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精神疾患の一覧【種類と症状をわかりやすく解説】

精神疾患は、私たちの心の働きや行動に影響を及ぼす病気の総称です。誰にでも起こりうる可能性があり、決して特別なことではありません。この記事では、精神疾患の多様な種類とその主な症状、精神障害との違い、そして診断から治療、さらには利用できる様々なサポート体制までを網羅的に解説します。ご自身の心の健康に関心がある方、周りの方のことで悩んでいる方、精神疾患について正しく知りたいと思っている方にとって、この記事が理解を深める一助となれば幸いです。

目次

精神疾患とは?精神障害との違い

精神疾患の定義と分類

精神疾患とは、脳の機能的な問題や、ストレス、心理的な要因、環境要因などが複雑に絡み合って生じる病気です。思考、感情、意欲、行動、認知機能などに偏りや障害が現れ、日常生活や社会生活を送る上で困難が生じることがあります。

精神疾患を分類する方法はいくつかありますが、広く用いられているものに、アメリカ精神医学会が発行する「精神疾患の診断・統計マニュアル(DSM)」や、世界保健機関(WHO)が定める「疾病及び関連保健問題の国際統計分類(ICD)」があります。これらの分類は、診断基準を明確にすることで、世界中の専門家が共通理解を持って診断や研究を進めるために役立てられています。

精神疾患は、単一の原因で発症することは少なく、生物学的要因(遺伝的体質や脳の機能)、心理的要因(性格や過去の経験)、社会的要因(家庭環境、職場環境、ストレスなど)が相互に影響し合って発症すると考えられています。そのため、治療においても、薬物療法だけでなく、精神療法や環境調整など、多角的なアプローチが必要となる場合が多くあります。

精神疾患は、一時的な気分の落ち込みやストレス反応とは異なり、その症状がある程度の期間持続したり、日常生活や社会生活に大きな支障をきたしたりする点が特徴です。しかし、適切な診断と治療を受けることで、症状が改善し、回復したり、病気と付き合いながら安定した生活を送ったりすることが十分に可能です。

「精神疾患」と「精神障害」の違い

「精神疾患」と「精神障害」という言葉は、日常会話の中で混同して使われることも多いですが、厳密にはニュアンスが異なります。

「精神疾患」は、病気そのもの、つまり、脳や心の機能に変調をきたしている状態を指します。例えば、「うつ病という精神疾患にかかっている」のように使われます。

一方、「精神障害」は、精神疾患が原因となって生じた後遺症や機能の偏りによって、長期にわたり日常生活や社会生活に制約がある状態を指すことが多いです。これは、法制度や福祉サービスに関連して使われる場合に明確になります。例えば、精神障害者保健福祉手帳や障害年金といった制度は、「精神障害」の状態にある方に対して提供されます。

つまり、「精神疾患」は現在進行形の病気の状態を指すのに対し、「精神障害」は精神疾患の結果として生じた機能的な「障害」に焦点を当てた言葉と言えます。精神疾患を抱える全ての方が「精神障害」の状態にあるわけではなく、治療によって回復し、障害が残らない方もいらっしゃいます。しかし、多くの精神疾患は慢性的な経過をたどる場合があり、その結果として生活上の困難が継続する場合に「精神障害」として捉えられることがあります。

このように、これらの言葉は使われる文脈によって意味合いが変わるため、どちらの言葉が使われているかに注意することが大切です。ただし、一般的には、精神科の病気を指す言葉として「精神疾患」がより広く使われています。

主な精神疾患の種類と症状

精神疾患には非常に多くの種類があり、それぞれに特徴的な症状があります。ここでは、比較的よく知られている主な精神疾患の種類と、その代表的な症状について解説します。

気分障害(うつ病、双極性障害など)

気分障害は、感情や気分の波が病的に変動することが特徴の疾患群です。

うつ病

うつ病は、持続的な気分の落ち込みや、これまで楽しめていたことへの興味や喜びの喪失が核となる症状です。これらの症状が2週間以上ほとんど毎日続き、日常生活に支障をきたしている場合に診断が検討されます。

主な症状には、以下のようなものがあります。

  • 抑うつ気分: 憂鬱で悲しい、気分が晴れない、希望がないと感じる。
  • 興味・関心の喪失: 趣味や仕事、人間関係など、これまで楽しめていたことに関心が持てなくなる。
  • 疲労感・気力の低下: 体がだるく、疲れやすい。何をするにも億劫で、集中力が続かない。
  • 睡眠障害: 眠れない(不眠)人もいれば、眠りすぎる(過眠)人もいる。朝早く目が覚めてしまうことも多い。
  • 食欲・体重の変化: 食欲が低下して体重が減る人もいれば、反対に食欲が増進して体重が増える人もいる。
  • 精神運動性の障害: 思考や動作が遅くなる(制止)、あるいは落ち着きなくそわそわする(焦燥)。
  • 罪悪感・無価値感: 自分を責めたり、自分には価値がないと感じたりする。
  • 思考力・集中力の低下: 物事を考えたり、判断したりすることが難しくなる。
  • 死への思い: 死にたい、消えてしまいたいなどと考えるようになる。

うつ病の症状は、心理的なものだけでなく、頭痛や肩こり、胃の不快感といった身体的な症状として現れることも少なくありません。重症になると、仕事や家事が全くできなくなったり、ベッドから起き上がることすら困難になったりする場合もあります。

双極性障害

双極性障害は、うつ病のエピソードに加えて、気分が異常に高揚したり活動的になったりする「躁(そう)状態」、あるいは躁状態ほどではないが気分が高ぶる「軽躁(けいそう)状態」を繰り返す病気です。以前は「躁うつ病」と呼ばれていました。

双極性障害は、うつ状態と躁(軽躁)状態のどちらのエピソードがより長く、重いかによって、双極性障害I型と双極性障害II型に分けられます。双極性障害I型は、典型的な躁状態とうつ状態を繰り返します。一方、双極性障害II型は、うつ状態と軽躁状態を繰り返すのが特徴です。軽躁状態は、本人や周囲が病気だと気づきにくいため、うつ病として診断・治療されているケースも少なくありません。

躁(軽躁)状態の主な症状は以下の通りです。

  • 気分の異常な高揚または易怒性: 非常に上機嫌で楽天家になったり、些細なことでイライラしたり怒りっぽくなったりする。
  • 活動性の亢進: エネルギッシュになり、精力的に活動する。睡眠時間が短くても平気でいられる。
  • 多弁: よく喋り、話がとめどなく続く。
  • 観念奔逸: 次々とアイデアが浮かび、考えがまとまりにくくなる。
  • 注意散漫: 注意が簡単にそらされ、集中できない。
  • 誇大性: 自分は特別な能力がある、偉大な人物だなどと思い込む。
  • 衝動的な行動: 後先考えずに高額な買い物をする、無謀な投資をする、性的逸脱行為に走るなど、快楽的な活動に熱中する。

うつ状態と躁(軽躁)状態の間には、比較的気分の安定した期間(間欠期)があることもあります。双極性障害は再発しやすい病気ですが、気分安定薬などによる適切な治療を継続することで、気分の波をコントロールし、安定した生活を送ることが可能です。

不安症(パニック症、社交不安症など)

不安症は、過剰な不安や恐怖が持続し、日常生活に支障をきたす疾患群です。特定の状況や対象に対する不安、あるいは漠然とした不安など、様々な形があります。

パニック症

パニック症は、予期しないパニック発作を繰り返すことが特徴です。パニック発作とは、突然、動悸、息苦しさ、めまい、吐き気、手足のしびれ、胸の痛みなどの身体症状と共に、「このまま死んでしまうのではないか」「気が狂ってしまうのではないか」といった強い不安や恐怖に襲われる状態です。発作は通常数分から長くても30分以内におさまります。

パニック発作を繰り返すうちに、「また発作が起きるのではないか」という予期不安が強くなり、発作が起きた場所や状況(電車の中、人混み、会議中など)を避けるようになる「広場恐怖」を伴うことも少なくありません。これにより、外出が困難になるなど、日常生活に大きな支障をきたすことがあります。

社交不安症(SAD)

社交不安症は、人前での言動や行動に対して強い不安や恐怖を感じ、そのような状況を避けようとすることが特徴です。例えば、人前で話すこと、字を書くこと、電話をかけること、食事をすること、初対面の人と会うことなどに強い苦痛を感じます。「人前で恥ずかしい思いをするのではないか」「失敗して笑われるのではないか」といった不安が強く、実際に人前に出ると、動悸や手の震え、顔が赤くなる、汗をかく、どもるなどの身体症状が現れることがあります。

社交不安症によって、授業で発言できない、職場でのプレゼンを避けたい、懇親会に参加できないなど、学業や仕事、人間関係に大きな影響が出ることがあります。

全般性不安症

全般性不安症は、特定の対象や状況だけでなく、様々な出来事や活動に対して、過剰で制御困難な心配や不安が持続することが特徴です。例えば、家族の健康、仕事、経済的なこと、日々の些細なことなど、次から次へと心配事が頭を占めます。心配が止まらず、落ち着きがない、疲れやすい、集中できない、イライラする、筋肉が緊張する、睡眠障害などの身体症状を伴うこともよくあります。

特定の恐怖症

特定の恐怖症は、特定の対象や状況(例: 高所、閉所、動物、注射、雷など)に対して、実際にはそれほど危険でないと分かっていながらも、強い恐怖や不安を感じ、可能な限りその状況を避けようとすることが特徴です。恐怖の対象に直面すると、パニック発作に近い症状が現れることもあります。

統合失調症

統合失調症は、考えや気持ちがまとまりにくくなり、現実と非現実の区別がつきにくくなる病気です。幻覚(特に幻聴)や妄想といった「陽性症状」と、意欲や感情の低下、引きこもりといった「陰性症状」が主な特徴です。多くは思春期から青年期にかけて発症することが多いですが、それ以降に発症することもあります。

主な症状は以下の通りです。

  • 陽性症状:
    • 幻覚: 実際にはないものが見えたり聞こえたりする。最も多いのは幻聴で、自分に対する悪口や指図、噂話などが聞こえることが多い。
    • 妄想: 明らかに間違った内容であるにもかかわらず、それが事実だと強く信じ込んでしまう考え。例:「誰かに監視されている」「自分の考えが他人に筒抜けになっている」「毒を盛られる」など。
    • 思考障害: 考えがまとまらず、話があちこちに飛ぶ。話の辻褄が合わなくなる。
  • 陰性症状:
    • 感情の平板化: 喜怒哀楽の感情表現が乏しくなる。
    • 意欲・自発性の低下: 何かをする気力がなくなり、何もせず一日中過ごすことが増える。
    • 会話量の減少: あまり話さなくなる。
    • 社会性の低下: 人付き合いを避けるようになり、閉じこもりがちになる。

統合失調症は、発症早期に適切な治療を開始することが、その後の経過に大きく影響します。薬物療法によって幻覚や妄想といった陽性症状は比較的抑えられやすいですが、陰性症状や認知機能の障害(記憶力、注意力、判断力などの低下)は治療に時間がかかる場合があり、リハビリテーションや社会的なサポートが重要となります。

強迫症

強迫症(以前は強迫性障害と呼ばれていました)は、自分でも「ばかげている」「意味がない」と分かっていながらも、心の中から追い払うことのできない不安な考え(強迫観念)が繰り返し浮かび、その不安を打ち消すために特定の行動(強迫行為)を繰り返してしまう病気です。

代表的な強迫観念と強迫行為の例は以下の通りです。

  • 洗浄・汚染の強迫観念と洗浄行為: 「汚い」「細菌がいる」といった考えが頭から離れず、異常なほど手洗いや入浴、掃除を繰り返す。
  • 確認の強迫観念と確認行為: 「鍵を閉めたか」「ガス栓を閉めたか」といった不安が拭えず、何度も何度も確認に戻る。
  • 加害の強迫観念: 「誰かを傷つけてしまうのではないか」「交通事故を起こしてしまうのではないか」といった恐ろしい考えが浮かぶ。
  • 対称性・秩序の強迫観念と整頓行為: 「物が正しい位置にないと気持ち悪い」と感じ、物をきっちり並べたり、左右対称にしたりする。
  • ため込み: 不要な物を捨てられず、溜め込んでしまう。

強迫行為は、強迫観念によって生じた不安を一時的に和らげるために行われますが、根本的な解決にはなりません。むしろ、強迫行為をすればするほど強迫観念にとらわれやすくなり、悪循環に陥ってしまいます。重症化すると、強迫行為に費やす時間が膨大になり、仕事や家事、人間関係などが全く手につかなくなることもあります。治療としては、薬物療法(SSRIなど)や認知行動療法(特に曝露反応妨害法)が有効です。

神経発達症(発達障害)

神経発達症は、生まれつき脳機能の発達に偏りがあることで生じる、さまざまな特性の総称です。知的発達症、自閉スペクトラム症(ASD)、注意欠如・多動症(ADHD)、限局性学習症(LD)、チック症、発達性協調運動症などが含まれます。これらは病気というよりも、脳の機能の「特性」として捉えられることが多く、育て方や環境が原因ではありません。多くの場合は幼少期に気づかれますが、大人になってから診断されることもあります。

自閉スペクトラム症(ASD)

自閉スペクトラム症は、対人関係や社会的コミュニケーションにおける困難、および限定された興味やこだわり、反復行動が主な特徴です。「スペクトラム」という言葉が示すように、症状の現れ方や程度は人によって大きく異なります。

主な特徴は以下の通りです。

  • 社会的コミュニケーションや対人関係の困難: 空気を読むことが苦手、言葉の裏にある意図が理解しにくい、表情や声のトーンから相手の気持ちを読み取りにくい、適切な距離感で人と関わることが難しいなど。
  • 限定された興味やこだわり: 特定の物事や分野に強い興味を示し、それ以外のことに興味を持ちにくい。物の配置や手順など、特定のやり方に強くこだわる。変化を嫌い、決まったパターンや習慣を好む。
  • 感覚の特性: 特定の音や光、肌触りなどに過敏であったり、逆に鈍感であったりする。

注意欠如・多動症(ADHD)

注意欠如・多動症は、不注意、多動性、衝動性の3つの特徴のうち、一つあるいは複数が年齢や発達レベルに見合わないほど強く現れるものです。これらの特性によって、学業や仕事、日常生活に支障が出ることがあります。

主な特徴は以下の通りです。

  • 不注意: 集中力が続かない、ケアレスミスが多い、忘れ物やなくし物が多い、物事を順序立てて行うのが苦手、指示を最後まで聞けないなど。
  • 多動性: じっとしているのが苦手で、そわそわしたり、落ち着きなく動き回ったりする。過度に喋る。
  • 衝動性: 順番を待つのが苦手で、割り込んでしまう。質問が終わる前に答えてしまう。危険なことを理解せずに行動してしまうなど。

ADHDの特性も、年齢によって現れ方が変化します。例えば、幼少期には多動性が目立ちやすいですが、成長するにつれて落ち着き、不注意や衝動性が目立つようになることがあります。

限局性学習症(LD)

限局性学習症は、全般的な知的発達に遅れはないものの、読む、書く、計算するといった特定の学習能力のみに困難がある状態です。

神経発達症は、病気として治療するというよりは、それぞれの特性を理解し、環境を調整したり、コミュニケーションの方法を工夫したり、ソーシャルスキルを身につけたりといったサポートやトレーニングを通じて、社会生活に適応していくことを目指します。必要に応じて、不注意や多動性の症状を和らげる薬物療法が用いられることもあります。

摂食障害

摂食障害は、食事や体重、体型に対する異常なこだわりを持ち、食行動に問題が生じる病気です。主に神経性やせ症(拒食症)と神経性過食症(過食症)があります。思春期から青年期の女性に多く見られますが、男性や他の年代でも発症します。

神経性やせ症(拒食症)

神経性やせ症は、極端な食事制限や過度な運動などによって体重を減らし、標準体重を大きく下回るにもかかわらず、「太っている」「太るのが怖い」といった強い恐怖心を持ち続けることが特徴です。体重減少を認めず、痩せていることによって生じる身体的な危険性(低血圧、徐脈、ホルモンバランスの異常、骨粗鬆症など)を認識しないこともあります。

神経性過食症(過食症)

神経性過食症は、短時間に大量の食物を食べる「過食エピソード」を繰り返すことが特徴です。過食中は、「食べることをやめられない」「食べる量をコントロールできない」といった感覚を伴います。過食エピソードの後には、「太る」ことへの恐れから、自己誘発性の嘔吐、下剤や利尿剤の乱用、絶食、過度な運動といった「代償行為」を行います。体重は標準範囲内であることも多いですが、体重や体型に対する強いこだわりと歪んだ自己評価を持ちます。

摂食障害は、栄養失調や電解質異常など、身体的な合併症を引き起こす可能性があり、命に関わることもあります。治療は、精神療法(特に認知行動療法)や栄養指導、必要に応じて薬物療法など、多角的なアプローチが必要です。重症の場合は入院治療が必要となることもあります。

依存症

依存症は、特定の物質(アルコール、薬物など)や行為(ギャンブル、インターネット、買い物など)に対して、使用やめたいと思ってもやめられず、コントロールを失ってしまう状態です。脳の報酬系と呼ばれるシステムに変調をきたす病気と考えられています。

主な種類には以下のようなものがあります。

  • 物質依存:
    • アルコール依存症: アルコールに対するコントロールを失い、飲酒を続けずにはいられなくなる。離脱症状(手の震え、発汗、イライラなど)が現れることも。
    • 薬物依存症: 覚せい剤、大麻、シンナー、処方薬(睡眠薬、精神安定剤など)など、特定の薬物への依存。
    • ニコチン依存症: タバコへの依存。
  • 行為依存:
    • ギャンブル依存症: ギャンブルに対するコントロールを失い、やめられなくなる。
    • インターネット・ゲーム依存症: インターネットの使用やオンラインゲームに没頭し、日常生活に支障をきたす。
    • 買い物依存症: 買い物をすることで一時的に満たされるが、借金など問題を引き起こす。

依存症は、本人だけでなく、家族や周囲の人々にも大きな影響を与えます。治療は、専門医療機関での治療プログラム(解毒、集団療法、認知行動療法など)、自助グループへの参加、家族のサポートなど、継続的な支援が必要です。

パーソナリティ障害

パーソナリティ障害は、ものの見方、考え方、感情の持ち方、対人関係のパターンなどが、属する文化の標準から著しく偏っており、それが長期間持続し、本人の苦痛や周囲との摩擦、社会生活での困難を引き起こしている状態です。いくつかのタイプに分類されますが、ここでは境界性パーソナリティ障害と回避性パーソナリティ障害を例に挙げます。

境界性パーソナリティ障害

境界性パーソナリティ障害は、感情や対人関係、自己イメージ、行動が不安定であることが特徴です。見捨てられることへの強い恐怖、激しい怒り、衝動的な行動(自傷行為、薬物乱用など)、慢性的な空虚感などが現れます。人間関係は、相手を理想化したり、すぐにけなしたりと、極端な評価の間を揺れ動く(いい人/悪い人の二分割思考)傾向があります。

回避性パーソナリティ障害

回避性パーソナリティ障害は、批判や拒絶を恐れるあまり、人との交流を避け、新しい人間関係を築くのが困難なことが特徴です。自分は能力がない、人として魅力がないなどと強く信じており、自分を受け入れてくれるという確信がない限り、人間関係に関わろうとしません。

パーソナリティ障害の治療は、精神療法(弁証法的行動療法など)が中心となりますが、症状に合わせて薬物療法が用いられることもあります。治療には時間がかかることが多いですが、時間をかけて取り組むことで、より安定した心の状態や対人関係を築くことが可能になります。

認知症

認知症は、後天的な脳の病気(アルツハイマー病、脳血管性認知症、レビー小体型認知症など)によって、一度獲得された認知機能(記憶力、判断力、思考力、計算力、言語能力など)が低下し、日常生活や社会生活に支障をきたす状態です。加齢による物忘れとは異なり、病気によって脳細胞が障害されることで起こります。精神科や神経内科で扱われる疾患です。

主な症状は以下の通りです。

  • 記憶障害: 最近の出来事を思い出せない、何度も同じことを聞く、物の置き場所を忘れるなど。進行すると、昔のことも思い出せなくなる。
  • 見当識障害: 日時、場所、人物が分からなくなる。
  • 実行機能障害: 計画を立てたり、段取りをしたりすることが難しくなる。
  • 失語、失行、失認: 言葉が出にくい、簡単な動作ができない、物の認識が難しくなるなど。
  • 非認知症性症状(BPSD): 徘徊、妄想(物盗られ妄想など)、幻覚、抑うつ、興奮、暴力、睡眠障害などが現れることもあります。これらは病状の進行や環境によって生じやすく、介護負担を増大させる要因となります。

認知症の種類によって、症状の現れ方や進行の仕方は異なります。早期に診断を受けることで、病気の進行を遅らせる薬の使用や、適切なケア、環境調整を行うことが可能となり、ご本人やご家族がより良い生活を送ることに繋がります。

ストレス関連障害(適応障害、PTSDなど)

ストレス関連障害は、特定のストレス出来事や状況に反応して生じる精神疾患です。

適応障害

適応障害は、明確なストレス因(例: 進学、就職、転勤、失恋、死別など)に反応して、そのストレス因が生じてから3ヶ月以内に精神的あるいは身体的な症状が現れ、日常生活や社会生活に支障をきたしている状態です。抑うつ気分、不安、いらいら、涙もろさ、不眠、倦怠感などの症状が見られます。ストレス因が取り除かれるか、ストレスにうまく適応できるようになれば、通常は6ヶ月以内に改善するとされています。しかし、ストレスが持続する場合や、ストレスへの対処が難しい場合は、症状が長引くこともあります。

心的外傷後ストレス障害(PTSD)

心的外傷後ストレス障害(PTSD)は、生命に関わるような事故、自然災害、犯罪被害、虐待、戦闘体験などの強い精神的な衝撃(トラウマ)を体験した後に発症することがあります。

主な症状は以下の通りです。

  • 再体験: トラウマ体験がフラッシュバックのように突然思い出されたり、悪夢を見たりする。
  • 回避: トラウマに関連する場所、人物、会話、思考などを避けようとする。
  • 認知と気分の陰性の変化: 自分や世界に対する見方が歪む(例:「自分はダメだ」「世界は危険だ」)、喜びや楽しみを感じにくくなる、人から孤立する。
  • 覚醒度と反応性の著しい変化: 常に警戒している状態(過覚醒)、些細なことで驚きやすい、いらいら、怒りっぽい、集中できない、眠れないなど。

これらの症状がトラウマ体験から1ヶ月以上続き、日常生活に大きな支障をきたしている場合にPTSDと診断されます。治療としては、トラウマに焦点を当てた精神療法(認知処理療法、持続エクスポージャー療法など)やEMDR、薬物療法などが有効です。

その他

上記で挙げた疾患以外にも、精神疾患には様々な種類があります。

  • 睡眠・覚醒障害群: 不眠症、過眠症、ナルコレプシー、睡眠時無呼吸症候群、概日リズム睡眠・覚醒障害など、睡眠に関わる問題が慢性的に続く状態。
  • てんかん: 脳の神経細胞の異常な電気活動によって、てんかん発作を繰り返す病気。意識障害、けいれん、感覚の変化など、発作の症状は様々。精神症状を伴うこともあります。
  • 頭部外傷後遺症: 頭部外傷の後に生じる、認知機能障害、感情の変化、行動の異常など。
  • その他精神および行動の障害: 身体疾患や薬剤によって引き起こされる精神症状、特定の文化圏でみられる精神症候群など、上記に分類されない多様な精神疾患が含まれます。

精神疾患は、このように非常に多様であり、症状も一人ひとり異なります。気になる症状がある場合は、自己判断せず、専門家に相談することが何よりも大切です。

主な精神疾患の種類と症状の一覧

疾患の種類 主な特徴 代表的な症状
気分障害 気分の異常な変動(落ち込み、高揚など) 抑うつ気分、興味喪失、疲労感、睡眠障害、食欲変化(うつ病)、気分の高揚・易怒性、活動性亢進、多弁、観念奔逸、衝動的行動(躁状態)
 うつ病 持続的な気分の落ち込み、興味喪失 抑うつ気分、興味・関心の喪失、疲労感、睡眠障害、食欲・体重の変化、精神運動性の障害、罪悪感・無価値感、思考力・集中力の低下、死への思い
 双極性障害 うつ状態と躁(軽躁)状態を繰り返す (うつ状態はうつ病と同様)、気分の高揚または易怒性、活動性の亢進、多弁、観念奔逸、注意散漫、誇大性、衝動的な行動(躁/軽躁状態)
不安症 過剰な不安や恐怖 身体症状(動悸、息苦しさ、めまいなど)、回避行動、過剰な心配
 パニック症 予期しないパニック発作を繰り返す 動悸、息苦しさ、めまい、吐き気、手足のしびれ、強い不安・恐怖、「死ぬ」「気が狂う」といった感覚、予期不安、広場恐怖
 社交不安症 人前での言動に対する強い不安、恐怖 顔が赤くなる、手の震え、発汗、どもる、動悸、人前での状況を回避
 全般性不安症 様々なことに対する過剰で制御困難な心配 落ち着きがない、疲れやすい、集中困難、イライラ、筋肉の緊張、睡眠障害、過剰な心配
 特定の恐怖症 特定の対象や状況に対する強い恐怖 恐怖対象への過剰な反応、回避行動
統合失調症 考えや気持ちのまとまりにくさ、現実と非現実の区別がつきにくい 幻覚(主に幻聴)、妄想、思考のまとまりにくさ、感情の平板化、意欲・自発性の低下、会話量の減少、社会性の低下
強迫症 繰り返し浮かぶ不安な考え(強迫観念)と、それを打ち消すための行為(強迫行為) 洗浄・確認・加害・対称性などの強迫観念、手洗い・確認・整頓などの強迫行為
神経発達症 生まれつきの脳機能の発達の偏り
 自閉スペクトラム症(ASD) 対人関係や社会的コミュニケーションの困難、限定された興味やこだわり 言葉の裏の意図理解困難、空気を読むのが苦手、特定の物事への強い興味、変化を嫌う、感覚過敏・鈍感
 注意欠如・多動症(ADHD) 不注意、多動性、衝動性 集中困難、ケアレスミス、忘れ物、落ち着きのなさ、多弁、順番待ち困難、衝動的な行動
 限局性学習症(LD) 特定の学習能力(読む、書く、計算など)のみに困難 読み間違い、書き間違い、計算間違いなど
摂食障害 食事や体重、体型への異常なこだわり、食行動の問題 極端な食事制限、体重減少、太ることへの強い恐怖(神経性やせ症)、過食エピソード、代償行為(嘔吐など)(神経性過食症)
依存症 特定の物質や行為に対するコントロールの喪失 強い渇望、使用量の増加、離脱症状、日常生活への支障
パーソナリティ障害 ものの見方、考え方、感情、対人関係のパターンの著しい偏り 感情の不安定さ、対人関係の不安定さ、衝動性、自己イメージの歪み(境界性)、批判・拒絶への強い恐れ、人との交流回避(回避性)など、タイプにより様々
認知症 後天的な脳の病気による認知機能の低下 記憶障害、見当識障害、実行機能障害、失語・失行・失認、BPSD(徘徊、妄想、幻覚、興奮など)
ストレス関連障害 特定のストレス出来事や状況に反応して生じる
 適応障害 明確なストレス因への反応 抑うつ気分、不安、いらいら、涙もろさ、不眠、倦怠感、日常生活への支障(ストレス因がなくなれば改善しやすい)
 心的外傷後ストレス障害(PTSD) 強いトラウマ体験の後遺症 再体験(フラッシュバック、悪夢)、回避、認知と気分の陰性の変化、覚醒度と反応性の変化(過覚醒、いらいら、驚きやすさ)

精神疾患の診断と治療

精神疾患かもしれないと感じたり、周りの人に「もしかして」と言われたりした場合、どのように診断され、どのような治療が行われるのでしょうか。

精神科での診断プロセス

精神疾患の診断は、非常に慎重に行われます。血液検査やレントゲン検査のように、特定の検査で「〇〇病です」と確定できるわけではありません。医師は、様々な情報や所見を総合的に判断して診断を行います。

診断の主なプロセスは以下の通りです。

  1. 予診・問診:
    • まず、受付で簡単な問診票の記入を求められることが一般的です。氏名、年齢、連絡先、簡単な症状、受診のきっかけなどを記入します。
    • 診察室では、医師が本人から症状について詳しく聞き取ります(問診)。いつ頃からどんな症状があるか、症状の頻度や程度、どのような時に症状が強く出るか、生活への支障の程度、既往歴(過去にかかった病気)、家族歴(家族に同じような病気の人がいるか)、服用中の薬、飲酒・喫煙の習慣、職場の状況、家庭環境、生育歴など、様々な情報が診断の手がかりとなります。
    • 本人がうまく話せない場合や、病状の理解が難しい場合は、可能であれば家族や信頼できる人から話を聞くこともあります。
  2. 精神状態の観察:
    • 医師は問診と並行して、患者さんの話し方、表情、身なり、態度、受け答えの仕方、思考のパターン、感情の安定度、注意集中力などを観察します。これを精神科領域では「精神症状の診察」と呼びます。
  3. 心理検査:
    • 必要に応じて、心理士による心理検査が行われることがあります。知能検査、パーソナリティ検査、質問紙法による精神症状の評価、ロールシャッハテストといった投映法など、様々な種類があります。これらの検査は、患者さんの認知機能やパーソナリティの特性、精神状態を客観的に把握するために役立ちます。
  4. 身体検査・脳波検査・画像検査など:
    • 精神症状が、体の病気や薬の副作用によって引き起こされている可能性がないかを確認するために、血液検査、尿検査、脳波検査、頭部CTやMRI検査などが行われることもあります。特に、認知症やてんかんなど、脳の器質的な問題が疑われる場合にこれらの検査が重要となります。
  5. 診断と説明:
    • これらの情報や所見を総合的に判断し、医師は診断を確定します。診断は、DSMやICDといった診断基準に照らし合わせて行われます。
    • 診断名や病状、治療方針について、医師から患者さんやご家族に丁寧に説明があります。診断名は、病気の状態を理解し、適切な治療や支援に進むための道しるべとなりますが、それだけでその人を判断することはできません。

自己診断は危険です。インターネットや書籍で情報を得て「自分は〇〇病かもしれない」と考えることはありますが、それはあくまで可能性の一つであり、専門家による正式な診断なしに決めつけるべきではありません。症状が他の病気と似ている場合や、複数の疾患を併発している場合もあり、素人が正しく判断することは非常に困難です。必ず精神科や心療内科の専門医を受診し、診断を受けるようにしてください。

代表的な治療法

精神疾患の治療法は、疾患の種類や重症度、患者さんの状態によって様々です。一般的には、以下の治療法が組み合わせて行われます。

薬物療法

薬物療法は、脳の神経伝達物質のバランスを調整したり、脳の機能を改善したりすることで、つらい精神症状を和らげる治療法です。精神疾患の種類によって、様々な薬が用いられます。

  • 抗うつ薬: 脳内のセロトニンやノルアドレナリンといった神経伝達物質の働きを調整し、抑うつ気分や不安などを改善します。効果が出るまでに2〜4週間程度かかることがあります。うつ病、双極性障害(うつ状態)、不安症、強迫症などに用いられます。
  • 抗精神病薬: 脳内のドーパミンなどの働きを調整し、幻覚や妄想といった陽性症状、あるいは感情の平板化などの陰性症状を改善します。統合失調症の治療の中心となりますが、双極性障害の躁状態やうつ状態、重症のうつ病などにも用いられることがあります。
  • 気分安定薬: 双極性障害における気分の波(うつ状態と躁状態)を安定させる薬です。リチウム、バルプロ酸、ラモトリギンなどがあります。
  • 抗不安薬: 不安や緊張を和らげる効果があります。即効性がありますが、依存性が生じやすい種類もあるため、医師の指示に従って適切に使用することが重要です。不安症などに用いられます。
  • 睡眠薬: 眠りを助ける薬です。不眠のタイプ(寝つきが悪い、途中で目が覚めるなど)によって使い分けられます。依存性やふらつきなどの副作用に注意が必要です。

薬物療法は、精神症状を和らげることで、精神療法やリハビリテーションに取り組むための土台を作ります。自己判断で服薬を中止したり、量を変更したりすることは、症状の悪化や離脱症状を引き起こす可能性があるため、絶対に避けてください。

精神療法(カウンセリング)

精神療法は、医師や心理士などの専門家との対話を通じて、本人の考え方や感情、行動パターン、対人関係などを理解し、心の健康を取り戻したり、困難に対処するスキルを身につけたりする治療法です。様々な手法があります。

  • 認知行動療法(CBT): 自分の考え方(認知)と行動パターンが、感情や気分にどのように影響しているかを理解し、問題となっている認知や行動を修正していくことで、つらい感情や問題を軽減することを目指します。うつ病、不安症、強迫症、摂食障害などに有効性が示されています。
  • 対人関係療法(IPT): うつ病などの気分障害が、対人関係の問題と関連しているという考えに基づき、人間関係における葛藤や変化に焦点を当てて、コミュニケーションスキルの改善などを目指します。
  • 精神分析・力動的精神療法: 幼少期の経験や無意識の葛藤が現在の問題に影響を与えているという考えに基づき、過去の体験や現在の人間関係などを掘り下げることで、自己理解を深め、問題の解決を目指します。
  • 家族療法: 家族全体を対象とし、家族間のコミュニケーションや関係性を改善することで、本人の症状の改善や家族の負担軽減を目指します。
  • 集団療法: 同じような悩みや疾患を持つ人たちが集まり、専門家のファシリテーションのもと、経験や感情を共有したり、対人スキルを学んだりします。

精神療法は、薬物療法では届かない、心の深い部分に働きかける治療法です。医師やカウンセラーとの信頼関係が重要であり、継続して取り組むことで効果が期待できます。

リハビリテーション

精神科リハビリテーションは、病気によって低下した日常生活能力や社会生活能力を回復・維持し、その人らしい生活を送れるように支援することを目指します。

  • デイケア・ナイトケア: 精神科の医療機関や施設で、日中または夜間にプログラム(作業活動、ミーティング、レクリエーション、グループワークなど)に参加し、生活リズムを整えたり、対人交流のスキルを身につけたり、社会参加に向けた準備をしたりします。
  • 作業療法: 個々の能力や興味に合わせて、陶芸、手工芸、パソコン、軽作業など様々な活動を通して、集中力、持続力、対人スキル、達成感などを高めます。
  • SST(Social Skills Training): 日常生活や対人関係で必要な社会的なスキル(挨拶、依頼、断り方、感情表現など)を、ロールプレイングなどを通して学ぶ訓練です。
  • 就労支援: 就労移行支援事業所や就労継続支援事業所などがあり、働くためのスキルを身につけたり、体力や精神状態を整えたり、実際の就職活動をサポートしたりします。

休養

心身の疲労が蓄積している場合は、十分に休養をとることが回復の第一歩となることがあります。特に、うつ病の急性期など、エネルギーが枯渇している状態では、無理に活動するよりも、休んでエネルギーを回復させることが重要です。仕事や学校を一時的に休むことも、回復のためには必要な選択肢となり得ます。

入院治療

症状が重く、自宅での療養が困難な場合(例: 自殺の危険が高い、重度の摂食障害で身体状態が危険、激しい躁状態や幻覚・妄想があるなど)や、集中的な治療が必要な場合には、精神科病院への入院が必要となることがあります。入院中は、医師、看護師、精神保健福祉士、作業療法士、心理士など、多職種のチームによって、薬物調整、精神療法、各種リハビリテーションなどが行われます。

精神科医、カウンセラーへの相談

「どこに相談すればいいのか分からない」という方もいらっしゃるかもしれません。症状や状況によって、相談先を選ぶことが大切です。

  • 精神科医: 精神疾患の診断を行い、薬物療法を含む医学的な治療を担当します。身体的な健康状態も考慮して治療計画を立てます。まず受診すべき専門家です。
  • 心療内科医: ストレスなど心因が関連して体に症状が現れる、いわゆる心身症を中心に診療しますが、うつ病や不安症なども診療します。
  • カウンセラー(公認心理師、臨床心理士など): 主に精神療法(カウンセリング)を担当します。診断や薬の処方はできませんが、医師と連携しながら心理的な側面からのサポートを行います。医療機関だけでなく、カウンセリングルーム、教育機関、企業など様々な場所で活動しています。
  • 精神保健福祉士: 精神科の病気を抱える方が、地域で安心して生活できるよう、福祉制度の利用や生活上の相談、社会資源とのつなぎなど、社会的な側面からのサポートを行います。医療機関や保健所、精神保健福祉センターなどに勤務しています。
  • 保健師: 地域住民の健康相談に応じます。精神的な健康に関する相談も可能で、必要に応じて専門機関を紹介してくれます。市区町村の保健センターなどに勤務しています。

まずは、精神科や心療内科を受診し、医師に相談するのが最も確実です。医師の診察を受け、必要に応じて他の専門職(心理士、精神保健福祉士など)や他の機関を紹介してもらうことができます。

精神疾患に関するよくある質問

精神疾患について、多くの方が疑問に思っていることにお答えします。

精神科で最も多い疾患は?

精神科や心療内科の外来で診断されることの多い疾患は、気分障害(うつ病、双極性障害など)や不安症(パニック症、社交不安症、全般性不安症など)であると言われています。これらの疾患は、ストレス社会と言われる現代において、比較的多くの人が経験する可能性のある症状を伴うため、受診につながりやすい傾向があります。ただし、これは医療機関の種類や地域によっても異なりますし、診断されていない方も含めれば、さらに多様な疾患の方がいらっしゃるでしょう。近年では、神経発達症(発達障害)の診断を受ける大人の方も増えています。

精神疾患の重さ(精神障害者手帳の等級)

精神疾患の「重さ」を客観的に示す指標の一つに、精神障害者保健福祉手帳の等級があります。この手帳は、精神疾患(てんかん、発達障害、高次脳機能障害を含む)により、長期にわたり日常生活または社会生活への制約がある方に対し、申請に基づいて都道府県知事または指定都市市長が交付するものです。

手帳の等級は、精神疾患の状態と、それに伴う日常生活または社会生活への支障の程度に基づいて、1級、2級、3級の3段階で判定されます。

  • 1級: 日常生活がほとんど不可能な程度のもの。身の回りのことにも多くの援助が必要な状態。
  • 2級: 日常生活が著しい制限を受けるか、または日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のもの。例えば、家事や買い物が一人では難しく、誰かの援助が必要な状態。
  • 3級: 日常生活または社会生活に制限を受けるか、または日常生活若しくは社会生活に制限を加えることを必要とする程度のもの。例えば、働くことが難しい、対人関係を築くのが難しいといった状態。

この等級は、症状の重さだけでなく、その症状によってどれだけ生活に支障が出ているかを評価するものです。診断名だけで等級が決まるわけではなく、個々の状況に応じて総合的に判断されます。この手帳を取得することで、様々な福祉サービスや支援制度を利用できるようになります。

自分でできる精神疾患チェック

インターネット上や書籍で、うつ病チェックリストやADHDのチェックリストなど、様々な「自分でできる精神疾患チェック」を見つけることができます。これらのチェックリストは、ご自身の状態を振り返り、「もしかしたら専門家に相談した方が良いのかもしれない」と考えるきっかけとしては有効かもしれません。

しかし、これらのチェックリストは、あくまで簡易的なものであり、医学的な診断に代わるものではありません。チェックリストの結果だけで「自分は〇〇病だ」と自己判断することは非常に危険です。症状が他の病気と紛らわしい場合や、複数の要因が絡み合っている場合も多く、素人が正しく判断することは不可能です。

もし、チェックリストの結果が気になったり、何らかの精神的な不調を感じたりしている場合は、必ず精神科や心療内科などの専門医療機関を受診し、医師による正式な診断を受けるようにしてください。早期に専門家の診断とアドバイスを受けることが、回復への一番の近道となります。

精神疾患は遺伝する?

精神疾患の中には、遺伝的な要因が発症に関与していると考えられているものがあります。例えば、統合失調症や双極性障害などは、家族に同じ病気の人がいる場合、そうでない場合に比べて発症リスクがやや高くなるという研究報告があります。また、神経発達症(発達障害)も、脳機能の特性に関連するため、遺伝的な要因が関わると考えられています。

しかし、これは「親が精神疾患だからといって、必ず子どもも発症する」という意味ではありません。精神疾患の発症は、遺伝的な体質だけで決まるわけではなく、生育環境、心理的なストレス、社会的な要因など、様々な要素が複雑に絡み合って生じると考えられています。

遺伝的な要因がある場合でも、適切な環境調整やストレス管理、早期の対応などによって、発症を予防したり、発症しても症状を軽く抑えたりすることが可能な場合もあります。もし家族に精神疾患を抱えている方がいて不安に感じている場合は、一人で抱え込まず、医師や専門家に相談してみることをお勧めします。遺伝について正しく理解し、必要以上に心配しないことが大切です。

精神疾患と共に生きるためのサポート

精神疾患は、適切な治療と同時に、社会的なサポートを受けることも非常に重要です。病気と付き合いながら、その人らしく安定した生活を送るために、様々な制度やサービスが用意されています。

精神障害者手帳とは

先述の通り、精神障害者保健福祉手帳は、精神疾患(てんかん、発達障害、高次脳機能障害を含む)により、長期にわたり日常生活または社会生活への制約がある方に対して交付される手帳です。

この手帳を取得することで、以下のような様々なメリットがあります。

  • 税制上の優遇: 所得税や住民税の障害者控除が受けられる。
  • 公共料金等の割引: 公共交通機関(鉄道、バス、タクシーなど)の運賃割引、携帯電話料金の割引、NHK受信料の割引、美術館やレジャー施設の入場料割引など。
  • 公営住宅への入居優遇: 入居の際に優先されたり、家賃の減免を受けられたりする場合がある。
  • 各種サービスの利用: 障害者総合支援法に基づく様々な福祉サービス(居宅介護、行動援護、短期入所など)を利用しやすくなる。

手帳の申請は、市区町村の窓口(障害福祉課など)で行います。申請には、医師の診断書や、年金証書(障害年金を受給している場合)などが必要です。手続きには時間がかかる場合があるため、関心のある方は早めに相談してみましょう。

利用できる支援制度・サービス

精神疾患を抱える方が地域で安心して生活できるよう、様々な支援制度やサービスがあります。

  • 自立支援医療(精神通院医療): 精神疾患の治療のための医療費自己負担額が軽減される制度です。原則として医療費の自己負担が1割になります。所得に応じて月額の自己負担上限額が定められています。精神科や心療内科への通院、デイケア、訪問看護、薬局での調剤などが対象となります。
  • 障害年金: 精神疾患により生活や仕事に著しい支障がある場合、国民年金や厚生年金から支給される年金です。障害の状態によって等級が定められており、必要な書類を提出して申請します。
  • 地域活動支援センター: 精神障がいのある方が、地域の中で孤立することなく、交流したり、創作的活動や生産活動を行ったりする場を提供します。相談支援も行われます。
  • 相談支援事業所: 精神障がいのある方やその家族からの相談に応じ、福祉サービスの情報提供や利用援助、サービス等利用計画の作成などを行います。
  • 就労移行支援事業所: 一般企業への就職を目指す障がいのある方に対し、就職に必要な知識や能力向上のための訓練、求職活動に関する支援、職場定着のための支援を行います。
  • 就労継続支援事業所(A型・B型): 一般企業での就労が困難な障がいのある方に対し、雇用契約を結んで働く場を提供したり(A型)、雇用契約を結ばずに軽作業などを行う機会を提供したり(B型)します。
  • 精神科訪問看護: 看護師や作業療法士などが自宅を訪問し、症状の観察や服薬管理の支援、日常生活の指導、精神的な相談などを行います。
  • グループホーム: 精神障がいのある方が、地域の中で数人から十数人のグループで共同生活を送る住居です。生活相談や日常生活上の援助が受けられます。

これらの制度やサービスの詳細や利用方法については、お住まいの市区町村の障害福祉担当窓口や、精神保健福祉センターに相談することで情報が得られます。

精神科病院の役割

精神科病院は、精神疾患の診断、治療、リハビリテーション、相談支援など、幅広い役割を担う医療機関です。

  • 外来診療: 医師による診察や薬の処方を行います。多くの精神疾患は外来で治療が可能です。
  • 入院治療: 症状が重い場合や、集中的な治療が必要な場合に入院して治療を行います。急性期治療病棟、精神科救急病棟、認知症治療病棟、精神療養病棟など、病棟によって特徴が異なります。
  • デイケア・ナイトケア: 入院と外来の中間的な位置づけで、日中や夜間に病院に通い、プログラムに参加することで、社会生活への適応能力を高めます。
  • 作業療法: 専門のスタッフによる作業活動を通じて、心身機能の回復や社会性の向上を目指します。
  • 精神療法: 医師や心理士によるカウンセリングや精神療法が受けられます。
  • 相談支援: 精神保健福祉士などが、病気や生活、福祉制度などに関する相談に応じます。

精神科病院は、かつては長期入院が多いというイメージもありましたが、近年は地域での生活を支えるための機能が強化されており、外来やデイケア、訪問看護など様々な形で地域医療に貢献しています。

まとめ

この記事では、精神疾患の多様な種類とその主な症状、精神障害との違い、診断と治療、そして利用できるサポート体制について解説しました。

精神疾患は、風邪や怪我のように目に見えにくい部分があるため、ご本人や周囲の方々が気づきにくかったり、どのように対処すれば良いか分からず、一人で悩みを抱え込んでしまったりすることが少なくありません。しかし、精神疾患は早期に発見し、適切な診断と治療を受けることが、その後の回復に大きく影響します。

もし、ご自身や大切な人の心の状態がいつもと違う、つらい症状が続いている、日常生活に支障が出ているなど、気になることがあれば、迷わずに精神科や心療内科の専門医に相談してください。早めに専門家の助けを求めることが、症状の悪化を防ぎ、回復への第一歩となります。

精神疾患と共に生きる方々やそのご家族を支える様々な支援制度やサービスも存在します。これらの情報を知り、必要に応じて活用することも、病気と付き合いながら自分らしい生活を送る上で非常に重要です。

この記事が、精神疾患について正しく理解し、心の健康について考えるきっかけとなり、必要な時に適切なサポートへとつながる一助となれば幸いです。

【免責事項】
本記事は、精神疾患に関する一般的な情報提供を目的としており、医学的な診断や治療を保証するものではありません。個々の症状や状況については、必ず精神科や心療内科などの専門医療機関を受診し、医師の診断と指示に従ってください。本記事の情報に基づいて行った行為の結果について、当サイトは一切の責任を負いかねます。

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