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ディスレクシアとは?症状や原因、診断・対処法までわかりやすく解説

ディスレクシアとは、学習障害(限局性学習症)の一つで、知的な発達に遅れはないものの、「読む」「書く」といった文字に関する学習に著しい困難を抱える発達特性のことです。
脳機能の発達の仕方の違いから生じると考えられており、その困難さは本人の努力不足や怠慢によるものではありません。
読字障害と呼ばれることもあります。

この特性は、子供だけでなく大人にも見られます。
適切な理解と支援があれば、困難さを軽減し、本人の持つ多様な才能を活かすことが十分に可能です。
この記事では、ディスレクシアの定義から、具体的な症状、原因、診断方法、そして本人や周囲ができる支援について、専門的な知見をもとに分かりやすく解説します。

目次

ディスレクシアの定義

ディスレクシアは、発達障害の診断分類であるDSM-5(精神疾患の診断・統計マニュアル第5版)や、国際疾病分類であるICD-11において、「限局性学習症(Specific Learning Disorder)」の中に位置づけられています。
特に、「読字(単語を読むことの正確性、速度、または流暢性)」、「読解(読んだことの意味の理解)」、「書字(綴り、書字の正確性、書字の流暢性)」のいずれか、あるいは複数に困難を示す場合を指します。

知的な能力に全般的な遅れがないにも関わらず、読み書きといった特定の学習領域で期待される学力に達しないことが特徴です。
これは、従来の教育環境や指導方法が本人に合わないために起こる困難であり、脳機能の特性によるものと理解されています。

ディスレクシアを持つ人は、文字と音を結びつけること(音韻認識)や、文字の並びを処理することに困難を感じやすい傾向があります。
そのため、文字を読む際に一つ一つの文字を追うのに時間がかかったり、単語を正確に音に変換するのが難しかったりします。

ディスレクシアの定義は、単に「読み書きが苦手」というレベルではなく、学業や日常生活に支障をきたすほどの著しい困難さがある場合に適用されます。
しかし、困難の程度は一人ひとり異なり、軽度の場合もあります。
重要なのは、その困難さが本人の努力不足ではないという点を理解し、早期に特性に気づき、適切な支援につなげることです。

ディスレクシアの症状と特徴

ディスレクシアの症状や特徴は、読み書きに関する困難が中心ですが、その現れ方は多様で、年齢や個人の特性によって異なります。
また、読み書きの困難だけでなく、それに伴う二次的な影響(学習意欲の低下、自己肯定感の低下など)も考慮する必要があります。

主な読み書きの困難

ディスレクシアを持つ人が経験する読み書きの困難は、具体的に以下のようなものが挙げられます。

  • 読むことの困難(読字障害):
    • 文字や単語の認識: 一つ一つの文字を認識するのに時間がかかる、文字の形が入れ替わって見える(例:「わ」と「れ」、「ぬ」と「め」)、鏡文字(「え」や「る」などが反転して見える)を書く・読むことがある。ただし、文字が物理的に動いたり歪んだりして見えるわけではなく、脳内での情報処理の仕方に違いがあると考えられています。
    • 音読: たどたどしい、非常に遅い、間違えが多い、単語や文章を飛ばしてしまう、行を読み間違える、読んでいるうちに疲れてしまう。内容を理解せず、ただ文字を音に変換しているだけになってしまうこともあります。
    • 黙読: 音読ほど顕著ではないが、内容を理解するのに時間がかかる、何度読んでも頭に入ってこない、疲労感が大きい。
    • 単語の分解・合成: 単語を構成する音(音素)に分解したり、音素を組み合わせて単語を作ったりすることが難しい(例:「かさ」を「か」「さ」に分けたり、「き」と「て」を合わせて「きて」と読んだりするのが困難)。
  • 書くことの困難(書字表出障害):
    • 文字の形: バランスが悪い、大きさが不揃い、筆順を間違える、鏡文字を書く。
    • 綴り(スペル): 単語の綴りを覚えるのが難しい、音で聞いた通りに書けない(例:「はな」を「はんあ」と書いてしまう)、漢字の書き間違いが多い(部首を間違える、左右反転させるなど)。
    • 文章を書くこと: 文法的に誤りが多い、句読点の使い方が不適切、書くのに時間がかかりすぎる、書きたいことがあっても文字にするのが難しい。

これらの困難は、学校での勉強(国語、算数、理科、社会など)や、日常生活での読み書き(書類への記入、メールの作成、標識を読むなど)において様々な影響を及ぼします。

子供に見られるディスレクシアの兆候

子供の場合、成長段階によってディスレクシアの兆候が異なって現れることがあります。
早期に気づくことが、適切な支援につながる重要なステップです。

  • 就学前(幼児期):
    • ひらがなやカタカナに興味を示さない、覚えるのに時間がかかる。
    • 自分の名前を覚えたり書いたりするのが難しい。
    • 簡単な言葉の音を分解したり(「かさ」を「か、さ」)、音を組み合わせたり(「き、て」で「きて」)するのが苦手。
    • しりとりや韻を踏む遊びが苦手。
    • 簡単な絵本でも、一人で読もうとしない、嫌がる。
  • 小学校低学年:
    • 教科書の音読がたどたどしく、非常に遅い、間違えが多い。
    • ひらがなやカタカナの書き間違い、鏡文字が多い。
    • 漢字の書き取りが苦手で、覚えるのに時間がかかる、すぐに忘れてしまう。
    • 計算問題はできるが、文章問題を読んで理解するのが難しい。
    • 板書をノートに写すのに時間がかかりすぎる、書き写せない。
    • 宿題(特に音読や漢字練習)を極端に嫌がる。
  • 小学校高学年~中学生以降:
    • 文章量が増えると、教科書を読むこと自体に疲れてしまう。
    • 教科書や参考書を読んでも内容が頭に入ってこず、理解が難しい。
    • ノートをきれいに取れない、まとめるのが難しい。
    • テストで、問題文を正確に読めずに間違えてしまう。
    • 作文やレポートを書くのに時間がかかり、内容もまとまらない。
    • 英語の読み書きやスペルでつまずきやすい。
    • 発表は得意でも、読むことや書くことが伴う活動を避けるようになる。

これらの兆候が見られる場合でも、必ずしもディスレクシアとは限りません。
他の要因が影響している可能性もあります。
しかし、継続的に困難が見られる場合は、専門機関に相談してみることを検討しましょう。

軽度のディスレクシアについて

ディスレクシアの困難の程度は、人によって大きく異なります。
中には「軽度のディスレクシア」と呼ばれるケースもあります。

軽度の場合、日常生活や簡単な読み書きでは大きな支障を感じにくいことがあります。
しかし、学年が上がり学習内容が難しくなったり、専門的な書籍や書類を読む機会が増えたりすると、困難さが顕在化することがあります。

例えば、

  • 音読は少し遅いが、できないわけではない。
  • 漢字の書き間違いは多いが、練習すればある程度覚えられる。
  • 文章を読むのに少し時間がかかるが、意味は理解できる。

といったケースです。
軽度の場合、周囲も本人も「努力不足かな」「ちょっと苦手なだけかな」と思い込み、見過ごされてしまうことがあります。

しかし、たとえ軽度であっても、人並み以上に努力しないと読み書きができなかったり、常に疲労感を感じたりすることがあります。
これにより、自己肯定感が低下したり、学習から逃避するようになったりする可能性があります。

軽度の場合でも、本人が困難を感じているのであれば、適切な評価を受け、本人に合った学習方法や支援ツールを見つけることが重要です。
早期に特性を理解し、必要なサポートを受けることで、その後の学習やキャリアに大きな違いが生まれることがあります。

文字の見え方・認知の特性

ディスレクシアを持つ人の一部は、「文字が歪んで見える」「動いて見える」「ちらつく」といった視覚的な訴えをすることがあります。
しかし、これは文字自体が物理的にそう見えるのではなく、脳が文字情報を処理する際に起こる認知上の現象であると考えられています。

ディスレクシアの核となる困難は、文字と音の関係を理解し処理する「音韻処理」の苦手さにあるという考え方が一般的です。
文字を見て、それがどんな音に対応するのかを瞬時に結びつけたり、単語を聞いて、それを構成する一つ一つの音に分解したりするのが難しいのです。

例えば、「さかな」という言葉を聞いたときに、「さ」「か」「な」という音に分解し、それぞれの音に対応する文字(「さ」「か」「な」)を結びつけて「さかな」と読む(あるいは書く)というプロセスが、ディスレクシアのある人にとってはスムーズに行えません。

また、文字の並び順を認識したり、短期的に記憶したりするワーキングメモリの特性が影響していることもあります。
これにより、長い文章を読むと途中でわからなくなったり、指示を一度にたくさん聞くのが難しかったりすることがあります。

ただし、文字の見え方や認知の特性は個人差が非常に大きいです。
全てのディスレクシアの人に特定の視覚的な見え方があるわけではありません。
重要なのは、読み書きの困難の背景には、多様な認知処理の特性があることを理解することです。

ディスレクシアの原因

ディスレクシアは、単一の原因によって引き起こされるものではなく、複数の要因が複雑に絡み合って生じると考えられています。
近年の研究では、主に脳機能の発達における違いが深く関わっていることがわかっています。
これは、ディスレクシアが本人の怠慢や努力不足によるものではなく、生まれつきの脳の特性によるものであることを示しています。

考えられている要因

ディスレクシアの原因として現在考えられている主な要因は以下の通りです。

  • 遺伝的要因: ディスレクシアは家族内での発現率が高いことが知られています。これは、読み書きに関連する脳機能の発達に関わる複数の遺伝子が影響している可能性を示唆しています。特定の単一遺伝子ではなく、複数の遺伝子が組み合わさることで発現しやすくなると考えられています。親や兄弟姉妹にディスレクシアや読み書きの困難がある場合、本人もディスレクシアである可能性は統計的に高まります。
  • 脳機能および構造の違い: ディスレクシアを持つ人の脳を画像研究などで調べると、文字や言語処理に関わる特定の領域(特に左脳の言語野の一部)の活動パターンや構造に、定型発達の人とは異なる特徴が見られることが報告されています。これらの領域は、音韻処理や文字認識において重要な役割を果たしています。ディスレクシアのある人では、これらの領域間の連携がスムーズでなかったり、特定の領域の活動が弱かったりする傾向があると考えられています。ただし、これは「脳の障害」ではなく、「脳機能の多様性」として捉えられるべき特性です。
  • 環境的要因: 早期の言語経験や読み聞かせの機会などが、読み書きの発達に影響を与える可能性も指摘されています。豊かな言語環境は、子供の音韻意識や語彙力を育み、その後の読み書き学習の土台となります。ただし、環境要因だけでディスレクシアが決まるわけではなく、遺伝的・脳機能的要因がベースにあると考えられています。また、不適切な指導方法や、本人の特性に合わない学習環境も、読み書きの困難をより顕著にさせる要因となり得ます。

これらの要因が複雑に影響し合うことで、ディスレクシアという読み書きの困難が生じると理解されています。
重要な点は、ディスレクシアは脳機能の特性であり、その困難さは本人の責任ではないということです。
原因を理解することで、本人や周囲は自己否定に陥ることなく、適切な支援や環境調整に取り組むことができます。

ディスレクシアの診断方法

ディスレクシアの診断は、専門家による総合的な評価に基づいて行われます。
多くの場合、子供が学校で読み書きの困難に直面し始めた学齢期に気づかれることが多いですが、大人になってから診断されるケースも少なくありません。

診断のプロセスとチェックリスト

診断は通常、以下のようなプロセスで行われます。

  1. 相談と予備的な情報収集: 本人、保護者、学校の先生などから、これまでの発達歴、学習状況、読み書きに関する具体的な困難さについて詳しく聞き取ります。普段の宿題やテストなども参考にすることがあります。
  2. 標準化された検査の実施:
    • 知能検査: 全体的な知的な能力に遅れがないことを確認します。(例:WISC-IV/V、WAIS-IVなど)。ただし、ディスレクシアがあっても知能検査の特定の項目(処理速度やワーキングメモリなど)に特性が現れることもあります。
    • 読み書き検査: 標準化された読み、書き、綴りの検査を行います。学年や年齢に応じた読み書き能力を客観的に評価します。音読の速度・正確性、単語や文章の書き取り、仮名や漢字の読み書きなどが評価項目になります。(例:KRT、URAWSSなど)。
    • 音韻処理検査: 音韻認識、音韻記憶、RAP(Rapid Automatized Naming:連続命名課題)などの音韻処理能力を評価する検査を行うことがあります。
  3. 行動観察と聞き取りの再評価: 検査結果と、これまでの情報、面談での行動観察などを総合的に判断します。特定の分野の学習に著しい困難があり、それが他の障害(視覚・聴覚障害、知的障害など)や環境的な要因では説明できない場合に、限局性学習症(ディスレクシア)と診断されます。
  4. 診断結果の説明と今後の支援計画: 診断名だけでなく、本人の具体的な特性(どのような読み書きに困難があり、得意なことは何かなど)が詳しく説明されます。そして、本人や家族、学校と連携しながら、今後の支援方法や環境調整について話し合われます。

診断の際には、単に「チェックリストにいくつ当てはまるか」だけで判断されるわけではありません。
専門家が多角的な視点から、本人の状態を総合的に評価することが重要です。
しかし、自己チェックのために、以下のような項目を参考に、どのような困難を感じているかを整理してみることは有効です。(これは診断そのものではありません。)

  • 読むことに関するチェック項目例:
    • 教科書などを音読するのが苦手、遅い、よく間違える。
    • 文字を一つ一つ追うのに時間がかかる、疲れる。
    • 文章を読んでも、内容を理解するのに時間がかかる。
    • 長い文章や専門的な文章を読むのが苦痛。
  • 書くことに関するチェック項目例:
    • 文字の形が崩れる、バランスが悪い。
    • 漢字の書き取りが苦手で覚えられない、すぐ忘れる。
    • 単語の綴りをよく間違える(特に仮名文字)。
    • ノートをきれいに取れない、板書を写すのが遅い。
    • 文章を書くのに時間がかかりすぎる、うまくまとまらない。

相談先・診断機関

ディスレクシアかもしれないと感じたり、読み書きの困難について相談したいと思ったりした場合、どこに相談すれば良いのでしょうか。

  • 子供の場合:
    • 学校の先生・特別支援教育コーディネーター: まずは担任の先生や、学校内にいる特別支援教育コーディネーターに相談するのが一般的です。学校内で簡単なアセスメントや観察を行い、専門機関への連携を検討してくれます。
    • 地域の教育センター・教育相談所: 市町村や都道府県の教育委員会が設置している教育相談所でも相談できます。専門家(心理士、言語聴覚士など)が在籍しており、アドバイスや簡単な検査を行ってくれる場合があります。
    • 児童相談所: 18歳未満の子供に関する様々な相談を受け付けています。発達に関する相談も可能です。
    • 発達障害者支援センター: 発達障害に関する専門的な相談機関です。本人や家族からの相談に応じ、適切な支援先や医療機関の情報提供、関係機関との連携支援を行います。
    • 医療機関(児童精神科、小児神経科、リハビリテーション科など): 医師による診断を希望する場合、これらの専門医がいる医療機関を受診します。事前の予約や紹介状が必要な場合が多いです。
  • 大人の場合:
    • 発達障害者支援センター: 成人の発達障害に関する相談も受け付けています。診断機関の紹介なども行っています。
    • 医療機関(精神科、心療内科など): 成人の発達障害を専門としている医師がいる医療機関を受診します。事前に、成人期の発達障害や学習障害の診断を行っているか確認することが重要です。
    • ハローワーク(専門援助部門): 就職に関する相談で、発達特性について相談できる場合があります。

診断を受けるかどうかは本人の意思が尊重されるべきですが、困難さを抱えているのであれば、専門機関に相談することで、特性を理解し、適切な支援につながる可能性が開けます。
診断には時間がかかることもありますので、早めに情報収集や相談を開始することがおすすめです。

ディスレクシアへの対応と支援

ディスレクシアは「治る」性質のものではありませんが、適切な対応と支援によって、読み書きの困難さを軽減し、日常生活や学習、仕事における支障を減らすことが可能です。
重要なのは、本人の努力だけでなく、周囲の理解と環境の調整、そして本人に合った方法を見つけることです。

ディスレクシアは治る?支援の考え方

ディスレクシアは、脳機能の特性に由来するものであり、訓練によって特性そのものがなくなる、という意味での「完治」は難しいとされています。
しかし、これは悲観することではありません。
眼鏡をかけることで視力が矯正されるように、ディスレクシアの特性に対する適切な「支援」や「代償手段」を用いることで、読み書きの困難さを乗り越え、能力を十分に発揮することが可能になります。

支援の基本的な考え方は以下の通りです。

  1. 特性の理解: なぜ読み書きが難しいのか、その背景にある脳の認知特性を本人や周囲が理解する。これは、本人の努力不足ではないことを認識し、自己肯定感を保つ上で非常に重要です。
  2. 基礎的なスキルの向上: 読み書きの基礎(音と文字の対応、単語の構造など)について、本人に合った方法で集中的・反復的に学習する。これは「療育」と呼ばれることもあります。早期に開始するほど効果が高い傾向があります。
  3. 困難さの軽減: 読み書きに伴う負担を減らすためのツールや方法を活用する。例えば、読むのが難しいなら音声読み上げソフトを使う、書くのが苦手ならパソコンを使うなど、テクノロジーの活用も有効です。
  4. 強みの活用: 読み書き以外の得意なこと、強みを活かせる機会を増やす。本人の自信につながり、学習や生活全体への意欲を高めます。

これらの支援を組み合わせることで、ディスレクシアを持つ人は、読み書きの困難さを抱えながらも、学習や社会生活を円滑に送ることができるようになります。

具体的な学習支援・療育

学校や家庭で実践できる具体的な学習支援や療育には、様々な方法があります。
本人の特性や年齢に合わせて tailor-made の支援を行うことが重要です。

  • 読みに関する支援:
    • マルチモーダル学習: 視覚、聴覚、触覚など複数の感覚を同時に使うことで、文字と音の結びつきを定着させやすくします。例えば、文字を指でなぞりながら声に出して読む、文字ブロックや積み木で単語を作るなど。
    • 音韻認識の訓練: 単語を音に分解したり、音を組み合わせて単語を作ったりする練習を、ゲーム感覚で行う。
    • 読む負担の軽減:
      • 音声読み上げソフト/アプリ: パソコンやタブレット、スマートフォンで利用できるツール。教科書や資料を音声で聞くことで、読む労力を減らし、内容理解に集中できます。
      • 拡大文字・読みやすいフォント: 文字サイズを大きくしたり、ディスレクシアのある人向けに開発されたフォント(UDデジタル教科書体など)を使用したりする。
      • ルーラーやシート: 文を読む際に、指やルーラー、カラーシート(文字の色や背景色を変える)を使うことで、行を追いやすくしたり、文字のコントラストを調整したりする。
      • 一文ずつ表示: 画面上で文章を一度に表示せず、一文ずつ表示するツールを使うことで、視覚的な負担を減らす。
  • 書きに関する支援:
    • 書字の練習: 文字の形や筆順を、繰り返し練習する。指で空書きする、大きな文字で書くなど。
    • 書字ツールの活用:
      • パソコン・タブレット: キーボード入力や音声入力を使うことで、手書きの負担を減らし、スムーズに文章を作成できるようになります。スペルチェック機能も役立ちます。
      • 電子辞書・予測変換機能: 綴りが曖昧な場合でも、正しい単語を入力しやすくします。
    • ノートテイキングの工夫: ノートを取る代わりに、写真を撮る、録音するなど、別の方法で情報を記録することを認める。
    • 宿題の量の調整: 手書きの宿題の量を減らす、量を減らした上で繰り返し練習する、などの配慮を学校にお願いする。
  • 学校での配慮・環境調整:
    • テスト時間の延長や、口頭での解答、タイピングでの解答を認める。
    • 板書が難しい場合、板書を写真に撮る、先生や友達のノートを借りる、あらかじめ印刷された板書ノートを使うことを認める。
    • 発表の機会を増やし、読み書き以外の方法で理解度を示す機会を作る。
    • クラス内でディスレクシアについて理解を促す(本人の了解を得て)。
    • デジタル教科書や支援ソフトの導入。

これらの支援は、一人ひとりの特性や困難の程度、年齢、学習環境によって最適なものが異なります。
専門家(特別支援教育の教師、言語聴覚士、心理士など)と相談しながら、本人に合った支援計画を立て、試行錯誤しながら進めていくことが重要です。

ディスレクシアの強み・得意なこと

ディスレクシアは読み書きに困難を抱える特性ですが、それは決して「全てが苦手」という意味ではありません。
多くの場合、読み書き以外の分野で優れた能力や独自の視点を持っていることがあります。
ディスレクシアを持つ人の強みや得意なことにも焦点を当てることは、本人の自己肯定感を高め、可能性を広げる上で非常に重要です。

ディスレクシアを持つ人が得意である可能性のある分野(個人差があります)をいくつか紹介します。

  • 視覚的思考: 文字情報よりも、絵や図、イメージで物事を捉えるのが得意な人が多いです。複雑な情報を視覚的に理解したり、アイデアを視覚的に表現したりするのが得意な場合があります。
  • 空間認識能力: 物体の位置関係や空間的な構造を理解する能力に優れていることがあります。地図を読むのが得意だったり、立体的なものをイメージするのが得意だったりします。
  • 創造性・発想力: 既存の枠にとらわれず、自由な発想で新しいアイデアを生み出すのが得意な人がいます。問題解決において、定型的なアプローチとは異なるユニークな解決策を思いつくことがあります。
  • 全体を捉える力: 細かい部分にとらわれすぎず、物事の全体像や本質を素早く把握する能力に優れていることがあります。
  • 口頭でのコミュニケーション: 読み書きが苦手な一方で、話すことや聞くことが得意な人が多いです。会話を通じて情報を得たり、自分の考えを伝えたりするのが得意な場合があります。
  • 共感性: 困難を経験してきたことから、他者の気持ちを理解し、共感する力に長けていることがあります。
  • 問題解決能力: 困難に直面した際に、粘り強く工夫したり、別の方法を探したりすることで、問題解決能力が高い人もいます。

これらの強みは、読み書き中心の評価では見過ごされがちですが、本人にとっては大きな財産です。
学校教育やその後の進路選択、キャリア形成において、これらの強みを活かせるような機会や環境を意識的に作ることが重要です。

ディスレクシアに向いている職業

ディスレクシアであるという特性は、職業選択において不利になることばかりではありません。
むしろ、先述したような視覚的思考力や創造性、全体を捉える力などを活かせる職業はたくさんあります。
読み書きの困難さに対する必要な支援やツールを活用することで、幅広い分野で活躍することが可能です。

ディスレクシアを持つ人の強みを活かせる可能性のある職業の例をいくつか挙げます。(これはあくまで可能性であり、個人の興味やスキルによって異なります。)

  • デザイン・アート関連: グラフィックデザイナー、イラストレーター、ウェブデザイナー、写真家、建築家など。視覚的な発想力や空間認識能力を活かせます。
  • エンジニアリング・建築・ものづくり: エンジニア、プログラマー、大工、職人など。空間認識能力や問題解決能力、手先を使うことが得意な場合に適していることがあります。複雑な概念を視覚的に理解したり、立体的なものを組み立てたりする作業が得意な人もいます。
  • 起業家・経営者: 全体を俯瞰する力、リスクを恐れない発想力、困難に立ち向かう粘り強さなどが活かせます。
  • 口頭でのコミュニケーションが中心の仕事: セールス、カウンセラー、教師(読み書きの困難さへの配慮が必要な場合もありますが)、講演家など。話すことや聞くことが得意な場合に適しています。
  • 科学・研究(特定の分野): 読み書きの量は多いかもしれませんが、特定の分野に対する深い洞察力や、実験・観察など視覚や論理的思考を使う分野で活躍できることがあります。
  • 手先を使う専門職: 美容師、料理人、ミュージシャン、外科医(一部)、パイロットなど。空間認識能力や素早い判断力、集中力などが求められる仕事で強みを発揮することがあります。

どのような職業を選ぶにしても、重要なのは「自分にどのような困難さがあり、どのような支援があればそれを乗り越えられるか」「自分にはどのような強みがあり、それをどう活かせるか」を本人自身が理解していることです。
そして、職場において必要な合理的配慮(例:書類を読むのに時間をもらう、会議の議事録は後でデータでももらう、PCや音声ツールを活用するなど)について、適切に相談し、活用できる環境であるかも考慮に入れると良いでしょう。

ディスレクシアと他の発達障害(LDなど)との関連

ディスレクシアは、発達障害の診断分類の中で「限局性学習症(Specific Learning Disorder: SLD)」の一部と位置づけられています。
SLDにはディスレクシア(読字困難)の他に、書字表出困難(書字障害、ディスグラフィア)や、算数困難(算数障害、ディスカリキュリア)などがあります。
ディスレクシアを持つ人は、書字や算数にも困難を併せ持っていることが少なくありません。

さらに、ディスレクシアは他の発達障害と併存しやすいことも知られています。
特に、注意欠如・多動症(ADHD)や、自閉スペクトラム症(ASD)との併存率が高いことが報告されています。

  • ディスレクシアとADHD: ディスレクシアとADHDは、それぞれ読み書きの困難と、不注意・多動性・衝動性という異なる特性を持ちますが、併存しているケースが多いです。ADHDの特性(集中力の維持困難、衝動性など)が、ディスレクシアによる読み書きの困難をさらに複雑にすることがあります。例えば、ADHDのある子供がディスレクシアも持っている場合、読み書きの難しさからすぐに飽きてしまったり、集中が続かなかったりして、学習の遅れがより顕著になることがあります。逆に、読み書きの困難さがストレスとなり、落ち着きのなさにつながることもあります。併存している場合は、それぞれの特性に応じた複合的な支援が必要です。
  • ディスレクシアとASD: ディスレクシアとASDも併存することがあります。ASDの特性(対人関係や社会的なコミュニケーションの困難、限定された興味やこだわりなど)と、ディスレクシアの読み書きの困難さが組み合わさることで、学校生活や社会生活での困難さが複雑になります。例えば、ASDのある人がディスレクシアも持っている場合、文章の文字を追うこと自体はできても、文章の裏に隠された意図や比喩表現を理解することが難しく、読解に困難を感じることがあります。また、読み書きの困難が、特定の興味の追求や情報収集の妨げとなることもあります。

ディスレクシアが他の発達障害と併存している場合、それぞれの特性が互いに影響し合い、困難さがより複雑になる傾向があります。
そのため、診断の際には、読み書きの困難さだけでなく、注意、衝動性、対人関係、興味の偏りなど、広範な発達特性を評価することが重要です。
そして、併存する特性に合わせて、支援計画を包括的に立てる必要があります。

重要なのは、これらの発達特性が「別々の病気」として切り離されるものではなく、脳機能の多様性によって生じる「グラデーション」のようなものとして捉えることです。
それぞれの特性を理解し、本人にとって最適な支援を組み合わせることが、困難さを乗り越える鍵となります。

ディスレクシアの有名人

歴史上や現代において、ディスレクシアであったと公表している、あるいはそうであった可能性が高いと言われている著名人は数多くいます。
これは、ディスレクシアという特性を持ちながらも、自分の強みを活かし、社会的に成功することができるという大きな希望を示してくれます。

ディスレクシアや読み書きの困難があったとされている有名人の例(公表している人物に限定して紹介します):

  • トム・クルーズ (俳優): 幼少期から読み書きに困難を感じており、大人になってからディスレクシアであると診断されたことを公表しています。台本を読むのに苦労した経験などを語っています。
  • スティーブン・スピルバーグ (映画監督): 50代になってからディスレクシアと診断されたことを明かしています。子供の頃、本を読むのが遅く、周りから「のろま」と思われた経験などを語っています。
  • キーラ・ナイトレイ (女優): 子供の頃にディスレクシアと診断され、母親のサポートを受けながら本を読み続け、女優になる夢を叶えたことを語っています。
  • リチャード・ブランソン (ヴァージン・グループ創業者): 読み書きが非常に苦手で、学校の成績は振るいませんでしたが、アイデアを形にする力やビジネスの才能を発揮し、大成功を収めました。自身もディスレクシアであると公表しています。
  • ジェイミー・オリヴァー (料理人): 有名な料理人。学生時代は読み書きで苦労しましたが、料理の世界でその才能を開花させました。

これらの例は、ディスレクシアがあっても、知的な能力や才能が損なわれているわけではないことを明確に示しています。
むしろ、読み書き以外の分野で独自の強みを発揮し、成功を収めている人が多いです。

彼らの多くは、幼少期に読み書きの困難で苦労したり、周りから理解されなかったりした経験を持っています。
しかし、自身の特性を理解し、補う方法を見つけたり、得意な分野に集中したりすることで、困難を乗り越え、偉大な業績を残しました。

これらの著名人の例は、ディスレクシアを持つ本人やその家族にとって、大きな励みとなります。
「読み書きが苦手でも大丈夫」「他の得意なことを伸ばせばいい」というメッセージは、将来への希望を与えてくれるでしょう。

まとめ

ディスレクシアとは、知的な発達に遅れがないにも関わらず、「読む」「書く」といった文字に関する学習に著しい困難を抱える発達特性の一つです。
読字障害とも呼ばれ、脳機能の発達の仕方の違いから生じると考えられています。
本人の努力不足や怠慢によるものではなく、生まれつきの特性であることを理解することが、ディスレクシアを理解する上で最も重要な点です。

ディスレクシアの症状は、文字の認識、音読、書字(綴り、書き方)における困難さが中心ですが、その現れ方や程度は一人ひとり異なります。
子供だけでなく大人にも見られ、軽度の場合でも、日常生活や学習、仕事において見過ごせない困難を伴うことがあります。

原因は複数の要因が複雑に絡み合っていると考えられていますが、特に遺伝的要因や文字・言語処理に関わる脳機能の特性が深く関わっています。

診断は、専門家による知能検査や読み書き検査、行動観察など、多角的な評価に基づいて行われます。
子供の場合は学校の先生や教育相談所、医療機関に、大人の場合は発達障害者支援センターや専門医療機関に相談することができます。
早期に適切な診断を受けることで、本人に合った支援につなげることが可能になります。

ディスレクシアは「治る」ものではありませんが、適切な支援によって困難さを軽減し、社会生活を送ることが可能です。
具体的な支援としては、マルチモーダル学習、音声読み上げソフトやPCなどのテクノロジー活用、学校や職場での環境調整などがあります。

また、ディスレクシアを持つ人は、読み書き以外の分野で視覚的思考、空間認識能力、創造性、全体を捉える力といった独自の強みを持っていることが多くあります。
これらの強みを理解し、伸ばしていくことが、本人の自己肯定感を高め、可能性を広げる鍵となります。
多くの著名人がディスレクシアでありながら成功していることは、その証拠と言えるでしょう。

ディスレクシアの特性は、単なる「苦手」ではなく、脳の多様性として捉えられるべきものです。
本人や周囲が特性を正しく理解し、適切なサポートを提供することで、ディスレクシアを持つ人は読み書きの困難さを乗り越え、それぞれの個性や能力を活かして豊かな人生を送ることができます。
もし、ご自身や周囲の人にディスレクシアかもしれないと感じる場合は、一人で悩まず、専門機関に相談してみることをお勧めします。

免責事項: 本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の診断や治療を推奨するものではありません。
ディスレクシアの診断や支援については、必ず専門の医療機関や相談機関にご相談ください。

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