真面目に頑張っているのに、なぜかミスばかりしてしまう。忘れ物が多くて困る。どれだけ注意しても、同じような失敗を繰り返してしまう。「自分は努力が足りないのだろうか」「向いていないのだろうか」と、自己肯定感が下がってしまう方もいるかもしれません。
しかし、その「真面目なのにミスが多い」という状況の背景には、単なる不注意や能力不足ではなく、生まれ持った特性や、何らかの体の状態、あるいは病気が隠れている可能性も考えられます。
特に仕事や日常生活に支障が出ている場合、その原因を探り、適切な対処をすることで状況が改善することもあります。
この記事では、「真面目なのにミスが多い」という悩みの背景にある可能性のある病気や障害、具体的な症状、そして一人で悩まず専門家に相談することの重要性について詳しく解説します。
単純な「うっかりミス」ではない可能性
私たちは誰でも「うっかりミス」をします。疲れているとき、気が散っているとき、不慣れな作業をしているときなど、一時的な注意力の低下や集中力の欠如によって起こるミスは、多くの人が経験することです。
しかし、「真面目なのにミスが多い」と悩む人の場合、そのミスは一時的なものではなく、継続的に、あるいは特定の状況下で頻繁に起こるという特徴があるかもしれません。
このようなミスは、単に「注意すれば防げる」「慣れればなくなる」といった単純なものではない可能性が考えられます。脳機能の特性、情報処理の仕方、あるいは精神状態など、本人の意思や努力だけではコントロールしきれない要因が背景にあるかもしれません。例えば、複数の情報を同時に処理するのが苦手、優先順位をつけるのが難しい、細部への注意が向きにくい、集中を持続するのが困難、といった特性があると、どんなに真面目に努力しても、構造的にミスを起こしやすい状況が生まれてしまいます。
特に、真面目な人ほど「ミスをしてはいけない」というプレッシャーを感じやすく、そのプレッシャーが過緊張を引き起こし、かえってミスを誘発するというケースも見られます。また、ミスを挽回しようと焦ることで、さらに状況が悪化することもあります。
このように、単なる「うっかり」では片付けられない、複雑な要因が絡み合っている可能性があることを理解することが重要です。
ミスが多い原因となる病気・障害
「真面目だけどミスが多い」という状態の背景には、特定の病気や障害が隠れていることがあります。これらは本人の性格や努力不足によるものではなく、脳機能の特性や精神状態の変化によって引き起こされるものです。代表的なものとしては、発達障害や精神疾患が挙げられますが、それ以外の要因も考えられます。
発達障害(ADHD、ASD)
発達障害は、生まれつきの脳機能の特性によって、認知や行動に偏りが生じる障害です。代表的なものにADHD(注意欠如・多動症)とASD(自閉スペクトラム症)があります。これらの特性が、仕事や日常生活での「ミス」に繋がることが少なくありません。
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ADHD(注意欠如・多動症)
ADHDの主な特性は、「不注意」「多動性」「衝動性」です。特に不注意の特性が強い場合、「真面目なのにミスが多い」という状況に繋がりやすいです。-
不注意:
集中を持続するのが難しい、すぐに気が散る
細部への注意が不足し、ケアレスミスが多い(例:書類の誤字脱字、計算間違い、確認漏れ)
物事を順序立てて行うのが苦手、計画通りに進められない
物をよくなくす、整理整頓が苦手(例:鍵、財布、重要な書類が見つからない)
人との会話中や会議中に上の空になる、話を聞き漏らす
やるべきことを先延ばしにする、または始めるのが難しい
指示を最後まで聞き終える前に次の行動に移ってしまう
これらの不注意の特性は、本人がどれだけ「ちゃんとやろう」「ミスをしないようにしよう」と真面目に思っていても、脳機能として注意を向けたり、持続させたり、必要な情報を選び取ったりするのが難しいために起こります。真面目さがある分、努力するものの、その努力が特性による困難さを克服しきれないのです。
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ASD(自閉スペクトラム症)
ASDの主な特性は、「対人関係や社会的コミュニケーションの困難さ」と「限定された興味やこだわり、反復行動」です。これらの特性が、間接的に仕事や日常生活での「ミス」に繋がることがあります。-
コミュニケーションの特性:
暗黙のルールや場の空気を読むのが苦手で、人間関係で誤解を生む
言葉を字義通りに受け取ってしまい、指示の意図を汲み取れない
非言語コミュニケーション(表情、声のトーンなど)の理解が難しい -
こだわり・興味の特性:
特定の興味や手順に強くこだわる一方、それ以外のことに融通が利かない
変化や予期せぬ出来事への対応が苦手で、パニックになりやすい
感覚過敏や鈍麻があり、特定の環境下(騒がしい場所、明るすぎる場所など)で集中が妨げられる
ASDの特性そのものが直接的な「ミス」に繋がるというよりは、特性ゆえに周囲とのコミュニケーションがうまくいかず、指示を誤解したり、環境変化に対応できなかったりすることが、結果的に仕事上のトラブルや「ミス」として認識されるケースが多いです。また、特定のことに深く集中する反面、それ以外の必要な情報を見落とすことでミスに繋がることもあります。
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発達障害によるミスは、本人の「真面目さ」とは無関係に、脳の特性から生じます。そのため、根性論や精神論で「頑張れ」と言われても改善は難しく、特性を理解し、環境や方法を調整することが重要になります。
精神疾患(うつ病、適応障害)
うつ病や適応障害といった精神疾患も、「真面目なのにミスが多い」という状態を引き起こす重要な原因となり得ます。これらの疾患は、脳の機能や心の状態に変化をもたらし、認知機能(思考、集中、記憶、判断など)に影響を与えるからです。
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うつ病
うつ病は、気分がひどく落ち込んだり、何をしても楽しめなくなったりする精神疾患です。しかし、気分の問題だけでなく、思考力や集中力の低下も中心的な症状として現れます。-
認知機能への影響:
集中力や注意力が著しく低下し、簡単な作業でもミスが増える
物事を考えるのに時間がかかり、判断力が鈍る
記憶力が低下し、約束や期日を忘れる
思考がまとまらず、順序立てて話したり行動したりできない
決断ができなくなる
うつ病による認知機能の低下は、本人の意欲や真面目さとは関係なく起こります。真面目な人ほど、ミスが増えることに自己嫌悪を感じ、「自分はダメだ」と思い詰めてしまい、うつ病の症状をさらに悪化させるという悪循環に陥りやすいです。疲労感、不眠、食欲不振といった身体症状も伴うことが多く、これらがさらにパフォーマンスの低下を招きます。
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適応障害
適応障害は、特定のストレス因子(仕事、人間関係など)が原因となって、心身に様々な症状が現れる精神疾患です。ストレス因子から離れると症状が軽減するのが特徴です。適応障害も、うつ病と同様に集中力や判断力の低下を伴うことがあります。-
主な症状:
憂うつな気分、不安感
過度の心配、神経過敏
集中力の低下、物忘れ
不眠、過眠
疲労感、倦怠感
頭痛、腹痛などの身体症状
真面目な人ほど、ストレスを一人で抱え込みやすく、適応障害を発症することがあります。ストレス反応として集中力が低下し、普段ならしないようなミスが増えるという形で現れることがあります。ストレスの原因がはっきりしている場合が多く、その原因への対処や環境調整が改善に繋がります。
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精神疾患によるミスは、病状が改善すれば回復する可能性が高いです。しかし、治療せずに放置すると、症状が悪化し、日常生活や仕事に深刻な影響を与えることもあります。
その他の可能性(境界知能など)
発達障害や精神疾患以外にも、「真面目なのにミスが多い」ことの原因となる可能性がいくつか考えられます。
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境界知能(ボーダーライン)
知的機能はIQによって分類され、平均的なIQは100とされています。IQが70未満を知的障害と診断されることが多いですが、IQが70~85の範囲にある場合を「境界知能」と呼ぶことがあります。知的障害ではないため、一般的な学校や社会生活を送ることは可能ですが、平均的な知的能力を持つ人々と比較すると、学習や理解に時間がかかったり、複雑な指示を理解するのが難しかったりすることがあります。-
困りごと:
抽象的な概念の理解や応用が難しい
一度に多くの情報を処理するのが苦手
新しいことを学ぶのに時間がかかる
臨機応変な対応が難しい
文章の読解や作成に困難がある
境界知能の人も、真面目に努力しますが、知的な処理能力の特性から、どうしてもミスが生じやすくなる場面があります。特に、高度な判断力や複雑な作業が求められる環境では、困難を感じやすいでしょう。これは病気ではなく、知的能力の一つの特性として捉えられます。
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その他の身体疾患
ごく稀に、甲状腺機能低下症のような身体疾患が、集中力低下や思考力低下を引き起こし、結果的にミスが多くなることがあります。また、睡眠時無呼吸症候群による慢性の睡眠不足も、日中の強い眠気や集中力低下の原因となり、ミスに繋がることがあります。急にミスが増えた、体調も優れないといった場合は、内科的な問題も考慮に入れる必要があります。
このように、「真面目だけどミスが多い」という状況の背景には、様々な要因が考えられます。自己判断せず、専門家の視点から原因を探ることが大切です。
仕事で急にミスが増えた場合の注意点
これまで特にミスが多くなかった人が、仕事で急にミスが増え始めた場合は、特に注意が必要です。これは、単なる慣れや注意力の問題ではなく、何らかの環境の変化、あるいは心身の健康状態の変化を示唆している可能性があります。
考えられる原因としては、以下のようなものがあります。
- 急激なストレス: 職場の人間関係の悪化、過酷な業務、異動による環境の変化など、強いストレスがかかっている場合、それが適応障害やうつ病の発症に繋がり、集中力や判断力が低下している可能性があります。
- 精神疾患の発症: うつ病やその他の精神疾患が、環境変化やストレスとは直接関係なく発症し、その症状として認知機能の低下が現れている可能性。
- 身体疾患の発症: 先に述べたように、睡眠障害や内科的な疾患が原因で、体調不良とともに集中力が低下している可能性。
- 疲労の蓄積: 長時間の労働や不規則な生活による過労、睡眠不足が続いている場合、脳の機能が低下し、ミスが増えることがあります。
急にミスが増えたと感じたら、「自分の能力が落ちた」「頑張りが足りない」と自分を責めるのではなく、「何か原因があるのではないか?」と立ち止まって考えることが重要です。特に、気分の落ち込み、強い疲労感、不眠、食欲の変化など、他の症状を伴っている場合は、早めに医療機関に相談することをおすすめします。早期に原因を特定し、適切に対処することで、症状の悪化を防ぎ、回復を早めることができます。
ミスが多い状態の具体的な特徴・症状
「真面目なのにミスが多い」という状況は、人によって現れ方が異なります。しかし、特定のパターンや症状が見られることがあります。ここでは、よくある具体的な特徴や症状をいくつかご紹介します。これらは、ご自身の状況を客観的に振り返るための参考になるかもしれません。
ケアレスミスや忘れ物が多い
最も一般的で、多くの人が「ミスが多い」と感じる直接的な原因となるのが、ケアレスミスや忘れ物の多さです。
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書類の誤り: 請求書の金額を間違える、契約書の誤字脱字を見落とす、必要な項目を記入し忘れる、捺印を忘れるなど。確認しているつもりでも、細部に見落としが多い。
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計算間違い: 電卓を使っても数字を打ち間違える、簡単な暗算でもミスが多い。
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指示の聞き間違い・勘違い: 人からの指示を正確に聞き取れず、違う内容で作業を進めてしまう。一度に複数の指示を受けると混乱する。
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期日や約束を忘れる: 会議の時間や提出期限を忘れる、アポイントメントを忘れる、人との約束をうっかり忘れる。
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持ち物の紛失・置き忘れ: 鍵、財布、携帯電話、会社の備品などを頻繁になくす、あるいは置き忘れてしまう。
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作業の抜け漏れ: 手順の一部を飛ばしてしまう、チェックリストがあっても確認し忘れる。
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整理整頓が苦手: 机の上や引き出しの中が常に散らかっており、必要な書類や物が見つからない。タスクや情報の整理も苦手で、混乱しやすい。
これらのケアレスミスや忘れ物は、注意不足だけでなく、情報を整理する能力、記憶を保持・検索する能力、物事を計画・実行する能力など、様々な認知機能の偏りによって起こり得ます。
指示が理解しにくい、マルチタスクが苦手
口頭や文章による指示を理解するのが難しかったり、複数のことを同時にこなしたり、切り替えたりするのが苦手というのも、ミスに繋がる特徴です。
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聴覚情報処理の困難: 早口な人の話や、騒がしい場所での会話を聞き取りにくい、指示を一度で理解できない、復唱しないと覚えられない。
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文章理解の困難: 長文や複雑な指示書を読むのが億劫に感じる、内容を正確に把握するのに時間がかかる。
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優先順位付けの困難: 複数のタスクを任されると、どれから手をつけて良いか分からなくなり、締め切りを過ぎてしまう。緊急度や重要度を判断するのが難しい。
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タスク間の切り替えの困難: 一つの作業に集中していると、他の作業に意識を切り替えるのが難しい。中断されると、元の作業に戻るのに時間がかかる、あるいは何をやっていたか忘れてしまう。
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段取りや計画の立案が苦手: 物事を始める前に、必要な手順や時間を予測し、計画を立てるのが難しい。
これらの困難さは、脳の情報処理特性に関係していることがあります。特にADHDの特性を持つ人や、知的な処理に時間を要する境界知能の人に見られることがあります。
同じミスを繰り返してしまう
最も本人を落ち込ませる症状の一つが、「同じミスを繰り返してしまう」ことです。一度失敗したにも関わらず、次に同じ状況になったときに再び同じミスをしてしまいます。
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失敗から学びにくい: ミスをした原因を分析し、次に活かすというプロセスが苦手、あるいは分析しても具体的な対策を立てられない。
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対策を立てても実行できない: 「次からはチェックリストを使おう」「メモを取ろう」と決意しても、実際に実行するのを忘れてしまう、あるいは習慣化できない。
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衝動的に行動してしまう: よく考えずに行動し、結果としてミスに繋がる。後から「なぜあんなことをしたんだろう」と後悔する。
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注意力が持続しない: 「気をつけよう」と思っても、時間が経つと注意力が散漫になり、同じパターンでミスをしてしまう。
同じミスを繰り返してしまうのは、「反省していない」「やる気がない」からではなく、過去の経験から学習して行動を修正したり、衝動を抑えたり、注意を持続させたりといった、特定の認知機能や実行機能に困難があるためかもしれません。これは、発達障害の特性や、うつ病による思考力・実行力低下などと関連している可能性があります。
これらの症状に心当たりがある場合、それは単なる不注意や努力不足ではなく、何らかの支援や工夫が必要なサインかもしれません。
病気が原因の場合の改善策・対処法
もし、「真面目なのにミスが多い」という状況の背景に、病気や障害が関連している可能性が考えられる場合、最も重要なのは、一人で抱え込まず専門家の支援を求めることです。適切な診断と治療、そして日々の生活や仕事での工夫を組み合わせることで、状況は大きく改善する可能性があります。
医療機関での診断と治療
「もしかしたら病気かも?」と感じたら、まずは医療機関を受診して相談してみましょう。原因を特定することが、適切な対処の第一歩となります。
精神科・心療内科の受診目安
どのような状況であれば、精神科や心療内科を受診することを検討すべきでしょうか。
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生活や仕事に具体的な支障が出ている: ミスの多さが原因で、業務に著しい遅れが出ている、人間関係が悪化している、職場での評価が著しく低い、日常生活で頻繁にトラブルが起こる(公共料金の払い忘れ、約束のキャンセルなど)。
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自己肯定感が著しく低下している: ミスが続くことで、「自分はダメな人間だ」「生きている価値がない」などと強く感じ、自信を失っている。
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心身の不調を伴っている: 気分の落ち込み、強い不安感、不眠、食欲不振、疲労感、体の痛みなど、精神的・身体的な不調がある。
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努力しても改善しない: ミスを減らそうと色々な工夫(メモ、チェックリスト、休息など)を試しているが、効果が見られない。
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急にミスが増え始めた: これまで問題なかったのに、最近になって急激にミスが多くなった。
これらのいずれかに当てはまる場合は、専門家である医師に相談してみる価値は十分にあります。受診すること自体に抵抗を感じる方もいるかもしれませんが、原因が分かれば対策が見つかり、生きづらさが軽減される可能性が高いです。「病気かもしれない」という不安を解消するためにも、まずは一歩踏み出してみましょう。
診断プロセスと検査
精神科や心療内科での診断プロセスは、主に以下のような流れで進みます。
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問診: 医師が現在の困りごと、症状がいつ頃から始まったか、仕事や日常生活への影響、生育歴(子供の頃の様子、学校での成績、対人関係など)、家族歴(家族に同じような困りごとを抱える人がいないか)、既往歴(これまでの病歴)、現在服用中の薬などを詳しく聞き取ります。正直に話すことが診断の助けになります。
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心理検査・知能検査: 必要に応じて、心理士による様々な検査が行われることがあります。
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知能検査(WAIS-IVなど): 知的能力の全体的なレベルや、言語理解、知覚統合、ワーキングメモリ、処理速度といった認知機能の凸凹を評価します。境界知能の確認や、発達障害に伴う認知機能の偏りを把握するのに役立ちます。
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質問紙法: ADHDの傾向を測るADHD-RS、ASDの傾向を測るAQ/EQ、うつ病の重症度を測るBDI-II/PHQ-9など、自記式の質問票に回答します。
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作業検査: パソコンを使った注意力や反応速度の検査などが行われることもあります。
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生育歴の確認: 幼少期からのエピソードや、学校での通知表、母子手帳など、客観的な情報を参考にすることがあります。
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他の情報: 可能であれば、家族や職場の同僚など、周囲の人からの情報(本人がどのような状況で困っているか、子供の頃の様子など)も診断の参考になることがあります。
これらの情報を総合的に判断し、医師が診断を行います。一度の受診で診断が確定しないこともありますし、いくつかの可能性を考慮しながら経過を見ることもあります。
治療法(薬物療法、精神療法など)
診断された病気や障害によって、治療法は異なります。
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発達障害(ADHD):
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薬物療法: ADHDの症状(不注意、多動性、衝動性)を軽減するために、コンサータ、ストラテラ、インチュニブ、ビバンセといった中枢神経刺激薬や非刺激薬が処方されることがあります。これらの薬は、脳内の神経伝達物質のバランスを調整し、注意力や衝動性のコントロールを改善する効果が期待できます。すべてのADHDの人に薬が必要なわけではありませんが、症状によって仕事や生活に大きな支障が出ている場合には、有効な選択肢となります。
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心理社会的治療: 特性の理解を深める心理教育、困りごとへの具体的な対処法を学ぶ認知行動療法(CBT)、ソーシャルスキルトレーニング(SST)などが行われることがあります。
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精神疾患(うつ病、適応障害):
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薬物療法: うつ病では抗うつ薬が中心となります。適応障害では、症状に応じて抗不安薬や睡眠薬などが一時的に処方されることがあります。
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精神療法: 認知行動療法(CBT)や対人関係療法(IPT)など、医師や心理士との対話を通じて、考え方や行動パターンを変えたり、ストレスへの対処法を学んだりします。
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休養: 特にうつ病や適応障害の場合、ストレスの原因から離れて心身を休めることが非常に重要です。必要に応じて休職などの判断も行われます。
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境界知能: 境界知能そのものに対する直接的な治療薬はありませんが、合併する可能性のある精神疾患(不安障害、うつ病など)に対しては、その疾患の治療を行います。重要なのは、自身の知的な特性を理解し、その特性に合った学び方や働き方、コミュニケーション方法を見つけることです。個別指導や、視覚的な情報、具体的な指示などを活用する工夫が有効です。
重要なのは、これらの治療はあくまで医師の指導のもとで行うこと、そして一人ひとりに合った治療法を見つけるまで時間がかかる場合があるということです。焦らず、医師とよく相談しながら進めていきましょう。
日常生活や仕事での工夫・対策
医療機関での診断や治療と並行して、あるいは診断の有無に関わらず、日常生活や仕事での工夫や対策を行うことで、「真面目なのにミスが多い」という状況を改善できることがあります。これは、ご自身の特性や困りごとを理解し、環境を調整したり、特定のスキルを習得したりするプロセスです。
ミスを防ぐための具体的な方法
「ミスを減らしたい」という真面目な思いを具体的な行動に繋げるための工夫をいくつかご紹介します。ご自身の困りごとに合わせて、試せるものから取り入れてみましょう。
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タスクの細分化と視覚化: 大きなタスクを、小さく具体的なステップに分解します。「報告書を作成する」→「①情報の収集」「②構成の決定」「③本文の執筆」「④図表の挿入」「⑤校正」「⑥提出」のように細かく分け、それぞれのステップをリスト化したり、付箋に書いて見える場所に貼ったりします。達成したら消していくことで、達成感を得ながら進められます。
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チェックリストの活用: 頻繁に発生する作業や、ミスをしやすい項目について、チェックリストを作成します。提出前の書類チェックリスト、出発前の持ち物チェックリスト、退勤前の確認リストなど、具体的な項目を書き出し、必ず一つずつ確認します。
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リマインダーやアラームの設定: 重要な期日や約束、やるべきことなどは、カレンダーアプリやスマートフォンのアラーム、ToDoリストアプリなどを活用して、必ずリマインダーを設定します。複数回設定するなど、工夫を凝らすのも有効です。
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環境整備: 集中しやすい環境を作ります。不要な物が目に入らないように片付ける、通知をオフにする、静かな場所を選ぶ、集中できる時間帯を見つけて作業するなど。逆に、物をなくしやすい場合は、定位置を決めて必ずそこに戻す習慣をつけます。
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指示の復唱と確認: 人からの指示を聞く際は、聞きながらメモを取り、最後に自分の理解が合っているか復唱して確認します。「〇〇ということですね?△△までに行えばよろしいでしょうか?」のように具体的に確認することで、誤解を防ぎます。
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テンプレートやフォーマットの活用: 頻繁に作成する書類やメールなどは、テンプレートを作成しておくと、抜け漏れを防ぎやすくなります。
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休憩を適切にとる: 集中力を持続させるためには、適度な休憩が必要です。タイマーを使って定期的に休憩時間を設けたり、疲労を感じたら無理せず小休憩をとったりします。
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ダブルチェックの習慣: 重要な作業や書類については、可能であれば他の人に確認してもらうか、時間をおいてから自分自身で改めて確認する習慣をつけます。
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記録をつける: どのような状況で、どのようなミスをしやすいのか、記録をつけてみることで、自分のミスのパターンや苦手なことを見つけやすくなります。原因が分かれば、対策も立てやすくなります。
これらの方法は、真面目なあなただからこそ、計画的に取り組むことで効果を発揮しやすいでしょう。ただし、無理は禁物です。完璧を目指すのではなく、少しでもミスを減らすことを目標に取り組んでみてください。
周囲とのコミュニケーション
ご自身の特性や困りごとについて、信頼できる人に伝えることも、状況改善に繋がることがあります。特に仕事においては、上司や同僚の理解と協力が得られると、より働きやすくなります。
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オープンに話してみる: 自分がどのような状況で困りやすいのか、どのような工夫をしているのかを、信頼できる上司や同僚に正直に話してみることを検討します。すべてを話す必要はありませんが、例えば「指示を一度にたくさん言われると混乱しやすいので、一つずつお願いできますか」「〇〇については細部を見落としやすいので、ダブルチェックにご協力いただけますか」など、具体的な困りごととお願いを伝えることで、協力が得られる可能性があります。
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必要な配慮やサポートをお願いする: 診断を受けている場合は、診断名や具体的な困りごとを伝え、必要な合理的配慮(例:指示の出し方を工夫してもらう、チェックリストの使用を許可してもらう、静かな環境で作業させてもらうなど)をお願いすることができます。会社に産業医や相談窓口がある場合は、そちらに相談してみるのも良いでしょう。
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感謝の気持ちを伝える: 周囲の協力が得られた際には、感謝の気持ちをしっかりと伝えましょう。良好な人間関係は、困りごとを抱えながら働く上での大きな支えとなります。
ただし、誰に、どこまで話すかは慎重に判断する必要があります。すべての人に理解が得られるわけではないからです。まずは信頼できる人から試したり、会社の公式な窓口を利用したりするのが安全です。
まとめ:一人で悩まず専門家に相談を
真面目に努力しているのにミスが多いという状況は、本人にとって非常に苦しいものです。自己肯定感が低下し、何をやってもうまくいかないと感じてしまうかもしれません。しかし、その原因は単なる不注意や努力不足ではなく、発達障害、うつ病や適応障害といった精神疾患、あるいは境界知能など、様々な生まれ持った特性や病気に関連している可能性があります。
もし、あなたの「ミスが多い」という状況が、仕事や日常生活に具体的な支障をきたしている、自己肯定感が著しく低下している、あるいは心身の不調を伴っているといった場合は、一人で抱え込まず、専門家である医師に相談することを強くおすすめします。特に、精神科や心療内科は、このような悩みを専門的に扱う場所です。
適切な診断を受けることで、ご自身の「ミスが多い」という状況の背景にある原因が明らかになります。原因が分かれば、それに合わせた適切な治療法(薬物療法や精神療法など)や、具体的な対処法、工夫が見つかります。また、診断を受けていなくても、医療機関や公的な相談機関で専門家のアドバイスを受けることで、日々の困りごとを軽減するためのヒントを得られることもあります。
「真面目だけどミスが多い」という悩みは、あなたの性格や能力だけの問題ではないかもしれません。それは、脳機能の特性や心身の状態からのサインである可能性も十分にあります。自分の特性を理解し、適切なサポートを得ることで、あなたの真面目さや努力を、より良い結果に繋げられるようになるでしょう。
大切なのは、自分を責めすぎないこと、そして解決のために勇気を持って専門家に相談の一歩を踏み出すことです。あなたは一人ではありません。
免責事項: 本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の症状に対する医学的な診断や治療を推奨するものではありません。ご自身の症状について不安がある場合は、必ず医療機関を受診し、専門家の診断と指導を受けてください。
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