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ASDに向いている仕事の探し方|特性を活かす働き方を見つけよう

ASD(自閉スペクトラム症)の特性は、仕事において強みになることもあれば、困難に感じる要因となることもあります。この記事では、ASDの仕事における特性、直面しやすい困難とその対処法、特性を活かせる仕事や仕事探しのコツ、そして困った時の相談先について詳しく解説します。ご自身の特性を理解し、自分に合った働き方を見つけるための参考にしてください。

目次

ASDの仕事における特性と向き合い方

ASD(自閉スペクトラム症)は、発達障害の一つです。以前は自閉症、アスペルガー症候群、広汎性発達障害などがそれぞれ診断されていましたが、現在は診断名がDSM-5(精神疾患の診断・統計マニュアル第5版)で「自閉スペクトラム症」に統一されています。スペクトラムという言葉が示す通り、その特性の現れ方や程度は一人ひとり大きく異なります。

仕事において、ASDの特性がどのように影響するのか、そしてどのように向き合っていくのかを理解することが、自分に合った働き方を見つける第一歩となります。

ASDの主な特性とは?

ASDの主な特性は、大きく分けて以下の3つの領域に関連すると言われています。ただし、これらの特性が全ての人に同じように、同じ程度現れるわけではありません。

  • 対人関係やコミュニケーションの困難:

    • 言葉を字義通りに受け取ってしまう(皮肉や比喩が分かりにくい)。
    • 相手の表情や声のトーン、行間から気持ちを察することが苦手。
    • 自分の気持ちや意図を言葉で表現するのが苦手。
    • 一方的に話しすぎてしまったり、相手の話を聞くタイミングが分からなかったりする。
    • 暗黙のルールや場の空気を読むのが難しい。
    • 特定の話題に強いこだわりを持ち、その話ばかりしてしまう。
  • 限定された興味・関心や反復的な行動:

    • 特定の物事や分野に強い興味を持ち、深く探求することに没頭する。
    • 同じ手順やルーティンを好む(変化を嫌う傾向)。
    • 特定の感覚刺激(音、光、手触りなど)に強いこだわりを持つ。
    • 体を揺らすなどの反復行動(スティミング)が見られることがある。
  • 感覚の過敏さ、または鈍感さ:

    • 特定の音、光、匂い、感触などに耐えられないほどの苦痛を感じる(感覚過敏)。
    • 逆に、痛みや空腹、疲労などを感じにくいことがある(感覚鈍感)。
    • 人ごみや騒がしい場所などが非常に苦手。

これらの特性は、日常生活だけでなく、仕事の場面でも様々な形で現れます。

なぜASDの人は仕事で困難を感じやすいのか?

ASDの特性自体が「悪い」というわけではありません。しかし、特性と一般的な日本の職場で求められる働き方やコミュニケーションスタイルとの間にミスマッチが生じることで、困難を感じやすくなることがあります。

例えば、多くの職場では、明確な指示だけでなく「空気を読む」ことや「言外の意味を察する」ことが求められます。また、急な予定変更や複数のタスクを同時並行で進める柔軟性が必要とされる場面も多いです。

ASDの特性として、言葉をそのまま受け取りたい、曖昧な指示が苦手、急な変化に対応しにくい、特定のことに集中すると他のことが見えにくくなる、といった傾向がある場合、これらの一般的な職場の要求とぶつかってしまい、仕事の効率が落ちたり、人間関係で悩んだりすることが増える可能性があります。

もちろん、これらの特性は裏を返せば素晴らしい強みにもなり得ます。特定の分野への深い集中力、論理的な思考力、細部へのこだわり、正確性などは、特定の業務においては非常に大きな武器となります。仕事における困難は、特性そのものというよりは、「特性が活かされない環境」「特性に配慮されない環境」にあることが多いのです。

ASDの仕事で直面しやすい困難とその具体例

ASDの人が仕事で具体的にどのような困難に直面しやすいのかを理解することで、適切な対処法や対策を考えやすくなります。ここでは、よくある困難とその具体例をいくつかご紹介します。

コミュニケーションの困難(報告・連絡・相談)

職務遂行において不可欠な報連相(報告・連絡・相談)は、ASDの特性によって難しさを感じやすい場面の一つです。

  • 具体例:

    • 上司から「この件、どうなった?」と聞かれた際に、事実だけを簡潔に報告すれば良いのか、経緯や今後の見通しも含めて詳しく報告すべきなのかが分からず、報告が遅れたり、内容が不十分になったりする。
    • 同僚との雑談や休憩時間の会話で、冗談や社交辞令が理解できず、場がしらけてしまったり、意図せず相手を傷つけてしまったりする。
    • 困ったことがあっても、「こんなことを聞いたら迷惑ではないか」「どのように説明すれば状況が伝わるか分からない」と考えてしまい、誰にも相談できずに抱え込んでしまう。
    • 電話応対が苦手で、相手の状況を把握したり、適切な言葉遣いを瞬時に判断したりするのが難しい。
    • 指示が曖昧だとどうしていいか分からず立ち止まってしまい、確認しようにもどう聞けば良いか分からない。

変化への適応困難(急な予定変更、人事異動)

多くのASDの人は、予測可能で構造化された環境を好みます。そのため、急な予定変更や予期せぬ出来事への対応が苦手な場合があります。

  • 具体例:

    • 「明日の会議の時間が〇時からに変更になりました」という急な連絡にパニックになり、その後のタスクの段取りが全て崩れてしまい、混乱してしまう。
    • 担当業務や部署が突然変わることになり、新しい環境や人間関係、業務内容に馴染むのに強いストレスを感じ、体調を崩してしまう。
    • いつも利用している通勤経路の一部が工事で通行止めになり、代替ルートを見つけるのに時間がかかったり、不安を感じたりする。
    • 予期せぬトラブルが発生し、マニュアルにない対応を求められた際に、どう判断して行動すれば良いか分からずフリーズしてしまう。

ルールや暗黙の了解の理解

社会には明文化されていない「暗黙の了解」や、その場その場で求められる柔軟な対応が多く存在します。ASDの特性として、ルールはルールとして厳密に守りたい、曖昧な指示や状況判断が難しい、といった傾向があると、これが困難につながることがあります。

  • 具体例:

    • 「〇時までに提出」という指示に対し、文字通り〇時ちょうどに提出したが、実際にはもっと早く提出することが期待されていた、ということに気づかず、他の人に迷惑をかけてしまう。
    • 職場の飲み会やイベントへの参加が「任意」とされているが、実際には参加しないと協調性がないとみなされる、といった職場の雰囲気を察することができない。
    • 書類のファイリング方法や共有フォルダの使い方が、明確なルールではなく慣習で決まっている場合、どのように整理すればよいか分からず困る。
    • 「言わなくても分かるだろう」という前提で進められる業務や人間関係において、自分だけ状況を把握できず孤立してしまう。

感覚過敏による疲れやすさ

特定の感覚刺激に対する過敏さは、職場環境によっては日々の大きな負担となり、疲れやすさや集中力の低下につながります。

  • 具体例:

    • 職場の蛍光灯の光が眩しすぎて、長時間集中して作業するのが難しい。
    • 周りの人のタイピング音や話し声が気になってしまい、自分の業務に集中できない。
    • 特定の素材の制服や空調の風が肌に触れるのが不快で、ストレスを感じる。
    • お昼休憩中の食堂の騒がしさや、特定の食べ物の匂いが苦手で、十分に休憩できない。
    • 満員電車での通勤が非常に苦痛で、会社に着くまでにエネルギーを消耗してしまう。

体調や状態の把握の難しさ

ASDの特性の中には、自分の体の感覚や感情の動きを把握するのが苦手な場合があります。これにより、疲れや不調に気づかずに無理をしてしまったり、感情をうまくコントロールできなかったりすることがあります。

  • 具体例:

    • 集中して業務に取り組んでいると、食事や休憩の時間を忘れてしまい、空腹や疲労に気づかずに倒れてしまう寸前になる。
    • ストレスが溜まっていても、その原因や感情(怒り、不安など)を自覚するのが難しく、突然爆発してしまったり、理由の分からない不調が続いたりする。
    • 感覚過敏による不快感を「ちょっと気になる」程度にしか認識できず、実は相当なストレスになっていることに気づかないまま働き続け、燃え尽きてしまう。
    • 体温調節が苦手で、暑さや寒さを感じにくく、体調を崩しやすい。

これらの困難は、ASDの特性を持つ人だけが経験するものではありませんが、特性によってより強く感じられたり、対処が難しくなったりする傾向があります。これらの困難を乗り越え、自分らしく働くためには、まず自身の特性を理解し、適切な対処法や環境調整、そして時には周囲のサポートを得ることが重要です。

ASDの特性を活かせる仕事・向いている職業とは?

ASDの特性は、仕事において困難をもたらす一方で、特定の分野や業務においては強力な強みとなります。ここでは、ASDの強みを活かせる仕事選びのポイントと、向いている可能性のある具体的な職業についてご紹介します。

ASDの強みを活かせる仕事選びのポイント

ASDの人が仕事を選ぶ際に考慮したいのは、「自分の特性(強みと苦手)を理解し、それを活かせる環境や業務内容であるか」という点です。

強み:集中力、論理的思考力、正確性など

ASDの特性は、以下のような仕事における強みにつながることが多いです。

  • 高い集中力と持続力: 興味のある分野や繰り返し行う作業に対し、高い集中力を持続させ、長時間没頭できる。
  • 論理的思考力と問題解決能力: 物事を論理的に分析し、体系的に理解するのが得意。複雑な問題を解決する糸口を見つけ出すことができる。
  • 細部への注意と正確性: 細かいミスを見つけたり、マニュアルや手順に沿って正確に作業をこなしたりするのが得意。品質管理や点検業務などで強みを発揮する。
  • 特定の分野への深い知識: 強い興味を持った分野について、専門家顔負けの知識を身につけていることがある。
  • 規則性やパターン認識: データや情報の中から規則性やパターンを見つけ出すのが得意。
  • 正直で誠実: 不誠実なことやルール違反を嫌い、真面目に業務に取り組む。
  • 一つのことに集中できる: 複数のことを同時に行うのは苦手でも、一つのタスクに集中して取り組むことで高いパフォーマンスを発揮できる。

これらの強みが活かせる仕事は、以下のような特徴を持つことが多いです。

  • 明確なルールや手順がある仕事: 曖昧さが少なく、やるべきことが明確に定義されている業務。
  • 一人で集中して取り組める仕事: 周囲とのコミュニケーションが頻繁に必要なく、自分のペースで作業を進められる業務。
  • 特定の専門知識やスキルを深める仕事: 興味のある分野を深く掘り下げ、専門性を高めることが評価される業務。
  • 論理的な分析やデータ処理が必要な仕事: 事実やデータに基づいて物事を判断し、分析する能力が求められる業務。
  • 正確性や緻密さが重要視される仕事: 細かい作業を正確に行うことが求められる業務。

特性を理解してくれる環境

どのような仕事内容であっても、働く環境は非常に重要です。自身の特性を理解し、必要な配慮やサポートを提供してくれる職場であれば、より安心して長く働くことができます。

  • 具体的な環境の特徴:

    • 指示が明確で、曖昧な表現が少ない。
    • 疑問点や困ったことを質問しやすい雰囲気がある。
    • 急な予定変更や業務の変更が少なく、見通しが立てやすい。
    • 騒音や光など、感覚過敏を刺激する要因が少ない、または軽減する工夫がされている。
    • 休憩時間を確保しやすい、一人になれる場所がある。
    • 業務内容や職場のルールが明文化されている。
    • 定期的に上司や担当者と面談し、困りごとや体調について相談できる機会がある。
    • 障害者雇用枠があり、特性に応じた配慮が期待できる。

ASDの方に向いている可能性のある仕事一覧

上記のポイントを踏まえ、ASDの方に向いている可能性のある仕事や職業をいくつかご紹介します。ただし、これはあくまで可能性であり、一人ひとりの興味やスキル、特性によって合う仕事は異なります。

経理事務

  • 業務内容: 伝票処理、帳簿記帳、請求書作成、データ入力、書類整理など。
  • ASDの特性との関連:

    • 数字や細かいデータを扱う正確性が求められるため、細部への注意や正確性が強みになる。
    • 決められた手順に沿って繰り返し作業することが多いため、ルーティンワークを好む特性が活かせる。
    • 比較的一人で集中して取り組める業務が多い。
    • コミュニケーションは定型的なやり取りが多く、人間関係の複雑さが少ない場合がある。

プログラマー・コーダー

  • 業務内容: プログラミング言語を用いてシステムやソフトウェアを開発する、Webサイトのコードを書くなど。
  • ASDの特性との関連:

    • 論理的な思考力と問題解決能力が不可欠であり、ASDの得意なパターン認識や分析能力が活かせる。
    • 仕様書やマニュアルに基づいて正確にコードを書く作業は、細部へのこだわりや正確性が強みになる。
    • プログラミング自体に強い興味を持つ人も多く、没頭して取り組める。
    • 在宅勤務やフレックスタイム制など、柔軟な働き方が可能な場合がある。

Webデザイナー

  • 業務内容: Webサイトやアプリケーションのレイアウト、配色、画像などのデザインを行う。
  • ASDの特性との関連:

    • デザインにおけるルールや構造を体系的に理解し、細部にこだわって作り込む作業は、論理的思考力や細部への注意が活かせる。
    • 特定の技術やツールに強い興味を持ち、深く探求することに没頭できる。
    • 個人のスキルやセンスが重要視される部分があり、対人コミュニケーションよりも成果物で評価されやすい。

データアナリスト

  • 業務内容: 大量のデータを収集・分析し、ビジネス上の課題解決や意思決定に役立つ知見を抽出する。
  • ASDの特性との関連:

    • データの中から規則性やパターンを見つけ出し、論理的に分析する能力は、ASDの得意とする分野。
    • 数字や統計的な情報処理に集中して取り組める。
    • 客観的なデータに基づいた報告や提案は、曖昧さの少ないコミュニケーションスタイルと合致しやすい。

Webライター

  • 業務内容: Webサイトの記事やブログ、商品説明文などの文章を執筆する。
  • ASDの特性との関連:

    • 特定のテーマについて深く調べ、分かりやすく論理的に文章を構成する能力は、高い集中力と論理的思考力が活かせる。
    • 文字情報でのコミュニケーションが中心となるため、対面での会話よりも負担が少ない場合がある。
    • 在宅で一人で作業できる環境を選びやすい。
    • 誤字脱字や表現の正確性にこだわる姿勢は、質の高い文章作成につながる。

ゲームテスター

  • 業務内容: 開発中のゲームをプレイし、バグ(不具合)を見つけたり、改善点を報告したりする。
  • ASDの特性との関連:

    • ゲームそのものや特定の作業に強い興味を持ち、長時間集中して取り組める。
    • 細部に注意を払い、異常や規則性のズレ(バグ)を見つけ出す能力が活かせる。
    • 決められた手順や条件で繰り返しテストを行う作業に適している。
    • 報告は定型的なフォーマットで行うことが多く、コミュニケーションの負担が少ない場合がある。

軽作業

  • 業務内容: 工場や倉庫での商品の仕分け、検品、梱包、組み立てなど。
  • ASDの特性との関連:

    • 繰り返し行う定型作業が多く、手順が明確な場合が多い。
    • 一人で黙々と作業に集中できる環境がある。
    • 製品の異常を見つける検品作業などでは、細部への注意力が活かせる。
    • 対人コミュニケーションが最小限で済む場合がある。

その他の専門職・研究職など

上記以外にも、ASDの特性が活かせる可能性のある仕事は多岐にわたります。例えば、以下のような分野も考えられます。

  • 研究職: 特定の分野を深く掘り下げ、論理的な思考で新しい発見を目指す。
  • 図書館司書: 資料の分類や整理、データ管理など、正確性と体系的な思考が求められる。
  • 品質管理: 製品の品質を細かくチェックし、基準を満たしているか確認する。
  • 校正・校閲: 文章の誤字脱字や表現の不備を見つけ、正確性を追求する。
  • 動物の飼育・調教: 動物に対する深い興味や、規則性のある作業への集中力が活かせる。

重要なのは、これらの職業リストを鵜呑みにするのではなく、あくまで可能性として捉え、ご自身の興味や強み、苦手なことを踏まえて、実際にどんな仕事があるのか、どんな環境で働くのかを具体的に調べてみることです。インターンシップや職場見学などを通じて、実際に体験してみることも有効です。

ASDの方が仕事で長く続けるための対策・工夫

ASDの特性によって仕事で困難を感じやすい場合でも、適切な対策や工夫をすることで、問題を軽減し、長く安定して働くことが可能になります。ここでは、具体的な対処法と、働き方を変える選択肢について解説します。

仕事で直面する困難への具体的な対処法

先に挙げた仕事上の困難に対し、個人や職場で実践できる具体的な対策はたくさんあります。

コミュニケーションの円滑化

  • 指示や質問は具体的に、簡潔に: 曖昧な指示や、複数の内容が混ざった指示は混乱の原因となります。上司や同僚には、「〇〇について、いつまでに、何をすればよいか」のように、具体的に伝えてもらうようお願いしたり、自身も具体的に聞き返す練習をしましょう。
  • 報連相のルールを決める: 報告のタイミング(例:業務終了時、週に一度など)、報告内容のフォーマット(例:箇条書きで簡潔に、メールで送るなど)、相談してよいこと・判断を仰ぐべきことの基準などを明確にすることで、迷いを減らすことができます。
  • メモや筆談を活用する: 聞き取りが苦手な場合や、口頭での説明が難しい場合は、メモを取りながら聞いたり、筆談やチャット、メールでのやり取りを増やしたりすることで、誤解を防ぎ、内容を後から確認できるようにしましょう。
  • 休憩時間や業務時間外の人間関係は無理しない: 雑談や飲み会が苦手なら、無理に参加せず、仕事に必要な最低限のコミュニケーションに留めることも大切です。挨拶や業務連絡など、必要なやり取りは丁寧に行いましょう。

変化への準備と対応

  • 予定やタスクの可視化: 一日のスケジュールや週間のタスクを、カレンダーアプリやToDoリスト、紙のノートなどを使って明確に書き出し、常に確認できるようにすることで、見通しが立ちやすくなり、急な変更にも心の準備をしやすくなります。
  • 変更があった場合の対応手順を決めておく: 「予定が変わったらまず〇〇さんに報告する」「新しいタスクが入ったら、まずタスクリストに追加し、優先順位を再確認する」など、あらかじめ変更があった際の行動パターンを決めておくと、混乱を防ぎやすくなります。
  • クッション言葉を使う練習をする: 急な変更や予期せぬ事態への対応に時間がかかることを伝えたい場合、「少しお時間をいただけますでしょうか」「〇〇について確認させてください」といったクッション言葉を使うことで、相手に配慮しつつ自分のペースを保つことができます。

作業手順やルールの明確化

  • 業務マニュアルの作成・活用: 自分にとって理解しやすい形で、業務の具体的な手順や注意点をまとめたマニュアルを作成しましょう。既存のマニュアルがあれば、不明点を解消し、自分なりに書き加えて分かりやすくしても良いです。
  • ルールや暗黙の了解を確認する: 職場のルールや慣習で分からないことがあれば、「この場合はどのようにすれば良いですか?」「皆さん、どのようにされていますか?」など、遠慮せずに具体的に質問して確認しましょう。確認する相手やタイミングを決めておくと質問しやすくなります。
  • 整理整頓を徹底する: 自分のデスク周りやPC内のデータを整理整頓し、物の場所やファイルの保存場所を決めておくことで、必要なものを探す時間を減らし、作業効率を高めることができます。

体調管理・感覚過敏への配慮

  • 休憩を計画的に取る: 集中すると休憩を忘れてしまう場合は、アラームをセットするなどして、意識的に休憩時間を確保しましょう。短い休憩をこまめに取るのも効果的です。
  • 感覚過敏への対策: 職場で可能な範囲で、感覚過敏を軽減する工夫を取り入れましょう。
    • 騒音が気になる場合:耳栓やノイズキャンセリングヘッドホン(業務に支障がない範囲で)を使用する、静かな場所に移動して作業する。
    • 光が気になる場合:デスクの配置を調整する、PCの輝度を下げる、ブルーライトカット眼鏡を使用する。
    • 匂いが気になる場合:特定の場所を避ける、換気を心がける。
    • 休憩場所:一人で落ち着ける場所を確保する。
    • 上司に相談し、特性を理解してもらい、可能な範囲で環境調整をお願いすることも重要。(後述の合理的配慮にも関連します)
  • 体調の変化に気づくサインを決めておく: 「肩が凝ったら休憩する」「頭が痛くなったら薬を飲むか早退を検討する」など、自分の体調の変化に気づくための具体的なサインと対処法をあらかじめ決めておくと、無理を防ぎやすくなります。信頼できる家族や友人、支援者に日頃から体調について話す習慣をつけるのも良いでしょう。

感情のコントロール

  • ストレスの原因と対処法を記録する: どんな時に、どんなことでストレスや強い感情を感じるかを記録し、パターンを把握しましょう。そして、その状況で使える自分なりの対処法(例:深呼吸する、その場を離れる、信頼できる人に話す、休憩を取るなど)を見つけて実践します。
  • クールダウンの場所や方法を決めておく: 強い感情が湧き上がった時に、一時的に感情を落ち着かせるための場所(例:会議室の空き部屋、休憩室、会社の外など)や方法(例:トイレで一人になる、好きな音楽を聞く、軽い運動をするなど)をあらかじめ決めておくと、感情的に爆発してしまうのを防ぎやすくなります。

働き方を変える選択肢(障害者雇用、在宅ワークなど)

現在の働き方で困難が大きい場合は、働き方自体を見直すことも有効な選択肢です。

  • 障害者雇用: 自身の障害(ASD)についてオープンにし、障害者手帳を取得した上で、企業に障害者雇用枠で応募する働き方です。企業側は障害に対する理解があり、特性に応じた合理的配慮(勤務時間、業務内容、コミュニケーション方法、環境調整など)を提供してくれることが期待できます。安定した雇用につながりやすいメリットがあります。
  • 一般雇用での合理的配慮: 障害者手帳の有無にかかわらず、一般雇用で働きながら企業に自身の特性を伝え、業務遂行上の困難を軽減するための配慮(例:指示を具体的に出す、騒音対策をするなど)を求めることも可能です。法律(障害者差別解消法、改正障害者雇用促進法)で、事業主は障害のある労働者に対し、過重な負担にならない範囲で合理的配慮を提供することが求められています。
  • 在宅ワーク: 自宅など、自分で環境を調整しやすい場所で働くスタイルです。満員電車での通勤や職場の騒音、予期せぬ対人コミュニケーションなど、感覚過敏や対人関係の困難を軽減できる可能性があります。ただし、自己管理能力や、オンラインでのコミュニケーションスキルが必要になります。
  • フリーランス: 組織に属さず、個人で仕事を受注する働き方です。業務内容や働く時間、場所などを自分でコントロールできる自由度が高い反面、収入が不安定になりやすく、営業活動や事務処理なども自分で行う必要があります。特定のスキル(プログラミング、Webデザイン、ライティングなど)を持つ場合に検討できます。
  • 就労継続支援: 障害や難病のある方が、一般企業での就労が困難な場合に、雇用契約を結ばずに(B型)または雇用契約を結んで(A型)、支援を受けながら働くことができる福祉サービスです。軽作業や事務補助など、本人のペースに合わせた作業を行い、就労に必要な知識や能力の向上を目指します。
働き方の種類 特徴 メリット デメリット 向いている可能性のある人
一般雇用 障害をオープンにしない、または伝えて合理的配慮を求める働き方。多くの求人がある。 幅広い職種から選べる。キャリアアップの可能性がある。 自身の特性に理解がない職場だと困難を感じやすい。配慮が得られない場合がある。 特性の程度が比較的軽度で、自己管理や職場への適応にある程度自信がある人。合理的配慮を適切に要求できる人。
障害者雇用 障害をオープンにし、企業からの合理的配慮を得ながら働く。 特性への理解や配慮が得られやすい。安定した雇用につながりやすい。職域が限定される傾向がある。 一般雇用に比べて求人数が少ない。業務内容が限定される場合がある。 特性による困難が大きく、職場の理解や配慮が不可欠な人。障害者手帳を取得している人。
在宅ワーク 自宅などで、自分で環境を調整して働く。 通勤の負担がない。感覚過敏の軽減。自分のペースで仕事ができる。 自己管理能力が必要。孤独を感じやすい。オンラインでのコミュニケーションスキルが必要。人間関係が希薄になりがち。 通勤や職場環境によるストレスが大きい人。自己管理が得意な人。特定のスキルがある人。
フリーランス 組織に属さず、個人で仕事を受注・遂行する。 働く時間や場所、仕事内容を自分で決められる。特定のスキルを活かせる。 収入が不安定。事務処理や営業も自分で行う必要がある。 特定の専門スキルを持ち、自己管理や営業活動ができる人。組織での働き方に困難を感じる人。
就労継続支援(A/B型) 雇用契約を結んで(A型)または結ばずに(B型)、支援を受けながら働く福祉サービス。 職員のサポートを得ながら、自分のペースで働くことができる。一定の収入が得られる(A型)。 賃金が比較的低い場合がある(B型)。一般就労とは異なる環境。 一般企業での就労が困難な人。支援を受けながら働くことで安定したい人。

どの働き方を選ぶかは、ご自身の特性、経験、スキル、希望、そして利用できる社会資源などを総合的に考慮して決定することが重要です。迷う場合は、後述する相談先に話を聞いてみるのも良いでしょう。

ASDの方が仕事や働き方で悩んだ時の相談先

ASDの特性によって仕事や働き方で悩んだ時、一人で抱え込まずに相談できる場所があります。専門機関や支援団体のサポートを受けることで、自身の特性を理解し、適切な対処法を見つけたり、自分に合った働き方を探したりする手助けが得られます。

どこに相談できる?(医療機関、就労移行支援など)

仕事に関する悩みを相談できる主な窓口をいくつかご紹介します。

  • 医療機関(精神科、心療内科、発達障害専門外来など):

    • 役割: ASDの診断、特性に関する医学的なアドバイス、症状(不安、抑うつなど)に対する治療、服薬指導、カウンセリングなどを行います。仕事での困難が体調やメンタル面に影響している場合に相談できます。診断を受けていない場合は、まず診断や特性の評価を相談できます。
    • 利用方法: 受診したい医療機関に電話またはWebで予約します。初診時には、これまでの経緯や困りごとを詳しく伝えられるように準備しておくと良いでしょう。
  • 地域障害者職業センター:

    • 役割: 障害のある方に対して、職業評価、職業指導、職業準備訓練、職場適応援助(ジョブコーチ支援)、事業主への助言など、専門的な職業リハビリテーションを提供します。ASDの特性を踏まえた上で、どのような仕事が合っているか、どのように働けば安定するかなどを一緒に考えてくれます。
    • 利用方法: 各都道府県に設置されています。電話またはWebサイトから問い合わせ、予約を取ります。利用は無料です。
  • ハローワーク(公共職業安定所):

    • 役割: 一般的な職業相談・紹介のほか、障害のある方向けの専門窓口(専門援助部門など)があります。障害に関する知識を持つ担当者が、求職相談、求人紹介、就職活動の支援などを行います。障害者雇用枠の求人情報もここで得られます。
    • 利用方法: 最寄りのハローワークに行き、専門窓口に相談します。利用は無料です。
  • 就労移行支援事業所:

    • 役割: 一般企業への就職を目指す障害のある方に対して、働くために必要な知識やスキル向上のための訓練、自己理解の支援、企業での実習、就職活動のサポート、就職後の定着支援などをプログラムとして提供します。ASDの特性に特化したプログラムを提供している事業所もあります。
    • 利用方法: 地域の事業所を探し、見学や体験利用を申し込みます。利用には、市区町村から「障害福祉サービス受給者証」の交付を受ける必要があります。
  • 発達障害者支援センター:

    • 役割: 発達障害のある本人や家族からの様々な相談に応じ、必要な情報提供や助言、関係機関との連携調整などを行います。仕事に関する悩みだけでなく、生活全般の困りごとについても相談できます。
    • 利用方法: 各都道府県・指定都市に設置されています。電話やメールで相談の予約をします。利用は無料です。
  • 障害者就業・生活支援センター:

    • 役割: 障害のある方の身近な地域において、仕事と生活の両面の相談・支援を一体的に行います。就職に関する相談のほか、生活習慣、金銭管理、健康管理など、日常生活の課題についても相談できます。
    • 利用方法: 各都道府県に設置されています。電話や窓口で相談を受け付けています。利用は無料です。
  • 家族、友人、自助グループ:

    • 役割: 身近な存在として、悩みを聞いてくれたり、心の支えになったりします。同じような特性を持つ人の集まり(自助グループ)に参加することで、経験談を共有したり、具体的な対処法について情報交換したりすることもできます。
    • 利用方法: 安心して話せる相手を選んで相談してみましょう。自助グループについては、インターネットや支援機関で情報を得ることができます。

これらの相談先を上手に活用することで、一人で悩まず、自分に合ったペースで仕事に関する課題を解決していくことができるでしょう。

【まとめ】ASDの特性を理解し、自分らしい働き方を見つけよう

「ASD 仕事」というテーマで、ASDの仕事における特性、直面しやすい困難、特性を活かせる仕事、長く続けるための対策・工夫、そして相談先について解説しました。

ASDの特性は、仕事においてコミュニケーションや変化への対応、感覚過敏などによる困難をもたらす一方で、高い集中力、論理的思考力、正確性、特定の分野への深い知識といった強力な強みにもなります。これらの強みが活かせる仕事内容や、自身の特性に理解のある働き方、環境を選ぶことが、安定して長く働くための鍵となります。

仕事で困難を感じた場合は、具体的な対処法を試したり、必要に応じて上司や同僚に配慮をお願いしたり、働き方自体を見直すことも有効な選択肢です。障害者雇用や在宅ワークなど、多様な働き方があります。

また、一人で抱え込まず、医療機関、地域障害者職業センター、ハローワーク、就労移行支援事業所、発達障害者支援センターなどの専門機関に相談することも非常に重要です。専門家のサポートを受けることで、自身の特性をより深く理解し、具体的な解決策を見つけ出す手助けを得られます。

ASDだからといって、働くことができないわけではありません。自身の特性を理解し、自分に合った環境や働き方、そして適切なサポートを見つけることで、ASDの方も仕事を通じて自己実現し、社会に貢献することが十分に可能です。この記事が、あなたにとって自分らしい働き方を見つけるためのヒントとなれば幸いです。

免責事項: 本記事は、ASDの方の仕事に関する一般的な情報提供を目的としており、特定の個人に対する医学的診断、治療、アドバイスを行うものではありません。個別の状況については、必ず医療機関や専門機関にご相談ください。

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