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夕暮れ症候群の原因は?認知症の方への具体的な対処法・対応

夕暮れ症候群(たそがれ症候群)は、特に認知症のある方に見られやすい行動・心理症状(BPSD)の一つです。日が暮れ始め、周囲が薄暗くなる夕方から夜にかけて、それまで穏やかだった方が急に落ち着きをなくしたり、「家に帰りたい」と強く訴えたり、不安や混乱、時には興奮や攻撃的な言動が見られたりするのが特徴です。この現象は多くの介護者が直面する課題であり、本人にとっても周囲にとっても負担となります。しかし、夕暮れ症候群の原因を理解し、適切な対処法を知ることで、症状を軽減し、本人も介護者もより穏やかに過ごせる時間を増やすことが可能です。この記事では、夕暮れ症候群の詳しい症状、考えられる原因、そして具体的な対処法や周囲のサポートについて専門的な視点から詳しく解説します。

目次

夕暮れ症候群とは(定義・概要)

たそがれ症候群とも呼ばれる現象

夕暮れ症候群は、文字通り「夕暮れ時」に現れる一連の症状を指す俗称です。医学的な正式名称というよりは、介護現場などで広く使われている表現です。日が沈み始め、周囲の光が減少し、影が長くなる時間帯に症状が現れやすいことから、「たそがれ症候群」とも呼ばれます。これは英語圏で「Sundowning(サンダウニング)」と呼ばれる現象とほぼ同義です。「Sundowning」も「日が沈むこと」を意味しており、症状が現れる時間帯に由来しています。

この症状は、一日の特定の時間帯、特に夕方から夜にかけて一時的に精神状態や行動が変化するのが特徴です。日中は比較的穏やかに過ごせていた方でも、夕方になると急に不穏になったり、混乱したりすることがあります。朝が来ると再び落ち着きを取り戻すことが多いため、この周期的な症状変動が大きな特徴と言えます。

高齢者・認知症との関連性

夕暮れ症候群は、高齢者、特にアルツハイマー型認知症をはじめとする認知症のある方に多く見られる現象です。認知症の進行に伴い、脳機能が低下することで、時間や場所の認識(見当識)が難しくなったり、環境の変化に適応する力が弱まったりします。このような脳機能の変化が、夕暮れ時の環境変化や体内時計の乱れと相まって、夕暮れ症候群の症状を引き起こしやすいと考えられています。

夕暮れ症候群は、認知症の行動・心理症状(BPSD:Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia)の一つとして位置づけられています。BPSDには、うつ、不安、幻覚、妄想、徘徊、興奮、攻撃性、睡眠障害など様々な症状が含まれますが、夕暮れ症候群はその中でも時間帯と関連が深い特徴的な症状群です。全ての認知症の方に現れるわけではありませんが、進行度やタイプによっては比較的多くの高齢者に見られるため、介護にあたるご家族や専門職は、この現象への理解を深めておくことが重要です。

夕暮れ症候群の主な症状

夕暮れ症候群の症状は多岐にわたり、その現れ方も人によって異なります。しかし、共通しているのは「夕方から夜にかけて症状が出現・悪化しやすい」という点です。ここでは、夕暮れ症候群でよく見られる代表的な症状をいくつかご紹介します。

夕方になると現れる精神症状(不安・混乱・興奮)

夕暮れ症候群で最もよく見られる症状の一つが、精神的な不安定さです。日中は穏やかに過ごしていた方が、夕方になると急に以下のような様子を見せることがあります。

  • 不安の訴え: 「家に帰らなければ」「ここはどこ?」「誰か来ている」など、漠然とした不安や切迫感を言葉にする。
  • 混乱: 時間や場所、状況の認識が曖昧になり、混乱した様子を見せる。問いかけに矛盾した返答をしたり、見当違いな行動をとったりする。
  • 落ち着きのなさ: そわそわして座っていられない、同じ場所を行ったり来たりする、手足を絶えず動かすなど、落ち着きがない様子。
  • イライラ・不機嫌: ちょっとしたことで怒りっぽくなる、不機嫌な表情が増える。
  • 興奮: 感情が高ぶって、話の筋道が立たなくなったり、大声を出したりする。

これらの精神症状は、ご本人にとって「今、何が起こっているのか分からない」という強い不安感から生じていると考えられます。夕暮れ時の薄暗さや環境の変化が、見当識障害による混乱や不安を一層強める可能性があります。

徘徊や落ち着きのなさ

夕暮れ症候群の症状として、徘徊や室内での落ち着きのなさもよく見られます。「家に帰る」と言って外に出ようとしたり、家の中を目的もなくうろうろと歩き回ったりすることがあります。

  • 外出願望: 「帰る時間だ」「バス停に行きたい」などと言って、玄関のドアを開けようとしたり、服を着替えたりする。
  • 室内でのうろうろ: 部屋の中を意味もなく行ったり来たりする、引き出しを開けたり閉めたりする、物を移動させるなど、目的のない行動を繰り返す。
  • 多動: 一つの場所にじっとしていられず、動き回る。

これらの行動は、見当識障害によって今いる場所が自分の家だと認識できなかったり、「ここではないどこかに行かなければならない」という切迫感に駆られたりすることから生じると考えられます。また、日中の活動量が少なかったことによるエネルギーの発散や、不安や不快感からの逃避行動として現れることもあります。

攻撃的・大声などの行動の変化

まれに、夕暮れ症候群の症状として、攻撃的な言動や暴力が見られることもあります。

  • 暴言・強い口調: 介護者に対して強い口調で反論したり、命令したり、時には暴言を吐いたりする。
  • 抵抗・暴力: 介護を受け入れるのを拒否し、手を振り払ったり、叩いたりするなど、身体的な抵抗や暴力につながる場合もある。
  • 大声: 理由もなく大声を出したり、叫んだりする。

これらの攻撃的な行動は、決してご本人の意図的な悪意によるものではありません。強い不安や混乱、あるいは身体的な不快感をうまく言葉で表現できないために、行動として現れてしまうことが多いです。介護者にとっては精神的、身体的に大きな負担となる症状です。ご本人が感じている不快感や不安の原因を探り、それを取り除くための対応が求められます。

体調が悪くなる・しんどいと感じる場合

夕暮れ症候群の症状として、明確な原因がないにも関わらず、体調の不調を訴えることもあります。「しんどい」「疲れた」「気分が悪い」「どこか痛い」など、身体的な不調を言葉にしたり、不機嫌な様子で横になったりすることがあります。

これらの訴えは、認知症による見当識障害や不安が、身体的な感覚と結びついて生じている可能性もあれば、実際に何か身体的な不調(空腹、喉の渇き、痛み、便秘、排泄の失敗による不快感など)があるにも関わらず、それをうまく言葉で伝えられないために漠然とした不調として訴えている可能性もあります。

いずれの症状も、夕方から夜にかけて顕著になるのが夕暮れ症候群の大きな特徴です。症状の重さや種類は個人によって異なり、日によっても変動することがあります。症状が出始めたら、まずは落ち着いて、ご本人の様子を観察し、原因を探ることが重要です。

夕暮れ症候群の原因

夕暮れ症候群の原因は一つではなく、複数の要因が複雑に絡み合っていると考えられています。特に認知症の進行による脳機能の変化と、外部環境や本人の内的な状態が相互に影響し合って症状を引き起こしていると言われています。主な原因として以下のものが挙げられます。

生体リズムの乱れ(概日リズム障害)

人間の体内には、約24時間周期で繰り返される生体リズム(概日リズム)を調整する体内時計が備わっています。この体内時計は、日中の光を浴びることや、規則的な生活習慣によって調整されています。しかし、加齢や認知症の進行に伴い、脳の機能が低下することで、この体内時計の調整機能がうまく働かなくなることがあります。

生体リズムが乱れると、本来日中に活動し、夜間に休息するというサイクルが崩れ、昼夜逆転が生じやすくなります。夕方から夜にかけて覚醒が高まり、落ち着きがなくなるのは、この生体リズムの乱れが一因と考えられます。また、睡眠を促すホルモンであるメラトニンの分泌パターンが変化することも関連しているという研究もあります。日中の活動量が少なかったり、昼寝が長すぎたりすると、さらに生体リズムが乱れやすくなり、夕暮れ時の症状を悪化させる可能性があります。

環境の変化や薄暗さの影響

夕暮れ時になると、屋外だけでなく室内の光量も徐々に低下し、薄暗くなります。また、時間帯によって家族の出入りが増えたり、夕食の準備で物音がしたりと、環境が変化しやすい時間でもあります。

認知症のある方にとって、このような環境の変化は大きな負担となることがあります。視空間認知能力が低下している場合、薄暗さの中で物の形や距離を正確に把握することが難しくなり、不安を感じやすくなります。影が長く伸びることも、何か別のものがいるように見えたりして、幻覚や錯覚につながる可能性があります。また、夕食の準備や家族の帰宅といった慌ただしい雰囲気も、認知症のある方にとっては刺激が強すぎて混乱を招くことがあります。これまで慣れ親しんだ環境がいつもと違って見えることが、見当識障害と相まって不安や混乱を引き起こすのです。

見当識障害による不安

認知症の主要な症状の一つである見当識障害は、夕暮れ症候群の重要な原因となります。時間、場所、人などの基本的な情報が認識できなくなることで、ご本人は「今、自分がどこにいて、いつなのか」が分からなくなり、強い不安や混乱を感じます。

夕方という時間の変化は、見当識障害のある方にとって特に分かりにくいものです。日中は明るさで時間の流れを感じやすいですが、夕暮れ時はその境界が曖昧になります。「家に帰らなければならない」「仕事に行かなければ」といった切迫感は、現在の状況(例えば、すでに退職している、ここは安全な自宅であるなど)を認識できないことによるものです。今いる場所が安全な自宅だと認識できないことから、不安が高まり、落ち着きをなくしたり、外に出ようとしたりする行動につながると考えられます。

孤独感や身体的な不調

夕暮れ時になると、日中にデイサービスなどから帰宅したり、家族が仕事や学校から帰ってきたりする時間帯ですが、逆に日中賑やかだった場所から一人になったり、家族がそれぞれ別の部屋で過ごし始めたりして、孤独を感じやすくなる時間帯でもあります。一人で過ごす時間が増えることによる寂しさや不安が、症状を悪化させる可能性があります。

また、身体的な不調も夕暮れ症候群の原因や誘因となることがあります。空腹、喉の渇き、痛み、便秘、排泄の失敗による不快感、疲労などが挙げられます。これらの不快感をうまく言葉で伝えることができないために、不機嫌になったり、落ち着きがなくなったり、体調不良を訴えたりする形で症状が現れることがあります。特に夕食前の空腹や、日中の疲労が蓄積する時間帯であることも、夕暮れ症候群が現れやすい理由の一つと考えられます。

これらの原因が複合的に作用し、夕暮れ症候群の症状を引き起こします。原因を特定し、それぞれに適切な対策を講じることが、症状の軽減につながります。

夕暮れ症候群の効果的な対処法・対策

夕暮れ症候群の症状を完全に消し去ることは難しい場合が多いですが、原因や誘因を理解し、適切な対処を行うことで症状を軽減し、ご本人や周囲の負担を減らすことは可能です。ここでは、効果的な対処法や対策をご紹介します。

日中の活動を促す

日中の活動量を適切に保つことは、生体リズムを整え、夜間の安眠につながるため、夕暮れ症候群の予防・軽減に非常に重要です。

  • 適度な運動: 散歩、軽い体操、ストレッチなど、ご本人の体力に合わせた運動を日中に行います。屋外での活動は、日光を浴びることで体内時計の調整にも役立ちます。
  • 趣味や好きな活動: 園芸、手芸、絵を描く、音楽を聴く・歌う、折り紙、簡単なゲームなど、ご本人が楽しめる活動を日中の時間帯に取り入れます。集中できる活動は、心身の活性化につながります。
  • 交流: 家族や友人、介護サービスを利用して他の利用者との交流を持つことも重要です。会話や共同の活動は、脳への刺激になり、孤独感を和らげます。
  • デイサービスの活用: デイサービスを利用することで、日中の活動機会や他者との交流の機会を確保できます。規則正しい生活リズムを作る上でも有効です。
  • 昼寝は短めに: 長すぎる昼寝は、夜間の睡眠を妨げ、昼夜逆転を助長する可能性があります。昼寝をする場合は、午後早い時間に短時間(30分程度)にとどめるようにします。

日中に適度に活動し、心身を疲れさせることで、夜間にぐっすり眠れるようになり、結果的に夕暮れ時の不穏や混乱が軽減されることが期待できます。

環境を整える(照明・音)

夕暮れ時の環境変化が症状を引き起こしやすいことから、環境を工夫することが有効です。

  • 照明: 夕方になり始める時間帯から、部屋を十分に明るくします。蛍光灯だけでなく、暖色系の照明や間接照明なども活用して、温かく安心できる雰囲気を演出します。特に、ご本人がよく過ごす場所や移動する場所は、影ができにくいように明るさを確保します。急に真っ暗になるのではなく、徐々に照明を明るくしていくなど、変化を緩やかにすることも有効です。
  • 音: テレビの音量が大きすぎると、騒がしく感じて落ち着かなくなることがあります。適切な音量に調整します。ご本人がリラックスできるような、静かな音楽や自然の音(川のせせらぎなど)を BGM として小さく流すことも効果的な場合があります。逆に、外の騒音や隣の部屋の物音が気になる場合は、窓を閉めるなどの対策をとります。
  • 温度・湿度: 部屋の温度や湿度が不快だと、落ち着きをなくす原因となります。快適な環境を保つように調整します。
  • 見慣れたものを置く: ご本人が安心できる写真や思い出の品などを、よく見える場所に飾っておくことも安心感につながります。

環境を整えることは、ご本人が感じている不安や混乱を和らげ、安全な場所であるという認識を助ける上で非常に重要です。

本人の好きな活動や趣味を取り入れる

症状が出やすい夕暮れ時やその少し前から、ご本人がリラックスできたり、気分転換になったりするような活動を取り入れることも有効です。

  • 懐かしい音楽を聴く: ご本人が若い頃に好きだった音楽や、思い出の曲などを静かに流します。歌を口ずさんだり、一緒に歌ったりすることも良いでしょう。
  • 思い出話をする: 昔の楽しかった出来事や、家族の思い出などについて話を聞いてあげます。アルバムを見たり、 familiar な物(昔使っていた道具など)に触れたりすることも、安心感や穏やかな気持ちにつながります。
  • 簡単な手作業: 簡単な折り紙、タオルたたみ、パズル、ぬり絵など、ご本人が無理なくできる手作業を一緒に行います。集中することで、不安から注意をそらす効果が期待できます。
  • 温かい飲み物: 温かいお茶やミルクなどを提供します。リラックス効果が期待できます。
  • マッサージ: 手や足を優しくマッサージするのも、安心感を与え、落ち着きを取り戻すのに役立つことがあります。

これらの活動は、ご本人の興味や状態に合わせて選ぶことが大切です。無理強いせず、ご本人が楽しめる範囲で行い、一緒に参加することが重要です。

安心できる声かけ・コミュニケーション

夕暮れ時に症状が出たとき、ご本人は不安や混乱の渦中にいることが考えられます。介護者の対応一つで、症状が悪化することもあれば、落ち着きを取り戻すこともあります。

  • 否定しない、共感する: 「家に帰りたい」と訴えた場合、「ここが家ですよ」と頭ごなしに否定するのではなく、「お家に帰りたいのですね」と一旦訴えを受け止め、共感する姿勢を示します。その上で、「もう少ししたら夕ご飯ですよ」「一緒にお茶を飲みませんか?」など、気分転換を促す別の提案をしてみます。
  • 穏やかなトーンでゆっくり話す: 早口で矢継ぎ早に話したり、命令するような強い口調は避けます。落ち着いた、優しいトーンで、ゆっくりと分かりやすい言葉で話しかけます。
  • 目を見て、優しく触れる: ご本人の目を見て話すことで、安心感を与えます。手を握る、肩に優しく触れるなどのスキンシップも有効な場合があります。
  • 安全を伝える: 「ここはあなたの安全な場所ですよ」「私がそばにいますよ」など、安心できる言葉を伝えます。
  • 注意をそらす: 不安な話題から、ご本人が好きなものや楽しい思い出に関する話題にそらすなど、注意を転換させる声かけを試みます。
  • 過剰に刺激しない: 症状が出ているときに、必要以上に問い詰めたり、多くの情報を与えたりすると、かえって混乱を招きます。落ち着いて、最低限必要な声かけにとどめることも重要です。

ご本人の訴えや行動には、何らかの意味があると考えられます。その背景にある感情(不安、痛みなど)に寄り添い、安心感を与えられるようなコミュニケーションを心がけましょう。

医療機関や専門家への相談

夕暮れ症候群の症状が重い場合、日中の生活にも影響が出ている場合、または介護負担が大きい場合は、一人で抱え込まずに医療機関や専門家に相談することが重要です。

  • かかりつけ医: まずはご本人の日頃の状態をよく知っているかかりつけ医に相談します。身体的な不調が原因でないかを確認したり、専門医への紹介が必要か判断したりしてもらえます。
  • 精神科医や認知症専門医: 認知症に伴う行動・心理症状への対応に詳しい専門医に相談することで、より専門的なアドバイスや治療法について検討できます。非薬物療法を優先しますが、症状が著しく、他の方法で対応が難しい場合には、少量の薬物療法が検討されることもあります。ただし、薬物療法には副作用のリスクもあるため、専門医の慎重な判断が必要です。
  • 看護師: 日々の健康状態や服薬管理について相談できます。
  • ケアマネジャー: 介護保険サービスを利用している場合は、担当のケアマネジャーに相談します。デイサービスやショートステイの利用頻度を見直したり、訪問介護のサービス内容を調整したりするなど、介護計画の中で夕暮れ症候群への対応を位置づけてもらえます。
  • 地域包括支援センター: 地域の高齢者の総合相談窓口です。介護に関する様々な相談に乗ってもらえ、適切なサービスや機関につなげてもらえます。

専門家の視点からのアドバイスや、利用できる社会資源に関する情報提供を受けることで、より効果的な対応が可能になります。また、介護者の負担軽減につながるサービスについても相談できます。

周囲の人ができるサポート

夕暮れ症候群は、ご本人だけでなく、介護にあたる家族や周囲の人々にとっても大きな負担となります。症状への理解を深め、適切な対処法を実践すると同時に、介護者自身の心身の健康を守るためのサポートも非常に重要です。

介護負担を軽減するための工夫

夕暮れ症候群への対応は、根気と時間、精神的なゆとりが必要です。一人で抱え込まず、利用できるサービスや支援を積極的に活用することが大切です。

  • 介護保険サービスの利用:
    • デイサービス: 日中を施設で過ごすことで、ご本人の活動機会を確保し、生体リズムを整える助けとなります。また、介護者は日中休息をとる時間を持つことができます。
    • ショートステイ: 短期間施設に宿泊することで、介護者はまとまった休息をとることができます(レスパイトケア)。症状が特に重い時期や、介護者が体調を崩した際などに有効です。
    • 訪問介護: ヘルパーに自宅に来てもらい、食事や入浴などの介助を依頼できます。夕暮れ時など、介護負担が大きい時間帯に利用することで、負担を軽減できます。
    • 訪問看護: 看護師に自宅に来てもらい、健康状態の確認や服薬管理、症状への対応について相談できます。専門的な視点からのアドバイスは、介護者の安心につながります。
  • 相談窓口の活用: 地域包括支援センターや市町村の介護保険担当窓口に相談し、利用できるサービスや制度について情報提供を受けましょう。
  • 家族や友人の協力: 可能であれば、他の家族や友人にも協力を依頼し、介護を分担したり、話し相手になってもらったりします。
  • 家族会や交流会: 同じように認知症の方を介護している家族が集まる会に参加するのも良いでしょう。経験を共有したり、悩みを打ち明けたりすることで、孤独感を和らげ、情報交換もできます。
  • 介護者の休息と気分転換: 介護者が疲弊してしまうと、ご本人への対応も難しくなります。意識的に休息時間を設けたり、自分の好きな活動をするなど、気分転換を図ることが非常に重要です。

夕暮れ症候群への対応は長期にわたることが多いため、介護者自身の健康管理と、周囲からのサポートを確保することが、介護を続けていく上で不可欠です。

夕暮れ症候群とせん妄の違い

夕暮れ症候群とせん妄は、どちらも意識や行動の変動を伴うため混同されやすい症状ですが、いくつかの重要な違いがあります。特に発症の仕方や経過、原因において異なります。

発症の仕方と経過による違い

特徴 夕暮れ症候群 せん妄
発症時期 夕方〜夜にかけて症状が出現・悪化しやすい 急激に発症する(数時間〜数日単位)
症状の変動 特定の時間帯(夕方〜夜)に症状が悪化し、朝には比較的落ち着くことが多い。比較的周期的な変動。 一日の中で症状が変動しやすい(日中も症状が見られることがある)。夜間に悪化しやすい傾向はある。
意識レベル・注意 認知症による意識レベルの低下は見られるが、せん妄ほど顕著な意識混濁や注意力の低下は通常見られない。 意識レベルが変動する(傾眠傾向になったり、興奮したり)。注意力が散漫になりやすい。
幻覚・妄想 不安や混乱に伴う幻覚・妄想が見られることはあるが、せん妄ほど普遍的ではない。 幻覚(特に幻視)や妄想が見られることが多い。
原因 認知症の進行、生体リズムの乱れ、環境因子(薄暗さなど)、身体的・精神的要因などが複合的 感染症(肺炎、尿路感染症など)、脱水、薬剤の影響(多剤服用、特定の薬)、手術後、環境の変化(入院など)、痛み、便秘など、明確な身体的・精神的な原因があることが多い
経過 認知症の進行に伴って見られる比較的慢性的な症状。 原因を取り除くことで比較的短期間で改善する可能性がある(可逆性)。

夕暮れ症候群は、認知症の慢性的な経過の中で見られる特定の時間帯に限定された症状であるのに対し、せん妄は、身体的な原因や急激な環境変化などによって、比較的短期間で急に発症し、意識レベルの変動を伴うのが大きな違いです。せん妄は治療可能な原因によって引き起こされることが多いため、せん妄が疑われる場合は、速やかに医療機関を受診し、原因を特定して治療を行うことが重要です。夕暮れ症候群の場合も、他の身体的な原因(感染症など)が症状を悪化させている可能性があるため、気になる症状があれば医師に相談することが大切です。

まとめ:夕暮れ症候群への理解と適切な対応を

夕暮れ症候群は、特に認知症のある高齢者に見られる、夕方から夜にかけて症状が悪化する現象です。不安、混乱、興奮、徘徊、攻撃的な言動など、その症状は多岐にわたり、ご本人だけでなく介護する周囲の人々にとっても大きな負担となります。

夕暮れ症候群の原因は一つではなく、加齢や認知症による生体リズムの乱れ、夕暮れ時の環境変化、見当識障害による不安、孤独感や身体的な不調など、複数の要因が複雑に絡み合っています。これらの原因を理解し、個々の状況に応じた適切な対処を行うことが、症状の軽減につながります。

効果的な対策としては、日中の活動を促して生活リズムを整えること、夕方からの照明や音など環境を工夫すること、ご本人が安心できる声かけやコミュニケーションを心がけること、そしてご本人が楽しめる好きな活動を取り入れることなどが挙げられます。

また、夕暮れ症候群への対応は長期にわたる場合が多く、介護者の負担が大きくなりがちです。一人で抱え込まず、介護保険サービス(デイサービス、ショートステイ、訪問介護など)や地域の相談窓口(地域包括支援センターなど)を積極的に活用し、休息をとることも非常に重要です。必要に応じて、医師や看護師、ケアマネジャーといった専門家に相談し、アドバイスや支援を受けることも有効です。

夕暮れ症候群は、認知症の進行に伴う症状の一つとして起こりうることを理解し、症状そのものを否定したり責めたりするのではなく、ご本人の不安や困惑に寄り添う姿勢が大切です。適切な知識と対応、そして周囲のサポートを得ることで、ご本人と介護者双方が、より穏やかな時間を持つことができるようになります。

この記事は夕暮れ症候群に関する一般的な情報を提供するものであり、個別の症状や状況に関する医療的なアドバイスに代わるものではありません。ご本人やご家族の状況に合わせて、必ず医師や専門家にご相談ください。

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