精神疾患は、脳の機能や心の状態に偏りが生じ、思考、感情、行動などに持続的な困難をきたす病気です。誰にでも起こりうる可能性があり、決して特別な人だけが罹患するわけではありません。早期に気づき、適切なケアや治療を受けることで、症状を和らげ、日常生活を送ることが可能です。
この記事では、「精神疾患 一覧」として、その定義や分類、主要な疾患の種類と主な特徴、そして心の不調を感じた場合の相談先について網羅的に解説します。精神疾患について正しい知識を得て、ご自身や大切な人の心の健康を守るための一助としていただければ幸いです。
精神疾患とは?定義と分類
精神疾患とは、脳機能の偏りや、心理的・社会的な要因が複雑に絡み合って発症すると考えられている病気の総称です。感情や思考、認知、行動、意欲などに様々な形で影響が現れ、日常生活や社会生活に困難をもたらすことがあります。
精神疾患と精神障害の違い
「精神疾患」と「精神障害」は、しばしば同じ意味合いで使われます。厳密には、「精神疾患」が病気そのもの、つまり特定の診断基準を満たす状態を指すのに対し、「精神障害」は精神疾患によって生じた機能の偏りや困難さ、その結果として生じる社会生活上のハンディキャップに焦点を当てる言葉として使われることがあります。
しかし、医療や福祉の現場ではこれらの言葉が明確に区別されず使用されることも多く、一般的にはほぼ同義と考えて差し支えありません。法的な文脈(例:精神障害者保健福祉手帳)では「精神障害」という言葉が使われることが多いですが、医学的な診断名としては「疾患」が用いられることが一般的です。この記事では、主に「精神疾患」という言葉を用いて解説を進めます。
精神疾患の診断基準(DSM-5、ICD-11など)
精神疾患の診断は、医師が患者さんの症状や経過、生育歴などを詳しく聞き取り、診察を通じて総合的に判断します。その際に世界的に広く用いられているのが、診断基準マニュアルです。代表的なものに以下の二つがあります。
- DSM(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders):アメリカ精神医学会(APA)が作成する診断マニュアルです。現在広く用いられているのは第5版(DSM-5)です。症状の組み合わせや持続期間など、具体的な診断基準が示されており、研究や臨床現場での共通言語として活用されています。
- ICD(International Classification of Diseases):世界保健機関(WHO)が作成する国際的な疾病分類です。精神および行動の障害に関する分類も含まれています。診断コードが付与されており、統計や行政手続きに用いられます。最新版は第11版(ICD-11)です。
これらの診断基準は、精神疾患を客観的に分類し、診断のばらつきを減らすために重要ですが、患者さん一人ひとりの背景や状況は多様であるため、基準を満たすだけで診断が決まるわけではありません。専門医による丁寧な問診や診察が不可欠です。
精神疾患の主なカテゴリー分類
DSM-5やICD-11では、共通する特徴や病態に基づいて精神疾患をいくつかのカテゴリーに分類しています。主なカテゴリーは以下の通りです。
- 神経発達症群: 幼少期からの脳の発達の偏りに関連する疾患(ASD、ADHDなど)
- 統合失調症スペクトラム障害および他の精神病性障害: 現実検討能力の障害が特徴の疾患(統合失調症など)
- 双極性障害および関連障害群: 気分の波(躁・うつ)に関連する疾患(双極性障害など)
- 抑うつ障害群: 気分の落ち込みが持続する疾患(うつ病など)
- 不安症群: 過剰な不安や恐怖に関連する疾患(パニック症、社交不安症など)
- 強迫症および関連症群: 強迫的な思考や行為に関連する疾患(強迫症など)
- 外傷およびストレス因関連障害群: トラウマ体験やストレスに関連する疾患(PTSD、適応障害など)
- 解離症群: 意識、記憶、同一性などの統合性の障害に関連する疾患
- 身体症状症および関連症群: 身体症状に対する過剰な反応に関連する疾患
- 摂食障害群: 食行動の異常に関連する疾患(神経性やせ症、神経性過食症など)
- 排泄症群: 排泄に関連する問題
- 睡眠・覚醒障害群: 睡眠に関する問題(不眠症、過眠症など)
- 性機能不全群: 性機能に関する問題
- 性別違和: 生まれた性別と自認する性別との不一致
- 破壊的、衝動制御、および素行症群: 行為の制御に関する問題
- 物質関連障害および嗜癖性障害群: アルコールや薬物、行為への依存(依存症)
- 神経認知障害群: 認知機能の低下に関連する疾患(認知症など)
- パーソナリティ障害群: 人格の偏りや歪みに関連する疾患(境界性パーソナリティ障害など)
- パラフィリア障害群: 特異な性的対象や行為に関する問題
- 他の精神疾患群: 上記に分類されない疾患
これらのカテゴリーには、さらに細分化された多くの疾患が含まれています。次章では、特に代表的かつ罹患率の高い疾患を中心に、その特徴を一覧でご紹介します。
精神疾患の種類一覧と主な特徴
ここでは、前章で触れたカテゴリーの中から、特に知っておきたい主要な精神疾患について、それぞれの特徴や代表的な症状を分かりやすく解説します。
気分障害
気分(感情)のコントロールが困難になる疾患群です。気分の落ち込みが続く「抑うつ障害群」(うつ病など)と、気分の高揚と落ち込みを繰り返す「双極性障害および関連障害群」に大別されます。
うつ病
定義: 気分の落ち込み(抑うつ気分)や、それまで楽しめていた活動への興味・喜びの喪失が持続し、心身の様々な症状を伴う疾患です。
主な症状:
- 抑うつ気分: 気分が沈む、憂鬱、悲しいといった状態がほとんど一日中、ほとんど毎日続く。
- 興味や喜びの喪失: 趣味や仕事、人付き合いなど、以前は楽しめていたことに関心がなくなる、喜びを感じられない。
- 倦怠感、疲労感: 体がだるい、疲れやすいと感じ、活力が失われる。
- 睡眠の障害: 寝付けない(入眠困難)、夜中に何度も目が覚める(中途覚醒)、朝早く目が覚めてしまう(早朝覚醒)、寝すぎてしまう(過眠)。
- 食欲や体重の変化: 食欲がなくなる、体重が減る、または食欲が増して体重が増える。
- 精神運動性の変化: 思考や行動が遅くなる(精神運動抑制)、または落ち着きなくそわそわする(精神運動焦燥)。
- 集中力や思考力の低下: 物事に集中できない、決断ができない、考えがまとまらない。
- 自責感や無価値感: 自分を責める、自分には価値がないと感じる。
- 死への念慮: 死ぬことばかり考えてしまう、自殺を考えたり計画したりする。
これらの症状のうち複数が、一定期間(通常2週間以上)持続し、日常生活や社会生活に支障をきたしている場合にうつ病と診断されます。治療には、十分な休養、薬物療法(抗うつ薬)、精神療法(認知行動療法など)が用いられます。
双極性障害(躁うつ病)
定義: 気分の落ち込みが続くうつ状態と、気分が異常に高揚したり活動的になったりする躁状態(あるいはそれに準じた軽躁状態)を繰り返す疾患です。
主な症状:
- 躁状態の症状:
- 気分高揚: 異常に上機嫌、幸福感、開放感がある。
- 易怒性: 些細なことで怒りっぽくなる。
- 活動性の亢進: じっとしていられず、精力的に動き回る、睡眠時間が短くても平気。
- 多弁、観念奔逸: 立て続けに喋る、次々に考えが浮かび話があちこちに飛ぶ。
- 注意散漫: 一つのことに集中できない。
- 自尊心の肥大: 自分が偉大な人物である、特別な能力があると思い込む。
- 快楽的な活動への没頭: ギャンブル、浪費、無謀な投資、性的逸脱など、破滅的な結果を招きうる活動にのめり込む。
- うつ状態の症状: うつ病の症状と同様です(前述参照)。
双極性障害は、躁状態の程度によって双極I型障害(明確な躁状態がある)と双極II型障害(軽躁状態とうつ状態を繰り返す)に分けられます。気分安定薬による薬物療法が治療の中心となり、再発予防が重要です。
不安症群
過剰で現実的ではない不安や恐怖が特徴で、日常生活に著しい苦痛や機能障害をもたらす疾患群です。
全般性不安症
定義: 特定の対象や状況だけでなく、様々なことに対して過剰で持続的な心配や不安を抱き、それがコントロールできないと感じる疾患です。
主な症状: 常に緊張している、落ち着かない、疲れやすい、集中できない、イライラする、筋肉が緊張する、睡眠障害など、身体的な症状を伴うことが多いです。
パニック症
定義: 予期しない、突然のパニック発作を繰り返す疾患です。パニック発作は、激しい動悸、息苦しさ、胸痛、めまい、吐き気、手足のしびれなどの身体症状と、「死ぬのではないか」「気が狂うのではないか」といった強い恐怖感を伴います。
主な症状: パニック発作への強い恐怖(予期不安)、発作が起きた場合に逃れられない場所や状況を避けるようになる(広場恐怖を伴う場合)。
社交不安症
定義: 人前で何かをすることや、人から見られる、注目される可能性のある状況に対して強い恐怖や不安を感じる疾患です。「恥をかくのではないか」「人前で失敗するのではないか」といった恐れから、そのような状況を避けるようになります。
主な症状: 赤面、発汗、体の震え、どもりなど、他人に不安な様子を知られることへの恐怖。
広場恐怖症
定義: パニック発作やそれに類似する症状が起きた場合に、逃げ出すことが困難であったり、助けが得られないような場所や状況(例:電車やバスの中、人混み、広場、一人での外出など)に対して強い恐怖や不安を感じ、それを避けるようになる疾患です。単独で診断されることも、パニック症に伴って現れることもあります。
特定恐怖症
定義: 特定の対象や状況(例:高所、閉鎖空間、動物、注射、血、雷など)に対して、過剰で不合理な恐怖を感じる疾患です。その対象や状況に直面すると強い不安やパニック発作が生じ、それを避けるようになります。
統合失調症スペクトラム障害および他の精神病性障害
現実検討能力に障害が生じ、思考や知覚に歪みが生じる疾患群です。
統合失調症
定義: 思考、知覚、感情、行動などに様々な偏りが生じ、現実とのつながりが部分的に失われることがある疾患です。
主な症状:
- 陽性症状: 本来ないものが現れる症状。「幻覚」(実際には聞こえない声が聞こえるなど)や「妄想」(実際にはない根拠に基づいた、訂正困難な思い込み)など。
- 陰性症状: 本来あるべきものが失われる症状。感情が鈍くなる(感情平板化)、意欲が低下する(意欲減退)、楽しみを感じられなくなる(無快感症)、人との交流を避けるようになる(社会性の低下)など。
- 認知機能障害: 集中力、記憶力、計画力などの認知機能の低下。
- まとまりのない思考や行動: 話が飛躍したり支離滅裂になったりする、目的のない行動を繰り返すなど。
発症メカニズムは複雑で、脳機能の偏りや遺伝的要因、環境要因が関連すると考えられています。薬物療法(抗精神病薬)が治療の中心となりますが、リハビリテーションや心理社会的支援も重要です。
統合失調感情障害
定義: 統合失調症の症状と、双極性障害またはうつ病のエピソードが同時に、あるいは病気の経過中に独立して現れる疾患です。
主な症状: 統合失調症の陽性・陰性症状と、躁状態やうつ状態の症状の両方が認められます。診断には、統合失調症と気分障害のどちらかのエピソードが優位であるか、両方の症状がどのように出現するかなどを慎重に評価する必要があります。
強迫症および関連症群
不安を伴う強迫観念と、それを打ち消すための反復的な行為(強迫行為)が特徴の疾患群です。
強迫症
定義: 不安や苦痛を引き起こす、意に反して心に繰り返し浮かんでくる考えやイメージ(強迫観念)と、その不安を打ち消すために繰り返してしまう行為や思考(強迫行為)が特徴の疾患です。
主な症状:
- 強迫観念の例: 汚染への恐怖(物に触るとばい菌がつく)、確認の必要性(鍵を閉めたか心配)、加害恐怖(誰かに危害を加えるのではないか)、左右対称へのこだわりなど。
- 強迫行為の例: 過度な手洗い、何度も鍵やガスの元栓を確認する、特定の順番通りに物事をしないと気が済まない、心の中で縁起担ぎのような言葉を繰り返すなど。
強迫観念による強い不安を和らげるために強迫行為を繰り返しますが、一時的に安心するだけで、すぐにまた強迫観念に囚われてしまいます。このサイクルが生活に大きな支障をもたらします。治療には、薬物療法(SSRIなど)や認知行動療法が有効です。
醜形恐怖症
定義: 自分の身体の一部分(顔の形、髪の毛、肌など)に、他人からはほとんど気づかれないような、あるいは全く存在しない「欠陥」があると思い込み、そのことで頭がいっぱいになり、日常生活に支障をきたす疾患です。
主な症状: 繰り返し鏡を見る、化粧や髪型で隠そうとする、他人の視線を過度に気にする、美容整形を繰り返すなど。
抜毛症
定義: 体の毛(頭髪、眉毛、まつ毛など)を自分で抜いてしまう衝動を抑えられず、その結果、目に見えるほどの脱毛が生じる疾患です。抜く前には緊張が高まり、抜く行為によって安堵感や満足感が得られることがあります。
ため込み症
定義: 物を捨てることに対して強い困難を感じ、価値の有無にかかわらず大量の物を手放せずに溜め込んでしまう疾患です。その結果、居住空間が物で埋め尽くされ、生活に支障をきたします。
外傷およびストレス因関連障害群
トラウマとなるような出来事や強いストレス体験に関連して発症する疾患群です。
PTSD(心的外傷後ストレス障害)
定義: 生命に関わるような危険な出来事(交通事故、災害、犯罪被害など)を体験した後、その出来事に関する記憶が意図せずフラッシュバックしたり、悪夢を見たり、出来事を思い出させるものを避けたり、常に緊張状態が続いたりする疾患です。
主な症状:
- 再体験: 出来事の記憶が突然鮮明に蘇る(フラッシュバック)、悪夢を見る。
- 回避: 出来事を思い出させる場所、人物、状況、思考、感情などを避ける。
- 認知と気分の陰性の変化: 出来事に関する記憶が思い出せない、自分や他者、世界に対して否定的な考えを持つ、興味や喜びが失われる、孤立感を感じる。
- 覚醒度と反応性の著しい変化: 常に警戒している(過覚醒)、些細な音にも驚きやすい、イライラしやすい、集中できない、睡眠障害。
症状は、出来事の数ヶ月後、あるいは数年以上経ってから現れることもあります。治療には、トラウマに焦点づけた精神療法(EMDR、持続エクスポージャー療法など)や薬物療法が用いられます。
適応障害
定義: 特定のストレス因(例:仕事の変化、人間関係の問題、病気、引っ越しなど)に反応して、ストレス因が発生してから3ヶ月以内に生じる、感情面または行動面の症状です。ストレス因がなくなれば、通常6ヶ月以内に症状は軽快します。
主な症状: 抑うつ気分、不安、心配、怒り、問題行動(無断欠席、喧嘩など)。ストレス因に対して、予測されるよりも強い反応が出ている状態です。
神経発達症群(発達障害)
脳機能の発達の偏りにより、幼少期から行動やコミュニケーションなどに特性が現れる疾患群です。かつては「発達障害」と総称されていましたが、医学的な診断名としては「神経発達症」が用いられることが増えています。
自閉スペクトラム症(ASD)
定義: 対人関係やコミュニケーションに困難があったり、特定のことに強いこだわりがあったりする特性を持つ発達症です。「スペクトラム」という言葉が示すように、その特性の現れ方や程度は多様であり、連続体(グラデーション)として捉えられます。
主な症状:
- 対人関係・コミュニケーションの困難: 他者の気持ちや意図を読み取るのが苦手、言葉の裏を読むのが苦手、一方的な話し方になる、目を合わせるのが苦手、非言語的な合図(表情、ジェスチャー)を理解・使用するのが苦手。
- 限定された興味・こだわり: 特定の物事や活動に強い興味を持ち、それ以外のことに興味を示さない、特定のルーチンや手順に強くこだわる、感覚過敏または鈍麻(特定の音や光、感触に過敏/鈍感)。
知的な遅れを伴う場合と伴わない場合があります。診断には、乳幼児期からの発達の様子を詳しく聞き取る必要があります。特性に応じた環境調整やソーシャルスキルトレーニングなどの支援が行われます。
注意欠如・多動症(ADHD)
定義: 年齢や発達のレベルに見合わない不注意、多動性、衝動性といった特性を持つ発達症です。これらの特性により、学業や仕事、対人関係などに困難が生じることがあります。
主な症状:
- 不注意: 集中力が続かない、忘れ物やなくし物が多い、頼まれたことを最後までやり遂げられない、ケアレスミスが多い、気が散りやすい。
- 多動性: 落ち着きがない、そわそわしている、じっと座っているのが苦手、過度にお喋りをする。
- 衝動性: 順番を待てない、他人の話を遮る、思いつくとすぐ行動してしまう、危険な行動をとる。
これらの特性が、家庭、学校、職場など複数の場所で認められる場合に診断されます。診断には、幼少期からの様子を詳しく確認します。特性への理解、環境調整、ペアレントトレーニング、薬物療法(中枢刺激薬など)などの支援が行われますます。
限局性学習症(LD)
定義: 全体的な知的発達には遅れがないものの、読み、書き、算数といった特定の学習能力に著しい困難がある発達症です。
主な症状: 文字を読むのが極端に遅い、文字を正確に書けない、文章を理解するのが難しい、計算が苦手、数字の概念を理解するのが難しいなど、困難は特定の領域に限られます。
知的発達症(知的障害)
定義: 全体的な知的機能(推論、問題解決、計画、抽象的思考、判断、学習など)に、発達期(通常18歳未満)に著しい遅れが生じ、日常生活や社会生活への適応能力(コミュニケーション、社会参加、生活能力など)にも困難を伴う状態です。加齢による「もの忘れ」とは異なり、病気によって引き起こされます。
主な症状: 年齢に応じた学習や問題解決が難しい、抽象的な思考が苦手、日常生活のスキル習得に時間がかかる、社会的な状況判断が難しいなど。遅れの程度は様々で、適切な支援があれば自立した生活を送れる場合もあります。
パーソナリティ障害群
思考、感情、対人関係、衝動性の持続的なパターンが、所属する文化から著しく逸脱しており、本人や周囲に苦痛や機能障害をもたらす状態です。特定の行動や思考のパターンが固定化している点が特徴です。
境界性パーソナリティ障害
定義: 対人関係、自己像、感情、行動の不安定さが特徴のパーソナリティ障害です。見捨てられることへの強い不安、理想化とこき下ろしを繰り返す対人関係、衝動性、自殺企図や自傷行為などがみられます。
主な症状: 感情の波が激しい、怒りの制御が困難、空虚感、自己破壊的な行動(浪費、性行為、薬物乱用、無謀な運転など)、努力しても安定しない自己像。
回避性パーソナリティ障害
定義: 他者からの批判や拒絶、不承認を極度に恐れるあまり、対人関係や社会的な状況を避けてしまうパーソナリティ障害です。強い劣等感や自分は魅力的ではないという思い込みを持つことが多いです。
主な症状: 人前で話すことや新しい人間関係を始めることを避ける、親密な関係を持つことに消極的になる、批判される可能性のある状況から逃げる。
強迫性パーソナリティ障害
定義: 秩序、完璧さ、心的および対人関係の制御への過度な関心を持ち、柔軟性、開放性、効率性を犠牲にしてしまうパーソナリティ障害です。「強迫症」とは異なり、明確な強迫観念や強迫行為を伴わず、本人は自分の考え方や行動パターンを「正しい」と感じていることが多い点が異なります。
主な症状: 細部にこだわりすぎる、仕事を他人に任せられない、完璧主義で物事がなかなか終わらない、金銭や感情の表現にけちである。
依存症
特定の物質(アルコール、薬物など)や特定の行為(ギャンブル、インターネットなど)に対して、コントロールを失い、それに囚われてしまう疾患です。
アルコール依存症
定義: アルコールを飲み続けることをやめられなくなり、心身の健康や社会生活に問題が生じているにも関わらず飲酒をコントロールできない状態です。
主な症状: 飲酒量や頻度のコントロールができない、飲酒をやめると手や体の震え、発汗、吐き気などの離脱症状が出る、飲酒のために重要な活動(仕事、趣味など)を犠牲にする、飲酒が健康に悪いと分かっていてもやめられない。
薬物依存症
定義: 特定の薬物(覚醒剤、大麻、処方薬、市販薬など)の使用をコントロールできなくなり、心身や社会生活に問題が生じている状態です。
主な症状: 薬物使用量や頻度のコントロールができない、薬物使用をやめると離脱症状が出る、薬物入手のたに時間や労力を費やす、薬物使用のために重要な活動を犠牲にする、薬物使用が健康に悪いと分かっていてもやめられない。
行為依存症(ギャンブルなど)
定義: 特定の行為(ギャンブル、インターネット、ゲーム、買い物など)に過度にのめり込み、その行為をコントロールできなくなり、日常生活に支障が生じている状態です。
主な症状: 行為に費やす時間や金額が増える、やめようとしてもやめられない、行為のために嘘をついたり借金をしたりする、行為が原因で人間関係や仕事を失う。
摂食障害
食行動や体重、体型に対する考え方に歪みが生じ、健康を害するような食行動をとってしまう疾患群です。
神経性やせ症(拒食症)
定義: 体重が増えることへの強い恐怖から、極端な食事制限や過度な運動を行い、著しい低体重となる疾患です。体重や体型に対する認識に歪みがあり、自分が痩せていることを認められません。
主な症状: 食事量の極端な制限、過度な運動、自己誘発性嘔吐、下剤の乱用、低体重、無月経(女性の場合)、低血圧、徐脈、骨粗鬆症など。
神経性過食症(過食症)
定義: 短時間に大量の食物を食べることを繰り返し(過食エピソード)、その後に体重増加を防ぐための不適切な代償行為(自己誘発性嘔吐、下剤や利尿剤の乱用、過度な運動など)を行う疾患です。体重や体型へのこだわりが強いですが、神経性やせ症のような著しい低体重にはなりません。
主な症状: コントロールできない過食、過食後の罪悪感や自己嫌悪、代償行為、体重や体型への強いこだわり、うつ症状や不安を伴うことも多いです。
睡眠・覚醒障害群
睡眠の量、質、タイミングなどに問題が生じ、日中の活動に支障をきたす疾患群です。
不眠症
定義: 眠りにつくのが難しい(入眠困難)、夜中に何度も目が覚める(中途覚醒)、朝早く目が覚めてしまう(早朝覚醒)といった問題が週に数回以上あり、それが3ヶ月以上続き、日中の活動に影響が出ている状態です。
主な症状: 寝つきが悪い、熟睡感がない、日中の眠気、倦怠感、集中力や注意力の低下、イライラ感。
過眠症
定義: 夜間に十分な睡眠をとっているにも関わらず、日中に耐え難いほどの眠気に襲われたり、意図せず眠ってしまったりすることを繰り返す疾患です。ナルコレプシーなどが含まれます。
主な症状: 日中の過剰な眠気、居眠り、睡眠麻痺、入眠時幻覚、情動脱力発作(ナルコレプシーの場合)。
概日リズム睡眠・覚醒障害
定義: 体内時計のリズムが、社会的に求められる睡眠・覚醒の時間帯とズレてしまい、望む時間に眠ったり起きたりすることが困難になる疾患です。交代勤務や時差ぼけなども一時的な同様の状態を引き起こしますが、これは持続的な体内時計の問題です。
主な症状: 寝たい時間に眠れない、起きたい時間に起きられない、睡眠不足による日中の症状。
その他の主な精神疾患
上記のカテゴリーには明確に分類されないものの、比較的よく知られている疾患や重要な疾患群です。
認知症(神経認知障害群)
定義: 後天的な脳の器質的変化(アルツハイマー型認知症、血管性認知症など)により、記憶、思考、判断などの認知機能が持続的に低下し、日常生活や社会生活に支障をきたす状態です。加齢による「もの忘れ」とは異なり、病気によって引き起こされます。
主な症状: 記憶障害、見当識障害(時間や場所、人が分からなくなる)、判断力・思考力の低下、言葉の問題(失語)、実行機能障害(計画や手順が分からなくなる)、性格の変化、行動・心理症状(BPSD:抑うつ、不安、幻覚、妄想、徘徊、暴力など)。
解離症群
定義: 意識、記憶、同一性、知覚、運動、情動などの機能の統合が一時的または持続的に失われることで生じる疾患群です。強いストレスやトラウマ体験に関連して発症することが多いです。
主な症状: 解離性健忘(重要な個人情報が思い出せない)、解離性遁走(突然家からいなくなってしまう)、離人感・現実感喪失症(自分が自分ではないように感じる、周囲が現実味を帯びていないように感じる)、解離性同一症(多重人格)。
身体症状症および関連症群
定義: 医学的に説明可能な身体的な病気がない、または軽微であるにも関わらず、身体症状に対して過剰な不安や心配を抱いたり、健康への関心が異常に高まったりする疾患群です。身体的な苦痛だけでなく、精神的な苦痛や日常生活の障害を伴います。
主な症状: 様々な身体の痛みや不調(頭痛、腹痛、疲労感など)への過剰なこだわり、その症状について繰り返し医師に相談する、検査結果が異常なしでも安心できない、健康に関する情報を過度に調べる。
上記以外にも、精神疾患には多種多様なものがあります。症状の現れ方や重症度も一人ひとり異なり、複数の疾患を併発している場合もあります。診断と治療には、専門医による丁寧な診察が不可欠です。
精神疾患の有病率と統計
精神疾患は、実は非常に多くの人が経験する可能性のある一般的な病気です。厚生労働省の統計によると、日本における精神疾患の患者数は年々増加傾向にあります。
年間で医療機関を受診する精神疾患の患者数は、約400万人以上に上ると言われています。(参照:厚生労働省患者調査など)
生涯に一度でも何らかの精神疾患にかかる人の割合(生涯有病率)に関する国内外の研究によると、人口の数割、場合によっては半数近くの人が、生涯のある時点で診断基準を満たす精神疾患を経験するという報告もあります。これは、精神疾患が遠い世界の病気ではなく、私たちの身近にある病気であることを示唆しています。
日本で最も多い精神疾患は?
日本で医療機関を受診している患者数が多い精神疾患としては、気分障害(うつ病、双極性障害など)や不安症群が挙げられます。特にうつ病は、生涯有病率が比較的高い疾患として知られており、誰にでも起こりうる病気として社会的な認知度も高まってきています。
次に多いのは、統合失調症スペクトラム障害や神経症性障害、ストレス関連障害などです。また、近年は神経発達症(発達障害)への関心が高まり、診断や支援を求める人が増加傾向にあります。
これらの統計は、医療機関を受診した患者さんの数に基づいているため、医療にアクセスしていない潜在的な患者さんを含めると、実際の有病率はさらに高いと考えられます。
精神疾患の重症度について
精神疾患の重症度は、症状の種類や程度、持続期間、そしてそれによってどの程度日常生活や社会生活に支障が出ているかによって評価されます。同じ診断名であっても、軽度の症状で社会生活を維持できる方もいれば、重度の症状で入院や手厚い支援が必要となる方もいます。
重症度を評価する一つの目安として、精神障害者保健福祉手帳の等級があります。
精神障害者保健福祉手帳の等級と基準
精神障害者保健福祉手帳は、一定程度の精神障害の状態にある方が申請できる手帳で、様々な福祉サービスを受けるために利用できます。手帳の交付対象となる精神疾患は、この記事で紹介したほとんどの疾患が含まれます。
障害の程度に応じて、1級、2級、3級の3段階に区分されます。等級は、精神疾患の状態と、その状態によって日常生活や社会生活がどの程度困難になっているかを総合的に判断して決定されます。
以下に、等級の簡単な目安と基準の概要を示しますが、これはあくまで概要であり、詳細な判定基準は厚生労働省の定めるところによります。
等級 | 障害の状態の目安(概要) | 日常生活・社会生活上の制限(概要) |
---|---|---|
1級 | 精神疾患によって、日常生活が一人でほとんど行えない、または高度な援助がなければ行えない状態。 | 家庭内での極めて簡単な日常生活(食事、清潔保持など)以外は、活動が著しく困難。社会的な活動は不可能か、ほぼ不可能。常に援助が必要。 |
2級 | 精神疾患によって、日常生活が一人で行えるが、時に援助が必要な状態。または、日常生活は送れるが、社会生活には著しい制限を受けている状態。 | 家庭内での簡単な日常生活はできるが、時に応じて援助が必要。社会的な活動(就労、通学、人付き合いなど)に著しい制限がある、またはほとんどできない。常時援助が必要な場合もあるが、部分的な援助で対応可能な場合も含む。 |
3級 | 精神疾患によって、日常生活や社会生活に一定の制限を受けている状態。社会的な活動(就労、通学など)は可能だが、障害のために困難を伴う、または配慮が必要な状態。 | 家庭内での日常生活はほぼ問題なくできる。社会的な活動は可能だが、障害のために一定の困難を伴う、またはある程度の援助や配慮が必要。例えば、一般企業での就労は困難だが、障害者雇用や継続的な支援があれば可能な場合、または症状の波によって困難さが増減する場合など。 |
※上記の表は基準の非常に簡略化された概要です。実際の判定には、専門医の診断書や本人の病状に関する詳細な聞き取りが必要です。詳細については、お住まいの自治体の担当窓口にご相談ください。
この手帳以外にも、精神疾患の状態に応じて、障害年金や自立支援医療制度などの様々な公的な支援制度があります。これらの制度は、経済的な負担を軽減したり、社会参加をサポートしたりするために設けられています。ご自身の状態に合わせた支援制度については、医療機関の相談員や精神保健福祉センターなどで相談してみることをお勧めします。
心の不調を感じたら:チェックリストと相談先
「もしかしたら、自分や家族は精神疾患かもしれない…」と心の不調を感じたとき、どのように対処すれば良いのでしょうか。まずはご自身の状態を振り返り、必要に応じて専門機関に相談することが重要です。
精神疾患セルフチェック(あくまで目安として)
以下の項目に、最近当てはまることがないか、思い返してみましょう。これはあくまで自己診断のヒントであり、診断を行うものではありません。もし気になる項目が多く当てはまる場合は、専門機関への相談を検討するサインかもしれません。
- 以前は楽しめていたことに興味がなくなった
- 気分が沈んで、何をするのも億劫だ
- 理由もなく不安になったり、焦る気持ちが強かったりする
- 夜、なかなか眠れない、途中で何度も目が覚める
- 食欲がなくなったり、逆に食べ過ぎてしまったりする
- 体がだるくて、疲れがとれない
- 物事に集中できず、仕事や家事が手につかない
- 些細なことでイライラしたり、怒りっぽくなったりする
- 自分は価値がない、誰にも迷惑をかけていると感じる
- 将来のことが考えられず、希望が持てない
- 人前に出るのが怖い、人に会いたくないと感じる
- 同じことを何度も繰り返さないと気が済まない(確認、手洗いなど)
- 特定の考えが頭から離れず、打ち消そうとしてもできない
- 過去の辛い出来事が突然鮮明に思い出され、苦しくなる
- お酒や特定の行為(ギャンブル、ゲームなど)をやめられない
- 理由なく、体のあちこちが痛い、調子が悪いと感じる
- 自分の体の一部が、他の人と比べておかしい、と感じてしまう
- 人とのコミュニケーションが苦手で、誤解されやすいと感じる
- 忘れっぽくなったり、物事の段取りを考えるのが難しくなったりした
注意: これらの項目に当てはまるからといって、必ずしも精神疾患であるとは限りません。一過性のストレスや疲労が原因である場合もあります。また、精神疾患の診断は専門医のみが行えるものです。気になる場合は、自己判断せずに専門機関に相談することが大切です。
どこに相談すれば良い?専門機関の紹介
心の不調を感じたり、上記のチェック項目に多く当てはまる場合は、一人で抱え込まず、専門機関に相談しましょう。どこに相談すれば良いか迷うかもしれませんが、いくつかの選択肢があります。
相談先を選ぶ際は、ご自身の状況(どのような症状か、緊急性があるか、費用はかけられるか、誰に相談したいかなど)に合わせて検討すると良いでしょう。
以下に主な相談先とその特徴を示します。
相談先 | 特徴・できること |
---|---|
精神科・心療内科クリニック/病院 | 精神疾患の診断と治療を行う専門機関。医師の診察を受け、薬物療法や精神療法(カウンセリングなど)を受けることができる。診断書や各種制度の申請に必要な意見書の発行も可能。予約が必要な場合が多い。 |
精神保健福祉センター | 都道府県・政令指定都市に設置されている専門機関。精神保健福祉に関する相談(本人、家族)、デイケア、訪問支援、各種制度の情報提供などを行う。専門家(精神科医、精神保健福祉士、公認心理師など)に無料で相談できる。 |
保健所 | 市町村に設置されている機関。精神保健に関する相談窓口がある場合がある。地域の医療機関や支援情報を提供。 |
市町村の相談窓口 | 地域の福祉課や健康課などに精神保健担当の窓口がある場合がある。地域住民からの精神保健に関する相談に対応。 |
いのちの電話、よりそいホットラインなど | 電話による相談窓口。匿名で24時間(または特定の時間帯)相談できる場合が多い。自殺予防に関する相談にも対応している。緊急性が高い場合や、まずは誰かに話を聞いてほしいという場合に利用しやすい。 |
公認心理師/臨床心理士のカウンセリング | 心理的な問題や悩みを抱えている場合に、専門家によるカウンセリングを受けることができる。医療機関に併設されている場合や、民間の相談室がある。診断や薬の処方はできないが、心理療法や精神療法に専門的に取り組む。 |
職場のメンタルヘルス相談窓口/EAP | 企業内に設置されている相談窓口や、外部委託された専門家による従業員向け相談サービス。仕事に関するストレスやメンタルヘルスの問題について相談できる。守秘義務がある場合が多い。 |
学校のカウンセラー | 学生向けの相談窓口。学業や友人関係、進路に関する悩みなど、学生が抱える心理的な問題について相談できる。 |
家族や友人 | 身近な人に話を聞いてもらうだけでも、気持ちが楽になることがある。ただし、専門的な知識や対応が必要な場合もあるため、必要に応じて専門機関への相談も検討することが大切。 |
最も推奨されるのは、精神科・心療内科を受診することです。 専門医の診察を受けることで、正確な診断を受け、適切な治療方針を立てることができます。症状が比較的軽い場合や、まずは情報収集から始めたい場合は、精神保健福祉センターや保健所などの公的な相談窓口を利用するのも良いでしょう。
早期の相談・受診が、回復への第一歩となります。 一人で悩まず、まずは信頼できる相談先へ一歩を踏み出しましょう。
まとめ:精神疾患への理解と適切な対応
この記事では、「精神疾患 一覧」として、精神疾患の基本的な定義、主要な分類、代表的な疾患の種類と主な症状、そして心の不調を感じた場合の相談先について解説しました。
精神疾患は、脳機能の偏りや複雑な要因によって引き起こされる病気であり、特別な人だけが罹患するわけではありません。誰にでも起こりうる可能性があり、風邪や怪我と同じように、早期発見と適切な治療が重要です。
うつ病、双極性障害、統合失調症、不安症、発達障害など、精神疾患には多種多様な種類があり、それぞれに特徴的な症状が現れます。これらの症状は、本人の意思や努力だけでコントロールできるものではなく、専門的な治療や支援が必要です。
もしご自身やご家族が心の不調を感じたり、「もしかしたら精神疾患かもしれない」と思ったりした場合は、一人で抱え込まず、専門機関に相談してください。精神科・心療内科、精神保健福祉センター、保健所など、様々な相談先があります。
精神疾患に関する正しい知識を持つことは、ご自身や大切な人の心の健康を守る上で非常に大切です。精神疾患は治療可能な病気であり、適切なケアを受けることで、多くの人が症状をコントロールし、自分らしい生活を送ることができています。
この情報が、精神疾患への理解を深め、必要な人が適切な支援に繋がるための一助となれば幸いです。
免責事項: 本記事は精神疾患に関する一般的な情報を提供するものであり、医学的な診断や治療を推奨するものではありません。具体的な症状について不安がある場合は、必ず専門の医療機関にご相談ください。本記事の情報に基づいて行った行為の結果について、当方は一切の責任を負いかねます。
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