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慢性的な不安の原因は?全般性不安障害の症状と治し方

「全般性不安障害」という言葉を耳にしたことがありますか?
これは、特定の対象や状況だけでなく、日常生活の色々な出来事に対して、慢性的かつ過剰な不安や心配を抱く精神疾患です。
多くの人が日々の生活で多少の不安を感じますが、全般性不安障害ではその不安が現実的な状況に見合わず、コントロールすることが難しくなります。
この絶え間ない心配によって、心身ともに疲れ果て、日常生活に大きな支障をきたすことも少なくありません。
検査を受けても体に異常が見つからないのに、原因不明の体調不良に悩まされている方もいらっしゃるかもしれません。
もし、あなたやあなたの周りの方が、漠然とした不安や体調不良に長く悩まされているのであれば、全般性不安障害の可能性も考えられます。
この疾患について正しく理解し、適切な対処法を知ることは、不安の軽減と回復への第一歩となります。

目次

全般性不安障害の症状

全般性不安障害の症状は多岐にわたり、精神的なものと身体的なものの両方に現れます。
これらの症状が、日常の活動、仕事、学業、または対人関係に著しい苦痛や機能的な障害を引き起こすことが特徴です。
多くの患者さんは、これらの症状が長期間にわたって持続し、改善したり悪化したりを繰り返すサイクルを経験することがあります。

精神症状(漠然とした不安・心配・予期不安)

全般性不安障害の中心的な症状は、制御困難な過剰な不安や心配です。
この不安は、特定の状況や出来事に限定されず、仕事のパフォーマンス、学業、家族の安全、経済状況、自身の健康、あるいは些細な日常生活の事柄など、様々な領域に及びます。
「もし〇〇になったらどうしよう」「△△がうまくいかなかったら大変だ」といった考えが頭から離れず、最悪の事態を常に想定してしまう傾向があります。

この「漠然とした不安」は、特定の脅威が明確でないため、どう対処すれば良いのか分からず、患者さんを深く消耗させます。
未来に対するネガティブな予期(予期不安)が強く、常に何か悪いことが起こるのではないかという恐れを抱えています。
心配している対象が解決しても、すぐに別の心配事を見つけてしまい、常に心を休めることができません。
この過剰な心配は、本人の努力だけでは抑えきれないと感じることが多く、日常生活に大きな負担となります。
集中力の低下、物事への興味の喪失、決断力の低下なども精神症状として現れることがあります。
また、些細なことにもイライラしやすくなる(易刺激性)ことも特徴の一つです。

身体症状(倦怠感・動悸・めまい・不眠など)

慢性的で過剰な不安は、自律神経系に影響を与え、様々な身体症状を引き起こします。
これらの身体症状は、内科的な検査では異常が見つからないことが多いにも関わらず、患者さんにとっては非常に苦痛であり、病気への更なる不安につながることもあります。

全般性不安障害でよく見られる身体症状には以下のようなものがあります。

  • 筋肉の緊張: 肩こり、首のこり、頭痛(特に緊張型頭痛)など。常に体が強張っている感覚があります。
  • 易疲労性: 少し活動しただけでひどく疲れる、慢性的な倦怠感。
  • 落ち着きのなさ: そわそわして落ち着かない、じっとしていられない。
  • 集中困難: 不安や心配事で頭がいっぱいになり、目の前のことに集中できない。
  • 易刺激性: 些細なことでイライラしたり、怒りっぽくなったりする。
  • 睡眠障害: 寝つきが悪い(入眠困難)、夜中に何度も目が覚める(中途覚醒)、朝早く目が覚める(早朝覚醒)、眠りが浅い、熟睡感がないなど。
  • 動悸や息切れ: 心臓がドキドキする、脈が速くなる、息苦しさを感じる。
  • 消化器症状: 腹痛、吐き気、下痢、便秘、胃の不快感など、過敏性腸症候群のような症状。
  • めまいやふらつき: 立ちくらみや、体がふわふわするような感覚。
  • 発汗や手の震え: 緊張していない時でも汗をかいたり、手が震えたりすることがあります。
  • 口の渇き: 不安によって唾液の分泌が減少し、口が渇くことがあります。

これらの身体症状は、患者さんを「自分は何か重大な病気にかかっているのではないか」という更なる心配に駆り立てることがあります。
しかし、多くの場合、これらの症状は不安が原因で起こっており、不安障害の治療によって改善が見られます。
複数の身体症状が同時に現れることも珍しくなく、日によって症状が変化することもあります。

全般性不安障害の原因

全般性不安障害の発症には、一つの明確な原因があるわけではなく、複数の要因が複雑に絡み合っていると考えられています。
これは「生物心理社会モデル」と呼ばれる考え方に基づいています。
遺伝的な素因、脳機能の偏りといった生物学的要因に加え、幼少期の体験、性格傾向といった心理的要因、そして慢性的なストレスや生活上の出来事といった社会的な要因が相互に影響し合って発症に至ると考えられています。

心理社会的要因

個人の性格傾向や過去の経験は、全般性不安障害の発症に大きく関与します。

  • ストレス: 長期間にわたる慢性的なストレスは、心身の許容量を超え、不安を増大させる大きな要因となります。仕事や学業でのプレッシャー、人間関係の悩み、経済的な問題、介護など、様々なストレス源が関連します。また、大きなライフイベント(結婚、出産、引っ越し、転職、親しい人との死別など)も発症のきっかけとなることがあります。
  • 幼少期の経験: 安定しない家庭環境、親からの過干恵、トラウマ体験(虐待やネグレクトなど)は、世界は安全ではない、いつ何が起こるか分からないという感覚を植え付け、大人になってからの過剰な不安や心配につながることがあります。また、親が心配性だった場合、子供も同じような思考パターンを学習する可能性があります。
  • 性格傾向: 心配性、完璧主義、ネガティブ思考に陥りやすい、物事をコントロールしたい欲求が強いといった性格傾向を持つ人は、全般性不安障害を発症しやすいと考えられています。これらの性格傾向は、不安を感じやすい状況を作り出したり、不安に対する対処を難しくしたりすることがあります。
  • 学習: 不安や心配によって困難な状況を回避できたという経験や、心配することで問題が悪化するのを防げたという誤った学習も、過剰な心配を維持させる要因となることがあります。

これらの心理社会的要因は、単独で作用するだけでなく、生物学的な脆弱性と組み合わさることで、全般性不安障害の発症リスクを高めます。

生物学的要因

脳の機能や構造、遺伝的な素因といった生物学的な要因も、全般性不安障害の発症に関連していると考えられています。

  • 神経伝達物質のアンバランス: 脳内には感情や気分、行動を調節する様々な神経伝達物質があります。セロトニン、ノルアドレナリン、γ-アミノ酪酸(GABA)などが知られていますが、これらの物質の働きに偏りやアンバランスが生じると、脳の機能に影響を与え、不安を感じやすくなることが分かっています。特に、不安や恐怖に関わる脳の領域(扁桃体など)と、思考や理性に関わる領域(前頭前野など)の連携がうまくいかないことが示唆されています。
  • 脳の構造と機能: 全般性不安障害の患者さんでは、不安や感情処理に関わる特定の脳領域の活動が過剰になったり、逆に活動が低下したりすることが研究で示されています。扁桃体の活動亢進や、前頭前野の機能低下などが関連していると考えられています。これにより、危険信号に対して過敏に反応したり、不安思考を抑制するのが難しくなったりすることが考えられます。
  • 遺伝的要因: 全般性不安障害は、家族の中で発症しやすい傾向が見られます。これは、特定の遺伝子が不安障害の発症リスクを高める可能性を示唆しています。ただし、特定の「不安障害を引き起こす遺伝子」が見つかっているわけではなく、複数の遺伝子が複合的に影響し合うと考えられています。また、遺伝的な素因があっても、必ずしも発症するわけではなく、環境要因との相互作用によって発症に至ると考えられています。
  • その他の生物学的要因: 甲状腺機能の異常、カフェインやアルコールの過剰摂取、特定の薬剤の使用なども、不安症状を引き起こしたり悪化させたりする可能性があります。これらの身体的な状態や物質の影響を鑑別することは、診断において非常に重要です。

このように、全般性不安障害の原因は多面的であり、遺伝的な脆弱性に加えて、ストレスの多い環境や特定の思考パターンが組み合わさることで発症しやすくなると考えられています。
原因を特定することは容易ではありませんが、これらの要因を理解することは、治療法の選択やセルフケアの重要性を理解する上で役立ちます。

全般性不安障害の診断

全般性不安障害の診断は、問診を通じて患者さんの症状の詳細や経過、既往歴、家族歴、現在の生活状況などを総合的に評価し、確立された診断基準に基づいて行われます。
自己診断は難しく、また他の疾患と症状が似ている場合も多いため、必ず精神科医や心療内科医といった専門医による正確な診断が必要です。

診断基準(DSMなど)

世界的に広く用いられている診断基準としては、アメリカ精神医学会が発行する『精神疾患の診断・統計マニュアル(DSM)』があります。
最新版であるDSM-5-TRにおける全般性不安障害の診断基準の主なポイントは以下の通りです(簡略化して記載しています)。

  • A. 過剰な不安と心配: 様々な出来事や活動(例えば、仕事や学業の成績)に関する過剰な不安と心配が、少なくとも6ヶ月以上にわたって、そうした日がそうでない日よりも多く存在する。
  • B. 心配のコントロール困難: その心配をコントロールすることが難しいと感じている。
  • C. 不安や心配に関連する症状: その不安や心配は、以下の6つの症状のうち少なくとも3つ(小児では1つ)またはそれ以上と関連している。
    • 落ち着きのなさ、または神経過敏、あるいは昂ぶっている感じ。
    • 容易に疲労する。
    • 集中困難、または心が空白になる。
    • 易刺激性。
    • 筋肉の緊張。
    • 睡眠障害(入眠困難、中途覚醒、または落ち着きのなく満たされない睡眠)。
  • D. 症状による影響: その不安、心配、または身体症状が、臨床的に意味のある苦痛、または社会的、職業的、または他の重要な領域における機能の障害を引き起こしている。
  • E. 他の疾患との鑑別: その障害は、他の精神疾患(例:パニック障害、社交不安障害、強迫性障害、分離不安障害など)の症状に限定されない。
  • F. 物質または他の医学的状態によるものではない: その障害は、物質(例:乱用薬物、医薬品)または他の医学的状態(例:甲状腺機能亢進症)の生理学的作用によるものではない。

専門医は、これらの基準を満たすか慎重に評価します。
特に、症状の持続期間(6ヶ月以上)と、不安が特定の対象に限られない「全般性」であること、そして心配をコントロールすることが難しいと感じている点が重要なポイントとなります。

自己診断と専門医の重要性

インターネットや書籍で得られる情報を用いて、自分の症状が全般性不安障害に当てはまるかどうかを考えることは、自身の状態に気づき、専門機関を受診するきっかけとして有効です。
しかし、これらの情報による自己診断はあくまで参考にとどめるべきです。
その理由はいくつかあります。

まず、全般性不安障害の症状は、うつ病、他の不安障害(パニック障害、社交不安障害、強迫性障害など)、適応障害、または身体的な疾患(甲状腺機能亢進症、不整脈など)の症状と似ている場合があるため、正確な鑑別診断が必要です。
誤った自己診断に基づいて対応すると、適切な治療を受ける機会を失い、症状が悪化する可能性があります。

次に、診断基準を満たしているかどうかを専門的な視点で判断する必要があります。
例えば、「過剰な」不安や心配の程度、「コントロール困難」であるかどうかの評価は、患者さんの主観だけでなく、臨床的な経験に基づいて行われます。

さらに、全般性不安障害に加えて、うつ病や他の不安障害、物質乱用などの精神疾患を合併していることも少なくありません。
これらの合併症を見落とさずに診断し、包括的な治療計画を立てるためには、専門的な知識と経験が必要です。

したがって、漠然とした不安や体調不良が続き、全般性不安障害の可能性を疑う場合は、決して自己判断で済ませず、精神科や心療内科といった専門の医療機関を受診することが極めて重要です。
専門医は、正確な診断を行い、個々の患者さんの状態やニーズに合わせた適切な治療法を提案してくれます。

他の不安障害との違い

不安障害には全般性不安障害の他にもいくつかの種類があり、それぞれ特徴的な症状や不安を感じる対象が異なります。
全般性不安障害と他の不安障害を区別することは、適切な診断と治療を行う上で非常に重要です。
ここでは、全般性不安障害と混同されやすい他の不安障害との違いについて説明します。

パニック障害との違い

パニック障害は、突然、何の予兆もなく激しい不安や恐怖に襲われる「パニック発作」を繰り返すことが主な特徴です。
パニック発作中は、動悸、息苦しさ、胸の痛み、めまい、手足の震え、発汗、吐き気、非現実感(自分が自分ではないような感覚)、死ぬのではないかという恐怖などが短時間(通常数分から30分以内)のうちにピークに達します。
パニック発作が繰り返し起こることへの予期不安(また発作が起こるのではないかという恐れ)や、発作が起こりそうな場所(人混み、電車の中、閉鎖された空間など)を避けるようになる広場恐怖を伴うこともあります。

一方、全般性不安障害の不安は、特定の状況や突発的な発作に限られず、慢性的で持続的です。
パニック発作のように激しい症状が突然ピークに達することは少なく、漠然とした心配や体のこわばり、疲れやすさなどが継続します。
パニック障害が「急性的な激しい不安の発作」を特徴とするのに対し、全般性不安障害は「慢性的で広範囲にわたる心配」を特徴とすると言えます。
ただし、全般性不安障害の患者さんが、パニック発作のような症状を経験することもあり、両者が合併することもあります。

社交不安障害との違い

社交不安障害(旧名:社会不安障害)は、特定の社交場面(人前で話す、初対面の人と会う、会食する、電話応対など)で、他者から否定的に評価されること(「変に思われる」「バカにされる」「恥をかく」など)に対する強い恐怖や不安を感じ、そのような場面を避けようとすることが主な特徴です。
不安を感じる社交場面が限定されている場合と、ほとんど全ての社交場面で不安を感じる場合があります。

全般性不安障害の不安が「様々なこと全般」に向けられるのに対し、社交不安障害の不安は「社交場面での評価」に特化しています。
社交不安障害の人は、人前で話すことや注目されることには強い不安を感じますが、一人でいる時や親しい家族との間では比較的リラックスしていることが多いです。
一方、全般性不安障害の人は、社交場面だけでなく、仕事、健康、将来など、様々なことについて常に心配を抱えています。

不安神経症との関係

「不安神経症」という言葉は、かつて神経症(精神的な原因による機能障害)の一つとして、不安を主症状とする様々な病態を広く指すために使われていました。
これには、パニック障害や全般性不安障害、社交不安障害など、現在では個別の疾患として分類されているものが含まれていました。

現在の精神医学における診断基準(DSM-5など)では、「不安神経症」という診断名ではなく、より細分化された診断名が用いられています。
したがって、全般性不安障害は、以前「不安神経症」という大きな枠組みの中に含まれていた病態の一つと言えます。
現在「不安神経症」という言葉を使う医師もいますが、専門的にはDSMなどの診断基準に基づいた具体的な疾患名(全般性不安障害、パニック障害など)で診断されるのが一般的です。
つまり、「不安神経症」は古い診断名であり、全般性不安障害は現在の診断基準に基づく疾患名ということです。

疾患名 不安を感じる対象や特徴 不安の性質
全般性不安障害 仕事、健康、家族、経済など、様々なこと全般 慢性的で持続的な心配、制御困難
パニック障害 突然の激しい不安や恐怖(パニック発作) 突発的で激しい発作、予期不安、広場恐怖を伴うことも
社交不安障害 特定の社交場面での他者からの否定的な評価 特定の状況に限定された恐怖や回避行動
不安神経症(旧称) 不安を主症状とする様々な病態を広く指す言葉 現在の診断基準では用いられない(パニック障害や全般性不安障害などに細分化)

このように、不安障害は一口に「不安」と言っても、その現れ方や対象、性質が異なります。
これらの違いを理解することは、自分や身近な人の症状を正しく認識し、適切な専門機関を受診する上で役立ちます。

全般性不安障害の治療法

全般性不安障害の治療は、一般的に薬物療法と精神療法(特に認知行動療法)を組み合わせて行われます。
これらの治療法は、過剰な不安や心配を軽減し、日常生活の質を改善することを目的としています。
患者さんの症状の重さ、他の疾患の有無、治療に対する希望などを考慮して、個別の治療計画が立てられます。

薬物療法

全般性不安障害の薬物療法では、脳内の神経伝達物質のバランスを調整する薬が主に用いられます。
薬の効果が出るまでには時間がかかることが多く、医師の指示通りに根気強く服用を続けることが重要です。

  • SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬): セロトニンという神経伝達物質の脳内濃度を高めることで、不安や抑うつ気分を改善する効果があります。副作用が比較的少なく、全般性不安障害の第一選択薬として広く用いられています。効果が現れるまでに数週間かかることがあります。主な薬剤には、パロキセチン、セルトラリン、エスシタロプラム、フルボキサミンなどがあります。
  • SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬): セロトニンとノルアドレナリンの両方の脳内濃度を高めることで効果を発揮します。SSRIと同様に第一選択薬として用いられることがあります。主な薬剤には、ベンラファキシン、デュロキセチンなどがあります。
  • ベンゾジアゼピン系抗不安薬: 不安を和らげる即効性がありますが、依存性のリスクがあるため、短期間の使用や頓服薬として用いられることが多いです。長期的な使用は慎重に行う必要があります。主な薬剤には、ロラゼパム、アルプラゾラム、ジアゼパムなどがあります。
  • その他の抗不安薬: タンドスピロン(セロトニン1A受容体刺激薬)など、依存性が少なく比較的安全に使用できる抗不安薬もあります。効果が出るまでに時間がかかる場合があります。
  • その他の薬: 重症の場合や、他の精神疾患を合併している場合などには、抗精神病薬の少量投与や、β遮断薬(動悸などの身体症状に有効な場合がある)などが補助的に用いられることもあります。

薬物療法を開始する際には、副作用の可能性や効果が出るまでの期間について、医師から十分な説明を受けることが大切です。
自己判断で薬を中止したり、量を変更したりすることは危険ですので絶対に避けましょう。

精神療法(認知行動療法など)

精神療法は、薬物療法と並んで全般性不安障害の主要な治療法であり、特に認知行動療法(CBT)が最も有効性が高いとされています。
精神療法は、不安や心配の根本的なメカニズムに働きかけ、対処スキルを身につけることを目指します。

  • 認知行動療法(CBT): 全般性不安障害のCBTでは、不安や心配を引き起こす考え方(認知)や行動パターンを特定し、それらをより現実的で建設的なものに変えていくことを目指します。具体的な技法には以下のようなものがあります。
    • 認知再構成: 過剰な心配やネガティブな思考パターンを特定し、「その考えは本当に正しいか?」「他に考えられる可能性は?」などと検証することで、よりバランスの取れた考え方に修正していきます。
    • 心配の管理: 無制限に心配するのをやめ、決まった時間に「心配の時間」を設けるなど、心配をコントロールする練習をします。
    • リラクゼーション技法: 筋肉弛緩法や呼吸法など、リラックス状態を作り出す練習を通して、不安に伴う身体症状を和らげます。
    • 問題解決スキル訓練: 心配事に対して、漠然と不安がるのではなく、具体的な問題として捉え、解決策を考え、実行するスキルを身につけます。
    • 曝露療法(必要に応じて): 不安を感じる状況や考えにあえて触れる練習をすることで、不安に対する慣れを作り、回避行動を減らしていきます。全般性不安障害では、特定の状況への曝露よりも、不安な思考そのものに慣れる練習(不安を感じる思考を避けずに受け流す練習など)が行われることが多いです。

CBTは通常、数ヶ月にわたって週に1回など定期的に行われます。
治療者との共同作業であり、患者さん自身が積極的に取り組むことが回復につながります。

  • その他の精神療法: 力動的精神療法、支持的精神療法なども行われることがありますが、全般性不安障害に対する有効性についてはCBTほど確立されていません。患者さんの状況や好みによって、これらの療法が選択されることもあります。

多くの研究で、薬物療法と認知行動療法を組み合わせることで、より高い治療効果が得られることが示されています。
しかし、どちらか一方の治療法でも有効な場合もあります。
どの治療法を選択するかは、医師とよく相談し、患者さんの状態や希望に基づいて決定することが重要です。
治療には時間がかかることもありますが、適切な治療を受けることで、全般性不安障害の症状は十分に改善し、日常生活をより穏やかに送ることが可能になります。

全般性不安障害のセルフケア・対処法

全般性不安障害の治療は専門家によるものが中心となりますが、患者さん自身が行うセルフケアや日常生活での工夫も、症状の改善や再発予防に非常に有効です。
治療と並行して、日々の生活の中で不安と上手に付き合う方法を学ぶことは、回復への道のりをより確かなものにします。

日常生活での工夫

不安を軽減し、心身のバランスを整えるために、日常生活で意識できる工夫はたくさんあります。

  • ストレス管理: ストレスは不安を増大させる大きな要因です。自分がどのような時にストレスを感じやすいかを把握し、ストレスを軽減したり発散したりする方法を見つけましょう。リラクゼーション技法(腹式呼吸、筋弛緩法、瞑想など)、趣味の時間を持つ、好きな音楽を聴く、お風呂にゆっくり浸かるといった方法が有効です。ストレスの原因そのものに対する問題解決も重要ですが、まずは心身を休める時間を意識的に作りましょう。
  • 規則正しい生活: 睡眠不足や不規則な生活は、心身のバランスを崩し、不安を感じやすくします。毎日決まった時間に寝起きし、十分な睡眠時間を確保するように努めましょう。カフェインやアルコールの摂取は不安を悪化させることがあるため、控えめにすることが推奨されます。
  • 適度な運動: 運動は気分転換になるだけでなく、脳内の神経伝達物質に良い影響を与え、不安や抑うつ気分を軽減する効果があります。散歩、ジョギング、ヨガ、ストレッチなど、自分が楽しみながら続けられる運動を見つけましょう。無理なく、毎日少しずつ行うことが大切です。
  • バランスの取れた食事: 健康的な食事は心身の健康維持に不可欠です。特に、血糖値の急激な変動は不安感を増強させることがあるため、バランスの取れた食事を規則正しく摂るように心がけましょう。ビタミンやミネラルを豊富に含む食品、腸内環境を整える食品などを積極的に取り入れると良いでしょう。
  • 心配の記録: 自分がどのようなことについて、どのくらいの頻度で、どのくらい強く心配しているかを記録してみましょう。これにより、心配のパターンを客観的に把握することができます。記録した心配事を見返してみると、実際に起こることは少ない、あるいは心配しても解決しない心配が多いことに気づくかもしれません。
  • 「心配の時間」を作る: 1日に15~30分程度、「心配の時間」を設けて、その時間以外は心配事を考えないようにする練習です。心配事が頭に浮かんできたら、「これは心配の時間にとっておこう」と書き留めておき、その時間になったらまとめて考えます。これにより、一日中心配している状態から、心配をコントロールする練習ができます。
  • 完璧主義を手放す: 全般性不安障害の人は完璧主義的な傾向があることが多いですが、完璧を求めすぎると常に「まだ不十分なのではないか」という不安がつきまといます。「良い加減」や「ほどほど」を受け入れる練習をすることで、不安を軽減できる場合があります。

周囲の人の接し方

全般性不安障害を持つ人が安心して治療に取り組めるよう、周囲の人の理解とサポートは非常に重要です。

  • 理解と共感: 全般性不安障害は、本人の「気の持ちよう」や「怠け」ではありません。脳の機能の偏りや過去の経験などが影響している疾患であることを理解しましょう。安易な励まし(「心配しすぎだよ」「気にしなければいい」など)は、本人の苦しみを否定しているように聞こえ、孤立感を深めることがあります。「大変だね」「つらいね」といった共感の言葉を伝えることが大切です。
  • 傾聴: 本人の話に耳を傾け、感情を受け止めましょう。解決策をすぐに提示するのではなく、まずは本人が安心して話せる環境を作ることが重要です。
  • 専門家への受診を勧める: 不安や体調不良が続いている場合は、専門医の診断と治療が必要であることを優しく伝え、受診を勧めてみましょう。ただし、本人が受診をためらっている場合は、無理強いせず、本人のペースを尊重することも大切です。
  • 日常生活のサポート: 症状が辛い時には、日常生活の些細なこと(家事や買い物など)を手伝ったり、休息を促したりといったサポートも有効です。ただし、過剰なサポートは本人の自立を妨げることもあるため、必要な範囲でのサポートを心がけましょう。
  • 自身のケアも大切に: 支援する側も、疲れやストレスを溜め込まないように、自分自身の休息や気分転換も大切にしましょう。支援者が疲弊してしまうと、長期的なサポートが難しくなります。

一人で抱え込まないこと

全般性不安障害の最も重要なセルフケアの一つは、「一人で抱え込まない」ことです。
慢性的な不安や心配は、周囲に理解されにくいこともあり、孤立を感じやすい疾患です。

  • 信頼できる人に話す: 家族、友人、パートナーなど、信頼できる人に自分の気持ちや状態を話してみましょう。話を聞いてもらうだけでも、心が軽くなることがあります。ただし、話し相手には、病気について理解してもらい、共感的な態度で接してもらうことが望ましいです。
  • 自助グループ: 同じような経験を持つ人たちが集まる自助グループに参加することも有効です。自分の経験を共有したり、他の参加者の話を聞いたりすることで、孤立感が和らぎ、自分だけではないと感じることができます。また、他の人がどのように不安と向き合っているかを学ぶこともできます。
  • 専門家への相談: 最も重要で確実なのは、精神科医、心療内科医、公認心理師などの専門家に相談することです。自分の状態を正確に評価してもらい、適切な治療やアドバイスを受けることができます。早い段階で相談することで、症状の悪化を防ぎ、回復への道のりを早く始めることができます。

セルフケアは、あくまで専門家による治療を補完するものです。
セルフケアだけでは限界があることを理解し、必要であればためらわずに専門機関の助けを求めましょう。

どこに相談すれば良いか

全般性不安障害の症状に悩んでいる、あるいはその可能性を疑う場合は、専門の医療機関に相談することが最も適切です。
ここでは、どのような医療機関に、どのようなタイミングで相談すれば良いか、また専門医を選ぶ際のポイントについて説明します。

精神科・心療内科の受診タイミング

漠然とした不安や心配、それに伴う身体症状が続き、日常生活(仕事、学業、家庭生活、対人関係など)に支障が出ている場合は、精神科または心療内科の受診を検討するタイミングです。

  • 不安や心配が止められない、コントロールできないと感じる
  • 過剰な心配によって、常に心身が疲弊している
  • 不眠、動悸、頭痛、消化不良などの身体症状が続いている
  • これらの症状のために、仕事や学校に行けない、家事ができない、人と会うのが億劫になったなど、日常生活に影響が出ている
  • 「自分は何か重い病気ではないか」と過剰に心配し、何度も医療機関を受診しているが異常が見つからない
  • セルフケアを試してみたが、症状の改善が見られない

これらの状態が数週間から数ヶ月にわたって続いている場合は、専門医に相談することをお勧めします。
特に、DSMの診断基準にもあるように、症状が6ヶ月以上続いている場合は、全般性不安障害の可能性が高いと考えられます。
早期に専門家の診断を受けることで、適切な治療を開始し、症状の長期化や悪化を防ぐことができます。

専門医選びのポイント

精神科や心療内科は全国にありますが、自分に合った専門医を見つけることが、安心して治療を続ける上で重要です。

  • 全般性不安障害の診療経験が豊富か: 全般性不安障害の診断や治療に詳しい医師を選ぶと良いでしょう。クリニックのウェブサイトで、診療内容や医師の専門分野を確認することができます。
  • 治療方針の説明が丁寧か: 医師が患者さんの話を丁寧に聞き、診断名、病状、考えられる治療法(薬物療法、精神療法)、それぞれのメリット・デメリット、治療の期間や目標などについて分かりやすく説明してくれるかどうかが重要です。疑問点や不安に感じていることについて、質問しやすい雰囲気があるかどうかも大切です。
  • 連携体制: 必要に応じて、精神療法(特に認知行動療法)を行う心理士や、他の専門医(内科医など)との連携が取れているかも確認しておくと良いでしょう。
  • 通いやすさ: 定期的に通院する必要があるため、自宅や職場からの通いやすさ、診療時間なども考慮に入れましょう。
  • 口コミや評判: 可能であれば、実際に受診した人の口コミや評判を参考にすることもできますが、あくまで個人の感想であるため、鵜呑みにせず、最終的には自分で受診して医師との相性を確認することが大切です。

初診で必ずしも自分に合う医師に出会えるとは限りません。
もし、「話しにくい」「説明が分かりにくい」「治療方針に納得できない」と感じる場合は、セカンドオピニオンを求めたり、他の医療機関を受診したりすることも検討しましょう。
遠慮せずに、自分が信頼でき、安心して任せられる医師を見つけることが、治療の成功につながります。

全般性不安障害は、適切な治療とセルフケアによって症状の改善が期待できる疾患です。
一人で悩まず、まずは専門機関に相談することから始めてみてください。


免責事項: 本記事は全般性不安障害に関する一般的な情報提供を目的としており、医学的な診断や治療を保証するものではありません。ご自身の症状については、必ず医師や医療専門家にご相談ください。

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