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パーソナリティ障害とは?特徴、種類、診断、治療を分かりやすく解説

自分や周囲の人の言動に、強い偏りや生きづらさを感じていませんか?
それが「パーソナリティ障害」かもしれません。
パーソナリティ障害は、個性の範疇を超えた思考、感情、対人関係、衝動性の偏りによって、社会生活に困難が生じる精神疾患です。
この記事では、パーソナリティ障害の診断、原因、タイプ別の詳しい症状、最新の治療法、そして本人や周囲の人がどう向き合うべきかを解説します。
正確な知識を持つことで、適切なサポートへと繋がる第一歩を踏み出しましょう。

目次

パーソナリティ障害とは

パーソナリティ障害とは、個人の考え方、感じ方、人との関わり方、衝動をコントロールする方法といった、その人らしさ(パーソナリティ)が、文化的な基準から大きく逸脱し、柔軟性に欠け、長期間にわたって固定化している状態を指します。
この偏ったパーソナリティのパターンは、青年期または成人期早期に始まり、さまざまな状況で一貫して現れ、本人または周囲に著しい苦痛や社会生活上の障害を引き起こします。

単なる「困った性格」や「個性」とは異なり、パーソナリティ障害は医学的な診断名を持つ精神疾患の一つです。
その根底には、自分自身や他者、世界に対する深く根ざした認識や信念の歪みがあり、これが感情や行動に影響を与え、対人関係や社会生活に持続的な困難をもたらします。

パーソナリティ障害を持つ人は、自分の考え方や行動パターンが偏っていることに気づきにくい場合が多いです。
問題の原因を自分ではなく、周囲の環境や他者に求める傾向が見られることもあります。
しかし、この障害によって生きづらさを強く感じたり、うつ病や不安障害、依存症などの他の精神疾患を併発したりすることもあります。

パーソナリティ障害の診断

パーソナリティ障害の診断は、その人の思考、感情、対人関係、衝動コントロールのパターンが、文化的な期待から著しく逸脱しているかどうかを専門家(精神科医、臨床心理士など)が評価することによって行われます。
診断は一度の短い面接で確定するものではなく、時間をかけてその人の生育歴、現在の生活状況、対人関係のパターン、感情の動きなどを詳細に聞き取り、総合的に判断されます。

診断には、いくつかの側面からパーソナリティの機能障害を評価する必要があります。
例えば、「自分自身についてどのように考えているか」「他者とどのように関わるか」「感情は安定しているか」「衝動的な行動は多くないか」といった点が重点的に見られます。

診断基準(DSM-5、ICD-10など)

パーソナリティ障害の診断には、世界的に広く用いられている診断基準があります。
代表的なものに、アメリカ精神医学会が発行する『精神疾患の診断・統計マニュアル』第5版(DSM-5)や、世界保健機関(WHO)が定める『国際疾病分類』第10版(ICD-10)があります。
これらの基準は、医師や臨床家が共通の言葉で診断を行うためのガイドラインとして機能します。

DSM-5では、パーソナリティ障害を診断するために、以下の4つの領域のうち2つ以上にわたる内的な体験と行動の持続的なパターンが、文化的に期待されるものから著しく逸脱していることが求められます。

  • 認知: 自分自身、他者、出来事についての考え方、知覚の仕方。
  • 感情性: 感情反応の多様性、強さ、持続性、適切さ。
  • 対人関係機能: 人と関わる方法。
  • 衝動コントロール: 衝動を抑える能力。

さらに、これらのパターンが以下の基準を満たす必要があります。

  • 柔軟性に欠け、個人的および社会的な状況の広範な領域にわたって現れる。
  • 臨床的に意味のある苦痛、または社会的、職業的、またはその他の重要な領域における機能の障害を引き起こしている。
  • そのパターンは安定しており、長期間にわたって続いていること。その始まりは青年期または成人期早期にさかのぼることができる。
  • 他の精神疾患の現れとしてうまく説明できない。
  • 物質(例:薬物乱用、投薬)や他の医学的状態による生理学的な効果によるものではない。

ICD-10の診断ガイドラインも類似した基準を用いていますが、DSM-5が具体的な診断基準をリストアップしているのに対し、ICD-10は記述的な特徴に重きを置いています。

診断のプロセスでは、問診や面接の他に、心理検査(パーソナリティ検査など)が補助的に用いられることもあります。
しかし、これらの検査結果だけで診断が確定するわけではなく、あくまで医師の臨床的な判断が最も重要です。

正確な診断のためには、本人の情報だけでなく、可能であれば家族など、身近な人からの情報も参考にすることがあります。
これは、パーソナリティの偏りが本人にとって自覚しにくいため、他者からの視点が診断の手助けになることがあるからです。

パーソナリティ障害は他の精神疾患と併存することが多いため、うつ病や不安障害、物質使用障害などがないかどうかも同時に評価されます。
併存疾患の存在は、パーソナリティ障害の症状の現れ方や治療計画に影響を与える可能性があります。

パーソナリティ障害の原因

パーソナリティ障害の原因は一つではなく、複数の要因が複雑に絡み合って生じると考えられています。
これは「生物・心理・社会モデル」と呼ばれる考え方で説明されることが一般的です。
生まれ持った体質や遺伝的な傾向(生物学的要因)、育ってきた環境や社会的な影響(環境的要因)、そして個人の心理的な発達過程における問題(心理的要因)が相互に作用し、パーソナリティの偏りを形成すると考えられています。

生物学的要因

生物学的な要因としては、遺伝的な影響や脳の機能、構造の特性などが考えられています。
例えば、特定のパーソナリティ障害は、家族内で繰り返し見られる傾向があることが報告されています。
これは、特定の性格特性や気質が遺伝的に受け継がれる可能性を示唆しています。

また、脳の構造や機能における特定の領域(感情制御に関わる扁桃体や前頭前野など)の違いや、神経伝達物質(セロトニンやドーパミンなど)の働き方の偏りが、パーソナリティの特性や衝動性、感情のコントロールに関与している可能性も研究されています。
ただし、特定の遺伝子や脳の異常が直接パーソナリティ障害を引き起こすという単純な関係ではなく、あくまで素因として影響する可能性が指摘されています。

環境的要因

育ってきた環境も、パーソナリティ形成に大きな影響を与えます。
特に幼少期や青年期の経験は重要です。
例えば、虐待(身体的、精神的、性的)やネグレクト(育児放棄)、不安定な養育環境(親の精神疾患、頻繁な転居、離婚など)、過干渉や過保護すぎる親の態度、重要な人物からの喪失体験などは、パーソナリティの発達に歪みをもたらす環境的リスク要因として知られています。

これらのネガティブな経験は、子どもが安全な世界観や安定した自己イメージ、他者との信頼関係を築くことを妨げ、結果として歪んだ認知や感情調節の困難、対人関係の問題を抱えやすくなる可能性があります。
社会的な孤立や貧困、文化的なストレスなども、パーソナリティ障害の発症や悪化に関わる環境的要因として考えられます。

心理的要因

心理的な要因としては、個人の認知スタイル(物事の捉え方)、感情の処理の仕方、自己イメージ、そして幼少期からの発達過程における心理的な課題などが挙げられます。
例えば、自己肯定感の低さ、極端な思考パターン(白黒思考など)、感情を適切に認識したり表現したりすることの困難さ、対人関係における不適切なスキルなどが、パーソナリティの偏りを形成する要因となり得ます。

特に、愛着スタイル(幼少期に親との間で形成される、他者との関係性のパターン)の問題は、その後の対人関係に持続的な影響を与え、パーソナリティ障害の発症リスクを高める可能性があります。
不安定な愛着スタイルを持つ人は、他者との間に安定した関係を築くことが難しく、見捨てられ不安や回避傾向、依存性などの問題に繋がりやすいと考えられます。

これらの生物学的、環境的、心理的な要因は単独で作用するのではなく、相互に影響し合ってパーソナリティ障害の発症に関わります。
例えば、生物学的な脆弱性を持つ人が、ネガティブな環境要因や心理的な課題に直面することで、パーソナリティの偏りが顕著になる、といったように理解されます。

パーソナリティ障害の症状と特徴

パーソナリティ障害の症状は、そのタイプによって多様ですが、共通して見られる基本的な特徴や、タイプごとに異なる症状の現れ方があります。

パーソナリティ障害に共通する主な症状

パーソナリティ障害に共通する核となる特徴は、以下のような領域における持続的かつ広範な偏りです。

  • 自己認識の歪み: 自分自身をどのように捉えるか、自己評価が極端に低かったり、逆に過大であったりします。
    不安定な自己イメージを持つこともあります。
  • 感情のコントロール困難: 感情の起伏が激しかったり、感情を適切に処理したり表現したりすることが苦手だったりします。
    怒り、不安、抑うつなどの感情が不安定になりやすいです。
  • 対人関係の不安定さ: 他者との間で安定した関係を築くことが困難です。
    親密になりすぎたり、逆に極端に距離を置いたりする、人間関係が長続きしない、頻繁にトラブルを起こすといったパターンが見られます。
  • 衝動的な行動: 結果を考えずに衝動的な行動をとることがあります。
    浪費、性的奔放、物質乱用、無謀な運転、過食、自傷行為などが含まれます。
  • 認知の偏り: 物事や他者を極端な見方で捉えたり、現実とは異なる解釈をしたりします。
    例えば、些細なことで他者の悪意を疑ったり、自分は特別な存在だと信じ込んだりします。

これらの偏りは、その人の内的な体験(考え方や感じ方)と行動の両方に影響を与え、様々な状況で繰り返し現れます。
その結果、学校や職場での適応困難、家族や友人との関係性の悪化、法的な問題など、社会生活上の障害を引き起こすことがあります。

タイプ別の症状の現れ方

パーソナリティ障害は、その特徴によって大きく3つのクラスター(A群、B群、C群)に分類され、それぞれ異なる症状の現れ方をします。
次のセクションで詳しく解説しますが、概略として、A群は奇妙で風変わりなタイプ、B群は劇的で感情的、衝動的なタイプ、C群は不安や恐れが強いタイプに分けられます。

例えば、A群の人は社会的な関心が薄く孤立しがちな傾向があります。
B群の人は感情の波が激しく、対人関係でトラブルを起こしやすい傾向があります。
C群の人は不安や恐れが強く、新しい環境や人間関係に馴染むのが苦手な傾向があります。

同じパーソナリティ障害という診断名でも、どのタイプであるかによって、抱える困難や症状の具体的な現れ方は大きく異なります。
また、一人で複数のタイプの診断基準を満たす場合や、あるタイプの特徴が強く現れているものの診断基準には満たない「パーソナリティ特性」として見られる場合もあります。

パーソナリティ障害の分類(A群、B群、C群)

パーソナリティ障害は、その特徴に基づいて大きく3つのクラスター(A群、B群、C群)に分類されます。
この分類は、DSM-5などの診断基準で用いられており、それぞれの群に属するパーソナリティ障害は、ある程度共通する特徴を持っています。

特徴 主なタイプ
A群 奇妙、風変わり、孤立しがち 妄想性パーソナリティ障害、シゾイドパーソナリティ障害、シゾタイパルパーソナリティ障害
B群 劇的、感情的、衝動的 境界性パーソナリティ障害、反社会性パーソナリティ障害、自己愛性パーソナリティ障害、演技性パーソナリティ障害
C群 不安、恐れが強い 回避性パーソナリティ障害、依存性パーソナリティ障害、強迫性パーソナリティ障害

A群:奇妙で風変わりなタイプの特徴

A群に属するパーソナリティ障害は、他者から見て「奇妙」「風変わり」と感じられるような思考や行動、および社会的な孤立が特徴です。

妄想性パーソナリティ障害

他者を不当に不信に思い、疑り深いことが特徴です。
他人の動機を悪意があると解釈し、些細な言動にも隠された意味や攻撃性を見出そうとします。
裏切られることを常に恐れているため、親密な関係を避ける傾向があります。
批判に非常に敏感で、すぐに怒りや反論を示します。
根拠のない持続的な恨みを抱き続けることがあります。

シゾイドパーソナリティ障害

他者との社会的関係に関心がなく、親密な関係を求めないことが特徴です。
ほとんど一人でいることを好み、家族を含め他者との関わりに喜びを感じません。
感情の幅が狭く、冷淡に見えたり、賞賛や批判に無関心だったりします。
性的な経験にも関心がない場合が多いです。
現実との接点は保たれていますが、感情的な交流は乏しいです。

シゾタイパルパーソナリティ障害

奇妙な信念や魔術的な思考、普通とは異なる知覚体験(例えば、自分がテレパシーを使えると感じるなど)、風変わりな言動が特徴です。
対人関係において強い不安を感じ、親しい友人がほとんどいないことが多いです。
シゾイドパーソナリティ障害よりも、より現実検討能力に歪みが見られ、統合失調症と関連が指摘されることもありますが、幻覚や妄想が持続的かつ明確である統合失調症とは区別されます。
会話がまとまらず、回りくどい話し方になることもあります。

B群:劇的で感情的、衝動的なタイプの特徴

B群に属するパーソナリティ障害は、感情の起伏が激しく、衝動的な行動や対人関係の不安定さが目立つことが特徴です。
周囲を巻き込むような劇的な言動をとることもあります。

境界性パーソナリティ障害

対人関係、自己像、感情、行動の不安定さが極めて顕著なことが特徴です。
特に「見捨てられ不安」が強く、これを回避するために必死の努力(相手にしがみつく、逆に突き放すなど)を行います。
対人関係は、相手を理想化するかと思えば、すぐにこき下ろすという極端なパターン(白黒思考)を繰り返します。
自己イメージが不安定で、自分の価値や方向性がコロコロ変わります。
感情の波が激しく、些細なことで怒りや悲しみが爆発したり、慢性的な空虚感を感じたりします。
衝動的な行動(浪費、過食、物質乱用、性行為、無謀な運転など)や、自傷行為、自殺企図を繰り返すことがあります。

境界性パーソナリティ障害に見られる口癖や行動パターン

境界性パーソナリティ障害の人は、その不安定さや見捨てられ不安から、以下のような口癖や行動パターンが見られることがあります(ただし、これら全てが見られるわけではなく、個人差が大きいです)。

  • 口癖:
    「どうせ私なんて」「誰にも理解されない」といった極端な自己否定。
    相手を理想化しているときは「あなたは私の全て」「あなただけが頼り」といった過剰な依存や賛辞。
    相手をこき下ろしているときは「最低!」「もう関係ない」といった激しい非難や拒絶。
    「死にたい」「消えたい」といった希死念慮や、自傷行為を示唆する言葉。
    「もし○○してくれなければ、もう知らない」「本当に私のこと好き?」といった見捨てられ不安に基づく試し行為。
    状況によって自己評価や意見が劇的に変化するため、言っていることがコロコロ変わる。
  • 行動パターン:
    相手に見捨てられるのを恐れて、相手の行動を過剰に詮索したり、頻繁に連絡したりする。
    逆に、見捨てられる前に自分から関係を断ち切る(例:突然連絡を絶つ、激しい喧嘩をふっかけて関係を壊す)。
    感情の苦痛や空虚感を紛らわせるために、リストカット、服薬過量、頭を壁に打ち付けるなどの自傷行為を繰り返す。
    強い怒りを感じると、物を壊したり、暴力的になったりする。
    寂しさを埋めるために、性的な関係や物質乱用に走る。
    突発的に仕事や学校を辞める、引っ越しを繰り返すなど、生活が不安定になりやすい。
    自分が悪い状況にあると感じると、過剰に自己を責めたり、逆に全て他人のせいにしたりする。

これらの言動は、内的な苦痛や不安定さを抱え、それをうまく表現したり対処したりできないことの表れであり、周囲との関係性をさらに悪化させる要因となることも少なくありません。

反社会性パーソナリティ障害

他者の権利を侵害することに無関心、またはそれを繰り返すことが特徴です。
成人以降(15歳以前から素行症の兆候がある場合)に診断されます。
法律や社会のルールを守らず、人を騙したり利用したりすることに抵抗がありません。
衝動的で無責任な行動を繰り返し、将来の計画を立てることが苦手です。
罪悪感や共感性が著しく欠如しており、自分の行動が他者に与える苦痛を理解したり、気遣ったりすることができません。
しばしば攻撃的で、嘘をつくことに慣れています。

自己愛性パーソナリティ障害

自分が特別で偉大な存在であるという感覚(誇大性)、他者からの賞賛を強く求める欲求、他者の感情に対する共感性の欠如が特徴です。
自分は特別な存在であり、特別な人々にしか理解されない、特別な扱いを受けるべきだと信じています。
成功や権力、美しさ、理想的な愛などについての空想に耽ることがあります。
他者を利用したり、嫉妬したり、傲慢な態度をとったりします。
批判に非常に弱く、傷つきやすい反面、怒りや軽蔑で反応することがあります。

演技性パーソナリティ障害

注目の的になることを強く求め、そのためならどのような手段も辞さないことが特徴です。
感情表現が芝居がかっていたり、大げさであったりします。
対人関係は浅く、表面的な関係にとどまりがちです。
見た目を非常に気にする傾向があり、性的に挑発的な言動をとることもあります。
暗示にかかりやすく、コロコロと意見や感情が変わることがあります。

C群:不安や恐れが強いタイプの特徴

C群に属するパーソナリティ障害は、強い不安や恐れが特徴で、これを回避するために社会的に引きこもったり、他者に過剰に依存したり、完璧主義に陥ったりします。

回避性パーソナリティ障害

自分が劣っているという感覚や批判されることへの恐れが強く、対人関係や社会的な状況を避けることが特徴です。
拒絶されるのではないかという不安から、親しくなる自信がない限り、人と関わろうとしません。
人前で赤面したり震えたりすることを恐れたり、恥をかくことを極度に恐れたりします。
新しい活動や挑戦を避ける傾向があります。
本当は人との繋がりを求めている点で、シゾイドパーソナリティ障害とは異なります。

依存性パーソナリティ障害

自分一人では何も決められない、頼りなく、他者に世話を焼いてもらわないと生きていけないという感覚が強く、他者に過剰に依存することが特徴です。
日常生活の些細なことでも他者からの助言や保証なしには決められません。
他者からの承認を強く求め、意見の対立を避けるために相手の意見に安易に同意してしまいます。
自分を助けてくれる人がいなくなることを極度に恐れます。
関係が終わると、すぐに別の関係を求めます。

強迫性パーソナリティ障害

秩序、完璧主義、精神的および対人的なコントロールに過度にこだわるが、その柔軟性や効率性は失われていることが特徴です。
細部にこだわりすぎて全体が見えなくなったり、完璧を求めすぎて物事が終わらなかったりします。
余暇活動や友人との時間を犠牲にしてまで仕事や生産性に没頭します。
融通が利かず、頑固な一面があります。
感情表現を抑制し、倹約家すぎる傾向が見られます。
強迫性障害(OCD)とは異なり、特定の不合理な強迫観念や強迫行為に悩まされるのではなく、全般的なパーソナリティ特性として現れます。

最も多いパーソナリティ障害は?

パーソナリティ障害の各タイプの有病率は、調査によって異なりますが、一般的に境界性パーソナリティ障害回避性パーソナリティ障害が比較的多く報告される傾向があります。
特に精神科を受診する人の間では、境界性パーソナリティ障害の診断を受ける人が多いとされています。

しかし、これはあくまで統計的な傾向であり、地域や調査方法によって差が生じます。
また、パーソナリティ障害は単一の診断基準だけを満たすとは限らず、複数のタイプの特徴を併せ持っている人も少なくありません。
例えば、境界性パーソナリティ障害と自己愛性パーソナリティ障害の特徴を両方持っている、といったケースも存在します。
診断は複雑であり、特定のタイプが他のタイプよりも「優れている」とか「悪い」というわけではありません。

重要なのは、どのタイプに分類されるかだけでなく、その人がどのようなパーソナリティの偏りを持ち、それがどのように生きづらさに繋がっているのかを理解することです。

パーソナリティ障害の治療法

パーソナリティ障害の治療は、診断されたタイプや症状の重症度、併存する精神疾患などによって異なりますが、主に精神療法(心理療法)が中心となります。
薬物療法は補助的に用いられ、必要に応じて入院治療が検討されることもあります。

精神療法(心理療法)

パーソナリティ障害の治療の核となるのが精神療法です。
これは、治療者との対話を通じて、自分自身の考え方や感情、対人関係のパターンを理解し、より適応的なものに変えていくことを目指します。
治療には時間がかかる場合が多く、継続的な取り組みが必要です。

パーソナリティ障害の種類や個人の状態に合わせて、様々な精神療法が用いられます。
代表的なものをいくつか挙げます。

  • 弁証法的行動療法(DBT: Dialectical Behavior Therapy): 特に境界性パーソナリティ障害に有効性が示されている療法です。
    感情調整スキル、対人関係スキル、ストレス耐性スキル、マインドフルネススキルなどを習得することに焦点を当てます。
    個人療法、集団スキル・トレーニング、電話コーチングなどを組み合わせるのが特徴です。
  • スキーマ療法(Schema Therapy): 幼少期に形成された、自分自身や他者、世界に対する深く根ざした歪んだ信念(早期不適応的スキーマ)にアプローチする療法です。
    認知、感情、行動、対人関係など、多角的に問題に取り組みます。
    特に境界性パーソナリティ障害や自己愛性パーソナリティ障害など、慢性的な問題を持つ人に有効とされています。
  • 認知行動療法(CBT: Cognitive Behavioral Therapy): 自分の考え方(認知)や行動が感情や問題にどう影響しているかを理解し、より現実的で建設的な考え方や行動パターンを身につけることを目指します。
    不安や回避傾向が強いパーソナリティ障害(例:回避性、強迫性)や、併存するうつ病や不安障害にも有効です。
  • 精神力動的精神療法(Psychodynamic Psychotherapy): 過去の経験(特に幼少期の親子関係など)が現在のパーソナリティや対人関係にどう影響しているかを掘り下げ、無意識のパターンを理解することを目指します。
    自己理解を深め、対人関係のパターンを改善することに焦点を当てます。
  • 図式焦点療法(Schema Focused Therapy): スキーマ療法と同様に、早期に形成された不適応的なスキーマに焦点を当てますが、特に境界性パーソナリティ障害や自己愛性パーソナリティ障害に特化して開発された療法です。

どの療法を選択するかは、診断されたパーソナリティ障害のタイプ、個人の特性、治療目標、治療者の専門性などに基づいて医師や治療者と相談して決定されます。
信頼できる治療者との関係を築くことが、治療を進める上で非常に重要です。

薬物療法

薬物療法は、パーソナリティ障害そのものを「治す」ものではありません。
しかし、パーソナリティ障害にしばしば伴う、あるいは特定のタイプに顕著に見られる特定の症状(例:激しい気分の変動、衝動性、強い不安、抑うつ、妄想的な思考など)を軽減するために補助的に用いられることがあります。

使用される薬剤の種類は、対象となる症状によって異なります。

  • 気分安定薬や抗精神病薬: 激しい気分の波や衝動性、怒りの爆発、妄想的な思考などに有効な場合があります。
    特に境界性パーソナリティ障害やシゾタイパルパーソナリティ障害などで検討されることがあります。
  • 抗うつ薬: 併存するうつ病や不安障害の治療、あるいは気分安定化や衝動性の軽減のために用いられることがあります。
  • 抗不安薬: 強い不安症状に対して一時的に用いられることがありますが、依存性のリスクがあるため、長期的な使用は慎重に行われます。

薬物療法は、精神療法と組み合わせて行われることが最も効果的とされています。
薬によって症状が安定することで、精神療法への取り組みが容易になる場合もあります。
薬の種類や量、服用期間は、医師が個々の状態を慎重に評価した上で決定します。

入院治療

パーソナリティ障害の治療において入院が必要となるのは、主に以下のような状況です。

  • 重度の症状: 自傷行為や自殺企図のリスクが高い場合。
  • 危機的な状況: 感情の不安定さが極めて強く、家庭や社会での生活が困難になっている場合。
  • 併存疾患の重症化: うつ病や精神病症状、物質使用障害などが重症化し、外来治療では対応が難しい場合。
  • 集中的な治療: 外来では十分な効果が得られない場合に、集中的な精神療法や薬物調整を行う目的。
  • 環境調整: ストレスの多い環境から離れ、安全な環境で治療に専念する必要がある場合。

入院治療では、安全な環境で医療スタッフによるサポートを受けながら、集中的な精神療法、薬物調整、集団療法、作業療法などが提供されます。
これにより、症状の安定化を図り、その後の社会生活への適応に向けた準備を行います。
入院期間は症状や治療目標によって異なりますが、短期的な危機介入から、より長期的な回復プログラムまで様々です。

入院治療はあくまで一時的な選択肢であり、最終的な目標は外来治療に移行し、地域社会で安定した生活を送れるようになることです。

パーソナリティ障害は完治するのか?

パーソナリティ障害における「完治」の定義は難しい問題です。
なぜなら、パーソナリティは個人の根本的なあり方に関わるものであり、「完全に消える」というよりは、偏りが改善され、社会生活における困難が軽減されることを目指す場合が多いからです。

パーソナリティ障害は慢性的な経過をたどることが少なくありませんが、適切な治療とサポートによって、症状が大幅に改善し、社会的な適応能力が向上することは十分に可能です。
多くの人が、かつてのような極端な思考や感情、対人関係のパターンから抜け出し、より穏やかで安定した生活を送れるようになります。

特に、境界性パーソナリティ障害はかつて治療が難しいとされていましたが、弁証法的行動療法(DBT)などの専門的な精神療法が開発されて以来、多くの研究で症状の改善率が高いことが報告されています。
衝動性や自傷行為、自殺企図といった劇的な症状が軽減されることで、生活の質が大きく向上することが期待できます。

他のタイプのパーソナリティ障害も、それぞれの特徴に合わせた精神療法によって、対人関係のスキルを学んだり、歪んだ認知パターンを修正したり、不安や依存を克服したりすることが可能です。

完治という言葉を使うよりも、「回復」や「症状の寛解(症状が軽くなり、診断基準を満たさなくなること)」、あるいは「より生きやすいパーソナリティ特性へと変化させること」といった表現の方が適切かもしれません。
治療の目標は、診断名がなくなることだけではなく、本人が生きづらさを感じにくくなり、自分らしく社会の中で穏やかに暮らせるようになることです。

治療開始の時期、治療への本人の意欲、周囲のサポートの状況、併存疾患の有無など、様々な要因が回復の経過に影響します。
諦めずに、根気強く治療に取り組むことが大切です。

パーソナリティ障害のある方への接し方

パーソナリティ障害のある方との関わりは、本人にとっても周囲にとっても困難を伴うことがあります。
特にB群のパーソナリティ障害などでは、感情の不安定さや衝動的な言動によって、周囲が疲弊したり、関係性が悪化したりしやすい傾向があります。
しかし、適切な知識を持ち、接し方を工夫することで、本人を支え、良好な関係性を築くことが可能になります。

本人への接し方

パーソナリティ障害のある本人と接する際には、以下の点を心がけることが大切です。

  • 一方的な決めつけを避ける: 「わがまま」「性格が悪い」などと決めつけず、その言動の背景にある苦痛や不安を理解しようと努める姿勢が重要です。
    パーソナリティ障害は病気であり、本人の意志だけでコントロールできるものではないという認識を持つことが出発点です。
  • 落ち着いて話を聞く: 感情的な言動や批判的な態度に直面しても、可能であれば冷静に対応することを心がけましょう。
    感情的に反論したり、言い争いになったりすると、状況が悪化しやすいです。
    まずは本人の話に耳を傾け、感情を受け止める姿勢を示すことが大切です。
  • 境界線を明確にする: 本人の要求に全て応じたり、過度に世話を焼いたりすることは、依存を強めたり、周囲が疲弊したりすることに繋がります。
    できることとできないことを明確に伝え、健康的な境界線を設定することが重要です。
    例えば、「夜中の電話には出られない」「お金は貸せない」など、具体的なルールを決めることも有効です。
  • 専門家への相談を勧める: パーソナリティ障害の治療は専門家による精神療法が中心です。
    本人に治療の必要性を感じてもらい、精神科医や臨床心理士に相談することを勧めましょう。
    しかし、本人が治療を拒否する場合、無理強いは逆効果になることもあります。
    まずは相談機関を紹介したり、治療へのメリットを伝えたりするなど、根気強く働きかけることが必要ですし、ご家族など周囲の方が先に相談に行くことも有効です。
  • 肯定的な面に注目する: 困難な側面に目を向けがちですが、本人の努力や改善された点、持っている良い特性にも注目し、肯定的なフィードバックを伝えることも、本人の自己肯定感を高め、治療へのモチベーションに繋がります。
  • 自傷行為や自殺企図への対応: 自傷行為や自殺を示唆する言動があった場合は、決して軽く見ないでください。
    冷静に対応しつつ、安全を確保し、早急に精神科医や救急医療機関に連絡するなど、専門家の介入が必要です。

周囲(家族や友人)への接し方

パーソナリティ障害のある人の周囲にいる人々は、大きな負担やストレスを抱えやすいです。
自分自身の心身の健康を守るためにも、以下の点を意識しましょう。

  • 自分自身の心身の健康を大切にする: 本人のサポートに力を注ぎすぎて、自身の体調を崩したり、孤立したりしないように注意が必要です。
    休息を十分に取る、趣味や友人と過ごす時間を持つなど、自分自身のケアを怠らないでください。
  • 一人で抱え込まない: パーソナリティ障害に関する問題は複雑であり、一人で解決しようとするのは困難です。
    家族や友人、あるいは専門家や同じ境遇の人々(自助グループなど)と悩みを共有し、サポートを求めることが大切です。
  • パーソナリティ障害について学ぶ: パーソナリティ障害に関する正しい知識を持つことは、本人の言動を理解し、適切な対応を考える上で非常に役立ちます。
    関連書籍を読んだり、講演会に参加したり、専門家から情報を得たりしましょう。
  • サポートグループの活用: パーソナリティ障害のある家族や友人を持つ人のためのサポートグループや家族会があります。
    同じ経験を持つ人々と繋がることで、共感を得られたり、具体的な対処法を学んだり、孤立感を軽減したりすることができます。
  • 専門家への相談を検討する: 本人が治療を拒否している場合でも、家族や周囲の人が精神保健福祉センターや精神科の家族相談などを利用し、専門家からアドバイスを得ることは可能です。
    どのように本人に接すれば良いか、どのようなサポートが有効かなどを相談できます。

パーソナリティ障害のある人への接し方は、簡単なことではありません。
しかし、理解しようとする姿勢と、適切なサポート体制を整えることで、本人も周囲もより穏やかに過ごせる可能性が高まります。

どこに相談すれば良いか

パーソナリティ障害かもしれないと感じた場合や、パーソナリティ障害と診断された本人またはその周囲の人々が困難を抱えている場合、一人で悩まず専門的なサポートを求めることが重要です。
相談できる場所はいくつかあります。

精神科・心療内科

パーソナリティ障害の診断や治療の中心となるのは、精神科や心療内科です。
パーソナリティ障害の診断は専門的な知識と経験が必要であるため、まずはこれらの医療機関を受診し、医師の診察を受けることを強く推奨します。

  • 精神科: 精神疾患全般の診断・治療を専門としています。
    パーソナリティ障害の診断、薬物療法の処方、精神療法の手配などを行います。
  • 心療内科: 主にストレスや心の状態が体に不調として現れた病気(心身症)を扱いますが、精神的な問題全般についても相談できます。
    パーソナリティ障害についても相談可能ですが、専門的な治療は精神科で行われることが多いです。

精神科や心療内科を受診する際は、事前に電話などで予約が必要な場合があります。
また、パーソナリティ障害の治療(特に専門的な精神療法)に対応しているかどうかを事前に確認しておくと良いでしょう。

精神保健福祉センター

精神保健福祉センターは、各都道府県や政令指定都市に設置されている公的な相談機関です。
精神的な問題を抱える本人や家族からの相談を、精神科医、保健師、精神保健福祉士、臨床心理士などの専門職が受け付けています。

  • パーソナリティ障害かもしれないという漠然とした不安がある段階でも相談できます。
  • 診断のプロセスや、どのような医療機関を受診すれば良いかなどの情報提供が受けられます。
  • 診断後の治療に関する相談、社会資源(福祉サービスなど)の活用に関する情報提供も行っています。
  • 家族からの相談も受け付けており、本人への接し方や、家族自身の心のケアについてもアドバイスを得られます。

電話相談や面接相談があり、費用は原則無料です。
まずは最寄りの精神保健福祉センターに連絡してみると良いでしょう。

その他の相談窓口

上記以外にも、パーソナリティ障害に関する相談が可能な窓口があります。

  • 保健所: 地域住民の健康に関する相談を受け付けています。
    精神保健に関する相談窓口も設置されている場合があります。
  • いのちの電話などのNPO法人: 緊急性の高い精神的な苦痛や自殺念慮などについて、匿名で相談できる窓口です。
    危機的な状況にある場合に利用できます。
  • 自助グループ・家族会: パーソナリティ障害のある本人や、その家族が、同じ経験を持つ人々が集まって支え合うグループです。
    自身の経験を語ったり、他者の話を聞いたりすることで、孤立感を軽減し、問題への対処法を学べます。

どこに相談するか迷う場合は、まずは精神保健福祉センターに連絡してみるのがおすすめです。
適切な相談先へと繋げてもらえる可能性があります。

【まとめ】パーソナリティ障害について

パーソナリティ障害は、個性の範疇を超えた思考、感情、対人関係、衝動性の偏りによって、社会生活に困難をもたらす精神疾患です。
診断には専門的な知識が必要であり、DSM-5やICD-10といった国際的な基準に基づいて行われます。
原因は一つではなく、生物学的、環境的、心理的な複数の要因が複雑に絡み合っていると考えられています。

症状はタイプによって大きく異なり、DSM-5ではA群(奇妙で風変わり)、B群(劇的で感情的、衝動的)、C群(不安や恐れが強い)の3つのクラスターに分類される10のタイプがあります。
最も多く報告されるのは境界性パーソナリティ障害や回避性パーソナリティ障害といった傾向がありますが、個人差が大きく、複数のタイプの特徴を持つ人も少なくありません。

パーソナリティ障害は、かつて治療が難しいと考えられていましたが、弁証法的行動療法(DBT)やスキーマ療法など、専門的な精神療法によって症状を大幅に改善し、生きづらさを軽減することが十分に可能であることが分かっています。
薬物療法は、併存する症状に対して補助的に用いられます。

パーソナリティ障害のある方やその周囲にいる人々が抱える困難は少なくありませんが、病気について正しく理解し、一人で抱え込まず、精神科や精神保健福祉センターなどの専門機関に相談することが回復への第一歩となります。
適切なサポートと継続的な治療によって、本人も周囲もより穏やかで安定した生活を送れるようになる希望があります。

免責事項

この記事はパーソナリティ障害に関する一般的な情報提供を目的としており、医学的なアドバイスや診断、治療の代替となるものではありません。
個々の症状や状況に関する正確な診断や治療については、必ず精神科医や心療内科医などの専門家にご相談ください。
この記事の情報に基づいて読者が被ったいかなる損害についても、筆者および公開元は一切の責任を負いません。

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