは異なる些細な変化であることが多いです。以下に、気をつけておきたい主な前兆や初期症状を挙げます。

気分や行動の変化

  • 些細なことでイライラしやすくなる: 普段は気にしないようなことに対して、過剰に腹を立てたり、攻撃的になったりする。
  • 普段より活動的・衝動的になる: 急に様々な活動に手をつけ始めたり、計画性なく行動したりする(例:急に旅行の計画を立て始める、高価なものを衝動買いする)。
  • 無謀な発言や行動が増える: 根拠のない自信に基づいた大げさな発言をしたり、リスクの高い行動をとったりする。
  • 社交的になる: 普段は内向的な人が、急に人との交流を活発に求めるようになる。
  • 趣味や関心が急激に変化する: これまで全く興味がなかったことに夢中になったり、複数の趣味を同時に始めたりする。
  • 落ち着きがなくなる: そわそわしてじっとしていられず、常に何かをしていないと気が済まない。
  • 気分が不安定になる: 一日のうちに気分の浮き沈みが激しくなる。

睡眠の変化

  • 睡眠時間が短くなるが、疲労を感じない: 普段より明らかに短い睡眠時間で十分に活動できると感じる。
  • 寝つきが悪くなる、眠りが浅くなる: 不眠の傾向が現れる。
  • 朝早く目が覚めてしまう: 予定よりもかなり早い時間に目が覚め、その後眠れない。
  • 過剰に眠くなる: 異常に眠気が強く、日中も居眠りをしてしまう(うつ状態への移行期に多い)。

思考や話し方の変化

  • 早口になる、多弁になる: 普段より話すスピードが速くなり、一方的に話し続けるようになる。
  • 考えがまとまらなくなる: 次々とアイデアが浮かぶが、一つに集中できず、話が飛躍する。
  • 集中力が低下する: 物事に集中するのが難しくなり、ミスが増える。
  • 記憶力が低下する: 忘れっぽくなる。
  • 悲観的になる、自分を責めるようになる: 些細な失敗を過度に気にしたり、自分自身を否定的に評価したりする(うつ状態への移行期に多い)。

これらのサインは、誰にでも起こりうる一時的な変化かもしれません。しかし、いくつかのサインが同時に現れ、それがいつもと違う様子である場合や、周囲の人から心配されるような変化が見られる場合は、双極性障害の初期症状である可能性も考えられます。特に、過去に気分の波を経験したことがある人や、家族に双極性障害の人がいる場合は、より注意深く自身の心身の変化に目を向けることが大切です。不安を感じる場合は、一人で抱え込まず、早めに専門家(精神科医や心療内科医)に相談してみましょう。

うつ病と躁鬱病(双極性障害)の違い

うつ病(単極性うつ病)と双極性障害は、どちらも気分障害に分類される精神疾患ですが、根本的に異なる病気であり、治療法も大きく異なります。そのため、これらの違いを正確に理解することは、適切な診断と治療を受ける上で非常に重要です。

最も大きな違いは、双極性障害には「躁状態」または「軽躁状態」が存在するという点です。うつ病は、気分が落ち込む「うつ状態」のみが繰り返し現れる病気です。

以下の表は、うつ病と双極性障害の主な違いをまとめたものです。

特徴 うつ病(単極性うつ病) 双極性障害(躁鬱病)
気分の波 うつ状態のみが繰り返し現れる。 躁状態(または軽躁状態)とうつ状態という正反対の気分の波を繰り返す。
主な症状 抑うつ気分、興味・喜びの喪失、疲労感、睡眠・食欲の変化、集中力低下、自己否定、希死念慮など、うつ状態の症状のみが見られる。 うつ状態の症状に加え、気分の高揚・易刺激性、活動性の増加、睡眠時間の減少、多弁、観念奔逸、衝動性など、躁状態または軽躁状態の症状も見られる。
病相の期間 うつ状態が数週間から数ヶ月、場合によってはそれ以上続く。 躁状態・軽躁状態は比較的短期間(数日~数週間)で終わることが多いが、うつ状態は長く続くことが多い。気分の波の周期は個人差が大きい。
受診のきっかけ うつ状態の辛さから医療機関を受診することが多い。 うつ状態の辛さで受診することが多い。躁状態・軽躁状態のときは本人は元気だと感じているため、周囲が心配して受診を促すケースが多い。
治療法 抗うつ薬による薬物療法が中心となる。精神療法なども併用される。 気分の波を安定させるための気分安定薬が治療の中心となる。抗うつ薬単独の使用は、躁転(うつ状態から躁状態へ移行すること)のリスクを高める可能性があるため慎重に行われる。精神療法なども併用される。
社会生活への影響 うつ状態により活動性が低下し、仕事や社会生活に支障が出やすい。 うつ状態だけでなく、躁状態・軽躁状態の衝動的な行動や判断力の低下により、仕事、経済状況、人間関係などに大きな問題を引き起こしやすい。
病識 うつ状態では、自分が病気であるという認識を持ちやすい。 うつ状態では病識があることが多いが、躁状態・軽躁状態の最中は病識が乏しく、「最高の自分」だと感じていることが多い。

双極性障害をうつ病と誤診し、抗うつ薬単独で治療を続けると、躁転を引き起こしたり、気分の波が頻繁になったりするリスクがあります。そのため、特にうつ状態が長引いているにもかかわらず、過去にハイテンションで活動的だった時期や、普段とは違う言動があった時期などがないかを医師に詳しく伝えることが、正確な診断には不可欠です。セルフチェックでうつ状態の項目が多く当てはまるだけでなく、過去に「調子が良すぎた」と感じるような時期があったかどうかも、双極性障害の可能性を考える上で重要な手がかりとなります。

躁鬱病(双極性障害)の原因と周期

双極性障害の原因は、まだ完全に解明されているわけではありませんが、複数の要因が複雑に絡み合って発症すると考えられています。また、双極性障害の気分の波(周期)も、人によって大きく異なります。

考えられる原因

以下の要因が、双極性障害の発症に関与している可能性が指摘されています。

  • 遺伝的要因: 双極性障害は、遺伝的な影響が大きい病気であることがわかっています。家族に双極性障害の人がいる場合、発症リスクがやや高まると言われています。ただし、遺伝だけで決まるわけではなく、あくまで「なりやすさ」に影響する要因の一つです。特定の遺伝子だけが原因となるのではなく、複数の遺伝子が関与していると考えられています。
  • 脳の機能・構造の異常: 最新の研究では、双極性障害の患者さんの脳において、感情や行動を制御する部位(扁桃体、前頭前皮質など)の構造や機能、あるいは脳内の神経伝達物質(セロトニン、ノルアドレナリン、ドーパミンなど)のバランスに何らかの異常がある可能性が指摘されています。しかし、これが原因なのか、病気の結果なのかはまだ議論の余地があります。
  • 環境要因・ストレス:
    • ライフイベント: 大切な人との死別、失業、離婚、経済的な困難、人間関係のトラブルなど、強いストレスのかかる出来事が、病気の発症や再発のきっかけとなることがあります。
    • 生活習慣: 不規則な生活リズム、睡眠不足、過労なども、気分の波を不安定にさせる要因となり得ます。特に睡眠不足は、躁状態を引き起こす引き金となることが知られています。
    • 幼少期の体験: 虐待やネグレクトといった幼少期の逆境体験も、その後の精神疾患の発症リスクを高める可能性が指摘されています。

これらの要因が単独で病気を引き起こすのではなく、遺伝的な脆弱性に加えて、環境的なストレスや脳の機能的な変化が重なることで、病気が発症すると考えられています。つまり、「体質」のようなものに、「外的な要因」が加わって病気になる、というイメージです。

気分の波の周期

双極性障害の気分の波は、人によって現れ方や周期が大きく異なります。一般的なパターンとしては、以下のようないくつかの種類があります。

  • 古典的なパターン: 躁状態または軽躁状態のエピソードがあり、その後にうつ状態のエピソードがあり、そして一時的に気分が安定する期間(寛解期)を挟むパターンです。この周期の長さは、数ヶ月から数年まで様々です。
  • 急速交代型(ラピッドサイクラー): 1年間に、躁状態・軽躁状態・うつ状態、または混合状態のエピソードを4回以上繰り返すパターンです。このタイプは、診断や治療がより難しくなる傾向があります。女性に多く見られるという報告もあります。
  • 超急速交代型(ウルトララピッドサイクラー): 48時間以内、あるいは一日のうちに気分が頻繁に変動するパターンです。気分の波が非常に速く切り替わるため、混合状態と見分けがつきにくいこともあります。
  • 超々急速交代型(ウルトラディアンサイクラー): 24時間以内に気分の波が何度も切り替わるパターンです。これはより稀な病状とされています。

気分の波の周期は、時間とともに変化することもあります。また、うつ状態だけが長く続き、躁状態や軽躁状態のエピソードは infrequent にしか現れない人もいれば、躁状態の方が目立つ人もいます。自分の気分の波のパターンを理解し、記録しておくこと(気分グラフなど)は、病気と向き合い、再発を防ぐ上で非常に役立ちます。

躁鬱病(双極性障害)になりやすい性格はある?

「躁鬱病になりやすい性格」として、特定の性格傾向が挙げられることがありますが、性格だけで双極性障害になるわけではありません。双極性障害は脳の機能的な問題が関わる病気であり、特定の性格特性が直接の原因となるわけではありません。

しかし、研究や臨床経験から、双極性障害になりやすい、あるいは発症後の病状に影響を与える可能性のある性格傾向や気質として、以下のようなものが指摘されることがあります。

  • 執着気質: 物事に真面目で、凝り性、完璧主義、粘り強い、責任感が強いといった特徴を持つ気質です。一度目標を定めると、それが達成されるまで諦めずに努力し続ける傾向があります。この気質を持つ人が、ストレスや過労を重ねると、気分の波が大きくなるのではないかと言われることがあります。
  • 循環気質: 明るく社交的な面と、内向的で心配性な面の両方を持ち合わせている気質です。気分の変動が比較的大きく、感情の起伏が豊かな傾向があります。双極性障害の気分の波と似ているため、関連性が指摘されることがあります。
  • 自己肯定感が高い: 普段から自分に自信がある人が、躁状態になるとその自信が過剰になりやすいという見方もあります。

これらの気質は、あくまで病気と関連する傾向として議論されるものであり、これらの性格だからといって必ず双極性障害になるわけではありません。多くの人がこれらの性格特性を持っていても双極性障害にはなりませんし、逆にこれらの性格特性を持たない人が双極性障害になることもあります。

むしろ、これらの性格特性は、仕事や学業で成功したり、困難に粘り強く立ち向かったりする上で、良い面として働くことも多いです。問題となるのは、これらの特性が極端になったり、ストレスとうまく向き合えなかったりした場合に、病気の発症や悪化のリスクとなる可能性です。

重要なのは、特定の性格を「悪い」と判断するのではなく、自身の性格傾向や気質を理解し、それがストレスや病気の発症にどう影響する可能性があるかを把握することです。もし、真面目さや凝り性が過剰になり、休息を取れずに燃え尽きてしまう傾向がある、あるいは気分の変動が大きいと感じる場合は、ストレスマネジメントの方法を学んだり、定期的に心身の状態をチェックしたりすることが、病気の予防や早期発見につながるかもしれません。

性格はあくまで傾向であり、原因ではないことを理解し、もし不安を感じる場合は、専門家へ相談し、自身の状態について客観的な評価を受けることが大切です。

正確な診断は医療機関で

これまで見てきた躁鬱チェックリストや症状、原因、性格傾向といった情報は、双極性障害について理解を深めるための助けとなります。しかし、冒頭でも述べたように、これらの情報やセルフチェックの結果は、あくまで自己評価の目安に過ぎません。正確な診断は、必ず精神科医や心療内科医といった専門の医療機関で行われるべきものです。

なぜなら、双極性障害の診断は非常に複雑であり、うつ病や他の精神疾患(例:統合失調症、パーソナリティ障害)、あるいは身体的な病気(例:甲状腺機能亢進症、脳腫瘍など)でも似たような症状が現れることがあるため、専門的な知識と経験に基づいた鑑別診断が必要だからです。

診断基準(DSM-5など)

精神疾患の診断には、国際的に広く用いられている診断基準があります。最も一般的なのは、アメリカ精神医学会が発行している「精神疾患の診断・統計マニュアル」(DSM)です。現在、最新版はDSM-5-TR(Text Revision)ですが、DSM-5も広く使用されています。

DSM-5における双極性障害の診断は、主に過去の気分のエピソード(躁病エピソード、軽躁病エピソード、大うつ病エピソード)の存在と、それが特定の基準(持続期間、症状の種類と数、社会生活への影響など)を満たすかどうかに基づいて行われます。

  • 双極性I型障害: 少なくとも1回以上の躁病エピソードの既往があることが診断の必須条件です。大うつ病エピソードの既往は必須ではありませんが、多くの患者さんが経験します。
  • 双極性II型障害: 少なくとも1回以上の軽躁病エピソードと、少なくとも1回以上の大うつ病エピソードの既往があることが診断の必須条件です。躁病エピソードの既往がないことも条件です。

医師は、患者さん本人との面接(問診)を通じて、これまでの気分の波のパターン、具体的な症状、持続期間、社会生活への影響などを詳しく聞き取ります。家族や親しい友人からの情報(他者情報)も、特に躁状態や軽躁状態は本人が病気と認識していないことが多いため、診断の参考として非常に重要視されます。必要に応じて、心理検査や身体検査などが行われることもあります。

診断は、これらの情報全てを総合的に判断して下されます。セルフチェックで当てはまる項目が多いからといって、自己判断で「双極性障害だ」と決めつけたり、「違う」と安心したりせず、必ず専門医の診察を受けることが大切です。

精神科や心療内科への受診を検討する目安

どのような状態になったら、精神科や心療内科への受診を検討すべきでしょうか?双極性障害の可能性を疑う場合に、受診を検討する目安を以下に示します。

  • セルフチェックで多くの項目に当てはまった:特に、躁状態・軽躁状態とうつ状態の両方の項目に複数当てはまる場合。
  • 気分の波によって日常生活や社会生活に支障が出ている
    • 仕事や学業に集中できない、ミスが増える、休職・退職に至る。
    • 人間関係でトラブルが起きやすい。
    • 衝動的な行動(浪費、ギャンブル、性的問題など)で大きな損失や問題が発生した。
    • 感情のコントロールが難しく、自分自身や周囲の人が苦しんでいる。
  • 気分の波によって経済的な問題が発生している:衝動的な買い物や投資などで借金を抱えてしまったなど。
  • 周囲の人から「いつもと違う」「心配だ」と言われた:特に、躁状態や軽躁状態では本人の病識が乏しいため、他者からの指摘は重要なサインです。
  • うつ状態が長く続き、抗うつ薬を服用しても改善しない、あるいはかえって気分が高揚することがあった:うつ病として治療を受けているが、なかなか良くならない場合や、過去に調子が良すぎる時期があった場合は、双極性障害の可能性を再検討する必要があります。
  • 家族に双極性障害の人がいる:遺伝的なリスクが少し高いため、気になる症状があれば早めに相談する方が安心です。
  • 死にたい気持ちや自殺を考えることがある:うつ状態が重い場合や混合状態では、自殺のリスクが高まります。これは緊急性の高いサインであり、速やかに医療機関を受診する必要があります。
  • 自身の気分の変動について、専門家に相談したい:病気かどうかはわからなくても、自分の気分の波や感情のコントロールについて悩んでいる場合。

これらの目安は、あくまで受診を検討するための参考です。一つでも当てはまる項目がある、あるいは漠然とした不安があるだけでも、専門家に相談する価値は十分にあります。早期に相談し、適切な診断と治療を開始することが、安定した生活を取り戻すための第一歩となります。受診に抵抗がある場合は、まずは地域の精神保健福祉センターや相談窓口に連絡してみるのも良いでしょう。

この記事では、「躁鬱チェック」をキーワードに、双極性障害(躁鬱病)の概要から、セルフチェックの項目、主な症状、うつ病との違い、原因、そして医療機関での診断について解説しました。

双極性障害は、躁状態(または軽躁状態)とうつ状態という両極端な気分の波を繰り返す病気です。これらの気分の波は、患者さんの日常生活や社会生活に大きな影響を及ぼします。セルフチェックは、自身の気分の波に気づき、病気について理解を深めるための一助となりますが、診断ツールではありません

もしセルフチェックで多くの項目に当てはまる、あるいは気分の波によって生活に支障が出ている場合は、必ず精神科医や心療内科医といった専門の医療機関を受診してください。正確な診断は専門医にしかできず、その診断に基づいて適切な治療方針が立てられます。双極性障害は、適切な治療を継続することで、症状をコントロールし、安定した生活を送ることが十分に可能な病気です。一人で悩まず、専門家のサポートを借りながら、病気と向き合っていくことが大切です。

【免責事項】
この記事に記載されている情報は、双極性障害に関する一般的な知識を提供することを目的としており、個々の病状に対する診断や治療を推奨するものではありません。この記事の情報に基づくいかなる行為についても、当方は責任を負いかねます。自己判断によるセルフチェックの結果だけで病気を断定したり、治療を開始・中断したりすることは危険です。双極性障害の診断および治療は、必ず専門の医療機関を受診し、医師の指示に従ってください。個別の症状に関するご相談は、必ず医療機関にお問い合わせください。

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