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認知行動療法の簡単なやり方|自分でできるセルフ方法

「つらい」「しんどい」と感じたとき、頭の中には様々な考えが浮かんでくるものです。こうした考えが、感情や行動、さらには身体の反応にまで影響を与えていると感じることはありませんか? 認知行動療法は、この「考え方(認知)」に注目し、心の状態を改善していく心理療法の一つです。専門家と行うのが一般的ですが、その基本的な考え方や簡単なやり方を学ぶことで、日々の生活の中でセルフケアとして実践することも可能です。この記事では、認知行動療法を「簡単」に理解し、今日から「セルフ」で試せる具体的な方法をステップ形式でご紹介します。ノートやアプリを使った記録方法、考え方のクセに気づくヒント、そしてより建設的な考え方を見つける練習を通して、心の負担を少しでも軽くするお手伝いができれば幸いです。

認知行動療法(CBT:Cognitive Behavioral Therapy)は、「私たちの感情や行動は、出来事そのものではなく、その出来事をどう捉えるか(認知)によって影響される」という考えに基づいた心理療法です。例えば、友人からのメールの返信が遅いという同じ出来事があっても、

  • 「嫌われたかもしれない…」と捉えれば、不安や悲しみを感じ、その友人との連絡を避けるかもしれません。
  • 「忙しいのかな」と捉えれば、特に感情は動かず、普通に接するでしょう。
  • 「後でまとめて返そうと思ってるんだろう」と捉えれば、安心感を感じ、他の友人とも気軽に連絡を取るかもしれません。

このように、同じ出来事でも捉え方(認知)によって、その後の感情や行動が大きく変わることが分かります。

認知行動療法の目的は、この「捉え方(認知)」、特にネガティブな感情を引き起こしやすい「考え方のクセ」に気づき、より柔軟で現実的な考え方へとバランスを取っていくことです。考え方が変わることで、感情や行動も変化し、心の負担を軽減したり、問題解決に繋げたりすることを目指します。

思考・感情・行動のつながりを知ろう

認知行動療法では、私たちの心の状態を以下の4つの要素が相互に影響し合っていると考えます。

  1. 状況(Situation): 何が起こったのか、いつ、どこで、誰といたのかなど、客観的な出来事。
  2. 認知(Cognition): その状況に対して頭の中で考えたこと、イメージ、信念など。「自動思考」と呼ばれる、瞬時に浮かぶ考えが特に重要。
  3. 感情(Emotion): その時に感じた気持ち(不安、悲しみ、怒り、喜びなど)。感情の種類と強さ(例:「不安 80%」)を記録することが多い。
  4. 行動(Behavior): その時に取った行動(話すのをやめる、逃げる、黙り込む、誰かに相談するなど)。
  5. 身体反応(Physical Sensation): その時に体に現れた反応(動悸、発汗、胃痛、筋肉の緊張など)。

これらの要素は、どれか一つが変わると他の要素も影響を受けます。例えば、「嫌われたかもしれない」という考え(認知)は、不安(感情)を引き起こし、心臓がドキドキする(身体反応)と共に、その友人を避ける(行動)ことにつながります。認知行動療法では、この連鎖に介入し、特に「認知(考え方)」に働きかけることで、感情や行動のネガティブなパターンを変えていくことを目指します。

認知行動療法の基本的な考え方

認知行動療法の基本的な考え方は、決してポジティブ思考を無理強いするものではありません。ネガティブな考えや感情を否定するのではなく、それらを客観的に観察し、「本当にこの考え方は現実的かな?」「他に違う見方はできないかな?」と問い直す練習をします。

重要なのは、「特定の状況で浮かんでくる考え(自動思考)に、どのくらいの『ゆがみ』や『偏り』があるか」に気づくことです。誰にでも考え方のクセはあり、それが必ずしも悪いわけではありません。しかし、そのクセがあまりにも現実とずれていたり、自分を追い詰めるものだったりすると、つらい感情に繋がりやすくなります。

認知行動療法は、こうした自分の考え方のパターンを知り、よりバランスの取れた、状況に適した考え方を選べるようになるためのスキル習得を目指します。これは自転車に乗る練習のように、繰り返し実践することで身についていくものです。

目次

【今日からできる】セルフで認知行動療法を簡単に行うステップ

認知行動療法の基本的な考え方を踏まえ、ここからはセルフで簡単に行うための具体的なステップを見ていきましょう。専門家の指導がなくても、まずは自分のペースで試せる方法です。

全体像:考え方の「くせ」を見つけて、もっと柔軟に

セルフでの認知行動療法は、主に以下のサイクルを繰り返すことで進めていきます。

  • 特定の出来事があったときに浮かんだ考えや感情、行動を記録する。
  • その記録から、自分の「考え方のクセ」や「偏り」に気づく。
  • そのクセに捉われている考え(自動思考)に対して、「本当に正しいのかな?」と問い直し、別の見方(代替思考)を探す。
  • 新しい考え方に基づいて、行動を少し変えてみる。
  • このプロセスを繰り返すことで、考え方をより柔軟にし、心の反応を変化させていく。

難しい専門知識は不要です。まずは自分の心の動きを「観察する」ことから始めてみましょう。

ステップ0:始める前に準備すること

セルフで認知行動療法を始めるにあたり、いくつか準備しておくと便利なものがあります。大がかりなものは必要ありません。

  • ノートとペン: これが最もシンプルで手軽な方法です。出来事、考え、感情などを自由に書き出せるノートを用意しましょう。後で見返しやすいように、日付を書く習慣をつけると良いでしょう。
  • ワークシート: 認知行動療法でよく使われる、特定の出来事について思考や感情などを整理するためのフォーマットです。インターネットで「認知行動療法 ワークシート」「コラム法 シート」などで検索すると、無料のテンプレートが見つかります。ダウンロードして印刷するか、ノートに同じ項目を書いて使っても良いでしょう。
  • スマートフォンアプリ: 認知行動療法をサポートするアプリも多数開発されています。日々の記録、感情のトラッキング、認知のゆがみの理解、代替思考を考えるヒントなど、様々な機能が提供されています。アプリを使うと、手軽に記録できたり、グラフで変化を確認できたりするメリットがあります。自分に合ったものを選んでみましょう。

どれを使うかは個人の好みや使いやすさで構いません。まずは手軽に始められるものから試してみてください。重要なのは「記録する」という行動を続けることです。

ステップ1:気になる状況と感情を「見える化」する

セルフ認知行動療法の最初のステップは、「つらい」「しんどい」と感じた具体的な状況と、そのときに感じた感情を記録することです。

記録する内容は以下の通りです。

  • 状況: いつ、どこで、誰と、何が起こったのか。具体的に描写しましょう。(例:「今日のランチ休憩中、職場の同僚Aさんと話していた時」)
  • 感情: その状況で感じた気持ち。不安、悲しみ、怒り、イライラ、落ち込みなど、複数の感情があったかもしれません。それぞれの感情の種類と、その強さを0%から100%くらいの数値で記録してみましょう。(例:「不安 70%、ゆううつ 50%」)
  • 身体反応(オプション): その時に体に現れた反応があれば記録します。(例:「胃がキリキリした、手のひらに汗をかいた」)
  • 行動(オプション): その状況で自分が実際に取った行動を記録します。(例:「会話を早く切り上げようとした」)

ワークシートやノートに書く場合は、以下のような形式で記録すると整理しやすいです。

日時 状況 感情(種類と強さ) 身体反応(任意) 行動(任意)
〇月〇日 13:00 ランチ休憩中、同僚Aさんと話していた時 不安 70%、ゆううつ 50% 胃がキリキリした 会話を早く切り上げた

まずは1日に1~2回、気になる状況や感情が動いた時に記録することから始めてみましょう。最初から完璧を目指す必要はありません。

ステップ2:頭に浮かんだ「自動思考」をキャッチする

ステップ1で記録した状況と感情の間に、どんな考えが頭の中に浮かんでいたかを特定するのがこのステップです。これを「自動思考」と呼びます。

自動思考とは、特定の状況になったときに意図せず、瞬時に頭に浮かんでくる考えやイメージのことです。「こうに違いない」「ああなったらどうしよう」といった、その時の感情に直結している考えを探しましょう。

自動思考を見つけるためのヒント:

  • その感情を感じる直前に、何を考えていましたか?
  • 頭の中で、誰かの声が聞こえてくるような感じでしたか?
  • 将来について、どんな予測をしていましたか?
  • 自分自身について、どんなことを考えていましたか?
  • 頭の中に、何か特定のイメージが浮かんでいましたか?

ステップ1の記録に、自動思考の欄を追加して書き込んでみましょう。

日時 状況 感情(種類と強さ) 自動思考 身体反応(任意) 行動(任意)
〇月〇日 13:00 ランチ休憩中、同僚Aさんと話していた時 不安 70%、ゆううつ 50% 「きっとAさんは私のことが嫌いだ。変なことを言ったかも…」 胃がキリキリした 会話を早く切り上げた

頭に浮かんだことを、そのまま正直に書き出すのがポイントです。どんな考えが浮かんだかを「評価」する段階ではありません。まずは「キャッチする」ことに集中しましょう。

ステップ3:自動思考の「ゆがみ」や「偏り」に気づく

自動思考を記録していくと、特定の状況で繰り返し浮かんでくる考え方のパターンや、「これは現実と少しずれているかもしれないな」と感じる「ゆがみ」や「偏り」に気づくことがあります。これが「認知のゆがみ」です。

認知のゆがみは、誰にでもある考え方のクセのようなものです。しかし、これが強すぎると、現実をネガティブに捉えすぎたり、自分自身を不当に責めたりして、つらい感情を増幅させてしまうことがあります。

代表的な認知のゆがみのパターンをいくつかご紹介します。自分の記録した自動思考に、これらのパターンが当てはまるものがないか探してみましょう。

代表的な認知のゆがみパターン

パターン名 特徴 具体例
全か無か思考(白黒思考) 物事を極端な二者択一で捉える。「完璧か、さもなくば失敗」「成功か、さもなくば無価値」のように中間がない。 少しミスをしただけで「私は完全にダメな人間だ」と考えてしまう。
結論の飛躍 十分な根拠がないのに、ネガティブな結論を急いで下す。
 - 心の読みすぎ 他人が何を考えているかを決めつける。 友人が挨拶してくれなかっただけで「私を避けているに違いない」と思い込む。
 - 先読みの誤り 将来の出来事が悪くなると決めつける。 プレゼン前に「どうせ失敗するだろう」と結果を決めつけてしまう。
マイナス化思考 ポジティブな出来事を些細なこととして片付け、無視してしまう。ネガティブな出来事ばかりに目を向ける。 試験に合格しても「たまたまだ」「誰でも受かるレベルだった」と自分の努力を認めない。
過度の一般化 一つか二つのネガティブな出来事から、全てがそのパターンになると決めつける。「いつも〜だ」「決して〜ない」といった言葉を使いがち。 一度プレゼンでうまくいかなかっただけで「私は人前で話すのが永遠にダメだ」と考えてしまう。
拡大解釈と過小評価 自分の失敗や欠点を大げさに捉え、長所や成功体験を過小評価する。他人の良い点を大げさに捉え、悪い点を過小評価する傾向もある。 自分のミスは「大失敗だ」と嘆く一方、うまくいったことは「たいしたことない」と考える。
感情的決めつけ 自分がそう感じるから、それが真実だと決めつける。「そう感じるのだから、そうなのだろう」。 不安を感じるから「やっぱり危険な状況なんだ」と思い込む。やる気が出ないから「私は怠け者だ」と決めつける。
「〜すべき」思考 自分や他人が「〜すべき」「〜ねばならない」という強い固定観念にとらわれている。そうでないと、自分や他人を強く批判してしまう。 「良い親なら、常に子供の言うことを聞くべきだ」と考えて、それができない自分を責める。
レッテル貼り 一つの出来事や失敗に基づいて、自分や他人にネガティブな固定的なレッテルを貼る。 一度ミスをしただけで「私は失敗者だ」と自分にレッテルを貼る。
自己関連付け 自分には直接関係のないネガティブな出来事について、自分の責任だと勝手に考えてしまう。 友人が機嫌が悪いのを見て「きっと私が何か悪いことをしたせいだ」と考えてしまう。

記録した自動思考を見返しながら、「この考えは、どのゆがみパターンに当てはまるかな?」と考えてみましょう。特定のパターンに気づくこと自体が、考え方を変えるための大きな一歩となります。

ステップ4:他の考え方(代替思考)を探す

自分の自動思考の「ゆがみ」や「偏り」に気づいたら、次にその考え方は本当に現実を正確に反映しているのかを検証し、よりバランスの取れた別の考え方(代替思考)を探す練習をします。

このステップの目的は、ネガティブな考えを無理にポジティブな考えに置き換えることではありません。あくまで、「他の見方もできるのではないか?」「もっと現実的な捉え方はできないか?」と多角的に検討することです。

代替思考を探すための問いかけ:

  • その考えを裏付ける証拠は何ですか?
  • その考えに反論する証拠は何ですか?
  • 友人が同じ状況だったら、あなたは何と声をかけますか?
  • 過去に似たような状況で、違った結果になったことはありますか?
  • その考えのメリットとデメリットは何ですか?
  • もっとバランスの取れた、現実的な見方はできませんか?
  • その考えに捉われていると、どんな気持ちになりますか?別の考え方をしたら、気持ちはどう変わりそうですか?

これらの質問を自分自身に投げかけながら、自動思考よりも現実的で、つらい感情を軽減してくれるような考え方を探します。

例(ステップ3の例を引き継ぐ):

日時 状況 感情(種類と強さ) 自動思考 ゆがみパターン 代替思考 身体反応(任意) 行動(任意)
〇月〇日 13:00 ランチ休憩中、同僚Aさんと話していた時 不安 70%、ゆううつ 50% 「きっとAさんは私のことが嫌いだ。変なことを言ったかも…」 心の読みすぎ、拡大解釈 ・Aさんが忙しいだけかもしれないし、何か別のことで考え事をしていたのかもしれない。
・以前は普通に話せていたし、特に嫌われるような出来事はなかったはずだ。
・仮に少し変なことを言ったとしても、それだけで嫌いになるかな?そこまで深刻に考える必要はないかもしれない。
胃がキリキリした 会話を早く切り上げた

代替思考は一つである必要はありません。いくつかの可能性を書き出してみて、その中で最も現実的で、感情を少しでも楽にしてくれるような考え方を選んでみましょう。選んだ代替思考を改めて記録し、その考え方を受け入れたら感情の強さがどう変わるかを予測してみるのも良い練習になります。

ステップ5:新しい考えに基づき行動を「ちょっとだけ」変えてみる

思考パターンが変わってくると、自然と行動も変化してきます。しかし、セルフでの実践では、意識的に新しい考え方に基づいた行動を試してみることも有効です。これを「行動実験」と呼ぶこともあります。

例えば、ステップ4で「Aさんは忙しいだけかもしれない」という代替思考を見つけたなら、次の日には「Aさんに軽く話しかけてみる」という行動を試してみる、といった具合です。

行動実験のポイント:

  • 小さなことから始める: 失敗しても落ち込みすぎないように、達成しやすい小さな目標を設定しましょう。
  • 結果を予測する: 行動する前に、「この行動をとったらどうなるかな?」と予測を立てておきます。(例:「話しかけたら、普通に返事をしてくれるだろう」)
  • 結果を観察・記録する: 実際に行動してみて、何が起こったかを観察し、記録します。予測通りだったか、予測と違ったか、その時どう感じたかなどを書き留めます。(例:「話しかけたら笑顔で返してくれた。不安は少し和らいだ。」)
  • 結果を評価する: 行動の結果が、最初の自動思考や代替思考のどちらをより支持するかを考えます。

この行動実験を通して、自分のネガティブな自動思考が必ずしも現実を正確に反映しているわけではないことを、体験として学ぶことができます。「考えていたほど悪くならなかった」という体験は、代替思考を受け入れる大きな助けになります。

これらのステップ1~5を繰り返し行うことで、自分の考え方のクセに気づきやすくなり、ネガティブな考えに捉われそうになったときに、意識的に立ち止まり、別の見方を探す練習をすることができます。最初は難しく感じるかもしれませんが、続けていくうちに少しずつ慣れてくるでしょう。

やり方を具体例で見てみよう【シチュエーション別】

ここまで認知行動療法のセルフ実践ステップを見てきましたが、具体的な例を通して理解を深めましょう。ここでは「仕事の失敗で落ち込んだとき」を例に、ステップ1から5の流れを見ていきます。

具体例:仕事の失敗で落ち込んだとき

状況:
今日の午後、上司に提出した書類にミスが見つかり、指摘された。

ステップ1:状況と感情を記録する

日時 状況 感情(種類と強さ) 身体反応(任意) 行動(任意)
〇月〇日 15:00 上司に提出した書類のミスを指摘された 落ち込み 90%、不安 70% 胃が重い 返事を小さくした

ステップ2:自動思考をキャッチする

日時 状況 感情(種類と強さ) 自動思考 身体反応(任意) 行動(任意)
〇月〇日 15:00 上司に提出した書類のミスを指摘された 落ち込み 90%、不安 70% 「なんて使えないんだ、私は。簡単なミスばかりする。クビになるかもしれない。」 胃が重い 返事を小さくした

ステップ3:自動思考の「ゆがみ」や「偏り」に気づく
自動思考:「なんて使えないんだ、私は。簡単なミスばかりする。クビになるかもしれない。」

  • 「なんて使えないんだ」:レッテル貼り(自分にダメなレッテルを貼っている)
  • 「簡単なミスばかりする」:過度の一般化(今回のミスだけで、いつも簡単なミスをする人間だと決めつけている)
  • 「クビになるかもしれない」:先読みの誤り(根拠なく最悪の結果を予測している)
  • 全体的に:拡大解釈(一つのミスを大げさに捉えている)

ステップ4:他の考え方(代替思考)を探す
自動思考に対して問いかけ、代替思考を探します。

  • 問いかけ: 「本当に簡単なミスばかりしている?」「今回のミスだけでクビになる可能性はどれくらいある?」
  • 反論する証拠: 「先週提出した資料はミスなく通った。」「大きなプロジェクトを成功させたこともある。」「他の人もたまにはミスをする。」「会社のルールで、一度のミスでクビになることはないはずだ。」
  • 別の見方: 「今回は集中力が欠けていたのかもしれない。次回から見直しのプロセスをしっかりしよう。」「このミスから学んで、次は同じミスをしないように気をつけよう。」「上司はただミスを指摘しただけで、私の全てを否定しているわけではないだろう。」
  • よりバランスの取れた考え方: 「今回はミスをしてしまったけれど、これは成長するための学びの機会だ。この経験を次に活かそう。」

代替思考:
「今回はミスをしてしまった。誰にでもミスはある。このミスから学び、次はもっと注意深く確認しよう。これでクビになるなんて極端に考えすぎだ。」

代替思考を受け入れたら、落ち込みや不安の感情は少し和らぎそうですか?(例:落ち込み 90% → 60%、不安 70% → 40%)

ステップ5:新しい考えに基づき行動を変える
新しい考え方「このミスから学んで、次はもっと注意深く確認しよう」に基づいて、具体的な行動を考えてみます。

  • 行動: 「次に書類を作成する際は、提出前に少なくとも2回は見直しをする。」「特に間違いやすい箇所をリストアップしておく。」
  • 行動実験の予測: 「見直しを徹底すれば、ミスの可能性を減らせるだろう。」「ミスが減れば、自信も少しずつ回復するかもしれない。」
  • 行動実験の実行と観察: 次の書類作成時に見直しを徹底し、実際にミスが減ったかを観察・記録する。ミスが減ったことで、ネガティブな自動思考が浮かびにくくなったかなども記録する。

このように、一つの出来事に対してステップを踏んでいくことで、自分の心の動きを客観的に観察し、より建設的な捉え方や行動を選択する練習ができます。最初は時間がかかるかもしれませんが、繰り返すことで慣れてくるでしょう。

認知行動療法を簡単・継続するためのコツ

セルフでの認知行動療法は、続けることが大切です。ここでは、簡単かつ継続するためのいくつかのコツをご紹介します。

  • 完璧を目指さない: 最初から全ての自動思考を捉えたり、全ての認知のゆがみを直したりしようとしないことです。まずは週に数回でも良いので、気になる状況だけを記録してみましょう。少しずつ慣れていけば大丈夫です。
  • 毎日少しずつ続ける: 一度にかける時間は短くても構いません。寝る前に5分だけ、その日の出来事と感情、頭に浮かんだ考えを書き出すなど、習慣にしやすい時間を見つけて取り入れましょう。
  • 記録を習慣化する工夫: 記録するツール(ノート、アプリなど)を常に手元に置く、特定の時間になったらアラームを鳴らすなど、記録を忘れないための工夫をしてみましょう。
  • ポジティブな変化にも目を向ける: ネガティブな状況だけでなく、楽しかったことやうまくいったこと、心が落ち着いた状況についても記録してみましょう。どんな時に心が穏やかになるか、どんな考え方が自分を助けてくれるかを知る手がかりになります。
  • ワークシートやアプリを活用する: 自分に合ったツールを使うことで、記録や分析が効率的に行えます。特にアプリは、記録の習慣化や感情の可視化に役立つものが多いです。
  • 誰かに話してみる(信頼できる友人、家族): 記録した内容全てを話す必要はありませんが、セルフで取り組んでいることや、気づいた考え方のクセなどを、信頼できる人に話してみるのも良いかもしれません。話すことで頭の中が整理されたり、客観的な視点を得られたりすることがあります。ただし、無理にする必要はありません。

セルフでの実践は、自分のペースで取り組めるのがメリットです。焦らず、楽しみながら続けていきましょう。

こんなときは要注意|セルフでの認知行動療法が難しいケース

セルフでの認知行動療法は、日々のちょっとした心のつまずきや考え方のクセに気づき、対処するのに有効な方法です。しかし、全ての問題に対してセルフで行えるわけではありません。以下のような場合は、セルフでの実践が難しかったり、専門家のサポートが必要だったりすることがあります。

  • 症状が重い場合: 重度のうつ病、強い不安障害(パニック障害、社交不安障害など)、強迫性障害、PTSDなど、特定の精神疾患の症状が重い場合。これらの症状は、セルフケアだけでは対処が難しいことがあります。
  • 強い希死念慮や自傷行為の衝動がある場合: 危険な状況にある可能性が高く、すぐに専門家の介入が必要です。セルフで一人で抱え込むのは非常に危険です。
  • 現実検討能力が低下している場合: 幻覚や妄想があるなど、現実との区別がつきにくい精神病性障害の場合。
  • 過去のつらい体験がフラッシュバックする場合: 過去のトラウマ体験などが関係している場合、一人で取り組むことで症状が悪化する可能性があります。
  • 感情のコントロールが非常に難しい場合: 強い怒りや衝動性が抑えられない場合。
  • セルフで試しても全く改善が見られない、または悪化する場合: 2~3週間セルフで取り組んでみても変化がない、あるいはかえってしんどくなった場合は、別の方法や専門家のサポートが必要かもしれません。
  • 自分の考え方のクセに、どうしても客観的に気づけない場合: 自分一人では、自分の考え方の偏りになかなか気づけないこともあります。

このようなケースに当てはまる、あるいは「自分はもしかしたら専門家の助けが必要かもしれない」と感じた場合は、無理にセルフで続けようとせず、次に説明する専門家への相談を検討することが非常に重要です。セルフケアはあくまで補完的なものであり、専門的な治療の代わりにはならないことを理解しておきましょう。

一人で抱え込まない|困ったときは専門家へ相談も検討

セルフでの認知行動療法に限界を感じたり、そもそも一人で取り組むのが難しそうだと感じたりした場合は、専門家のサポートを受けることをためらわないでください。専門家と一緒に行う認知行動療法は、より効果的で安全な方法です。

どんな専門家がいるの?

認知行動療法を提供できる専門家としては、主に以下のような方がいます。

  • 精神科医・心療内科医: 診断や薬物療法を行うことができます。必要に応じて心理療法士を紹介することもありますし、医師自身が認知行動療法を行う場合もあります。
  • 臨床心理士: 民間の資格ですが、心理アセスメントや様々な心理療法(認知行動療法を含む)を行います。
  • 公認心理師: 国家資格です。心理に関する支援を必要とする人に対し、心理状態の観察・分析、心理に関する相談・助言・指導などを行います。認知行動療法もその専門分野の一つです。
  • 精神保健福祉士: 精神的な問題を抱える方の社会復帰や生活のサポートを行う福祉の専門家です。心理療法は専門外ですが、相談窓口や社会資源についての情報提供をしてくれる場合があります。

相談先の探し方:

  • かかりつけ医に相談する: まずは身近な医師に相談してみましょう。適切な診療科や専門家を紹介してくれる場合があります。
  • 精神科・心療内科を受診する: 診断を受けて、医師から認知行動療法が適応となるか、専門の施設や心理療法士を紹介してもらうことができます。
  • カウンセリング機関を探す: 病院の精神科に付設されているカウンセリングルーム、大学の相談室、公的な相談機関(精神保健福祉センター、保健所など)、民間のカウンセリングルームなどがあります。公的な機関は無料で相談できる場合もあります。
  • インターネットで検索する: 「〇〇市 認知行動療法」「〇〇県 カウンセリング」などで検索すると、近くの専門機関が見つかります。公認心理師や臨床心理士の協会のウェブサイトで、専門家リストや相談機関リストを公開している場合もあります。
  • オンラインカウンセリング: 自宅から手軽に受けられるオンラインカウンセリングサービスでも、認知行動療法を得意とする専門家が見つかることがあります。

専門家と行う認知行動療法

専門家と行う認知行動療法では、以下のようなメリットがあります。

  • 正確な診断と評価: 専門家が現在の心の状態や抱えている問題を正確に評価し、認知行動療法が最適なアプローチであるかを見極めてくれます。
  • 個別のプログラム作成: 抱えている問題や目標に合わせて、オーダーメイドの治療計画やワークシートを作成してくれます。
  • 客観的な視点: 自分一人では気づきにくい考え方のクセや盲点を、専門家が客観的に指摘し、新しい視点を提供してくれます。
  • 適切な誘導とサポート: ワークシートの記入方法、代替思考の見つけ方、行動実験の計画など、各ステップを効果的に進めるための具体的なアドバイスやサポートを受けられます。
  • 安全な環境: つらい感情や考えを安心して話せる、安全で守秘義務のある環境が提供されます。
  • 複雑な問題への対応: 一つの問題だけでなく、複数の問題が絡み合っている場合や、より根深い考え方のパターン(スキーマ)にアプローチすることも可能です。

専門家による認知行動療法は、一般的に週に1回程度のセッションを数週間から数ヶ月、場合によってはそれ以上続ける形で行われます。費用や期間は機関や専門家によって異なりますので、事前に確認が必要です。

「専門家に相談するのはハードルが高い」と感じるかもしれませんが、心の健康を守るための大切な一歩です。一人で抱え込まず、必要だと感じたらぜひ専門家のサポートを検討してみてください。

まとめ

認知行動療法は、「つらい」「しんどい」といった感情が、出来事そのものよりも、その出来事をどう捉えるかという「考え方(認知)」に大きく影響されている、という視点から心の状態を改善していくアプローチです。自分の考え方のクセ、特にネガティブな感情を引き起こしやすい「自動思考」に気づき、それを客観的に見つめ、より柔軟で現実的な別の考え方を探す練習をすることで、心の負担を軽減することを目指します。

この記事で紹介したセルフでできる簡単なステップは以下の通りです。

  1. 気になる状況と感情を記録する。
  2. その時、頭に浮かんだ自動思考を見つける。
  3. 自動思考の中に、認知のゆがみや偏りがないか気づく。
  4. 自動思考に問いかけ、別の考え方(代替思考)を探す。
  5. 新しい考え方に基づき、小さな行動変化を試してみる。

ノートやワークシート、アプリなどを活用し、毎日少しずつでも継続することがセルフ実践の鍵となります。完璧を目指さず、まずは「自分の心の動きを観察してみよう」という気持ちで始めてみてください。

ただし、セルフでの認知行動療法には限界があります。症状が重い場合や、つらい感情や考えに圧倒されてしまう場合、一人ではどうしてもうまくいかない場合は、無理せず専門家(精神科医、心療内科医、臨床心理士、公認心理師など)に相談することが非常に重要です。専門家は、あなたの状況に合わせてより効果的で安全なサポートを提供してくれます。

認知行動療法は、自分の考え方や感情のパターンを理解し、より生きやすくなるための「心の筋トレ」のようなものです。この記事が、あなたが認知行動療法に触れ、心のセルフケアを始めるための一歩となれば幸いです。

【免責事項】

本記事は認知行動療法の一般的な情報提供を目的としており、医学的な診断や治療に代わるものではありません。特定の症状でお悩みの方、精神疾患の診断を受けている方は、必ず専門の医療機関にご相談ください。セルフでの実践は、ご自身の判断と責任において行ってください。実践によって症状が悪化したり、新たな問題が生じたりした場合でも、当方では一切の責任を負いかねますのでご了承ください。

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