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躁鬱(双極性障害)の症状と診断|セルフチェックの注意点と病院選び

躁鬱(双極性障害)は、気分の波が特徴的な精神疾患です。「躁状態」と「鬱状態」という対極にある気分が繰り返されることで、日常生活や社会生活に大きな影響を及ぼすことがあります。しかし、その症状は多様で、うつ病など他の病気と間違われやすいため、自分で判断するのは非常に難しいものです。正確な診断を受けることは、適切な治療につながり、症状をコントロールしながら自分らしい生活を取り戻すための第一歩となります。この記事では、躁鬱(双極性障害)の基本的な情報から、代表的な症状、自分でできるセルフチェック、そして専門医による診断プロセスについて詳しく解説します。もし気になる症状がある場合は、一人で悩まず、医療機関への受診を検討する際の参考にしてください。

躁鬱病と双極性障害について

かつて「躁鬱病」と呼ばれていた病気は、現在では主に「双極性障害」という名称で呼ばれるのが一般的です。これは、気分が「躁(そう)」の極と「鬱(うつ)」の極の間を揺れ動く(両極=バイポーラ)という病気の本質をより正確に表しているためです。

双極性障害は、一時的な気分の落ち込みや高揚とは異なり、その気分の変化が数日から数ヶ月といった比較的長い期間続き、日常生活や社会生活に支障をきたすほどのものです。脳の機能的な問題が関与していると考えられており、適切な治療によって症状を安定させることが可能です。

双極性障害には、主に「双極I型障害」と「双極II型障害」の二つのタイプがあります。

  • 双極I型障害: 少なくとも1回以上の「躁病エピソード」を経験したことがある場合に診断されます。大うつ病エピソードを経験している場合もありますが、躁病エピソードがあれば双極I型となります。
  • 双極II型障害: 少なくとも1回以上の「軽躁病エピソード」と1回以上の「大うつ病エピソード」を経験した場合に診断されます。躁病エピソードはありません。軽躁病エピソードは躁病エピソードよりも症状が軽いですが、それでも周囲に影響を与えることがあります。

この二つのタイプ以外にも、特定の基準を満たさないものの双極性障害に類似した状態(特定される、または特定不能の双極性障害および関連障害群)や、比較的軽度な気分の波が長く続く気分循環性障害なども含まれることがあります。

躁状態と鬱状態の繰り返し

双極性障害の最大の特徴は、文字通り「躁状態(または軽躁状態)」と「鬱状態」という、全く異なる気分の状態を繰り返すことです。これらの状態は「エピソード」と呼ばれ、それぞれ特定の期間、特定の症状が続くことで診断基準が設けられています。

  • 躁病エピソード: 気分が異常かつ持続的に高揚、開放的、または易怒的になり、並行して活動性や気力が異常かつ持続的に亢進する期間です。この期間は、通常1週間以上続きます。
  • 軽躁病エピソード: 躁病エピソードと同様の気分の高揚や活動性の亢進が見られますが、躁病エピソードほど重症ではなく、持続期間も通常4日以上と短いです。明らかな機能障害(仕事や学業、社会生活への支障)や入院の必要はなく、精神病的な症状(幻覚や妄想)を伴わない点が躁病エピソードとの大きな違いです。
  • 大うつ病エピソード: 気分がひどく落ち込み、今まで楽しめていた活動に興味や喜びを感じなくなる状態です。食欲や睡眠の変化、疲労感、集中力の低下、希死念慮など、様々な心身の症状を伴います。この状態は、通常2週間以上続きます。
  • 混合性エピソード: 躁状態と鬱状態の症状が、同時期に、または非常に急速に入れ替わりながら出現する状態です。例えば、気分は落ち込んでいるのに、頭の中は考えが駆け巡り、活動性は亢進している、といった状態です。非常に苦痛が強く、診断が難しい場合があります。

これらのエピソードが、病気の種類や個人によって様々なパターンで繰り返されます。エピソードとエピソードの間には、比較的症状が落ち着いている「寛解期」があることも一般的です。しかし、放置すると再発を繰り返しやすく、エピソード間の間隔が短くなったり(ラピッドサイクラー)、症状が重くなったりする可能性があります。この気分の波のパターンや頻度も、診断や治療方針を決める上で重要な情報となります。

目次

躁鬱の主な症状【躁状態・鬱状態】

躁状態・軽躁状態の症状例

躁状態や軽躁状態では、気分や行動が普段とはかけ離れた状態になります。周囲からは「元気になった」「活発になった」と見られることもありますが、病的な状態では本人や周囲が困るような問題行動につながることが少なくありません。

気分に関わる症状:

  • 気分が高揚する、開放的になる: 必要以上に明るく陽気になり、楽天的な気分になります。根拠なく自信満々になったり、幸福感を感じたりします。
  • 易怒的になる、いらいらする: 一方で、些細なことで怒りっぽくなったり、いらいらが募りやすくなったりします。これは、自分の意に沿わないことへの反応や、周囲がついてこられないことへの苛立ちから生じることがあります。

行動や思考に関わる症状:

  • 活動性や気力が異常に亢進する: じっとしていられなくなり、精力的に活動し続けます。睡眠時間が極端に短くても平気になったり、次々と新しい計画を立てたりします。
  • 多弁になる、話が止まらない: 普段よりも格段におしゃべりになり、話すスピードも速くなります。話の内容があちこちに飛ぶ(観念奔逸)こともあります。
  • 考えが次々と浮かぶ(観念奔逸): 頭の中で思考が次々と生まれ、一つに集中することが難しくなります。話が脱線したり、脈絡がなくなったりします。
  • 注意散漫になる: 集中力が低下し、気が散りやすくなります。一つのことにじっくり取り組むのが難しくなります。
  • 誇大性、自己評価の肥大: 自分の能力や地位を過大に評価し、現実離れした自信を持ちます。自分が特別な存在だと信じたり、不可能なことを可能だと思ったりします。

衝動的な行動に関わる症状:

  • 衝動的な行動が増える: 計画性がなく、思いつきで行動します。
    • 浪費: 高額な買い物を衝動的に行ったり、湯水のように散財したりします。
    • 無謀な投資や事業: 根拠のない自信から、リスクの高い投資や事業に手を出すことがあります。
    • 性的逸脱: 不適切な性的な行動をとることがあります。
    • 無謀な運転: 危険な運転を繰り返すことがあります。
  • 対人関係での問題: 尊大になったり、他人の意見を聞き入れなかったりするため、周囲とのトラブルが増えやすくなります。

軽躁状態はこれらの症状が躁状態ほど重くなく、必ずしも明らかな社会生活上の問題を引き起こすわけではありません。しかし、それでも本人の判断力が低下したり、周囲が変化に気づいたりすることはあります。特に双極II型障害では、軽躁状態を「調子が良い状態」と捉え、病気と認識しにくい場合があるため注意が必要です。

鬱状態の症状例

鬱状態は、うつ病の症状とほぼ同じです。しかし、双極性障害の鬱状態は、うつ病と比較していくつかの特徴が見られることがあります(例:過眠、過食、体が鉛のように重い、拒絶過敏性など)。

気分に関わる症状:

  • ひどく気分が落ち込む: 理由もなく、または些細なことで深く悲しみ、
    ゆううつな気分が続きます。
  • 興味や喜びの喪失: 今まで楽しめていた趣味や活動、人付き合いなど、あらゆるものに対する興味や喜びを失います(アパシー)。

行動や思考に関わる症状:

  • 活動性の低下: 体がだるく重く感じられ、動くのが億劫になります。何もする気力が起きません。
  • 疲労感、気力の減退: 十分休んでも疲れが取れず、エネルギーが枯渇したように感じます。
  • 思考力、集中力の低下: 物事を考えたり、集中したりするのが難しくなります。新聞や本を読むのが苦痛になったり、仕事や家事が手につかなくなったりします。
  • 決断困難: 些細なことでも自分で決められなくなり、迷うことが増えます。
  • 無価値感、罪悪感: 自分には価値がないと感じたり、過去の失敗や現在の状況に対して強い罪悪感を抱いたりします。
  • 否定的な思考: 物事を悲観的に捉え、未来に希望が持てなくなります。

身体に関わる症状:

  • 食欲不振または過食、体重の変化: 食欲が極端に低下して体重が減ることもあれば、逆に特定のものを衝動的に過食して体重が増えることもあります。
  • 睡眠障害: 眠りに入れない(入眠困難)、夜中に何度も目が覚める(中途覚醒)、朝早く目が覚めてしまう(早朝覚醒)といった不眠が多いですが、一日中眠気が続く(過眠)こともあります。
  • 精神運動性の焦燥または制止: 落ち着きがなくそわそわしたり(焦燥)、逆に体の動きや話し方が極端にゆっくりになったりする(制止)ことがあります。
  • 体の痛みや不調: 頭痛、肩こり、胃の不快感など、様々な身体的な不調を訴えることがあります。

その他:

  • 希死念慮、自殺企図: 死ぬことばかり考えてしまったり、実際に自殺を試みたりすることがあります。これは鬱状態が重症化した場合に見られる、最も危険な症状の一つです。

これらの症状は、日常的な気分の落ち込みや疲れとは異なり、その程度が重く、持続期間が長いことが特徴です。仕事や学業、家庭生活など、あらゆる側面に深刻な影響を及ぼします。

注意すべき混合状態の症状

混合状態は、躁状態と鬱状態の症状が同時に、または非常に短い間隔で入れ替わりながら出現する状態です。診断基準では、躁病エピソードまたは軽躁病エピソードの診断基準と、大うつ病エピソードの診断基準が同時に満たされる期間があることなどが挙げられます。

混合状態の例としては、以下のようなものが挙げられます。

  • 気分は落ち込んでいるのに、活動性は異常に亢進している。
  • 絶望感を感じているのに、考えが次々と浮かび多弁になっている。
  • ひどくイライラして怒りっぽいと同時に、強い悲しみや不安を感じている。
  • 体が重く気力がないのに、頭の中は思考が駆け巡り眠れない。

この状態は、単なる躁状態や鬱状態よりも苦痛が強く、自殺のリスクも高いと言われています。診断が難しく、専門医でも慎重な判断が必要となることがあります。もし、気分の落ち込みと同時に、落ち着きのなさや衝動的な行動が見られるなど、複雑な症状がある場合は、必ず専門医に相談することが重要です。

自分でできる躁鬱セルフチェックリスト

躁状態チェックリスト

以下の項目のうち、いくつか、または多数に当てはまる期間が数日以上続いたことがありますか?

  • 普段よりも気分が異常に高揚し、陽気で、自信満々になっていましたか?
  • 些細なことでひどくイライラしたり、怒りっぽくなったりしていましたか?
  • ほとんど眠らなくても平気だと感じ、実際にも睡眠時間が普段よりかなり短くなっていましたか?
  • 普段よりもおしゃべりになり、話すスピードが速くなっていましたか?
  • 頭の中で考えが次々と浮かび、話が飛んだりまとまらなくなったりしていましたか?
  • 注意が散漫になり、一つのことに集中するのが難しくなっていましたか?
  • 自分の能力や可能性を過大に評価し、何でもできるような気がしていましたか?
  • 普段しないような、衝動的で無謀な行動をとっていましたか?(例:高額な買い物を繰り返す、リスクの高い投資をする、知らない人に声をかける、危険な運転をするなど)
  • 後先考えずに、新しい計画や活動に次々と手を出していましたか?
  • 普段よりも性的欲求が強くなっていましたか?
  • 周囲の人が、あなたの変化に気づき、心配したり困惑したりしていましたか?

(軽躁状態の場合は、これらの症状が躁状態ほど顕著ではなく、社会生活上の大きな問題にはなっていなかったかもしれませんが、普段のあなたとは違う状態であった、とご自身や周囲が感じたことがあるか、という視点でも考えてみましょう。)

鬱状態チェックリスト

以下の項目のうち、いくつかに当てはまる状態が、ほとんど毎日、少なくとも2週間以上続いたことがありますか?

  • 気分がひどく落ち込み、ゆううつな気分が続いていましたか?
  • 今まで楽しめていたこと(趣味、仕事、人付き合いなど)に全く興味を持てなくなったり、喜びを感じられなくなったりしましたか?
  • 食欲がなくなって体重が減る、または食欲が増加して体重が増えるなど、普段と違う食欲の変化がありましたか?
  • 眠れない(寝つきが悪い、夜中に何度も目が覚める、朝早く目が覚める)、または眠りすぎるなど、普段と違う睡眠の変化がありましたか?
  • 体がだるく、疲れやすく、何もする気力が起きませんでしたか?
  • 落ち着きがなくそわそわする、または体の動きや話し方が普段より著しく遅くなっていましたか?
  • 自分には価値がないと感じたり、過去や現在の状況に対して強い罪悪感を抱いたりしましたか?
  • 物事を考えたり、集中したりするのが難しくなったり、決断ができなくなったりしましたか?
  • 死ぬことばかり考えてしまったり、自殺をしたいと思ったりしましたか?

セルフチェックの限界と注意点

セルフチェックリストは、あくまで自分自身の状態を振り返るためのツールです。ここで多くの項目にチェックがついたとしても、それは双極性障害だと診断されたことを意味するものではありません。

セルフチェックを行う上での重要な注意点です。

  • 診断は専門医のみが行える: 双極性障害の診断には、症状の内容、程度、持続期間、過去の病歴、家族歴、他の病気や薬の影響など、様々な要素を総合的に判断する必要があります。チェックリストだけではこれらの情報を網羅することはできません。
  • 症状の程度や期間が重要: チェックリストの項目に当てはまるかどうかだけでなく、その症状がどのくらい強く、どのくらいの期間続いたのかが診断上は非常に重要です。一時的な気分の変動は誰にでも起こり得ます。
  • 他の疾患との鑑別が必要: うつ病、ADHD、パーソナリティ障害、甲状腺疾患、薬物の影響など、双極性障害と似た症状を示す病気は複数あります。専門医はこれらの疾患との鑑別を行います。
  • 混合状態は見分けにくい: 躁状態と鬱状態が同時に現れる混合状態は、セルフチェックでは把握しにくい場合があります。

セルフチェックで気になる点があった場合は、「もしかしたら、専門家に相談した方が良いのかもしれない」と考えるきっかけにしてください。自己判断で「病気ではない」と決めつけたり、「双極性障害に違いない」と断定したりせず、必ず専門医の診察を受けるようにしましょう。早めに相談することで、適切な診断と治療につながり、症状の悪化を防ぐことにもつながります。

専門医による正確な躁鬱診断プロセス

医師の診察・問診

診断プロセスにおいて最も重要となるのが、医師による丁寧な診察と問診です。医師は患者さん本人から直接話を聞くだけでなく、必要に応じてご家族など周囲の方からも情報を得ることで、病状をより深く理解しようとします。

問診で尋ねられる主な内容:

  • 現在の症状: どのような気分の波があるか(高揚、落ち込み、イライラなど)、それぞれの気分になった時の具体的な行動や考えの変化(例:眠らなくても平気、衝動的な買い物、何もする気にならない、死にたい気持ちなど)。症状の程度、いつ頃から始まったか、どのくらい続いているか、頻度などを詳しく聞かれます。
  • 過去の病歴: これまでにも同じような気分の波があったか。いつ頃、どのような症状が現れたか。過去に精神科や心療内科を受診したことがあるか、診断名や治療歴(薬物療法、精神療法など)があれば伝えます。うつ病と診断され治療を受けていたが、なかなか改善しなかった、といった情報も重要です。
  • エピソードのパターン: 躁状態(軽躁状態)、鬱状態、寛解期がどのような順序で、どのくらいの期間続いているか。波の周期性や、季節による変動があるかなども確認されます。
  • 日常生活への影響: 気分の波によって、仕事や学業、家事、人間関係、趣味などにどのような支障が出ているか具体的に聞かれます。衝動的な行動による経済的な問題やトラブルの有無なども重要な情報です。
  • 身体的な健康状態: 現在抱えている身体的な病気や、服用している薬(処方薬、市販薬、サプリメントなど)についても確認されます。甲状腺機能異常や特定の薬の副作用が気分の変動を引き起こすこともあるためです。
  • 家族歴: ご家族や親戚に双極性障害やうつ病、その他の精神疾患を抱えている方がいるかどうかも診断の参考になります。双極性障害は遺伝的な要因も関与すると考えられています。
  • 生育歴や現在の環境: 幼少期からの経験、性格傾向、現在の生活状況、ストレス要因なども聞かれることがあります。
  • 物質の使用: アルコールや薬物(違法薬物だけでなく、処方薬や市販薬の不適切な使用も含む)の使用状況も確認されます。これらが気分の変動に影響を与えることがあるためです。

これらの情報に加え、医師は診察中の患者さんの話し方、表情、服装、落ち着き具合などを観察し、得られた情報と照らし合わせて診断を進めていきます。ご家族や親しい友人など、患者さんのことをよく知っている人からの情報は、特に躁状態や軽躁状態のように、本人が病気と認識しにくい状態を把握する上で非常に貴重です。可能であれば、受診時に同伴してもらうか、事前に情報を提供してもらうことも検討すると良いでしょう。

診断基準(DSM-5)

精神疾患の診断には、世界中で広く用いられている標準的な診断基準があります。現在、主流となっているのは、アメリカ精神医学会が発行する「精神疾患の診断・統計マニュアル 第5版(DSM-5)」です。専門医は、患者さんの症状がDSM-5の双極性障害の診断基準を満たすかどうかを慎重に検討します。

DSM-5における双極性障害の診断基準は、主に経験した気分のエピソードの種類と期間に基づいています。

双極I型障害の主な診断基準の要点:

  • 少なくとも1回の躁病エピソード(通常1週間以上続き、気分高揚・開放的・易怒性と活動性亢進が顕著で、社会的・職業的機能に著しい障害をもたらす、または入院が必要)を経験している。
  • 躁病エピソードの前後に大うつ病エピソードや軽躁病エピソードを経験している場合もあるが、躁病エピソードの存在が診断の決め手となる。

双極II型障害の主な診断基準の要点:

  • 少なくとも1回の軽躁病エピソード(通常4日以上続き、気分高揚・開放的・易怒性と活動性亢進があり、明確な機能の変化があるが、機能障害は軽躁病エピソードそのものでは著しくなく、入院の必要や精神病症状を伴わない)を経験している。
  • 少なくとも1回の大うつ病エピソード(通常2週間以上続き、気分の落ち込みや興味・喜びの喪失、その他のうつ病症状を伴う)を経験している。
  • 躁病エピソードを経験したことがない。

DSM-5の基準では、躁病エピソード、軽躁病エピソード、大うつ病エピソードそれぞれに、満たすべき具体的な症状項目とその数、持続期間が細かく定められています。例えば、躁病エピソードでは、気分の高揚・開放的・易怒的、活動性・気力の亢進といった中核症状に加え、「自尊心の肥大または誇大」、「睡眠欲求の減少」、「多弁」、「観念奔逸または考えが飛躍する主観的体験」、「注意散漫」、「目標志向的活動の増加または精神運動焦燥」、「享楽的結末をもたらす可能性の高い活動への過度の関与」といった7つの副症状の中から、特定の数以上が特定の期間認められる必要があります。

専門医は、問診で得られた情報がこれらの基準のどの項目に当てはまるか、期間は満たしているかなどを厳密に照らし合わせながら診断を進めます。

他の精神疾患との鑑別診断

双極性障害の診断を難しくしている大きな要因の一つは、他の精神疾患と症状が類似していることが多い点です。特に鬱状態だけを見ていると、うつ病と区別するのが困難な場合があります。正確な治療法は病気によって異なるため、専門医は他の可能性のある疾患を慎重に除外していく「鑑別診断」を行います。

双極性障害と鑑別が必要な主な疾患は以下の通りです。

疾患名 主な特徴(双極性障害との違い) 鑑別のポイント
うつ病(大うつ病性障害) 気分の落ち込みや興味・喜びの喪失が主な症状で、躁状態や軽躁状態のエピソードがない。 過去に躁病または軽躁病のエピソードがなかったかどうかの詳細な病歴聴取が最も重要。
統合失調症 幻覚(特に幻聴)や妄想が主症状で、思考や行動のまとまりがなくなるなどの症状が見られる。気分変動が二次的に現れることもあるが、双極性障害のような周期的なエピソードではない場合が多い。 幻覚・妄想の内容や、思考・行動の障害の質、気分の変動が一次的なものか二次的なものかなどを詳細に評価する。
注意欠如・多動症(ADHD) 不注意、多動性、衝動性が特徴。衝動性が躁状態の衝動的な行動と似ていることがあるが、双極性障害のような気分の波(エピソード)を伴わない。 症状の始まりが幼少期からか、衝動性が気分の変動と関連しているか、機能障害の質などを評価する。双極性障害とADHDが合併しているケースもある。
パーソナリティ障害 感情の調節困難、対人関係の不安定さ、衝動性などが特徴(特に境界性パーソナリティ障害)。気分の変動が激しいが、通常は数時間から数日といった短い期間で、双極性障害のエピソードのように数週間~数ヶ月続くことは少ない。 気分変動の持続期間、対人関係の問題の質やパターン、自己像の不安定さなどを評価する。
気分循環性障害 双極性障害II型に似ているが、軽躁状態の症状も大うつ病エピソードの症状も、それぞれの診断基準を満たすほどの重症度や持続期間ではない、比較的軽度の気分の波が長く続く。 症状の重症度と持続期間をDSM-5の基準と照らし合わせて判断する。
物質誘発性気分障害 アルコール、覚醒剤、大麻などの薬物や、ステロイドなどの特定の医薬品の使用や離脱によって引き起こされる気分の変動。 物質の使用歴や医療機関からの処方歴を確認し、物質の使用と気分の変動のタイミングを評価する。
他の医学的状態による気分障害 甲状腺機能異常、脳卒中、脳腫瘍などの身体的な病気によって引き起こされる気分の変動。 身体的な病気の既往歴や現在の状態を確認する。必要に応じて、身体診察や血液検査、画像検査などを行う。

正確な鑑別診断を行うためには、詳細な問診に加えて、心理検査(気分尺度の評価など)、血液検査(甲状腺ホルモン値など)、時には脳波検査や頭部画像検査など、様々な検査が必要となる場合もあります。専門医はこれらの情報を総合的に判断し、最も可能性の高い診断名を決定します。安易な自己判断はせず、必ず専門家による診断を受けることが大切です。

躁鬱の診断に関するよくある質問

何科を受診すべき?

気分の波や、それに伴う日常生活への支障に悩んでいる場合、受診すべきなのは精神科または心療内科です。

  • 精神科: 気分障害(うつ病、双極性障害など)を含む様々な精神疾患を専門的に診療する科です。
  • 心療内科: 主にストレスなど精神的な要因によって引き起こされる身体症状(例:腹痛、頭痛、動悸など)を扱うイメージがありますが、うつ病や不安障害などの精神疾患も診療対象としている場合が多く、双極性障害を診ることもあります。

どちらの科でも双極性障害の診断と治療を受けることが可能ですが、より専門的な視点から診断を受けたい場合は、精神科の中でも特に気分障害を専門としている医師を選ぶのが望ましいでしょう。

最初にかかりつけの内科医などに相談することも可能ですが、その場合でも双極性障害が疑われる場合は、専門的な医療機関(精神科や心療内科)を紹介されることが一般的です。

医療機関を受診する際は、事前に電話やウェブサイトで、双極性障害の診療を行っているか、初診の予約方法などを確認しておくとスムーズです。

診断のタイミング

「いつ受診すれば良いのだろう?」と悩む方も多いでしょう。双極性障害の診断を受けるべきタイミングは、以下のような状態が見られる場合です。

  • 気分の波によって生活や人間関係に支障が出ている: 気分の高揚や落ち込みによって、仕事や学業でミスを繰り返す、人間関係でトラブルを起こす、衝動的な行動で経済的な問題が生じるなど、具体的な困りごとが繰り返し起きている場合。
  • 周囲から気分の変化や言動について指摘される: 家族や友人、職場の同僚など、あなたをよく知る人から「最近様子がおかしい」「前と違う」など、気分の変動や普段と違う言動について指摘された場合。自分では気づきにくい躁状態や軽躁状態のサインである可能性があります。
  • セルフチェックで気になる項目が多かった: 前述のセルフチェックリストなどで、気になる項目が複数あった場合。あくまで目安ですが、専門家へ相談するきっかけと捉えましょう。
  • うつ病の治療を受けているが、改善が見られない、または調子の良い時と悪い時の差が大きい: うつ病と診断されて治療を受けているにもかかわらず、症状がなかなか良くならない、あるいは一時的に非常に調子が良くなる時期があるなど、治療経過が典型的ではない場合。双極性障害の鬱状態である可能性も考えられます。
  • 過去に躁状態や軽躁状態らしき時期があった: 過去を振り返って、数日間~数週間にわたって異常に活動的になったり、眠らなくても平気だったり、衝動的な行動をとったりした経験がある場合。特に、その後に落ち込みの期間があった場合は、双極性障害の可能性が高まります。

これらのサインに一つでも当てはまる場合は、できるだけ早く専門医に相談することをお勧めします。双極性障害は早期に診断され、適切な治療を開始することで、症状のコントロールがしやすくなり、再発のリスクを減らすことができます。一人で抱え込まず、まずは専門家の意見を聞いてみましょう。

診断後の治療や対応

双極性障害と診断された場合、それは病気の治療と向き合い、症状を管理しながら生活していくためのスタートラインに立ったことを意味します。診断後は、医師と相談しながら、病状に合わせた治療計画を立てていきます。

双極性障害の治療の柱:

  1. 薬物療法: 双極性障害の治療において最も重要となるのが薬物療法です。主に「気分安定薬」が使用され、気分の波を小さくし、躁状態と鬱状態の両方を予防する効果が期待されます。リチウム、バルプロ酸ナトリウム、カルバマゼピン、ラモトリギンなどが代表的な気分安定薬です。その他、必要に応じて非定型抗精神病薬や、鬱状態が強い場合に抗うつ薬(単独使用は躁転のリスクがあるため慎重に)、睡眠薬などが用いられることがあります。薬は医師の指示通りに毎日継続して服用することが非常に重要です。自己判断で中断すると、再発のリスクが高まります。
  2. 精神療法(心理療法): 薬物療法と並行して行われることで、治療効果を高めます。
    • 心理教育: 病気について正しく理解することの重要性が最も強調されます。双極性障害がどのような病気か、なぜ薬が必要なのか、再発のサインは何か、どのように対処すれば良いのかなどを学びます。本人だけでなく、ご家族も一緒に学ぶことが望ましいとされています。
    • 認知行動療法(CBT): 思考や行動のパターンを見直し、気分の波やストレスに対処する方法を学びます。
    • 対人関係・社会リズム療法(IPSRT): 日常生活の規則正しいリズム(睡眠、食事、活動など)を整えることに焦点を当て、対人関係の問題への対処法を学びます。生活リズムの乱れは気分の波を引き起こしやすいため、規則正しい生活を送ることが再発予防に非常に有効です。
  3. 生活リズムの調整: 前述のように、規則正しい生活は双極性障害の症状安定に不可欠です。特に睡眠時間を一定に保つこと、日中の活動量を適度に保つことなどが推奨されます。ストレスを管理する方法を身につけることも大切です。

診断後の対応:

  • 病気を受け入れ、学ぶ: 双極性障害は慢性的な経過をたどることが多い病気ですが、適切に治療すれば症状をコントロールし、安定した生活を送ることが十分に可能です。まずは病気について正しく理解し、受け入れることが重要です。
  • 再発予防に努める: 薬をしっかり飲むこと、規則正しい生活を送ること、ストレスを溜め込まないこと、そして自分自身の再発のサイン(例:少しの睡眠時間でも平気、衝動的に買い物したくなる、普段よりイライラしやすいなど)にいち早く気づき、早めに医師に相談することが再発予防につながります。
  • 周囲の理解とサポートを得る: ご家族やパートナーなど、身近な人に病気について話し、理解と協力を得ることも大切です。特に躁状態の際には、本人の判断力が低下し、後で後悔するような行動をとることがあるため、周囲のサポートが非常に重要になります。
  • 医療機関との連携を保つ: 定期的に通院し、病状や服薬状況について医師と正直に話し合いましょう。気になる症状の変化や、薬の副作用などがあれば、ためらわずに相談してください。信頼できる医師と関係を築き、二人三脚で病気と向き合っていくことが大切です。

双極性障害は適切な診断と治療によって、症状を管理し、社会生活を送りながら自分らしい人生を歩むことが可能な病気です。診断がついたとしても絶望することなく、前向きに治療に取り組んでいくことが回復への道につながります。

【まとめ】躁鬱(双極性障害)の診断は専門医へ

躁鬱(双極性障害)は、躁状態(または軽躁状態)と鬱状態という、対極的な気分の波を繰り返す病気です。その症状は非常に多様であり、うつ病など他の精神疾患との鑑別が難しいため、自分で正確に判断することはできません。

この記事では、双極性障害の基本的な特徴、躁状態・鬱状態の具体的な症状、セルフチェックの方法、そして専門医による診断プロセスについて解説しました。セルフチェックは自身の状態に気づくきっかけにはなりますが、あくまで目安であり、診断ではありません。

双極性障害の正確な診断は、精神科医や心療内科医といった専門医のみが行えます。医師は、患者さん本人やご家族からの丁寧な問診、過去の病歴、そしてDSM-5のような標準的な診断基準を用いて、総合的に判断を下します。他の精神疾患や身体疾患との鑑別も重要なプロセスです。

もし、この記事を読んで、ご自身の気分の波や症状について気になる点があったり、日常生活に支障が出ていると感じたりした場合は、一人で悩まず、早めに専門の医療機関に相談することをお勧めします。早期に正確な診断を受け、適切な治療を開始することが、症状を安定させ、病気と上手く付き合いながら自分らしい生活を送るための最も重要なステップです。

免責事項:
本記事は、双極性障害の診断に関する一般的な情報提供を目的としたものであり、医学的な診断や治療を推奨するものではありません。ご自身の症状について判断したり、治療法を選択したりする際は、必ず医療機関を受診し、医師の診断と指導を受けてください。本記事の情報に基づいて発生したいかなる結果についても、一切の責任を負いかねます。

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