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発達障害はなぜ生まれる?原因・遺伝・生まれつきの関係性

発達障害は、生まれつきの脳機能の発達の偏りによるもので、特性の現れ方や程度は一人ひとり異なります。「なぜ生まれるのだろう?」という疑問を持つ方も多いでしょう。かつては原因が不明とされていましたが、近年の研究により、その背景には様々な要因が複雑に関係していることがわかっています。この記事では、発達障害がなぜ生まれるのか、その原因や理由について、最新の科学的な視点から詳しく解説します。特に、「親の育て方が原因では?」といった誤解されやすい点についても、医学的な見解に基づいて説明します。発達障害への理解を深め、適切な支援や関わり方について考える一助となれば幸いです。

目次

発達障害の主な原因は先天的な脳機能障害

発達障害の主な原因は、生まれつきの脳機能の発達の偏りにあると考えられています。これは、妊娠中の胎児期から乳幼児期にかけての脳の発達過程で生じる、特定の神経回路の構築や機能に関する特性です。病気のように「治す」ものではなく、その人が持つ固有の「特性」として捉えられます。

脳機能の偏りがあることで、情報処理や認知、コミュニケーション、行動制御といった様々な側面で、典型的な発達とは異なる特徴が現れます。例えば、特定の物事に強いこだわりを持つ、人との相互的なやり取りが苦手、注意を持続することが難しい、衝動的な行動が多い、読み書きや計算に困難があるなど、その現れ方は多岐にわたります。

重要なのは、この脳機能の偏りは、後天的な要因(育ち方や環境など)によって引き起こされるものではないという点です。あくまで生まれつき持っている特性であり、その特性が日常生活や社会生活において困難を引き起こす場合に「発達障害」として診断されます。

発達障害の発生に関わる複合的な要因

発達障害は、特定の単一の原因によって引き起こされるわけではありません。むしろ、複数の要因が複雑に絡み合って発生すると考えられています。これらの要因は、主に「遺伝的要因」と「環境要因」に分けられますが、これらが互いに影響し合いながら、脳の発達に影響を与えるとされています。

どちらか一方だけが原因となるわけではなく、例えば遺伝的に特定の傾向がある場合でも、環境要因がその特性の発現に影響したり、あるいは特定の環境要因が遺伝的な素因を持つ人の特性を強く引き出すといった相互作用が考えられます。

遺伝的要因|親からの遺伝は関係ある?

「親からの遺伝は関係あるのか?」という疑問を持つ方は多いでしょう。はい、遺伝的要因は発達障害の発生に大きく関わっていると考えられています。しかし、「両親のどちらかが発達障害なら必ず子どももそうなる」という単純なものではありません。

発達障害は、一つの遺伝子によって決まるのではなく、複数の遺伝子の組み合わせや、ごく小さな遺伝子の変化(バリアント)が複雑に関与していると考えられています。また、遺伝子の働き方は環境によっても影響を受けるため、遺伝的な傾向があっても必ず特性が現れるわけではありません。

遺伝子レベルの研究は日々進んでいます。ゲノムワイド関連解析(GWAS)のような大規模な研究により、特定の遺伝子領域や、発達に関わる様々な遺伝子のごく小さなバリアントが、発達障害のリスクに関連していることが明らかになってきています。

例えば、シナプス機能(神経細胞間の情報伝達)や、神経細胞の移動・分化、脳領域の形成に関わる遺伝子に変異が見られるケースが報告されています。しかし、これらの遺伝子バリアントが見つかったからといって、必ず発達障害になるわけではありません。同じ遺伝子バリアントを持っていても、特性が現れない人もいれば、強く現れる人もいます。

最近では、「多遺伝子リスクスコア」という概念も研究されています。これは、個人が持つ多数の遺伝子バリアントを総合的に評価し、特定の特性や疾患の発症リスクを予測しようとするものです。発達障害についても、多くの遺伝子が関与していることから、この多遺伝子的なアプローチが注目されています。

ただし、これらの研究はまだ途上であり、どの遺伝子がどの程度の関与をしているのか、他の要因とどのように相互作用するのかなど、不明な点も多く残されています。現時点では、遺伝子検査だけで発達障害の診断を確定することはできません

家族の中に発達障害の人がいる場合、そうでない家庭と比較して、子どもが発達障害になる確率は統計的に高くなる傾向があります。これを「家族歴」と呼びます。

例えば、ASD(自閉スペクトラム症)の場合、一般的な発症率が人口の約1%程度とされる中で、兄弟姉妹にASDの人がいる場合、その弟妹がASDと診断される確率は約5%から20%程度になると言われています。双生児研究では、一卵性双生児(遺伝子がほぼ同じ)の一方がASDの場合、もう一方がASDになる確率が二卵性双生児(遺伝子が半分程度同じ)よりも高いことが示されており、遺伝的な影響の大きさを裏付けています。

ADHD(注意欠如・多動症)やLD(限局性学習症)など、他の発達障害でも同様に家族内での発症が多い傾向が見られます。ただし、これらの数値はあくまで統計的な傾向であり、個々のケースで必ず当てはまるわけではありません。また、家族間で特性が似ることもあれば、全く異なる特性が現れることもあります。

発達障害の種類 一般的な発症率(目安) 兄弟姉妹に診断者がいる場合の確率(目安)
ASD(自閉スペクトラム症) 約1% 5%~20%
ADHD(注意欠如・多動症) 約3~7%(子ども) 20%~30%以上
LD(限局性学習症) 約5~10%(子ども) 家族歴がある場合は高くなる傾向

*上記はあくまで目安であり、研究によって数値は変動します。

発達障害の種類によっても、遺伝的寄与の度合いは異なると考えられています。一般的に、ASDやADHDは遺伝的要因の影響が大きいとされており、LDも遺伝の影響があることが示されています。

ADHDの場合、遺伝率は70~80%と非常に高いという研究報告もあり、脳内の神経伝達物質(特にドーパミンやノルアドレナリン)の代謝や受容体に関わる遺伝子の関与が研究されています。ASDも遺伝率は高いとされていますが、関与する遺伝子の種類が非常に多岐にわたる点が特徴です。

遺伝は、母親からだけでなく、父親からも同等に受け継がれます。特定の遺伝子疾患によっては、母親由来の遺伝子のみが影響するもの(ミトコンドリア病など)や、特定の染色体異常など、遺伝のパターンが異なるケースもありますが、一般的な発達障害に関連する遺伝的要因は、父母双方からの遺伝子が組み合わさって影響すると考えられています。

ただし、遺伝的な素因があっても、それが特性として強く現れるかどうかは、環境要因との相互作用が大きく関わります。例えば、遺伝的にADHDの傾向がある子どもでも、安定した環境で適切なサポートを受けることで、特性が目立たなくなることもあります。逆に、遺伝的な素因に加えて、次に述べるような妊娠中や出産時のリスク要因が重なることで、特性がより強く現れる可能性も考えられます。

環境要因|妊娠中や出産時のリスク

発達障害の原因には、遺伝的要因だけでなく、妊娠中や出産時の環境要因も関わっていると考えられています。これらの要因は、胎児の脳の発達に影響を与える可能性があるものです。

ここで言う「環境要因」は、生まれてからの家庭環境や教育環境ではなく、主に母親の妊娠中の状態や、出産前後の周産期に限定されます。これらの時期の特定の出来事が、脳の形成や機能に影響を与えるリスクを高める可能性があると研究されています。

妊娠中に母親が特定の感染症にかかることや、特定の薬物、アルコール、ニコチンなどを摂取することが、胎児の脳発達に影響を与えるリスクとして指摘されています。

  • 妊娠中の感染症:
    * 風疹: 妊娠初期の母親が風疹にかかると、胎児に先天性風疹症候群を引き起こす可能性があり、その症状の一つとして神経系の障害(発達の遅れなど)が含まれることがあります。
    * サイトメガロウイルス: 妊娠中に初感染すると、胎児に脳の発達異常や聴覚・視覚障害などを引き起こす可能性があります。
    * トキソプラズマ: 感染すると、脳や目の障害につながることがあります。
    * その他: インフルエンザなど、妊娠中の重度の感染症や発熱もリスクとして関連が研究されています。
  • 妊娠中の薬物使用:
    * サリドマイド: かつて妊婦のつわりに用いられ、胎児に重篤な奇形(四肢の欠損など)を引き起こしましたが、神経系の発達にも影響を与えた可能性が指摘されています。
    * てんかん治療薬(バルプロ酸など): 妊娠中に特定のてんかん治療薬を服用していると、生まれてくる子どものASD発症リスクが高まることが複数の研究で示されています。
    * 向精神薬: 妊娠中のうつ病や不安障害などで母親が向精神薬を服用している場合の影響についても研究が進められていますが、疾患そのものの影響や、薬の種類、量、時期などによってリスクが異なり、複雑な問題です。
  • 妊娠中の嗜好品:
    * アルコール: 妊娠中のアルコール摂取は、胎児性アルコール症候群(FAS)を引き起こす可能性があり、脳の発達遅延や学習・行動の問題(ADHDのような特性を含む)を伴うことがあります。少量でもリスクがあるため、妊娠中の飲酒は避けるべきとされています。
    * ニコチン(喫煙): 妊娠中の喫煙は、早産や低体重のリスクを高めるだけでなく、胎児の脳の発達に影響を与え、子どものADHD発症リスクを高める可能性が指摘されています。
  • その他の環境化学物質: 大気汚染物質や特定の農薬など、妊娠中に母親が曝露する環境化学物質が、子どもの神経発達に影響を与える可能性についても研究されています。
  • 母親の栄養状態: 妊娠中の葉酸不足などが、神経管閉鎖障害などの先天異常のリスクを高めることが知られていますが、発達障害との関連についても研究されています。また、母親の肥満や糖尿病などもリスクとして関連が指摘されることがあります。
  • 母親のストレス: 妊娠中の母親の重度なストレスが、胎児の脳発達や生後の子どもの行動特性に影響を与える可能性も示唆されていますが、複雑な要因が絡み合っており、明確な結論には至っていません。

これらの要因は、単独で発達障害を決定づけるものではありませんが、特定の遺伝的素因と組み合わさったり、複数の環境要因が重なることで、脳機能の偏りを生じさせるリスクを高める可能性があると考えられています。

出産前後の「周産期」に生じる様々な問題も、発達障害のリスク要因として関連が指摘されています。この時期は、脳が急速に発達する非常に重要な期間であり、何らかの障害が起こると、その後の脳機能に影響を与える可能性があるためです。

  • 早産(特に極低出生体重児):
    * 妊娠37週未満での出産は早産と定義されますが、特に妊娠32週未満や、出生体重が1500g未満の極低出生体重児は、脳の発達が未熟な状態で生まれてくるため、脳室内出血や脳室周囲白質軟化症といった脳の損傷が起こるリスクが高まります。これにより、その後の運動発達だけでなく、認知機能や社会性の発達にも影響が出やすいことが知られています。早産で生まれた子どもは、定型発達の子どもと比較して、発達障害(特にADHDや学習障害)と診断される確率が高いという研究結果が多くあります。
  • 低出生体重児:
    * 妊娠週数に関わらず、出生体重が2500g未満の低出生体重児も、脳の発達が十分でない可能性があるため、発達上のリスクが高いとされています。早産でなくても低体重の場合や、逆に体重が正常でも早産の場合など、様々なパターンがあります。
  • 新生児仮死・脳への酸素供給不足:
    * 出産時に胎児や新生児が一時的に呼吸ができなくなったり、酸素供給が十分にされない状態(新生児仮死)が続くと、脳に酸素不足による損傷(低酸素性虚血性脳症)が生じる可能性があります。脳の広範な領域が影響を受ける可能性があり、重症の場合は脳性麻痺などの運動障害を伴いますが、認知機能や行動、学習にも様々な影響を及ぼすことがあります。
  • 重度の黄疸:
    * 新生児期にビリルビンという物質が増えすぎて脳に沈着すると、脳性麻痺や発達遅延などの重篤な神経学的後遺症を残す核黄疸を引き起こす可能性があります。適切な治療(光線療法など)により予防可能ですが、重度の黄疸がリスクとなり得ます。
  • その他:
    * 出産時の物理的な脳への損傷(まれではありますが)や、新生児期の重度の低血糖なども、脳の発達に影響を与えるリスク要因として考えられています。

これらの周産期の問題は、遺伝的要因とは独立して、あるいは遺伝的素因を持つ胎児の脳をより脆弱にする形で、発達障害の発生に関与している可能性が研究されています。特に、脳の酸素不足や早産による未熟性は、脳内の神経細胞の接続や特定の脳領域の発達に影響を与えやすいと考えられています。

後天的な原因や家庭環境は関係する?(医学的見解)

発達障害について、「親のしつけが悪かったからではないか」「愛情が足りなかったからこうなったのか」といった誤解が、残念ながら社会には根強く存在します。しかし、これは医学的には明確に否定されています

発達障害は、生まれつきの脳機能の特性によるものであり、親の育て方や家庭環境、本人の努力不足などが直接的な原因で生じるものではありません。 後天的に発達障害になることはありません。

医学的、科学的な観点から、親のしつけや愛情不足が発達障害の原因ではないと言える理由は以下の通りです。

  • 脳の構造・機能の問題: 発達障害は、脳の特定の領域(例えば、前頭前野、小脳、大脳辺縁系など)の構造や、神経細胞間の情報伝達に関わる機能に、定型発達の人とは異なる特性があることが、脳科学の研究(MRIやPETなどの画像診断、電気生理学的研究など)で示されています。これらの脳機能の偏りは、胎児期から乳幼児期にかけての脳の発達過程で生じる先天的なものです。しつけや愛情といった育児の方法が、脳の基本的な構造や神経回路の形成を根本的に変えることはありません。
  • 遺伝的・環境的要因の科学的根拠: 前述の通り、発達障害の発生には、遺伝的要因や妊娠中・周産期の環境要因が複雑に関与していることが、遺伝学、疫学、脳科学などの分野で多数の研究によって裏付けられています。これらの研究成果は、発達障害が単なる「育て方の問題」では説明できない、生物学的な基盤を持つ特性であることを強く示唆しています。
  • 世界保健機関(WHO)や主要な精神医学会の見解: 世界保健機関(WHO)が定める国際疾病分類(ICD)や、アメリカ精神医学会(APA)が定める精神疾患の診断・統計マニュアル(DSM)といった、国際的に広く用いられている診断基準や公式見解において、発達障害は脳機能の障害に基づく疾患または状態として位置づけられており、その原因として後天的な養育環境は挙げられていません。
  • 特定の養育環境でなくても発症する: 発達障害の特性は、どのような養育環境で育っても現れる可能性があります。愛情深く、適切なしつけを行っている家庭でも、発達障害のお子さんが生まれることはあります。逆に、困難な養育環境で育ったからといって、すべての子どもが発達障害になるわけではありません。

もちろん、家庭環境や養育者の関わり方は、発達障害のある子どもの特性の現れ方や、それに伴う二次的な問題(不登校、うつ、不安など)の発生リスクに大きく影響します。特性を理解されず、否定的な関わりを受け続けたり、適切なサポートが得られない環境では、子どもの自己肯定感が低下したり、行動面の問題が悪化したりすることがあります。逆に、特性を理解し、受け入れ、強みを活かすような関わりや環境調整は、子どもの成長や社会適応を大きく助けます。

しかし、これは「家庭環境が原因で発達障害になる」ということではなく、「家庭環境は発達障害という生まれつきの特性を持つ人のその後の発達や適応に影響を与える」ということです。

したがって、「親のしつけや愛情不足が発達障害の原因」という考えは、科学的な根拠に基づかない誤解であり、親御さんを不必要に苦しめるものです。発達障害は誰のせいでもなく、脳機能の特性として理解し、本人や家族が必要なサポートを受けられるような社会的な理解と支援を進めることが重要です。

発達障害の診断と特性の理解について

発達障害の診断は、専門の医師(精神科医、小児科医、児童精神科医など)によって行われます。診断は、特定の検査の結果だけで決まるものではなく、本人の発達歴、生育環境、現在の行動や対人関係の様子、学校や家庭での困りごとなどを総合的に評価して行われます。

診断の際には、世界的に用いられている診断基準(ICD-11やDSM-5など)を参照し、複数の情報源(本人、保護者、学校の先生などからの情報)に基づいて慎重に進められます。検査としては、知能検査、発達検査、行動評価スケールなどが用いられることがあります。

発達障害の主な種類には、以下のものがあります。

  • ASD(自閉スペクトラム症): 対人コミュニケーションや社会性の困難、限られた常同的な行動・興味・活動を主な特性とします。感覚の過敏さ・鈍麻さなども含まれることがあります。
  • ADHD(注意欠如・多動症): 不注意(集中が続かない、忘れ物が多いなど)、多動性(落ち着きがない、そわそわするなど)、衝動性(順番が待てない、考えずに行動するなど)を主な特性とします。これらの特性は、年齢や状況によって目立ち方が異なります。
  • LD(限局性学習症): 読み、書き、計算といった特定の学習能力に著しい困難がある特性です。全般的な知的発達に遅れがないにも関わらず、特定の学習領域で困難が見られます。

これらの発達障害は、個別に診断されることもあれば、複数の特性が併存することもあります。例えば、ASDとADHDの特性を両方持っている人、ADHDとLDの特性を持っている人など、一人ひとりの特性の現れ方は非常に多様です。

診断を受けることの目的は、病名を付けること自体ではなく、その人が持つ脳機能の特性を理解し、本人や家族、周囲がその特性に合った適切なサポートや環境調整を行うための出発点とすることにあります。特性を理解することで、「なぜうまくいかないのだろう」と悩んでいた困りごとの原因が明らかになり、具体的な対処法や支援策を考えることができるようになります。

また、発達障害の特性は、明確な線引きができるものではなく、定型発達の人との間にグラデーションがあると捉えられています。診断基準を満たすほどではないけれど、特性の傾向を持つ人もたくさんいます。診断の有無にかかわらず、その人の「困りごと」に寄り添い、必要なサポートを考える視点が重要です。

発達障害の人が「増えた」と言われる背景

近年、「発達障害の人が増えているのではないか?」という声を聞くことがあります。実際に、統計データを見ると、発達障害と診断される子どもの数は増加傾向にあるように見えます。しかし、これは本当に発達障害を持つ人が生物学的に急増したというよりは、社会的な要因が大きいと考えられています。

診断基準や社会的な認知の変化

発達障害と診断される人が増えた背景には、主に以下のような要因が複合的に関わっていると考えられます。

  • 診断基準の変化:
    * 過去には、自閉症は重度のコミュニケーション障害や極端な行動を伴う限られたケースだけが診断されていました。しかし、診断基準が改訂されるにつれて、より広い範囲の特性を含むようになりました。例えば、DSM-IVからDSM-5への改訂では、アスペルガー症候群や特定不能の広汎性発達障害などが「自閉スペクトラム症(ASD)」として統合され、診断の対象範囲が広がりました。これにより、以前なら診断されなかったような、比較的軽度な特性を持つ人も診断されるようになりました。
    * ADHDについても、診断基準が変更されたり、大人になってから診断されるケースが増えたりしたことも、統計上の増加に影響しています。
  • 社会的な認知度の向上:
    * メディアでの取り上げが増えたり、インターネットを通じて情報が得やすくなったりしたことで、発達障害に対する社会全体の認知度が大きく向上しました。これにより、以前は「困った子」「わがまま」などと片付けられていた子どもの行動が、「もしかして発達障害による特性かもしれない」と保護者や学校の先生が気づきやすくなりました。
    * 大人になってから、仕事や人間関係の困難を通じて自身の特性に気づき、医療機関を受診するケースも増えています。
  • 専門機関・支援体制の整備:
    * 発達障害に関する専門機関(医療機関、相談支援センター、発達障害者支援センターなど)が増え、アクセスしやすくなりました。
    * 学校教育においても、特別支援教育の理解が進み、LDやADHD、ASDなどの子どもたちに対する個別の支援計画が作成されるなど、対応が強化されています。こうした支援を受けるためには診断が必要となる場合があるため、診断を希望する人が増えた側面もあります。
  • 研究の進展:
    * 発達障害に関する研究が進み、そのメカニズムや特性に関する理解が深まったことも、診断や支援の精度向上につながっています。
  • スクリーニングや早期発見の取り組み:
    * 乳幼児健診や就学時健診などで、発達の遅れや気になる特性に気づくためのスクリーニングが行われるようになり、早期発見につながっています。

これらの要因が複合的に作用することで、以前は見過ごされたり、他の問題(反抗、学業不振など)として捉えられたりしていたケースが、発達障害として適切に診断されるようになったと考えられます。つまり、「潜在的に発達障害の特性を持っていた人が、社会の変化によって可視化され、診断につながるケースが増えた」という側面が強いと言えます。

実際に、複数の研究で、発達障害の生物学的な発症率が近年急激に上昇したという明確な証拠は見つかっていません。したがって、「発達障害が増えた」というよりは、「発達障害が認識され、診断される機会が増えた」と理解するのが適切でしょう。このことは、困り感を抱える人たちが必要なサポートにつながる機会が増えたという点で、社会的な進歩とも言えます。

まとめ|発達障害の原因理解と今後の支援

発達障害がなぜ生まれるのか、その原因は単一ではなく、遺伝的要因と環境要因が複雑に相互作用することによって、生まれつきの脳機能の特性として生じると考えられています。近年の研究により、特定の遺伝子の関与や、妊娠中・周産期のリスク要因との関連が明らかになってきています。

しかし、最も重要な点は、発達障害が「親の育て方」や「愛情不足」といった後天的な養育環境によって引き起こされるものではないということです。これは科学的に明確に否定されており、誤った情報によって本人や家族が苦しめられることがあってはなりません。

発達障害の原因の完全な解明にはまだ至っていませんが、原因を特定すること以上に重要なのは、その人が持つ特性を正しく理解し、その特性から生じる生活上の困難に対して、本人や家族、そして社会全体が適切なサポートを提供していくことです。

特性理解に基づく早期からの支援は、二次的な問題の予防や、本人の強みを活かした社会への適応を大きく助けます。診断を受けることは、困りごとの原因を明らかにし、必要な支援につながるための一歩となります。

社会全体で発達障害への理解を深め、多様な特性を持つ一人ひとりが自分らしく安心して暮らせるインクルーシブな社会を目指していくことが、今後の大きな課題です。原因についての正しい知識を持つことは、こうした社会的な理解と支援を進める上で非常に重要と言えるでしょう。


免責事項: 本記事は、発達障害の原因に関する一般的な情報提供を目的としており、医学的診断や治療の代替となるものではありません。個々の状況については、必ず専門の医療機関にご相談ください。最新の研究成果は日々更新されるため、ここに記載された情報が全てではないことをご了承ください。

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