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不眠症は何科で診てもらう?原因別に解説|内科・心療内科

不眠症に悩んでいませんか?夜なかなか眠れない、途中で何度も目が覚めてしまう、朝早く目が覚めてしまう、という状態が続くと、日中の活動にも大きな影響が出てしまいます。病院に行った方が良いのか迷っている方もいるかもしれません。しかし、「不眠症は何科に行けばいいの?」と疑問に思う方も多いのではないでしょうか。

不眠症の背景には様々な原因があり、最適な診療科は人によって異なります。この記事では、不眠症で病院に行くべきサインや目安、不眠症の原因やタイプ、そして症状や状況に応じた最適な診療科の選び方を詳しく解説します。病院での診断や治療についても触れていますので、ぜひ参考にして、不眠症の悩みを解消するための一歩を踏み出してください。

どのくらいの不眠で受診を検討すべきか

単なる寝不足と不眠症は異なります。一般的に、不眠症は以下の状態が1ヶ月以上続き週に数回以上眠りに関する問題(寝つきが悪い、途中で目が覚める、早く目が覚めるなど)があり、かつ日中の活動に支障が出ている場合に疑われます。

  • 入眠困難: 布団に入ってから眠りにつくまでに30分〜1時間以上かかる。
  • 中途覚醒: 眠りについても、夜中に何度も目が覚めてしまい、その後なかなか眠り直せない。
  • 早朝覚醒: 予定よりもかなり早く目が覚めてしまい、その後眠れない。
  • 熟眠困難: 眠っていても、ぐっすり眠った感じがせず、休息感が得られない。

これらの症状が一時的ではなく、長く続いている場合は注意が必要です。

日常生活に支障が出ている場合

不眠が続くと、睡眠時間の不足だけでなく、睡眠の質の低下が問題となります。これにより、日中の様々な活動に悪影響が出始めます。具体的には、以下のようなサインが見られる場合、病院への受診を検討すべき重要な目安となります。

  • 強い日中の眠気: 会議中や授業中、運転中など、眠ってはいけない場面で強い眠気に襲われる。
  • 集中力・注意力の低下: 仕事や勉強に集中できず、ミスが増える。
  • 意欲・関心の低下: 趣味や好きなことに対する興味が薄れる。
  • イライラ・不安感の増大: 気分が不安定になりやすく、些細なことで怒りを感じたり、落ち込みやすくなったりする。
  • 倦怠感・疲労感: 体がだるく、疲れが取れない。
  • 頭痛や肩こりなどの身体症状: 睡眠不足が身体的な不調を引き起こすこともある。
  • 社会生活への影響: 遅刻が増える、人間関係がうまくいかないなど、社会生活に支障が出始める。

これらのサインは、単なる「眠れない」という問題だけでなく、心身の健康が損なわれ始めている可能性を示しています。不眠を軽視せず、早めに専門家に相談することが大切です。

原因別の不眠症の種類

不眠症は、大きく分けて以下の原因に分類されます。一つの原因だけでなく、複数の要因が絡み合っていることも少なくありません。

  1. 精神生理性不眠症:
    不眠に対する過剰な悩みや、「今日も眠れないのではないか」という強い不安、眠ろうと努力しすぎることで、かえって脳が覚醒してしまい眠れなくなる最も一般的なタイプです。ベッドに入ると緊張が高まる、週末など時間に余裕がある時には眠れる、といった特徴が見られます。
  2. 精神疾患に伴う不眠:
    うつ病や双極性障害、不安障害(パニック障害、全般性不安障害、社交不安障害など)、統合失調症などの精神疾患の症状として不眠が現れることがあります。特にうつ病では、早朝覚醒や熟眠感の欠如が高頻度で見られます。
  3. 身体疾患に伴う不眠:
    体の病気によって不眠が引き起こされるケースです。
    • 痛みやかゆみ: 関節痛、腰痛、皮膚炎、アトピー性皮膚炎など。
    • 呼吸器疾患: 喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)などで、夜間や明け方に症状が悪化し、眠りを妨げる。
    • 循環器疾患: 心不全などで、夜間に呼吸困難が生じる。
    • 消化器疾患: 逆流性食道炎で、夜間胸やけがする。
    • 神経疾患: パーキンソン病、認知症、レストレスレッグス症候群(むずむず脚症候群)など。
    • 泌尿器疾患: 前立腺肥大症などで、夜間頻尿になる。
    • 内分泌疾患: 甲状腺機能亢進症などで、興奮や発汗により眠りにくくなる。
    • その他: 発熱、咳、アレルギー症状など。
  4. 薬剤性不眠:
    服用している薬の副作用として不眠が起こることがあります。
    • ステロイド: 興奮作用がある。
    • 気管支拡張薬: 交感神経を刺激する作用がある。
    • 降圧薬(一部)
    • 抗うつ薬(一部)
    • カフェインを含む薬
    • アルコール: 寝つきは良くするが、睡眠の質を低下させ、夜中や明け方に目が覚めやすくなる。
  5. 嗜好品による不眠:
    コーヒー、紅茶、緑茶、エナジードリンクなどに含まれるカフェイン、そしてアルコールやニコチンは、睡眠を妨げる要因となります。特に夕方以降のカフェイン摂取や寝酒は、不眠を悪化させることがあります。
  6. 睡眠関連呼吸障害:
    睡眠中に呼吸が止まったり弱くなったりする病気です。最も代表的なのが睡眠時無呼吸症候群(SAS)です。大きないびき、睡眠中の呼吸停止、夜間の頻尿、そして日中の強い眠気や集中力低下などが特徴です。睡眠の質が著しく低下します。
  7. 睡眠関連運動障害:
    睡眠中に体が勝手に動いてしまい、眠りを妨げる病気です。
    • レストレスレッグス症候群(むずむず脚症候群): 夕方から夜にかけて、主に下肢に不快な感覚(むずむず、虫が這うような、痛いなど)が生じ、動かさずにはいられなくなる症状です。これにより、寝つきが悪くなります。
    • 周期性四肢運動障害: 睡眠中に手足が周期的にぴくつく不随意運動です。本人は気づいていないことが多いですが、睡眠が中断され、日中の眠気の原因となります。
  8. 概日リズム睡眠障害:
    体内時計が乱れることで起こる睡眠障害です。
    • 交代勤務: 夜勤など、勤務時間が不規則な場合に体内時計が乱れる。
    • 時差ぼけ: 海外旅行などで急激な時差にさらされる。
    • 睡眠相前進症候群: 体内時計が前倒しになり、極端に早く眠くなり、極端に早く目が覚める(高齢者に多い)。
    • 睡眠相後退症候群: 体内時計が後ろ倒しになり、夜遅くまで眠れず、朝も起きられない(若い人に多い)。
    • 非24時間睡眠覚醒症候群: 体内時計の周期が24時間よりも長くなり、毎日少しずつ寝る時間と起きる時間がずれていく(視覚障害者に多い)。
  9. 特発性不眠症:
    幼少期から不眠が続いており、検査をしても明らかな原因が見つからない比較的稀な不眠症です。

このように、不眠症の原因は多岐にわたります。自己判断で対処するのではなく、専門家に相談して原因を特定することが改善への第一歩となります。

不眠症の症状別・状況別の最適な診療科

不眠症の原因や症状は様々であるため、「不眠症なら必ずこの科」と一概には言えません。ご自身の状況や疑われる原因に応じて、最適な診療科を選ぶことが大切です。ここでは、症状別・状況別にどの診療科を受診するのが良いか、それぞれの特徴と合わせて詳しく解説します。

まずは身近な内科へ相談

不眠の原因が特定できていない場合や、まずは気軽に相談したいという場合は、かかりつけ医がいる身近な内科を受診するのが良いでしょう。内科医は幅広い疾患に対応できるため、不眠の背景にある身体的な問題のスクリーニングや、他の疾患との関連性の有無を確認してくれます。

内科が適しているケース

  • 不眠の原因が自分で判断できない。
  • 風邪、発熱、痛み、かゆみなど、身体的な不調も伴っている。
  • 他の持病があり、その治療薬との関連性が気になる。
  • まずは地域の診療所で相談したい。
  • 健康診断などで、不眠以外の異常(高血圧、糖尿病など)を指摘されている。

内科を受診すると、医師は問診で不眠の状況、生活習慣、既往歴、服用中の薬などを詳しく聞き取ります。必要に応じて血液検査やその他の検査を行い、身体的な疾患が不眠の原因となっていないかを確認します。原因が特定できた場合はその治療を行い、不眠が精神的な問題や他の専門的な疾患によるものと疑われる場合は、精神科、心療内科、睡眠外来などの専門医へ紹介してもらえることがあります。

精神的な原因が疑われる場合は精神科・心療内科

ストレス、不安、抑うつといった精神的な問題が不眠の主な原因と考えられる場合は、精神科または心療内科を受診するのが適切です。これらの診療科は、心の健康問題やそれに関連する身体症状を専門としています。

精神科と心療内科の違い

精神科と心療内科は似ていますが、専門とする領域にやや違いがあります。

  • 精神科: 精神疾患全般(うつ病、双極性障害、統合失調症、不安障害、適応障害、発達障害など)を専門とします。「気分が落ち込む」「やる気が出ない」「幻覚や妄想がある」「対人関係がうまくいかない」といった、精神症状が中心の場合に適しています。不眠も精神症状の一つとして扱います。
  • 心療内科: ストレスや精神的な問題が原因となって身体症状が現れる「心身症」を主に扱います。「ストレスでお腹が痛くなる(過敏性腸症候群)」「緊張すると動悸がする」「胃がキリキリする」「頭痛や肩こりがひどい」といった、精神的な要因が身体に影響を及ぼしている場合に適しています。不眠も心身症の一つとして扱うことがあります。

どちらの科でも不眠症の相談は可能ですが、ご自身の状態に応じて選び分けるのが良いでしょう。

精神科・心療内科が適しているケース

  • 強いストレスを感じており、それが不眠の原因だと思う。
  • 気分がひどく落ち込む、何もする気が起きないといった抑うつ症状がある。
  • 強い不安感、焦燥感、パニック発作などを伴う。
  • 人間関係の悩みやトラウマなどが不眠と関連していると思う。
  • 精神的な問題を抱えている自覚がある。

精神科や心療内科では、問診を通して患者さんの心の状態や生活背景を丁寧に聞き取ります。必要に応じて心理検査を行うこともあります。治療としては、カウンセリング(精神療法)や薬物療法(抗うつ薬、抗不安薬、あるいは睡眠薬など)を組み合わせて行うことが一般的です。

専門的な診断・治療なら睡眠外来

不眠の原因がはっきりしない、他の診療科を受診しても改善が見られない、あるいは睡眠時無呼吸症候群などより専門的な睡眠障害が強く疑われる場合は、睡眠外来を受診するのが最も適しています。睡眠外来は、睡眠障害全般を専門的に診断・治療する医療機関です。大学病院や総合病院に設置されていることが多いですが、睡眠障害専門のクリニックもあります。

睡眠外来が適しているケース

  • 不眠の原因が不明確で、一般的な治療で改善しない。
  • 睡眠時無呼吸症候群(大きないびき、睡眠中の呼吸停止、日中の強い眠気)が疑われる。
  • むずむず脚症候群や周期性四肢運動障害が疑われる。
  • 概日リズム睡眠障害(交代勤務、不規則な生活など)による不眠。
  • ナルコレプシーなどの過眠症が疑われる。
  • 専門的な検査(睡眠ポリグラフ検査など)を受けて、原因を特定したい。
  • 睡眠障害に関する高度な知識や治療法を求めている。

睡眠外来では、問診に加えて睡眠日誌の分析、必要に応じて睡眠ポリグラフ検査(PSG)や終夜換気ポリグラフィー検査(アプノモニター)、反復睡眠潜時検査(MSLT)、維持覚醒検査(MWT)といった専門的な検査を行います。これらの検査により、睡眠の質や量、睡眠中の呼吸・心拍・脳波・筋電図などを詳細に調べ、不眠の原因となっている睡眠障害を正確に診断します。治療も、診断に基づいて薬物療法、非薬物療法(CPAP療法、マウスピース療法、光療法など)を専門的に行います。

睡眠時無呼吸症候群など身体的な問題なら耳鼻咽喉科や呼吸器内科

大きないびきや睡眠中の呼吸停止を指摘されたことがある、日中の強い眠気があるといった症状があり、睡眠時無呼吸症候群が強く疑われる場合は、耳鼻咽喉科や呼吸器内科でも相談できます。

  • 耳鼻咽喉科: 上気道(鼻、喉、気道)の構造的な問題が睡眠時無呼吸の原因となっている場合(扁桃腺肥大、アデノイド肥大、鼻炎など)に対応できます。これらの原因に対して手術を含めた治療を検討することがあります。
  • 呼吸器内科: 肺や気管支などの呼吸器系の問題や、全身の呼吸機能の評価を専門とします。睡眠時無呼吸症候群の診断や、CPAP療法などの治療、またCOPDや喘息による不眠の治療を行います。

耳鼻咽喉科や呼吸器内科が適しているケース

  • 大きないびきや睡眠中の呼吸停止を家族に指摘された。
  • 日中の強い眠気の原因が睡眠時無呼吸症候群かもしれないと思う。
  • 鼻炎や扁桃腺肥大など、耳鼻咽喉科系の持病がある。
  • 喘息やCOPDなど、呼吸器系の持病がある。

これらの科でも簡易的な睡眠検査や専門医への紹介が行われることがあります。

その他の睡眠障害(過眠症など)や脳の病気が疑われる場合は脳神経内科

不眠だけでなく、日中の耐えがたい眠気(過眠症)や、睡眠中の異常行動、手足の不快な感覚などが顕著な場合は、脳神経内科も選択肢の一つとなります。

  • 脳神経内科: 脳、脊髄、末梢神経、筋肉の病気を専門とします。ナルコレプシーや特発性過眠症といった過眠症、レム睡眠行動障害、周期性四肢運動障害、レストレスレッグス症候群など、脳や神経系の異常が原因となる睡眠障害の診断・治療を行います。また、頭痛やめまい、しびれといった神経症状を伴う不眠の場合も適しています。

脳神経内科が適しているケース

  • 不眠だけでなく、日中に我慢できないほどの眠気がある。
  • 睡眠中に奇妙な夢を見て大声を出したり暴れたりする。
  • 寝入りばなや目覚め際に体が動かせなくなる(金縛り)。
  • 手足に不快な感覚があり、動かさないと我慢できない。
  • 頭痛、めまい、しびれといった神経症状も伴う。

脳神経内科では、問診や神経学的診察に加え、必要に応じて脳波検査、MRI、筋電図などの検査を行います。睡眠障害の診断には、睡眠外来と同様に睡眠ポリグラフ検査などを行うこともあります。

どの診療科を選べばいいか分からない場合:簡易フローチャートと各科比較表

ここまで様々な診療科を紹介しましたが、ご自身の状態がどの科に当てはまるか判断が難しいと感じる方もいるかもしれません。以下に、簡易的な診療科選びのフローチャートと、各診療科の特徴をまとめた比較表を作成しましたので、参考にしてください。

不眠症 簡易診療科選びフローチャート

  1. 不眠の原因が自分で判断できない?
    • YES → まずは身近な 内科 へ相談
    • NO → 2へ
  2. 強いストレスや気分の落ち込み、不安など、精神的な症状も伴う?
    • YES → 精神科 または 心療内科 へ相談
    • NO → 3へ
  3. 大きないびき、睡眠中の呼吸停止を指摘された、日中の強い眠気が顕著?
    • YES → 睡眠外来耳鼻咽喉科、または 呼吸器内科 へ相談
    • NO → 4へ
  4. 不眠以外の睡眠中の異常(異常行動、手足の不快感など)や、頭痛・めまいなどの神経症状がある?
    • YES → 脳神経内科 または 睡眠外来 へ相談
    • NO → 5へ
  5. 上記に当てはまらない、あるいは他の病院で診てもらったが原因不明・改善しない?
    • YES → 睡眠外来 へ相談
    • NO → 不眠が一時的で、日常生活に大きな支障がない場合は、まずは生活習慣の見直しを試みる。それでも改善しない場合は1へ戻る。

不眠症に関する各診療科の比較

診療科 主な専門領域 不眠症における役割 こんな人におすすめ
内科 内科全般 身体疾患との関連性のスクリーニング、初期対応、専門医への紹介。 原因不明、身体的な不調も伴う、まずは気軽に相談したい。
精神科 精神疾患全般 精神疾患(うつ病、不安障害など)に伴う不眠の診断・治療(薬物療法、精神療法)。 気分の落ち込み、強い不安、精神的な問題を自覚している。
心療内科 心身症(精神的な要因による身体症状) ストレスや精神的な問題が原因の不眠や身体症状の診断・治療(薬物療法、精神療法)。 ストレスが原因で不眠や他の身体症状が出ている。
睡眠外来 睡眠障害全般 専門的な診断(睡眠ポリグラフ検査など)、あらゆるタイプの睡眠障害の専門的治療。 原因不明の不眠、難治性不眠、睡眠時無呼吸症候群などの専門的治療が必要。
耳鼻咽喉科 耳、鼻、喉など上気道 上気道の構造的な問題による睡眠時無呼吸症候群の診断・治療(手術など)。 いびき、睡眠中の呼吸停止があり、鼻や喉の形状に問題がありそう。
呼吸器内科 肺、気管支、呼吸機能 睡眠時無呼吸症候群の診断・治療(CPAPなど)、呼吸器疾患に伴う不眠の治療。 いびき、睡眠中の呼吸停止があり、呼吸器系の持病がある、CPAP療法が必要。
脳神経内科 脳、神経、筋肉 過眠症、睡眠関連運動障害、レム睡眠行動障害など、神経系の病気による睡眠障害の診断・治療。 日中の強い眠気、睡眠中の異常行動、手足の不快感、頭痛などの神経症状を伴う不眠。

※上記の表は一般的な目安です。各医療機関の医師の専門性によって対応できる範囲は異なります。

ご自身の状況に合わせて、これらの情報を参考にしながら受診する医療機関を検討してみてください。迷う場合は、まずはかかりつけの内科医に相談してみるのが最もスムーズなことが多いでしょう。

不眠症の診断方法

不眠症の診断は、患者さんからの詳しい聞き取り(問診)が中心となりますが、必要に応じていくつかの検査が行われます。

  • 問診:
    最も重要で基本的な診断方法です。医師は、不眠の具体的な症状(寝つきが悪い、途中で目が覚めるなど)、いつから始まったか、頻度、日中の状態(眠気、集中力など)、睡眠に関する習慣(寝る時間、起きる時間、寝る前の過ごし方、カフェインやアルコールの摂取など)、生活リズム(仕事時間、運動習慣など)、既往歴(これまでに罹った病気)、服用中の薬、アレルギー、家族構成、ストレスの状況など、幅広い情報を丁寧に聞き取ります。これにより、不眠のタイプや原因の手がかりを探ります。
  • 睡眠日誌:
    患者さんに1〜2週間程度、毎日「寝床に入った時間」「眠りについた時間」「夜中に目が覚めた回数と時間」「最終的に起きた時間」「寝床から出た時間」「日中の眠気」「気分」などを記録してもらう方法です。これにより、客観的な睡眠パターンや生活習慣との関連性が見えてきます。診断だけでなく、治療効果の判定にも有用です。
  • 心理検査:
    うつ病や不安障害などの精神疾患が疑われる場合や、不眠に対する考え方の癖などを把握するために、質問紙を用いた心理検査が行われることがあります。
  • 活動量計(アクチグラフィー):
    腕時計型の装置を手首などに装着し、体の動きから睡眠・覚醒パターンを推定する検査です。自宅で通常の生活を送りながら長期間記録できるため、客観的な睡眠リズムや活動量などを把握するのに役立ちます。概日リズム睡眠障害の診断などに用いられます。
  • 睡眠ポリグラフ検査(PSG:Polysomnography):
    睡眠障害の専門的な診断で最も重要な検査です。脳波、眼球運動、下肢の動き、呼吸、心電図、血中酸素飽和度などを同時に記録し、睡眠の深さや質、睡眠中の呼吸や体の異常などを詳細に調べます。通常、病院に一泊入院して行われます。睡眠時無呼吸症候群、周期性四肢運動障害、ナルコレプシーなどの確定診断に不可欠です。
  • 終夜換気ポリグラフィー検査(アプノモニターなど):
    PSGよりも簡易的な検査で、自宅で行えることが多いです。呼吸、血中酸素飽和度、いびき音などを記録し、睡眠時無呼吸症候群の診断に主に用いられます。
  • 反復睡眠潜時検査(MSLT:Multiple Sleep Latency Test):
    日中の眠気の程度を客観的に評価する検査です。昼間に短い仮眠の機会を数回設け、それぞれの仮眠で眠りにつくまでの時間(睡眠潜時)を測定します。ナルコレプシーなど、過眠症の診断に用いられます。
  • 維持覚醒検査(MWT:Maintenance of Wakefulness Test):
    眠気をこらえて覚醒を維持できる能力を評価する検査です。静かな環境で座っている状態で、どれだけ眠らずにいられるかを測定します。CPAP療法などの治療効果判定や、眠気を伴う職業に就いている人の適性判断などに用いられます。

これらの診断方法の中から、患者さんの症状や疑われる原因に応じて、医師が必要な検査を選択します。

不眠症の主な治療法(薬、非薬物療法など)

不眠症の治療法は、その原因やタイプ、症状の重症度によって異なります。大きく分けて、薬物療法と非薬物療法があります。

  • 非薬物療法:
    薬を使わない治療法で、不眠症の根本的な改善を目指します。特に慢性的な不眠症では、まず非薬物療法が推奨されることが多いです。
    • 認知行動療法(CBT-I:Cognitive Behavioral Therapy for Insomnia):
      不眠症に対して最も効果的な非薬物療法とされています。不眠に関する誤った考え方や行動の癖を修正することで、睡眠を改善します。具体的には、以下のような技法が含まれます。
      • 睡眠衛生指導: 規則正しい生活リズム、寝室環境の整備、寝る前のカフェイン・アルコール・喫煙の制限、適度な運動など、健康的な睡眠習慣を身につけるための指導。
      • 刺激制御法: 「ベッドは眠るためだけの場所」という関連付けを強化する技法。眠れない時はベッドから出て、眠気を感じたら戻る、ベッドでの考え事やスマホ操作を避けるなど。
      • 睡眠制限法: 短時間しか眠れていないと感じていても、あえてベッドにいる時間を制限することで、睡眠欲求を高め、睡眠の断片化を減らす技法。徐々にベッドにいる時間を増やしていく。
      • 認知再構成法: 不眠に関する破滅的な考え方(例:「眠れないと病気になる」「昨夜眠れなかったから今日は仕事にならない」)を現実的で建設的な考え方に修正する。
      • リラクゼーション法: 筋弛緩法、腹式呼吸、瞑想など、心身の緊張を和らげる技法。
    • 光療法: 体内時計のリズムが乱れている概日リズム睡眠障害に対して行われます。特定の時間に強い光を浴びることで、体内時計をリセットし、睡眠・覚醒のリズムを整えます。
  • 薬物療法:
    睡眠薬を中心に、不眠の症状を緩和するために用いられます。非薬物療法と並行して行われたり、急性期の症状が強い場合に一時的に使用されたりします。医師の診断に基づき、症状や患者さんの状態に合わせて適切な薬が選択されます。
    • ベンゾジアゼピン系睡眠薬: 以前は主流でしたが、依存性や耐性、ふらつき、持ち越し効果(翌日の眠気)などの副作用に注意が必要です。現在は、漫然とした長期使用は推奨されていません。
    • 非ベンゾジアゼピン系睡眠薬: ベンゾジアゼピン系よりも筋弛緩作用や抗不安作用が少なく、依存性や持ち越し効果のリスクが低いとされています。現在よく処方されます。
    • メラトニン受容体作動薬: 体内時計を調整するメラトニンというホルモンに作用し、自然な眠気を促します。比較的副作用が少なく、高齢者や概日リズム睡眠障害に用いられることがあります。依存性はほとんどないとされています。
    • オレキシン受容体拮抗薬: 覚醒に関わるオレキシンという脳内物質の働きを抑えることで眠気を促します。新しいタイプの睡眠薬です。
    • 抗うつ薬(一部): 精神疾患に伴う不眠の場合や、他の睡眠薬が効きにくい場合に、鎮静作用のある抗うつ薬が少量用いられることがあります。
    • 抗ヒスタミン薬(一部): 鎮静作用があり、市販薬にも含まれますが、不眠症に対する効果は限定的で、副作用に注意が必要です。医療用として処方されることは少ないです。

薬物療法を行う際には、医師から薬の効果や副作用、服用上の注意点について十分な説明を受けることが重要です。自己判断での中止や増量は避け、医師の指示通りに服用することが大切です。また、不眠の原因となっている身体疾患や精神疾患がある場合は、その原因疾患に対する治療も並行して行われます。

不眠症チェックは自宅でできる?

インターネット上には、不眠症の簡易チェックシートなどが多数存在します。これらは、ご自身の睡眠の状態を振り返り、不眠症の可能性があるかどうかを判断する上で参考にはなります。しかし、あくまで自己評価に基づく簡易的なものであり、正確な診断ではありません

ご自身の睡眠状態を客観的に把握するためには、前述の「睡眠日誌」を記録することが非常に有用です。睡眠日誌をつけることで、自分がどれくらいの時間眠っているのか、眠りにつくまでにどれくらい時間がかかっているのか、夜中に何回目が覚めているのかといった具体的なパターンが見えてきます。この記録は、病院を受診する際にも医師に状況を伝えるための貴重な情報となります。

簡易チェックや睡眠日誌は、あくまで受診を検討するための手がかりとして活用し、不眠の悩みが続く場合は必ず専門家(医師)に相談するようにしましょう。

不眠症で薬は必要?

不眠症の治療として、必ずしも薬が必要というわけではありません。特に慢性的な不眠症では、前述の認知行動療法(CBT-I)などの非薬物療法が、薬物療法と同等あるいはそれ以上の効果があり、再発予防にも有効であることが分かっています。

薬物療法は、不眠によるつらい症状を一時的に和らげ、日中の活動への影響を軽減することを目的として使用されます。急性期の不眠や、非薬物療法だけでは効果が不十分な場合に用いられることが多いです。

医師は、不眠の原因、症状の重症度、不眠によってどの程度困っているか、患者さんの希望などを総合的に判断し、薬物療法が必要かどうか、必要な場合はどのような種類の薬を、どのくらいの期間使うかを提案します。薬に抵抗がある場合は、その旨を医師に伝え、薬以外の治療法や、最小限の薬で済む方法について相談してみましょう。

重要なのは、不眠症の治療は薬を飲むことだけではないということです。生活習慣の見直しや認知行動療法といった非薬物療法も組み合わせることで、より効果的で持続的な改善が期待できます。

子供の不眠は何科?

子供の不眠も、大人と同様に様々な原因が考えられます。まずは、かかりつけの小児科医に相談するのが一般的です。小児科医は子供の成長や発達、小児特有の疾患に詳しいため、生活習慣の問題、身体的な不調、あるいは発達の問題などが不眠の原因となっていないかを確認してくれます。

小児科で対応が難しい場合や、精神的な問題や発達障害が強く疑われる場合は、小児心療内科小児精神科を紹介されることがあります。これらの科は、子供の心の問題や精神疾患、それに関連する身体症状や行動の問題を専門としています。

また、子供の睡眠障害を専門とする睡眠外来(子供も診察可能な施設)もあります。睡眠時無呼吸症候群(子供の場合は扁桃腺やアデノイドの肥大が原因のことが多い)やその他の専門的な睡眠障害が疑われる場合は、睡眠外来での詳しい検査や治療が必要となることがあります。

子供の不眠は、成長や発達に影響を与える可能性があるため、軽視せず早めに専門家に相談することが重要です。保護者の方が一人で悩まず、まずは身近な小児科医に相談することから始めてみましょう。

不眠症は、「少し眠れないだけ」と軽く考えられがちですが、慢性化すると心身の健康に様々な悪影響を及ぼします。日中の集中力低下による仕事や学業のパフォーマンス低下、イライラや不安感の増大による人間関係への影響、そしてうつ病や不安障害といった精神疾患の発症リスク上昇、さらには高血圧や糖尿病、心血管疾患といった身体疾患のリスク上昇も指摘されています。

不眠症は、適切な診断と、原因に合った治療を行うことで、多くの場合改善が期待できます。この記事で解説したように、不眠症の原因や症状によって最適な診療科は異なりますが、まずはご自身の状況に合わせて内科、精神科、心療内科、睡眠外来などの専門家へ相談してみることが大切です。どの科を選べば良いか迷う場合は、まずはかかりつけ医である身近な内科医に相談してみるのも良い方法です。

不眠の悩みは一人で抱え込まず、ぜひ専門家の助けを借りてください。適切な一歩を踏み出すことで、質の良い睡眠を取り戻し、心身ともに健康で充実した毎日を送ることができるようになるでしょう。

免責事項: 本記事は不眠症に関する一般的な情報提供を目的としており、特定の医療行為や診断を推奨するものではありません。個別の症状については、必ず医療機関を受診し、医師の診断と指導を受けてください。

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