「自分が自分じゃない感覚」が続いているあなたへ。
体がふわふわしたり、周囲が非現実的に見えたり…。この不思議で不安な感覚は、もしかしたらあなただけのものではないかもしれません。
多くの人が人生の中で一度は経験すると言われており、その原因も様々です。
この記事では、そんな「自分が自分じゃない感覚」について、その具体的な状態から考えられる原因、関連する心の状態、そしてご自身でできる対処法や、専門家に相談すべき目安までを詳しく解説します。
この感覚に戸惑い、不安を感じているあなたの心が少しでも軽くなり、状況を理解し、次の一歩を踏み出すための手助けになれば幸いです。
「自分が自分じゃない感覚」は、医学的には「解離症状」と呼ばれるものの一種です。特に「離人感」と「現実感消失」という二つの状態が組み合わさって現れることが多いです。これらの感覚は、自分自身や周囲の世界から切り離されてしまったように感じられるのが特徴です。
離人感(Depersonalization)とは
離人感は、自分の体や心、思考、感情といった自分自身の実感(自己意識)が薄れたり、失われたりする感覚を指します。まるで自分が自分の中から抜け出して、客観的に自分を見ているような感覚、あるいは自分がロボットのように感情がないように感じる、といった形で表現されることがあります。
- 自分の体なのに、まるで遠くにあるかのように感じる
- 自分の声が、自分のものではないように聞こえる
- 自分の感情が、自分のものではなく、感じているフリをしているように思える
- 自分の過去の記憶が、まるで他人の経験のように感じられる
このような感覚は、現実の中にいながらにして、自分自身とのつながりが希薄になるような、不思議で時に恐ろしい体験となります。
現実感消失(Derealization)とは
現実感消失は、周囲の世界や人、物事が非現実的に見えたり、なじみがなく感じられたりする感覚を指します。景色がまるで絵画のように平面的に見えたり、人がマネキンのように見えたり、世界全体がガラスの向こう側にあるように感じられたりすることがあります。
- 周囲の景色が歪んで見える、色が薄く見える
- 人が現実のものではなく、作り物のように見える
- familiar な場所が、初めて訪れた場所のように感じる
- 世界全体が遠く霞んで見える、霧がかかったように見える
- すべてが夢の中の世界のように感じられる
現実感消失は、自分が立っている地面が確かではなくなったような、世界全体とのつながりが断たれてしまったような感覚をもたらします。
この離人感と現実感消失は、しばしば同時に現れます。どちらか一方だけを感じることもあれば、両方が強く現れて、まるで自分と世界の間にもう一枚膜が張られたような、奇妙な感覚に包まれることがあります。
自分が自分じゃない感覚の主な原因
「自分が自分じゃない感覚」は、特定の病気でなくても、健康な人でも一時的に経験することがあります。しかし、それが頻繁に起こったり、長く続いたりする場合は、何らかの原因があると考えられます。主な原因としては、以下のようなものが挙げられます。
ストレスや疲労
最も一般的な原因の一つは、過度のストレスや心身の疲労です。私たちは強いストレスを感じたり、極度に疲れていたりすると、心を守るために現実から一時的に距離を置こうとすることがあります。これは、心がショックや苦痛から身を守るための自然な防衛反応として起こる解離の一種と考えられます。睡眠不足や不規則な生活も、この感覚を引き起こしたり悪化させたりする可能性があります。
不安障害やうつ病
不安障害、特にパニック障害や広場恐怖症といった強い不安や恐れを伴う状態では、「自分が自分じゃない感覚」が症状の一つとして現れることがあります。強いパニック発作の最中やその後に、現実感が薄れたり、自分が変になってしまったように感じたりすることがあります。
また、うつ病では、感情の麻痺や思考力の低下に伴って、自分自身や周囲の世界への関心が薄れ、現実感が失われたように感じることがあります。これは、うつ病による心のエネルギーの低下や、感情の抑うつ状態が原因と考えられます。
離人・現実感喪失症候群(DPDR)
「自分が自分じゃない感覚」が持続的または繰り返し現れ、それに強い苦痛を感じたり、日常生活に支障をきたしたりする場合、離人・現実感喪失症候群(Depersonalization/Derealization Disorder: DPDR)という精神疾患の可能性があります。これは、他の精神疾患や薬物、身体的な病気によるものではない場合に診断されます。DPDRは比較的稀な疾患ですが、「自分が自分じゃない感覚」が主な症状として前面に出るのが特徴です。
その他の精神疾患や身体疾患
DPDR以外の精神疾患でも、離人感や現実感消失が現れることがあります。
- 解離性障害(解離性健忘、解離性同一性障害など): 記憶や自己同一性の障害を伴う解離性障害では、離人感や現実感消失もよく見られる症状です。
- 統合失調症: 幻覚や妄想といった症状に加え、現実検討能力の変化に伴って、世界が奇妙に見えたり、自分自身が変容したように感じたりすることがあります。
- 境界性パーソナリティ障害: 感情の不安定さや対人関係の問題に加え、強いストレス下で解離症状が出現することがあります。
また、精神疾患だけでなく、特定の身体的な病気や状態、あるいは薬物も「自分が自分じゃない感覚」を引き起こす原因となり得ます。
- てんかん(特に側頭葉てんかん): 発作の一部として、離人感や現実感消失のような奇妙な感覚が現れることがあります。
- 片頭痛: 前兆として、視覚の変化や現実感の歪みを感じることがあります。
- 薬物の使用(大麻、LSD、ケタミンなどの幻覚剤や解離性薬物): 薬物の直接的な影響として、あるいは薬物離脱症状として、強い離人感や現実感消失を引き起こすことがあります。
- 特定の医薬品の副作用: 一部の向精神薬などが、副作用としてこの感覚を引き起こす可能性が指摘されています。
このように、「自分が自分じゃない感覚」は様々な原因によって引き起こされる可能性があり、その背景には一時的なものから、治療が必要な病気が隠れている場合まで様々です。
自分が自分じゃない感覚に伴う症状(ふわふわ、気持ち悪いなど)
「自分が自分じゃない感覚」は、前述した離人感と現実感消失の核となる感覚以外にも、様々な不快な感覚や奇妙な体験を伴うことがあります。「ふわふわする」「気持ち悪い」といった表現で語られることも多く、人によって感じ方は異なりますが、以下のような症状がよく報告されます。
体が自分のものではないように感じる
- 体の感覚が鈍い、あるいは過敏に感じる: 痛みや温度に対する感覚が普段と違ったり、触られているのに自分の体だと感じられなかったりします。
- 手足が遠くにあるように感じる: 自分の手や足が異常に小さく見えたり、自分から切り離されているように感じたりします。
- 体が異常に軽く、浮いているように感じる(ふわふわする): 重力感がなく、地面に足がついていないような浮遊感を覚えることがあります。
- 自分の動きを自分でコントロールしていないように感じる: まるで誰かに操られているかのように、自分の意志とは関係なく体が動いているように思えることがあります。
周囲の景色が現実離れしているように感じる
- 景色が平面的、あるいは歪んで見える: 立体感がなくなり、すべてが奥行きのない絵のように見えたり、空間が歪んで見えたりします。
- 物が小さく、あるいは大きく見える: 遠近感が狂い、物のサイズが異常に見えることがあります。
- 色が薄く、あるいは鮮やかに見えすぎる: 見慣れた世界の色彩が普段と異なって見えることがあります。
- 周囲の音が遠く聞こえる、あるいは反響して聞こえる: 音響にも変化を感じることがあります。
- 時間がゆっくり、あるいは速く進んでいるように感じる: 時間感覚が歪むことがあります。
感情が麻痺したように感じる
- 喜びや悲しみといった感情をほとんど感じない: 感情の起伏がなくなり、心が空虚になったように感じます。
- 感動したり共感したりできない: 他人の感情や出来事に対して、心が動かないように感じます。
- 自分の感情を認識できない、あるいは自分の感情ではないように感じる: 自分が今どんな感情を抱いているのか分からなくなったり、感情が自分のものではないと感じたりします。
夢の中にいるような感覚
離人感や現実感消失の総称として、「まるで夢の中にいるみたい」「現実感が薄い」という表現がよく用いられます。これは、意識がはっきりしているにも関わらず、目覚めている現実の世界が、ぼんやりとしていて掴みどころのない、非現実的なものに感じられるためです。この感覚が続くと、現実と夢の区別が曖昧になり、強い混乱や不安を引き起こすことがあります。
これらの症状は、すべての人に同じように現れるわけではありませんし、症状の強さもその時の体調やストレスレベルによって変動します。しかし、これらの感覚が頻繁に起こったり、強く感じられたりすると、日常生活に大きな支障をきたす可能性があります。
自分が自分じゃない感覚は病気?|関連する精神疾患
「自分が自分じゃない感覚」は、一時的なストレスや疲労でも起こりうる一方で、繰り返し起こったり、長く続いたりする場合は、何らかの精神疾患や身体疾患のサインである可能性も考えられます。ここでは、特に関連性の深い精神疾患について詳しく見ていきます。
離人・現実感喪失症候群について詳しく
前述したように、離人・現実感喪失症候群(DPDR)は、「自分が自分じゃない感覚」が主な症状として持続的に、あるいは繰り返し現れる精神疾患です。DSM-5(精神疾患の診断・統計マニュアル 第5版)では、解離性障害の一つに分類されています。
DPDRの診断には、以下の特徴が必要です。
- 持続的または繰り返し現れる離人感または現実感消失、あるいはその両方があること。
- 症状が現れている間も、現実検討能力(現実と非現実を区別する能力)が保たれていること。つまり、「自分が自分じゃない感覚」を体験している自分自身を客観的に認識できていること。
- 症状が、臨床的に著しい苦痛を引き起こしているか、または社会的、職業的、または他の重要な領域における機能に障害を引き起こしていること。
- 症状が、物質(例:薬物乱用、投薬)の生理学的作用によるものではないこと。
- 症状が、他の精神疾患(例:統合失調症、パニック障害、重症うつ病、他の解離性障害)によってよりよく説明されないこと。
DPDRは、他の精神疾患の症状として離人感や現実感消失が現れる場合と区別されます。DPDRでは、「自分が自分じゃない感覚」そのものが中心的な問題となり、それに伴う苦痛や機能障害が重要視されます。
診断基準とセルフチェックの考え方
DPDRの診断は、精神科医や臨床心理士による詳細な問診や心理検査に基づいて行われます。DSM-5のような診断基準は、専門家が診断を行うためのガイドラインであり、一般の人がセルフチェックだけで診断を確定することはできません。
しかし、ご自身が「自分が自分じゃない感覚」を感じている場合に、以下のような点をチェックすることで、専門家への相談を検討する際の参考にすることはできます。
チェック項目 | はい | いいえ |
---|---|---|
自分が自分の体の中にいないように感じることがありますか? | ||
周囲の世界が夢や映画のように非現実的に見えますか? | ||
これらの感覚は、数週間以上続いていますか? | ||
これらの感覚によって、日常生活に支障が出ていますか? | ||
これらの感覚に対して、強い不安や苦痛を感じていますか? | ||
これらの感覚は、他の身体的な病気や薬の影響ではなさそうですか? |
※このチェックリストは診断のためのものではありません。あくまでご自身の状態を整理し、専門家への相談を検討するための補助としてご利用ください。
「はい」が多い場合や、特に症状が長く続いたり、日常生活に支障が出ている場合は、一度専門家に相談してみることをお勧めします。
不安障害
パニック障害や全般性不安障害などの不安障害では、強い不安や恐れを感じた際に、解離症状として離人感や現実感消失が現れることがあります。特にパニック発作時には、「自分が自分ではないような感じ」「現実ではないような感じ」といった症状が診断基準の一つにも含まれています。これは、極度のストレス反応として、心が一時的に現実から距離を置こうとするメカニズムが働いていると考えられます。不安障害が原因の場合、不安の治療を行うことで、離人感や現実感消失も改善することが期待できます。
うつ病
うつ病では、気分の落ち込みや意欲の低下といった中心症状に加え、感情の麻痺や思考力の低下が見られます。これにより、自分自身の感情や周囲の世界への関心が薄れ、現実感が失われたように感じることがあります。「何も感じない」「自分が生きている実感がない」といった形で離人感が現れたり、世界が灰色に見えたり、遠く感じられたりといった形で現実感消失が現れたりします。うつ病が原因の場合、うつ病の治療(抗うつ薬や精神療法)を行うことで、これらの感覚も改善していくことが一般的です。
解離性障害
解離性健忘(過去の重要な情報が思い出せない)、解離性同一性障害(いわゆる多重人格)、離人・現実感喪失症候群、その他の特定・非特定の解離性障害など、解離性障害全般で離人感や現実感消失はよく見られる症状です。これらの障害は、多くの場合、過去の心的外傷体験(トラウマ)と関連があるとされています。心が耐え難い経験をした際に、その苦痛から逃れるために、意識や記憶、自己同一性を切り離すという解離が起こり、その症状の一つとして離人感や現実感消失が現れると考えられています。
このように、「自分が自分じゃない感覚」は、単一の症状のように見えて、その背景には様々な精神疾患が隠れている可能性があります。ご自身の感覚に不安を感じる場合は、自己判断せず、専門家による正確な診断を受けることが重要です。
自分が自分じゃない感覚を感じやすい人
「自分が自分じゃない感覚」は誰にでも起こりうるものですが、特定の経験や性格傾向を持つ人は、そうでない人に比べてこの感覚を感じやすい傾向があると言われています。
過去に心的外傷体験がある人
特に幼少期に虐待やネグレクト、重大な事故や災害といった心的外傷体験(トラウマ)を受けた人は、解離症状を経験しやすい傾向があります。トラウマ体験は、心が耐え難いほどの苦痛や恐怖を伴うため、自己防衛のために意識や感覚を切り離すという解離が起こりやすくなります。この解離が、大人になってからの離人感や現実感消失として現れることがあります。トラウマの処理や回復を目指す精神療法が、これらの解離症状の軽減につながることがあります。
ストレスを抱え込みやすい人
日々の生活で慢性的なストレスにさらされている人や、ストレスをうまく解消できない人も、「自分が自分じゃない感覚」を感じやすい傾向があります。仕事や人間関係の悩み、経済的な問題など、様々なストレス要因が積み重なることで、心身が疲弊し、現実感の喪失につながることがあります。また、大きな環境の変化(引っ越し、転職、大切な人との別れなど)も、一時的にこの感覚を引き起こすことがあります。
特定の性格傾向
特定の性格傾向を持つ人も、この感覚を感じやすい可能性が指摘されています。例えば、真面目で完璧主義な人は、自分に厳しく、ストレスを溜め込みやすい傾向があります。また、内向的で、感情を内に秘めやすい人も、感情を適切に処理できずに、離人感のような形で現れることがあります。感受性が豊かで、考えすぎる傾向がある人も、この感覚に意識が向きやすく、増幅させてしまうことがあります。ただし、これはあくまで傾向であり、これらの性格傾向を持つすべての人に「自分が自分じゃない感覚」が現れるわけではありません。
これらの要因に加えて、睡眠不足、栄養不足、特定の薬物(合法・非合法問わず)の使用なども、この感覚を感じやすくする要因となります。
ご自身がこれらの要因に当てはまるからといって、必ずしも「自分が自分じゃない感覚」を感じるわけではありません。重要なのは、この感覚が何を意味しているのか、どのような背景で起こっているのかを理解し、必要に応じて適切な対処や専門家への相談を行うことです。
自分が自分じゃない感覚への対処法
「自分が自分じゃない感覚」が一時的なものであったり、原因が明らかなストレスや疲労であったりする場合は、ご自身でできるセルフケアや対処法を試すことで症状が軽減することがあります。ただし、症状が重い場合や長く続く場合は、後述する専門家への相談が重要です。
まずは休息とセルフケア
まずは休息とセルフケア
最も基本的なことですが、十分な休息と睡眠をとることが非常に重要です。心身の疲労は、この感覚を悪化させる大きな要因の一つです。規則正しい生活を心がけ、質の良い睡眠を確保しましょう。また、バランスの取れた食事や適度な運動も、心身の健康を保つ上で役立ちます。カフェインやアルコールの過剰摂取は、不安を増強させたり睡眠を妨げたりする可能性があるため、控えめが望ましいです。
ストレス管理の方法
ストレスが原因で「自分が自分じゃない感覚」が現れている場合、ストレスを適切に管理することが症状の軽減につながります。自分に合ったストレス解消法を見つけましょう。
- リラクゼーション: 深呼吸、腹式呼吸、瞑想、ヨガ、ストレッチなど。
- 趣味や好きなことに時間を使う: 音楽を聴く、絵を描く、読書をする、散歩をするなど、リフレッシュできる活動を取り入れましょう。
- デジタルデトックス: スマートフォンやパソコンから離れる時間を作り、情報過多による疲労を軽減します。
- 考え方の癖を見直す: 完璧主義やネガティブな思考パターンがストレスになっている場合、認知行動療法の考え方を取り入れ、柔軟な考え方を心がけることも有効です。
グラウンディング技法(現実とのつながりを取り戻す)
「自分が自分じゃない感覚」が強く現れている時に、現実の世界に意識を戻すための具体的な技法が「グラウンディング」です。これは、五感を通して「今、ここ」にある現実と自分を結びつけることで、解離状態から抜け出す手助けをします。
グラウンディング技法の例をいくつかご紹介します。
グラウンディング技法 | 具体的なやり方 |
---|---|
五感を意識する(5-4-3-2-1法) | 見えるもの5つ、触れるもの4つ、聞こえるもの3つ、嗅げるもの2つ、味わえるもの1つに意識を向ける。 |
触覚に集中する | 手で椅子や壁など身近な物に触れ、その質感、温度、重さを感じる。 |
足の裏の感覚に意識を向ける | 立っている場合は、足の裏が地面や床にしっかりとついている感覚に意識を集中する。歩くのも良い。 |
体を動かす | 手足を軽く動かす、伸びをする、軽くジャンプするなど、体の物理的な感覚を感じる。 |
冷たいものに触れる | 冷たい水で顔を洗う、氷を握る、冷たい飲み物をゆっくり飲むなど。 |
色を数える | 部屋の中にある特定の色(例:青色)のものをいくつか見つけて数える。 |
深呼吸をする | ゆっくりと鼻から息を吸い込み、口からゆっくりと吐き出す。呼吸の感覚に意識を向ける。 |
体に意識をスキャンする | 頭のてっぺんから足の先まで、体の各部分の感覚を順番に意識していく。 |
これらの技法は、特定の感覚に集中することで、頭の中で考え事ばかりしている状態から抜け出し、「今、ここ」の現実に意識を戻すことを助けます。症状が強く現れた時に、すぐに試せるようにいくつか覚えておくと良いでしょう。
信頼できる人に話す
「自分が自分じゃない感覚」は、周りの人に理解されにくい感覚かもしれません。しかし、信頼できる家族や友人、パートナーに話を聞いてもらうだけでも、孤独感が和らぎ、安心感を得られることがあります。自分の感じていることを言葉にすることで、状況を客観的に捉え直すきっかけになることもあります。もし身近に話しやすい人がいない場合は、後述する専門家や支援団体に相談することも有効です。
専門医(精神科・心療内科)に相談する目安
「自分が自分じゃない感覚」は、一時的なものであれば過度に心配する必要はありません。しかし、以下のような場合は、一人で抱え込まずに精神科や心療内科の専門医に相談することを強くお勧めします。
症状が長期間続く場合
「自分が自分じゃない感覚」が数週間以上にわたってほぼ毎日続く場合や、繰り返し頻繁に起こる場合は、単なる一時的な疲労やストレスではなく、何らかの精神疾患や身体疾患が背景にある可能性が高まります。自己判断で様子を見続けるのではなく、専門家による正確な診断を受けることが重要です。
日常生活に支障が出ている場合
この感覚が原因で、以下のような日常生活に具体的な支障が出ている場合も、専門家への相談が必要です。
- 仕事や学業に集中できない
- 人とコミュニケーションをとるのが辛い、社会的な活動を避けるようになった
- 家事や身の回りのことがおろそかになった
- 趣味や好きなことへの興味や楽しみが失われた
- 外出するのが怖い、特定の場所に行けなくなった
症状によって日常生活の質が著しく低下している場合は、適切な治療や支援が必要です。
他の症状(強い不安、抑うつなど)を伴う場合
「自分が自分じゃない感覚」に加えて、以下のような他の症状を伴う場合も、注意が必要です。
- 強い不安感、焦燥感
- 気分の落ち込み、憂鬱感
- 興味や関心の喪失
- 睡眠障害(不眠、過眠)
- 食欲の変化
- 強い疲労感、倦怠感
- 動悸、息切れ、発汗などの身体症状(パニック発作の可能性)
- 死にたい気持ち、自傷行為の衝動
これらの症状は、不安障害やうつ病、他の精神疾患のサインである可能性があります。複数の症状が組み合わさっている場合は、単なる「自分が自分じゃない感覚」として片付けずに、総合的な評価と治療が必要です。
相談先の選び方:
まずは、かかりつけ医に相談したり、お近くの精神科や心療内科を受診したりするのが一般的です。病院やクリニックのウェブサイトなどで、得意とする分野(例:ストレス関連疾患、不安障害、解離性障害など)を確認してみるのも良いでしょう。初診の予約が必要な場合が多いので、事前に電話やインターネットで確認しましょう。
「自分が自分じゃない感覚」を専門家以外の友人に話しても、「疲れているだけだよ」「気にしすぎだよ」などと言われてしまい、理解してもらえないと感じてしまうこともあります。しかし、精神科医や臨床心理士は、こうした感覚について専門的な知識を持っています。安心して、あなたの感じていることを正直に話してみてください。
治療法について
「自分が自分じゃない感覚」に対する治療は、その感覚が単なる一時的な反応なのか、それとも特定の精神疾患や身体疾患の症状として現れているのかによって異なります。原因となっている疾患がある場合は、その疾患の治療を優先的に行います。離人・現実感喪失症候群(DPDR)が診断された場合は、DPDRに特化した治療が行われることもあります。
主な治療法としては、精神療法と薬物療法があります。
精神療法(認知行動療法など)
「自分が自分じゃない感覚」に対して最も有効な治療法の一つと考えられているのが精神療法です。特に、認知行動療法(CBT)のアプローチが有効であるとされています。
- 認知行動療法(CBT): 「自分が自分じゃない感覚」に対する不安や恐れといった否定的な感情や思考パターンに焦点を当て、それをより現実的で建設的なものに変えていくことを目指します。例えば、「このまま元に戻れなくなるのではないか」「自分はおかしくなってしまった」といった思考に対して、その根拠を検討したり、別の考え方を探したりします。また、グラウンディング技法など、現実とのつながりを強化する具体的な対処スキルを身につける練習も行います。
- 弁証法的行動療法(DBT): 感情の調節が苦手な場合や、過去のトラウマとの関連がある場合に有効なことがあります。感情の対処スキルやストレス耐性を高めることを目指します。
- トラウマに焦点づけた療法(EMDRなど): 過去の心的外傷体験が原因となっている場合は、トラウマの処理を目的とした専門的な精神療法が行われることもあります。
精神療法は、症状そのものを直接消すというよりは、症状に対する苦痛を軽減し、症状とうまく付き合いながら日常生活を送れるようにすること、そして症状の背景にある原因(ストレス、トラウマ、思考パターンなど)に対処することを目指します。
薬物療法
「自分が自分じゃない感覚」そのものを直接治療する特効薬は、現在のところ確立されていません。しかし、この感覚の原因となっている、あるいは合併している精神疾患(不安障害、うつ病など)に対して薬物療法を行うことで、結果的に「自分が自分じゃない感覚」も改善することが期待できます。
- 抗うつ薬(SSRIなど): 不安や抑うつ症状が「自分が自分じゃない感覚」の原因となっている場合や、これらを合併している場合に処方されることがあります。不安や気分の落ち込みが改善することで、現実感が戻ってくることがあります。
- 抗不安薬: パニック発作や強い不安に伴ってこの感覚が現れる場合に、一時的に不安を和らげるために使用されることがあります。ただし、依存性のリスクがあるため、処方には慎重な判断が必要です。
薬物療法を行うかどうか、どのような薬を選ぶかは、医師が患者さんの症状、原因、合併症などを総合的に判断して決定します。薬物療法単独よりも、精神療法と併用することでより効果が期待できる場合が多いです。
治療には時間がかかることもありますが、適切な治療を受けることで、症状の改善や日常生活の質の向上を目指すことが可能です。
まとめ|不安な時は専門家へ
「自分が自分じゃない感覚」は、体がふわふわしたり、周囲が非現実的に見えたりといった、本人にとっては非常に不安で奇妙な感覚です。多くの人が一時的に経験することがある一方で、その背景には過度のストレスや疲労、不安障害、うつ病、そして離人・現実感喪失症候群といった精神疾患が隠れている可能性もあります。
もしあなたがこの感覚に悩まされているなら、まずは十分な休息をとり、ストレスを管理し、グラウンディング技法などを試してみることから始めてみましょう。これらのセルフケアによって症状が軽減することも少なくありません。
しかし、もし症状が数週間以上にわたって続いている、日常生活に支障が出ている、あるいは強い不安や気分の落ち込みといった他の症状を伴っている場合は、一人で抱え込まず、精神科や心療内科の専門医に相談することを強くお勧めします。専門家は、あなたの状態を正確に診断し、必要に応じて適切な治療法(精神療法や薬物療法)を提案してくれます。
「自分が自分じゃない感覚」は、周りの人に理解されにくいかもしれませんが、これはあなただけが感じている特別な症状ではありません。専門家はこうした感覚についても知識を持っており、あなたの苦痛を理解し、サポートすることができます。
不安な気持ちを抱えたまま過ごすのではなく、専門家の手を借りて、あなたの心身の状態を整え、現実世界とのつながりを取り戻すための一歩を踏み出しましょう。
免責事項: この記事は一般的な情報提供を目的としており、医学的な診断や治療を代替するものではありません。「自分が自分じゃない感覚」に悩んでいる場合は、必ず医療機関を受診し、専門医の判断を仰いでください。この記事の情報に基づくいかなる行動に関しても、一切の責任を負いかねます。
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