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パニック障害で病院に行くなら何科?受診の目安と選び方

パニック障害は、突然激しい不安や恐怖に襲われる「パニック発作」が特徴的な病気です。動悸や息苦しさ、めまいといった身体的な症状も伴うことが多く、多くの方が「心臓発作かと思った」「死ぬかと思った」と感じるほどの恐怖体験をします。一度発作を経験すると、「また発作が起きたらどうしよう」という「予期不安」に悩まされたり、過去に発作を起こした場所や状況を避けるようになる「広場恐怖」が生じたりすることもあります。これらの症状によって日常生活に大きな支障が出ている場合、専門的な医療機関である病院を受診することが非常に重要です。適切な治療を受けることで、症状をコントロールし、自分らしい生活を取り戻すことが十分に可能です。この記事では、パニック障害の病院受診について、受診の目安、何科に行くべきか、病院選びのポイント、受診が怖い場合の対処法、そして実際の治療内容まで、詳しく解説していきます。

目次

パニック障害で病院に行くべきか?受診の目安

パニック発作は非常に恐ろしく、初めて経験した方は、まず救急車を呼んだり、近くの内科を受診したりすることが多いでしょう。身体的な検査を受けて異常がなければ、多くの場合、精神的な要因を指摘されるか、原因不明と診断されることがあります。しかし、パニック発作が繰り返し起きたり、「また発作が起きるのでは」という不安(予期不安)が常にあったりする場合は、パニック障害の可能性が高いと考えられます。

こんな症状があれば受診を検討しましょう

以下のような症状が複数当てはまる場合、パニック障害の可能性があるため、専門の病院への受診を強くお勧めします。

  • 繰り返し起きる予期せぬパニック発作: 特定のきっかけがなく、突然、動悸、息切れ、胸の痛み、めまい、吐き気、手足のしびれ、震え、冷や汗、死への恐怖、自分が自分ではない感覚(離人感)、現実感の喪失などの症状が同時に複数現れ、短時間(多くは数分から30分以内)でピークに達する発作を繰り返す。
  • パニック発作への持続的な心配: 一度発作を経験した後、「またいつ発作が起きるか分からない」という強い不安が続き、そのことばかりを考えてしまう。
  • 発作に関連した行動の変化: 発作が起きた場所や状況(例:電車、バス、人混み、閉鎖空間)を避けるようになる(広場恐怖)。
  • 日常生活への影響: 発作や予期不安、広場恐怖のために、仕事や学校に行けなくなる、外出できなくなる、特定の活動(運転、買い物など)ができなくなる、人間関係が難しくなるなど、日常生活や社会生活に支障が出ている。
  • 身体的な検査で異常が見られない: 動悸や息切れなどの身体症状で内科などを受診したが、心臓や肺などに異常が見つからなかった。

これらの症状は、単なるストレスや気の持ちようで片付けられるものではありません。脳機能の一部に生じた機能的な問題であると考えられており、適切な医療的介入によって改善が見込めます。症状が出始めたら、できるだけ早めに病院に相談することが大切です。

パニック障害を放置することのリスク

パニック障害は、放置すると様々なリスクを伴います。

  • 症状の悪化と慢性化: 治療せずにいると、パニック発作の頻度や重症度が増したり、予期不安や広場恐怖がより強固になり、症状が慢性化する可能性があります。
  • 広場恐怖による行動範囲の制限: 特定の場所や状況を避ける行動がエスカレートし、最終的には自宅からほとんど出られなくなるなど、行動範囲が極端に狭まり、社会的に孤立してしまうことがあります。
  • うつ病などの合併症: パニック障害による苦痛や絶望感から、うつ病を合併するリスクが高まります。また、他の不安障害(社交不安障害、全般性不安障害など)を併発することもあります。
  • QOL(生活の質)の著しい低下: 仕事や学業の中断、友人との交流の減少、趣味活動の中止など、生活のあらゆる面で制限が生じ、生活の質が大幅に低下します。
  • アルコールや薬物への依存: 不安や発作を抑えるために、アルコールや市販薬に頼るようになり、依存症を引き起こす可能性があります。
  • 経済的な問題: 仕事を続けられなくなることで、収入が途絶え、経済的な困窮を招くことがあります。

このように、パニック障害は単に「パニック発作が起きる病気」ではなく、放置することで人生全体に深刻な影響を及ぼす可能性があります。しかし、早期に専門の病院を受診し、適切な治療を開始すれば、これらのリスクを回避し、回復に向かうことができます。

パニック障害は何科を受診すべき?

パニック発作の症状(動悸、息苦しさなど)は身体的な病気と似ているため、多くの人がまず内科や救急科を受診します。しかし、パニック障害の専門的な診断と治療を受けるためには、適切な科を選ぶことが重要です。

精神科と心療内科の違い

パニック障害の診断・治療を専門的に行っているのは、主に精神科と心療内科です。どちらの科を受診すべきか迷う方も多いでしょう。両者には以下のような違いがあります。

主な対象 特徴 パニック障害の場合
精神科 精神疾患全般 うつ病、統合失調症、不安障害、発達障害など、幅広い精神疾患を専門的に扱う。 パニック障害自体が精神疾患の一種であり、精神科医は診断・薬物療法・精神療法に精通している。
心療内科 心身症 ストレスなど心理的な要因で身体に症状が現れる病気(心身症)を主に扱う。 パニック障害に伴う身体症状(動悸、息苦しさ、吐き気など)が強く現れる場合に適していることもある。

どちらを選ぶべきか?

  • 精神症状(不安、恐怖、予期不安など)が強く、身体症状は発作時が中心の場合精神科が適していることが多いです。精神科医は精神疾患全般の診断・治療経験が豊富です。
  • パニック発作だけでなく、慢性的な胃腸の不調、頭痛、倦怠感など、ストレスによる身体症状が継続的に現れている場合心療内科が適している可能性もあります。心療内科医は、身体と心のつながりという視点から診療を行います。

ただし、病院やクリニックによっては、精神科と心療内科の両方を標榜していたり、どちらかの名称であっても両方の疾患を専門的に診ていたりすることもあります。重要なのは、「パニック障害の診断・治療経験が豊富であるか」ということです。病院のウェブサイトなどで、医師の専門分野や診療内容を確認することをお勧めします。迷う場合は、まずは精神科または心療内科のどちらかに相談してみるのが良いでしょう。

内科ではパニック障害の治療は難しい理由

パニック発作時にまず内科を受診することは自然な流れであり、特に初めての発作の場合や、身体的な病気の可能性を排除するためには非常に重要です。しかし、内科でパニック障害そのものの治療を継続していくことは難しいのが現状です。

  • 専門性の違い: 内科医は心臓病、呼吸器疾患、消化器疾患などの身体的な病気の専門家です。精神疾患であるパニック障害の診断基準、病態生理、専門的な薬物療法(抗うつ薬の選択や用量調整)、精神療法(認知行動療法など)に関する専門知識や経験は、精神科医や心療内科医に比べて限定的です。
  • 治療法の違い: 内科では、パニック発作時の身体症状を一時的に和らげる対症療法(例:軽い抗不安薬の処方など)が行われることはありますが、パニック障害を根本的に治療するための継続的な薬物療法(SSRIなどを主体とした治療)や精神療法は、基本的に行われません。
  • 診断の限界: 内科医は身体的な検査で異常が見られない場合、「原因不明」と判断したり、「ストレスでしょう」といったアドバイスに留まることがあります。パニック障害の確定診断を下し、適切な治療計画を立てるためには、精神科医や心療内科医による専門的な問診や鑑別診断が必要です。

したがって、パニック発作時に内科を受診して身体的な異常がないことが確認できた場合は、速やかに精神科または心療内科の専門医を紹介してもらうか、ご自身で専門の病院を探して受診することが、回復への近道となります。

パニック障害の病院選びのポイント

パニック障害の治療を成功させるためには、自分に合った病院(クリニック)選びが非常に重要です。いくつかのポイントを考慮して、安心して通える病院を見つけましょう。

パニック障害の治療経験が豊富な専門医がいるか

最も重要なポイントの一つは、パニック障害の治療経験が豊富な医師がいるかどうかです。

  • 専門医や認定医の確認: 精神科専門医や精神保健指定医などの資格を持つ医師がいるか、日本不安障害学会などの関連学会に所属しているかなどを、病院のウェブサイトや医師のプロフィールで確認してみましょう。これらの資格は、専門的な知識と経験があることの一つの目安になります。
  • クリニック・病院の専門性: パニック障害や不安障害の診療に力を入れている、または専門としているクリニックを選ぶと、より適切な診断や最新の治療法を受けられる可能性が高まります。病院のウェブサイトの診療案内や疾患説明のページで、パニック障害について詳しく解説されているかなどを参考にしましょう。
  • 口コミや評判: もし可能であれば、実際にその病院を受診したことのある方の口コミや評判を参考にすることも有効です。ただし、口コミは個人の主観に基づくものであるため、あくまで参考程度にとどめ、最終的にはご自身の目で確かめることが大切です。

経験豊富な専門医は、症状の正確な診断だけでなく、一人ひとりの患者さんの状態や生活背景に合わせたきめ細やかな治療計画を立てることができます。また、薬の副作用への対応や、治療中の不安への寄り添い方も異なります。

病院の治療方針(薬物療法や精神療法など)

パニック障害の治療法には、主に薬物療法と精神療法があります。病院によって、どちらに重点を置いているか、あるいは両方を組み合わせた治療(集学的治療)を行っているかなど、治療方針が異なります。

  • 薬物療法中心: 抗うつ薬(SSRIなど)や抗不安薬を用いた薬物療法を主体とするクリニックは多いです。薬の効果によって症状を早期に安定させたい場合などに適しています。
  • 精神療法も提供: 認知行動療法などの精神療法を積極的に取り入れている病院もあります。薬だけに頼らず、心理的なアプローチを通じて病気のメカニズムを理解し、症状に対処するスキルを身につけたい場合に適しています。ただし、精神療法は専門的なトレーニングを受けた医師や心理士によって行われるため、提供している医療機関は限られます。
  • 集学的治療: 薬物療法と精神療法を組み合わせて行う治療法です。多くの研究で、パニック障害には薬物療法と認知行動療法の併用が最も効果的であることが示されています。理想的な治療は、両方を組み合わせた集学的治療を提供できる医療機関ですが、すべての病院で可能とは限りません。

ご自身の希望する治療法や、どのようなアプローチで治療を進めたいかを事前に考えておき、病院のウェブサイトや初診時の問診などで治療方針を確認することが重要です。医師とよく話し合い、納得のいく治療法を選べる病院を選びましょう。

通いやすさ(自宅や職場からの距離)

パニック障害の治療は継続が非常に重要です。症状が安定するまで、あるいは再発予防のために、定期的な通院が必要になります。そのため、病院の場所が自宅や職場から通いやすいかどうかも、病院選びの重要なポイントです。

  • 物理的な距離とアクセス: 駅から近いか、公共交通機関でのアクセスが良いか、車での通院が可能か(駐車場の有無など)を確認しましょう。特に広場恐怖の症状がある場合、遠距離の移動や乗り換えが多い場所への通院は大きな負担となる可能性があります。
  • 移動手段の考慮: 電車やバスに乗ることが不安な場合は、タクシーや家族の送迎で通院できる場所を選ぶか、オンライン診療を検討することも必要です。
  • 通院頻度: 治療開始初期は、週に1回〜2週に1回程度の頻度で通院が必要になることがあります。症状が落ち着いてくれば、月に1回などに減っていきますが、ある程度の期間、定期的に通院することを想定して、無理なく通える場所を選びましょう。

通院そのものがストレスにならないように、ご自身の生活圏内で無理なく通える病院を選ぶことが、治療の継続には不可欠です。

予約の取りやすさや待ち時間

体調が悪い時や不安が強い時に、すぐに診てもらえるかどうかも、病院選びにおいて考慮すべき点です。

  • 予約システム: 電話予約だけでなく、インターネット(ウェブ)やLINEなどで予約ができるシステムがあると便利です。特に症状の波があるパニック障害の場合、体調が良い時に予約を入れておく、あるいは急な体調不良時にも予約を変更しやすいシステムがあると助かります。
  • 予約の取りやすさ: 希望する日時に予約が取りやすいかどうかも重要です。人気の病院では予約が埋まりやすく、数週間先になってしまうこともあります。初診だけでなく、再診の予約についても確認しておくと良いでしょう。
  • 実際の待ち時間: 予約制であっても、診察までの待ち時間が長い病院もあります。特に待合室が苦手な方や、予期不安が強い方にとっては、待ち時間が長いことは大きな負担になります。可能であれば、事前に病院のウェブサイトや口コミで待ち時間の状況を確認してみるのも良いでしょう。

待ち時間が少なく、スムーズに受診できる病院は、通院によるストレスを軽減し、治療に集中しやすくしてくれます。

これらのポイントを総合的に考慮し、いくつかの候補の病院について情報収集を行い、可能であれば初診予約をする前に電話で問い合わせてみるのも良いでしょう。ご自身にとって、最も安心して治療を受けられる病院を見つけることが、回復への第一歩となります。

病院に行くのが怖い・行けない場合の対処法

パニック障害の症状の一つである広場恐怖や予期不安によって、「病院に行くこと自体が怖い」「家から出られない」という状況に陥ることがあります。しかし、治療を開始するためには病院へのアクセスが必要です。ここでは、そういった状況でも病院に繋がるための対処法をいくつかご紹介します。

まずは信頼できる人に相談する

一人で抱え込まず、状況を理解してくれる信頼できる人に相談することが第一歩です。

  • 家族や友人への相談: パニック障害について、どのような症状が出ていて、病院に行くのが怖いという気持ちを正直に話してみましょう。病気への理解を深めてもらうことで、精神的な支えになってもらえます。
  • 付き添いを頼む: 病院までの移動や、病院内での待ち時間に付き添ってもらうことで、安心感が得られ、受診のハードルが大きく下がることがあります。家族や友人に頼んでみましょう。
  • 病気について学んでもらう: 相談相手にパニック障害について正しく理解してもらうために、一緒に病気に関する情報を調べたり、本を読んだりするのも良いでしょう。

誰かに話を聞いてもらい、共感してもらうだけでも、心が軽くなることがあります。また、具体的な支援(付き添いなど)を求めることも重要です。

公的な相談窓口や支援機関を利用する

病院に行く準備がまだできていない場合や、誰に相談すれば良いか分からない場合は、公的な相談窓口や支援機関を利用してみるのも有効です。

  • 保健所や精神保健福祉センター: これらの機関では、精神保健福祉に関する専門家(精神保健福祉士、保健師、医師など)が無料で電話相談や面接相談に応じてくれます。パニック障害に関する悩みを聞いてくれたり、適切な医療機関や支援サービスに関する情報を提供してくれたりします。まずは電話で相談してみることから始めてみましょう。
  • よりそいホットライン: 困難な状況にある人に寄り添い、話を聞いてくれる24時間対応の相談窓口です。匿名で相談できるため、話しやすいと感じる方もいるかもしれません。
  • 自助グループ: パニック障害や不安障害を経験した当事者やその家族が集まる自助グループもあります。同じ悩みを持つ人たちと交流することで、孤独感が軽減され、病気への対処法に関するヒントを得られることがあります。

これらの相談窓口は、すぐに治療を開始するわけではありませんが、専門家や経験者と話すことで、気持ちの整理がついたり、受診への一歩を踏み出す勇気をもらえたりすることがあります。

オンライン診療という選択肢

近年、精神科や心療内科でもオンライン診療を導入する病院が増えています。パニック障害の症状のために外出が困難な方にとって、オンライン診療は非常に有効な選択肢となり得ます。

  • メリット:
    • 自宅から受診可能: 自宅など、自分が最も安心できる場所から診察を受けられます。病院への移動や待合室での不安を回避できます。
    • 移動の負担がない: 交通機関を利用したり、人混みの中を移動したりする必要がありません。
    • 時間の融通が利きやすい: 予約時間に合わせて自宅などで待機していれば良いため、通院にかかる時間を大幅に短縮できます。
  • デメリット:
    • 対面での情報量の差: 医師が患者さんの表情や雰囲気、全身の状態などを対面で直接観察するのに比べると、得られる情報が限定される可能性があります。
    • 身体的な検査ができない: 血液検査などの身体的な検査が必要な場合は、別途医療機関を受診する必要があります。
    • 対応している病院の制限: すべての精神科・心療内科がオンライン診療に対応しているわけではありません。
    • 通信環境の必要性: 安定したインターネット環境や、スマートフォン・パソコンなどの機器が必要です。

オンライン診療は、特に治療の導入期において、病院へのハードルを下げる有効な手段となり得ます。症状が落ち着いてきたら、対面診療に切り替えることも可能です。オンライン診療に対応している病院を探し、利用を検討してみましょう。診察だけでなく、薬の処方も可能で、郵送で自宅に届けてもらえる場合が多いです。

これらの対処法を活用して、一歩ずつ、専門的な医療機関へのアクセスを目指しましょう。

病院で行われる検査・診断・治療について

実際にパニック障害で病院を受診した場合、どのようなプロセスで診断され、治療が進められるのでしょうか。受診の流れを事前に知っておくことで、不安を軽減することができます。

医師による問診と診断基準

精神科や心療内科を受診すると、まず医師による丁寧な問診が行われます。これが診断の最も重要なステップとなります。

  • 問診の内容: 医師は、患者さんの症状について詳しく尋ねます。
    • パニック発作が起きた時の状況(いつ、どこで、何をしていて起きたか)
    • パニック発作の具体的な症状(動悸、息苦しさ、めまい、恐怖感など)
    • パニック発作の頻度や持続時間
    • 予期不安の有無や程度
    • 避けている場所や状況(広場恐怖の有無)
    • 症状が始まったきっかけや経過
    • 過去の病歴や家族歴(精神疾患の既往や家族に同じような症状の人がいないか)
    • 現在の生活状況(仕事、学校、家庭、人間関係など)
    • 飲酒や喫煙、カフェイン摂取の習慣
    • 服用中の薬(市販薬やサプリメントを含む)
    • これまでの治療経験など
  • 診断基準: 医師は、これらの問診で得られた情報と、国際的な診断基準(DSM-5など)に基づいて診断を行います。DSM-5では、予期しないパニック発作が繰り返し起きること、発作後に「また発作が起きるのではないか」という持続的な心配や、発作に関連した行動変化(広場恐怖など)が少なくとも1ヶ月以上続いていることなどがパニック障害の診断基準に含まれています。

正直に、そして具体的に症状や困っていることを医師に伝えることが、正確な診断につながります。緊張せず、リラックスして話せるよう心がけましょう。

他の病気を鑑別するための検査(血液検査など)

パニック発作と似た症状は、身体的な病気でも起こることがあります。そのため、パニック障害と診断する前に、これらの身体的な病気を除外するための鑑別診断が行われる場合があります。

  • 鑑別すべき身体疾患:
    • 心血管系の疾患(不整脈、狭心症など)
    • 呼吸器系の疾患(喘息、過換気症候群など)
    • 内分泌系の疾患(甲状腺機能亢進症、副腎腫瘍など)
    • 神経系の疾患(てんかん、めまいを伴う疾患など)
    • 低血糖
    • カフェインや薬物による影響
  • 行われる可能性のある検査:
    • 血液検査: 甲状腺ホルモンや血糖値などを調べます。
    • 心電図: 不整脈などの心臓の異常を調べます。
    • 胸部X線: 肺の異常を調べます。

    必要に応じて、ホルター心電図(24時間心電図)や脳波検査などが行われることもあります。

これらの検査は、あくまでパニック発作の原因が身体的な病気ではないことを確認するために行われます。これらの検査で異常が見られず、問診の内容からパニック障害の診断基準を満たす場合に、パニック障害と診断されます。

主なパニック障害の治療法

パニック障害の治療には、主に「薬物療法」と「精神療法」があり、これらの組み合わせによって治療が進められるのが一般的です。

薬物療法

パニック発作や予期不安といった症状を抑えるために、薬物療法が用いられます。

  • 主な薬剤:
    • SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬): パニック障害治療の第一選択薬です。脳内のセロトニンという神経伝達物質の働きを調整し、不安を和らげ、パニック発作が起きにくい状態を作ります。効果が出るまでに2週間〜1ヶ月程度かかりますが、依存性はほとんどありません。ジェイゾロフト、パキシル、ルボックス/デプロメール、レクサプロなどが使われます。
    • SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬): SSRIと同様に、セロトニンとノルアドレナリンの働きを調整する薬です。SSRIで効果が不十分な場合などに用いられることがあります。イフェクサー、サインバルタなどがあります。
    • ベンゾジアゼピン系抗不安薬: 即効性があり、パニック発作が起きた時や、強い不安がある時に頓服薬として用いられます。不安を急速に和らげる効果がありますが、長期間連用すると依存性や耐性(効果が薄れること)が生じる可能性があるため、漫然と使い続けることは推奨されません。コンスタン/ソラナックス、デパス、メイラックスなどがありますが、近年では依存性のリスクから処方に慎重な医師も増えています。
    • 三環系抗うつ薬: SSRIが登場する以前から使われていた抗うつ薬です。パニック障害にも有効ですが、副作用(口渇、便秘、眠気など)がSSRIより出やすいため、現在ではSSRIで効果が不十分な場合などに限って使われることが多いです。イミプラミンなどが使われます。
  • 薬物療法の目的: パニック発作の頻度や強度を減らし、予期不安や広場恐怖を和らげ、日常生活の制限をなくしていくことを目指します。
  • 服用の注意点: 薬の種類や用量は、患者さんの症状や体質によって医師が判断します。自己判断で薬の量を増やしたり減らしたり、服用を中止したりすることは非常に危険です(離脱症状や症状の悪化を招くことがあります)。必ず医師の指示通りに服用し、副作用が気になる場合は医師に相談しましょう。

精神療法(認知行動療法など)

薬物療法と並行して行われることが多いのが精神療法です。特に認知行動療法は、パニック障害に非常に効果的な治療法として広く推奨されています。

  • 認知行動療法(CBT): パニック障害における認知行動療法は、パニック発作に対する誤った「認知」(考え方)や「行動」パターンを修正していくことで、不安を軽減し、発作が起きてもコントロールできるようになることを目指します。
    • パニック発作のメカニズム理解: パニック発作が、身体感覚に対する誤った解釈(例:「動悸=心臓発作だ」「息苦しさ=死ぬかもしれない」)によって不安が増幅され、症状が悪化するというメカニズムを理解します。
    • 不安階層表の作成: 自分が恐怖を感じる状況や場所を不安のレベルに応じてリストアップします(例:電車に乗る(レベル50)、デパートに行く(レベル80)など)。
    • 暴露療法: 不安階層表の下位の項目から、不安を感じる状況や場所に段階的に身を置く練習をします(例:まず最寄り駅まで行ってみる、次に一駅だけ電車に乗ってみるなど)。これにより、不安な状況でも実際には恐れていたことが起きないという経験を積み重ね、不安を克服していきます。安全な環境で、治療者と一緒に、あるいは治療者の指示のもと行われます。
    • 認知再構成: パニック発作時の身体感覚に対する破局的な(最悪の事態を想定するような)考え方を、より現実的な考え方(例:「動悸は不安の表れだ」「息苦しさは過呼吸かもしれない」)に修正する練習をします。
  • その他の精神療法: リラクセーション法(筋弛緩法、呼吸法など)や、不安な考えをそのまま受け流す練習(マインドフルネスなど)なども、不安の軽減に役立つことがあります。
  • 精神療法の目的: 薬物療法で症状が安定した後も、不安への対処スキルを身につけ、病気に対する正しい理解を深めることで、再発予防やより主体的な生活を送ることを目指します。

薬物療法で症状をコントロールし、精神療法で不安への対処法を学ぶという両面からのアプローチが、パニック障害の克服には非常に効果的です。

パニック障害は完治する?治療期間の目安

パニック障害は、適切な治療を受けることで多くの人が症状をコントロールできるようになり、元の生活を取り戻すことができる病気です。「完治」という言葉の定義は難しいですが、症状がほとんど、あるいは全くなくなり、日常生活に支障がなくなった状態を「寛解」と呼びます。パニック障害は、この寛解を十分に目指せる病気です。

  • 治療期間の目安: 治療期間には個人差が非常に大きいですが、一般的に数ヶ月から年単位かかることが多いです。
    • 急性期: 治療開始から数ヶ月は、薬物療法でパニック発作や予期不安を抑え、症状を安定させる時期です。この期間は比較的頻繁な通院が必要になります。
    • 維持期: 症状が安定した後も、しばらくは薬物療法や精神療法を継続し、症状の再燃を防ぎ、不安への対処スキルを定着させる時期です。通院頻度は徐々に減っていきます。
    • 漸減期・中止期: 症状が長期間安定し、医師と相談の上で、薬を徐々に減らしていく時期です。自己判断での急な断薬は危険なので、必ず医師の指示に従って行います。
  • 再発について: 治療によって症状が改善した後も、ストレスや体調の変化などをきっかけに症状が再燃する(再発する)可能性はゼロではありません。しかし、一度治療を経験していると、早期に再発に気づき、対処しやすくなります。再発した場合も、適切な治療を再開すれば再び症状をコントロールできるようになります。

パニック障害は、風邪のように短期間で治る病気ではありません。焦らず、じっくりと治療に取り組むことが大切です。医師と二人三脚で、根気強く治療を続けることが、回復への鍵となります。治療期間や見通しについても、遠慮なく医師に質問し、理解を深めましょう。

まとめ:パニック障害の早期受診が回復への第一歩

パニック障害は、突然訪れる激しいパニック発作と、それに伴う予期不安や広場恐怖によって、日常生活が著しく制限されてしまう病気です。動悸や息苦しさといった身体症状が強く現れるため、最初は身体の病気を疑って内科などを受診する方が多いですが、検査で異常が見られない場合は、精神科や心療内科といった専門の病院を受診することが非常に重要です。

パニック障害の診断と治療は、精神科医や心療内科医の専門分野です。どちらの科を受診すべきか迷った場合は、ご自身の症状(身体症状が強いか、精神症状が強いか)や、病院の治療方針(薬物療法中心か、精神療法も行っているか)などを考慮し、パニック障害の治療経験が豊富な医師がいる病院を選びましょう。また、治療を継続するためには、自宅や職場からの通いやすさ、予約の取りやすさや待ち時間なども考慮に入れると良いでしょう。

パニック障害の症状(特に広場恐怖や予期不安)のために、病院に行くこと自体が怖い、あるいは困難な場合は、一人で抱え込まず、信頼できる人に相談したり、保健所などの公的な相談窓口を利用したりすることが有効です。また、自宅から受診できるオンライン診療という選択肢も、受診のハードルを下げる上で非常に役立ちます。

病院では、医師による詳細な問診と診断基準に基づいた診断が行われます。必要に応じて、他の病気を鑑別するための血液検査などが行われることもあります。治療は主に、パニック発作や不安を抑える薬物療法(SSRIなど)と、不安への対処スキルを身につける精神療法(認知行動療法など)を組み合わせて行われます。

パニック障害は、適切な治療を受けることで症状が大きく改善し、多くの人が元の生活を取り戻すことができる病気です。完全に症状がなくなる「寛解」を目指すことが十分可能です。治療期間には個人差がありますが、焦らず、医師とともに根気強く治療に取り組むことが大切です。

パニック障害は、一人で抱え込んでいてもなかなか改善しません。勇気を出して専門の病院に相談することが、回復への確実な第一歩となります。つらい症状に悩まされている方は、まずは一度、精神科または心療内科の専門医を受診されることを強くお勧めします。

免責事項: 本記事はパニック障害に関する一般的な情報提供を目的としており、診断や治療を推奨するものではありません。個別の症状や状況については、必ず医療機関を受診し、医師にご相談ください。本記事の情報によって生じたいかなる不利益についても、当サイトは責任を負いかねます。

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