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その場しのぎの嘘をつく人は病気?発達障害・虚言癖の可能性と対応

その場しのぎの嘘をつく行為は、多くの人が経験することかもしれません。
しかし、それが頻繁に繰り返されたり、日常生活に大きな影響を及ぼしたりする場合、「もしかして病気なのでは?」と疑問に思う方もいるでしょう。
一体なぜ、人はその場しのぎの嘘をついてしまうのでしょうか。
そして、それは本当に何らかの病気や障害と関連があるのでしょうか。
この記事では、その場しのぎの嘘をつく人の具体的な特徴や背景にある心理的な原因、そして関連する可能性のある病気や障害について詳しく解説します。
さらに、そのような人への適切な対応方法や、必要に応じて相談できる専門機関についても紹介します。
この情報が、その場しのぎの嘘に悩む本人や、周囲で困っている方々にとって、状況を理解し、適切な一歩を踏み出す助けとなれば幸いです。

目次

その場しのぎの嘘をつく人の特徴

その場しのぎの嘘をつく人には、いくつかの共通した特徴が見られます。
もちろん、これらの特徴がすべての人に当てはまるわけではありませんし、程度の差も大きいですが、傾向として現れやすい行動パターンを理解することは、その背景を探る上で役立ちます。

見え透いた嘘を繰り返す

その場しのぎの嘘は、多くの場合、後から簡単に事実確認ができてしまうような、見え透いたものであることが少なくありません。
「遅刻した理由がいつも電車トラブル」「課題を提出できなかった言い訳が頻繁にパソコンの故障」など、状況と照らし合わせると不自然であったり、過去にも聞いたことがあるような話であったりします。
にもかかわらず、同じような、あるいはさらに突飛な嘘を繰り返す傾向が見られます。
これは、その場で都合の悪い状況を切り抜けたいという気持ちが先行し、嘘をつくこと自体の整合性や将来的な発覚リスクについて、十分に検討できていないことの表れかもしれません。

失敗や問題を他人のせいにする

自分の失敗や問題に対して責任を負わず、すぐに他人のせいにすることも、その場しのぎの嘘とセットで現れやすい特徴です。
「自分が報告を忘れたのではなく、相手から聞いていない」「自分がミスをしたのではなく、指示が曖昧だった」といったように、自分以外の誰かや環境に原因を求め、自己を正当化しようとします。
これは、自分の非を認めることへの強い抵抗や、自己評価が傷つくことへの恐れが根底にあると考えられます。
責任転嫁の嘘は、その場では一時的に自分が責められることを回避できますが、周囲からの信頼を失う大きな原因となります。

事実を認めようとしない

嘘が明らかになったり、事実を突きつけられたりしても、自分の嘘を認めようとせず、さらに別の嘘を重ねたり、話をすり替えたりすることがあります。
これは、嘘がバレたことによる羞恥心や、その結果として生じるであろう非難や評価の低下への強い恐怖から来ていると考えられます。
事実を認めないことで、なんとか自己のプライドや体面を保とうとする心理が働きます。
しかし、これもまた、周囲との関係性を悪化させ、問題をさらに複雑にするだけです。
頑なに事実を認めようとしない態度は、コミュニケーションを困難にし、解決への道を閉ざしてしまいます。

話に一貫性がない・飛躍する

その場しのぎで考え出した嘘は、しばしば話のつじつまが合わなくなったり、不自然な飛躍があったりします。
特に、複数の嘘を重ねるうちに、以前話した内容と矛盾が生じたり、細部がコロコロと変わったりします。
質問されると、さらにその場しの対応で作り話をするため、ますます話が複雑になり、聞いていて不自然さを感じざるを得ません。
これは、事前にストーリーを組み立てておらず、その都度思いつきで話しているためです。
話の一貫性のなさは、聞き手に不信感を抱かせ、「また嘘をついているのではないか」と疑われるきっかけとなります。

その場しのぎの嘘をついてしまう原因

その場しのぎの嘘は、単なる悪い癖として片付けられることもありますが、そこには様々な心理的な原因や背景が隠されています。
なぜ、その瞬間の衝動的な嘘を選んでしまうのか、その主な要因をいくつか見ていきましょう。

自己防衛や保身のため

最も一般的な原因の一つは、自己防衛や保身の欲求です。
怒られたくない、罰せられたくない、自分の評価を下げたくないといった気持ちから、その場をしのぐために嘘をついてしまいます。
特に、失敗を厳しく追及される環境にいたり、完璧主義でミスを受け入れられなかったりする場合に、この傾向は強まるかもしれません。
嘘は一時的に自分を守る盾となりますが、長期的に見れば、信頼関係を損ない、より大きな問題を引き起こすことにつながります。
この自己防衛の嘘は、ある意味で生存戦略の一つとして無意識的に選択されているとも言えます。

承認欲求や注目されたい気持ち

人から認められたい、褒められたい、注目されたいという承認欲求も、その場しのぎの嘘の原因となることがあります。
自分をより良く見せようとして、実際よりも大げさに話したり、能力や経験を偽ったりします。
「すごいね」「さすがだね」といった肯定的な反応を得るために、事実を歪曲したり、作り話をしたりするのです。
これは、自分自身の存在価値を、他者からの評価に委ねてしまっている状態と言えます。
特に、自己肯定感が低い人は、嘘によって一時的に得られる称賛や注目に依存してしまうことがあります。

叱責や否定を恐れる心理

過去に強い叱責を受けたり、否定された経験があったりすると、再び同じような状況になることを極度に恐れるようになります。
そのため、少しでも否定的な評価を受けそうな状況になると、反射的に嘘をついてその場を回避しようとします。
これは、過去の経験から学習した自己防衛のメカニズムであり、特に子ども時代に厳しく育てられたり、失敗を許されない環境にいたりした場合に強く影響する可能性があります。
叱責や否定への恐怖は、正直に話すことよりも、一時的に安全を確保することを優先させてしまうのです。

現実逃避や都合の悪いことから逃れるため

直面したくない現実や、自分にとって都合の悪い状況から一時的に逃れるために、嘘をつくこともあります。
面倒なことから逃れたい、義務を果たしたくない、といった気持ちから、「もう終わった」「やった」などと嘘をついてしまいます。
これは、問題解決能力が低い、あるいはストレス耐性が低い場合に起こりやすいです。
嘘によって一時的な解放感は得られますが、根本的な問題は何一つ解決せず、後からさらに大きな負担となって跳ね返ってくることになります。
現実逃避のための嘘は、問題を先送りするだけであり、状況を悪化させる一方です。

生育環境や過去の経験

育ってきた家庭環境や過去の人間関係における経験も、嘘をつく傾向に影響を与えることがあります。
例えば、親が日常的に嘘をついていた、正直に話すと罰せられた、といった経験は、嘘をつくことへの抵抗感を低くし、むしろ嘘をつくことが身を守る手段だと学習させてしまう可能性があります。
また、虐待やネグレクトといった深刻な生育環境は、自己肯定感を著しく低下させ、自己防衛のために嘘をつく行動につながることもあります。
過去の経験は、その後の行動パターンや心理に深く根差した影響を及ぼすため、嘘の背景を理解する上で重要な要素となります。

嘘や作り話と関連する病気・障害

その場しのぎの嘘が頻繁に繰り返され、社会生活に支障をきたすレベルになると、単なる癖や性格の問題ではなく、何らかの病気や障害との関連も視野に入れる必要があります。
ここでは、嘘や作り話と関連が指摘されることのある病気や障害について解説します。

虚言癖(病的虚言)とは

「虚言癖」という言葉は日常的にも使われますが、精神医学においては「病的虚言(pathological lying)」や「慢性虚言(chronic lying)」といった概念で捉えられることがあります。

虚言癖の定義と特徴

病的虚言は、明らかな外的利益がないにもかかわらず、長期間にわたって繰り返し虚偽の話をしたり、作り話をしたりする傾向を指します。
その特徴は以下の通りです。

  • 動機が不明瞭: 嘘をつくことで得られる具体的なメリット(金銭、地位など)が明確でない場合が多いです。
  • 自発的で持続的: 質問されたから答えるだけでなく、自分から積極的に虚偽の話を始め、それを維持しようとします。
  • 作り話の精緻さ: 嘘が非常に巧妙で、詳細かつ具体的に語られることがあります。まるで本当に体験したかのように、感情を込めて話します。
  • 現実との乖離: 語られる内容が、客観的な事実や現実から大きくかけ離れているにもかかわらず、本人はそれを真実であるかのように振る舞います。
  • 自己中心的: 作り話の多くは、自分を主人公とし、自分をより魅力的に、英雄的に、あるいは悲劇的に見せる内容である傾向があります。
  • 衝動性や強迫性: 嘘をつくこと自体が衝動的であり、止めたいと思ってもコントロールできない、ある種の強迫的な性質を帯びることがあります。

病的虚言は、その場しのぎの嘘のように特定の状況を切り抜けるためだけでなく、理由もなく、あるいは自分自身を飾るために嘘をついてしまう点が異なります。

虚言癖は病名なのか

現在の精神医学的な診断基準(DSM-5など)において、「虚言癖」や「病的虚言」は、単独の正式な疾患名としては登録されていません。

しかし、この概念は古くから精神病理として認識されており、他の精神疾患やパーソナリティ特性の一部として現れることが知られています。
例えば、一部のパーソナリティ障害(後述)、衝動制御の障害、あるいは脳機能の偏りなどと関連がある可能性が研究されています。

つまり、虚言癖そのものが「病名」として診断されるわけではありませんが、それは何らかの精神的な問題や特性のサインとして現れている可能性があり、その背景にある要因を探ることが重要となります。

パーソナリティ障害との関連

パーソナリティ障害とは、個人の行動、思考、感情、対人関係のパターンが、社会文化的な基準から著しく偏っており、それが長期間にわたって持続し、苦痛や機能の障害を引き起こす精神障害のグループです。
いくつかのパーソナリティ障害において、嘘や欺瞞的な行動が特徴的に見られることがあります。

平気で嘘をつく反社会性パーソナリティ障害

反社会性パーソナリティ障害(Antisocial Personality Disorder)は、嘘や欺瞞と最も強く関連が指摘されるパーソナリティ障害です。
その診断基準には、「欺瞞的であること。繰り返しの嘘、偽名の使用、個人的利益や快楽のための他人をだます行為によって示される」という項目が含まれています。

反社会性パーソナリティ障害の人は、他者の権利や感情を無視し、平気で嘘をついたり、人を操ろうとしたりします。
その場しのぎの嘘というよりは、自分の目的達成のために計画的に、あるいは衝動的に嘘をつき、良心の呵責を感じにくいという特徴があります。
法に触れる行為を繰り返すことも多く、社会的な規範やルールを守ることが困難です。
彼らにとって嘘は、目的を達成するための単なる手段であり、倫理的な問題として捉えられにくい傾向があります。

その他のパーソナリティ障害との関係性

反社会性パーソナリティ障害ほど顕著ではありませんが、他のパーソナリティ障害でも嘘や作り話が見られることがあります。

  • 境界性パーソナリティ障害: 見捨てられ不安が強く、対人関係が不安定です。相手を繋ぎ止めるために、あるいは注目を集めるために衝動的に嘘をつくことがあります。現実ではない「見捨てられる」という恐怖に基づいて、話を誇張したり、状況を歪曲したりすることも。
  • 自己愛性パーソナリティ障害: 自己の重要性を誇大に捉え、称賛を強く求めます。自分を特別に見せるために、経歴や能力について嘘をついたり、現実を歪曲して語ったりすることがあります。これは、傷つきやすい自己評価を守るための防衛機制として機能することがあります。
  • 演技性パーソナリティ障害: 注目の的になることを強く求め、感情表現が大げさで演劇的です。人から関心を得るために、話を派手に盛ったり、実際にはない出来事を語ったりすることがあります。

これらのパーソナリティ障害における嘘は、その障害の核となる病理(見捨てられ不安、自己評価の不安定さ、注目欲求など)と深く結びついています。
その場しのぎの嘘も含まれますが、より根深い心理的な要因に根差しています。

発達障害(ADHD・アスペルガーなど)と嘘

発達障害は、脳機能の発達の仕方の違いによって生じる生まれつきの特性であり、注意、学習、コミュニケーション、対人関係などに特性が見られます。
発達障害があるからといって、必ずしも嘘をつくわけではありませんし、嘘をつくことが特性そのものではありません。
しかし、発達障害の特性が、結果的に周囲から「嘘をついた」と誤解されたり、あるいは特性から生じる困難を回避するために嘘をついてしまったりする場合があります。

発達障害における嘘・作り話の原因

発達障害に関連する嘘や作り話には、いくつかの原因が考えられます。

  • ADHD(注意欠如・多動症)の場合:
    • 衝動性: その場の状況や質問に対し、深く考えずに思いついたことを口にしてしまい、それが結果的に事実と異なる場合があります。「宿題やったの?」と聞かれて、やっていないのに反射的に「やった!」と答えてしまうなど。
    • 忘れやすさ: 記憶の保持や整理が苦手なため、以前話した内容を忘れてしまい、話のつじつまが合わなくなることがあります。悪気はないのに、結果的に嘘のように聞こえてしまうのです。
    • 先延ばし: 課題ややるべきことを先延ばしにしがちで、期限が迫ってどうしようもなくなった際に、それを隠すために嘘をつくことがあります。
  • ASD(自閉スペクトラム症)の場合:
    • 社会性の困難: 暗黙の了解や相手の意図を読み取ることが苦手なため、コミュニケーションがぎこちなくなり、正直に話すことで生じるであろう摩擦やトラブルを恐れて、回避策として嘘を選択してしまうことがあります。
    • 想像力や柔軟性の偏り: 臨機応変な対応が苦手で、想定外の事態に直面した際にパニックになり、その場をしのぐために不自然な嘘をついてしまうことがあります。また、独自の強いこだわりや興味の世界があり、現実と空想の区別が曖昧になる場合(特に幼少期)や、自分の興味のある話を優先して、事実関係を正確に伝えられない場合も。

発達障害に関連する嘘は、悪意や人を欺こうとする意図から生じるというよりも、特性から生じる困難(衝動性、記憶力の弱さ、社会性の苦手さなど)に対応しようとした結果であったり、あるいは特性そのものが誤解を招きやすかったりすることが多いです。

発達障害に伴う二次障害としての虚言傾向

発達障害の特性によって、幼い頃から「嘘つき」「いい加減」といった否定的な評価を受け続けると、自己肯定感が著しく低下します。
周囲からの理解が得られないことや、社会生活での失敗体験が積み重なることで、不安障害やうつ病といった二次障害を発症するリスクが高まります。

このような精神的な苦痛から逃れるため、あるいは傷ついた自己を守るために、現実逃避や自己防衛のための嘘が増えることがあります。
これは、発達障害そのものが直接の原因ではなく、発達障害による困難が引き起こした精神的な問題(二次障害)の結果として、虚言傾向が強まるケースです。
この場合、根底にある発達障害の特性への理解と支援、そして二次障害への治療が必要となります。

その他の精神疾患との関連

特定の精神疾患の症状として、現実と異なる内容を語る、あるいは作り話をしてしまう場合があります。

  • 統合失調症: 妄想や幻覚といった症状が現れることがあり、本人はそれを現実だと信じているため、客観的には嘘や作り話のように聞こえることがあります。これは意図的な嘘とは異なり、病的な確信に基づいています。
  • 双極性障害(躁うつ病): 躁状態になると、気分が高揚し、現実離れした誇大な計画や能力について語ることがあります。これは病的な高揚感に基づくものであり、意識的な嘘とは区別されるべきです。
  • 認知症: 記憶障害によって、事実と異なる内容を話したり、過去の出来事を混同したりすることがあります。これも悪意のある嘘ではなく、病気による脳機能の低下が原因です。
  • うつ病: 気分の落ち込みが激しい場合、自分を過度に卑下したり、絶望的な状況を訴えたりすることがあります。これは病的な悲観主義に基づくもので、事実を正確に反映していない場合があります。

これらの精神疾患における「嘘のように聞こえる言動」は、その病気固有の症状として現れるものであり、その場しのぎの嘘や病的虚言とは性質が異なります。
これらの場合は、精神疾患自体の適切な診断と治療が最も重要となります。

嘘の種類と関連する可能性のある状態の比較

嘘のタイプ 特徴 主な原因 関連する可能性のある状態
その場しのぎの嘘 特定の状況を切り抜けるための一時的な嘘。見え透いていることも多い。 自己防衛、保身、叱責への恐怖、現実逃避。 習慣、環境、一時的な精神状態。
病的虚言(虚言癖) 明確な利益なく繰り返される、自発的で持続的な作り話。精緻な場合も。 複雑な心理的要因、自己肯定感の低さ、注目欲求。 他の精神疾患、パーソナリティ特性の一部。
目的のための嘘(計画的) 特定の利益(金銭、地位など)を得るために計画的に行う嘘。 利益追求、操作欲求。 反社会性パーソナリティ障害。
発達障害に関連する嘘 特性(衝動性、記憶、社会性など)から意図せず、あるいは困難回避のために生じる。 発達特性、二次障害(不安、自己肯定感低下)。 ADHD, ASD。
精神疾患の症状としての言動 妄想、誇大性、記憶障害、気分の偏りなど、病気固有の症状として生じる現実と異なる言動。 各疾患の病態生理。 統合失調症、双極性障害、認知症など。

この表は一般的な傾向を示しており、全てのケースに当てはまるわけではありません。
また、これらの状態が複合している場合もあります。

その場しのぎの嘘をつく人への対応・接し方

その場しのぎの嘘をつく人と接する際に、どのように対応すれば良いのでしょうか。
感情的に対応したり、厳しく追及したりすることは、かえって逆効果になる場合があります。
ここでは、より建設的で冷静な対応方法をいくつかご紹介します。

嘘に感情的に反応しない

嘘をつかれたとき、驚き、怒り、失望といった感情が湧き起こるのは自然なことです。
しかし、そこで感情的に怒鳴りつけたり、責め立てたりすることは避けましょう。
感情的な反応は、相手をさらに追い詰め、自己防衛のために嘘を重ねさせたり、心を閉ざさせたりする可能性があります。
まずは一呼吸おいて冷静になり、事実関係を整理することに努めましょう。
感情的なコミュニケーションは、問題の本質を見えなくしてしまいます。

事実に基づいた冷静な対応

嘘が明らかになった場合は、感情的にならず、事実に基づいた冷静な対応を心がけましょう。
例えば、「あなたが〇〇と言いましたが、実際に〇〇はされていませんでしたね」のように、具体的な事実を示して伝えます。
非難するのではなく、「事実が違うようだね」といった客観的な言葉遣いをすることで、相手も受け入れやすくなる場合があります。
重要なのは、嘘をついたことそのものだけでなく、「なぜ嘘をつく必要があったのか」という背景にも目を向けることです。
ただし、最初は事実を淡々と伝えることに集中し、必要に応じて後から背景について話し合う機会を設けるのが良いでしょう。

安易に嘘を追及しない

嘘を問いただしたり、徹底的に追及したりすることは、一見すると正直さを促すように思えますが、多くの場合は逆効果になります。
嘘をつく人は、追及されること自体に強い恐怖や抵抗を感じており、追い詰められると、さらに巧みな嘘で逃れようとしたり、攻撃的になったりすることがあります。
特に、その場しのぎの嘘が自己防衛や叱責への恐怖から来ている場合、追及はかえってその恐怖を強化してしまいます。
嘘を問い詰めるよりも、まずは正直に話せるような安心できる環境を作る方が重要です。
また、嘘を暴くことに終始するのではなく、今後の行動についてどう改善していくかに焦点を当てる方が建設的です。

適切な距離感を保つ

嘘が繰り返される場合、関係性を健全に保つために、適切な距離感を保つことも必要です。
特に、嘘によって自分が金銭的・精神的な被害を受けたり、巻き込まれたりする場合は、きっぱりとNOと言う勇気が必要です。
嘘を受け入れたり、許容し続けたりすることは、相手の嘘をつく行動を助長してしまう可能性があります。
嘘によって生じる結果(例:約束が果たされない、迷惑を被る)を相手に体験させることも、嘘をつくことのデメリットを学ばせる上で重要かもしれません。
ただし、見捨てるという意味ではなく、お互いの健全な関係性のために必要な線を引くということです。
必要であれば、一時的に連絡を控える、関わる頻度を減らすなどの対策も検討します。

深刻な場合は専門機関へ相談を促す

その場しのぎの嘘が、日常生活や社会生活に大きな支障をきたしている場合、あるいは本人や周囲が著しい苦痛を感じている場合は、単なる性格の問題ではなく、病気や障害が背景にある可能性も考えられます。
このような場合は、本人に専門機関への相談を促すことを検討しましょう。
直接的に「病気だから病院に行け」と言うと反発を招きやすいため、「話を聞いてくれる専門家がいるみたいだよ」「何か困っていることがあるなら、一緒に考えてもらうのはどうかな」といった形で、サポートを得られる場所があることを優しく伝えるのが良いでしょう。
本人に受診の意思がない場合でも、まずは家族や関係者が専門機関に相談してみることも可能です。

嘘をつく傾向がある場合に相談できる専門機関

嘘をつく傾向が本人や周囲の困りごとになっている場合、あるいはその背景に病気や障害が疑われる場合は、専門機関に相談することで、適切なアドバイスや支援を受けることができます。

精神科・心療内科

嘘をつく行為の背景に、うつ病、双極性障害、統合失調症、パーソナリティ障害、発達障害などの精神疾患や障害がある場合、精神科や心療内科が主要な相談先となります。
医師は、問診や必要に応じて心理検査などを行い、診断に基づいて薬物療法や精神療法(カウンセリングなど)を含む治療計画を立てます。
嘘をつくという行為そのものを直接的に治療する薬はありませんが、背景にある疾患が改善することで、虚言傾向が軽減されることが期待できます。
本人に受診の意思がない場合でも、家族などが相談できる窓口(家族相談)を設けている医療機関もあります。
ただし、医療機関によって専門分野や対応が異なるため、事前に確認することをおすすめします。

カウンセリング機関

精神科医による診断や薬物療法が必要なレベルではない場合や、より対話を通じて問題解決を図りたい場合は、カウンセリング機関が有効です。
公認心理師や臨床心理士といった心理専門職が、嘘をつく背景にある心理(自己肯定感の低さ、不安、過去のトラウマなど)を探り、認知行動療法や対人関係療法など、様々な技法を用いて、本人が嘘に頼らずに困難に対処できるようサポートします。
カウンセリングは、嘘をつく行動パターンそのものに焦点を当てることもあれば、その根底にある原因(承認欲求、恐怖など)を扱っていくこともあります。
医療機関に併設されているカウンセリング室や、独立したカウンセリングルーム、公的な相談機関(精神保健福祉センターなど)で利用できます。

就労移行支援事業所(関連する場合)

発達障害など、特定の障害によって社会生活(特に就労面)での困難があり、それが原因でその場しのぎの嘘をついてしまうといったケースでは、就労移行支援事業所も関連するサポートを提供できる場合があります。
就労移行支援事業所は、障害のある方が一般企業での就職を目指すための訓練やサポートを行う場所です。
コミュニケーションスキル、対人関係の築き方、報告・連絡・相談の練習など、職場での円滑な人間関係や適切な行動を身につけるためのプログラムがあり、嘘をつくことの背景にある「社会生活での不器用さ」にアプローチすることが可能です。
ただし、これは主に就労を目指す方やその関連で困りごとがある場合に該当する選択肢です。

専門機関の選び方のヒント

専門機関 主な役割 どのような場合に適しているか
精神科・心療内科 診断、薬物療法、精神療法。背景疾患の治療。 精神疾患や発達障害が強く疑われる場合。症状が重い場合。
カウンセリング機関 心理療法(カウンセリング)。思考や行動パターンの修正。心理的背景の探求。 診断はまだ不要だが、心理的な問題に取り組みたい場合。対話による解決。
就労移行支援事業所 就労に向けた訓練、コミュニケーション練習、社会スキル習得。 発達障害などで、就労に関連する困難から嘘が生じる場合。

どこに相談すべきか迷う場合は、まずはお住まいの地域の精神保健福祉センターや保健所、またはかかりつけ医などに相談してみるのも良いでしょう。
そこから適切な専門機関を紹介してもらえることがあります。

まとめ:その場しのぎの嘘が続く場合は病気や障害の可能性も

その場しのぎの嘘は、多くの人が多かれ少なかれ経験する行為ですが、それが頻繁に繰り返されたり、人間関係や社会生活に深刻な影響を及ぼしたりする場合は、単なる性格や習慣の問題として片付けられないことがあります。
そこには、自己防衛、承認欲求、恐怖、現実逃避といった様々な心理的な原因が潜んでおり、さらに、虚言癖、パーソナリティ障害、発達障害、その他の精神疾患といった病気や障害が背景にある可能性も考えられます。

特に、明らかなメリットがないのに嘘を繰り返す(病的虚言)、人を欺くことに躊躇がない(反社会性パーソナリティ障害)、特性から意図せず、あるいは困難回避のために嘘が生じる(発達障害)、病的な状態として現実と異なることを語る(統合失調症、双極性障害など)といった場合は、専門的な視点での判断や支援が必要です。
その場しのぎの嘘をつく人への対応としては、感情的にならず、事実に基づいた冷静なコミュニケーションを心がけることが重要です。
安易な追及は避け、時には適切な距離を保つことも必要になります。
そして最も重要なのは、嘘が続くことで本人や周囲が苦痛を感じている場合、病気や障害の可能性を念頭に置き、精神科・心療内科やカウンセリング機関などの専門機関への相談を検討することです。

嘘の背景にある原因や困りごとは一人ひとり異なります。
適切な理解と、必要に応じた専門家のサポートを受けることで、状況が改善に向かう可能性があります。
本人だけでなく、周囲の人も抱え込まずに相談することで、より良い方向へと進むきっかけを掴めるはずです。

免責事項: 本記事は情報提供を目的としており、特定の病気や障害の診断、治療を推奨するものではありません。個別の状況については、必ず専門機関に相談してください。

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