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アスペルガー症候群の主な特徴を解説|症状やASDとの違いは?

アスペルガー症候群 特徴」について知りたいと感じていませんか?
アスペルガー症候群(現在は自閉スペクトラム症:ASDに分類されます)は、対人関係やコミュニケーションのあり方、物事への興味や関わり方に特有の「特性」を持つ発達障害の一つです。
この記事では、アスペルガー症候群の主な特徴について、大人と子供それぞれの視点から、具体的な症状や困りごと、診断や対応・支援の方法まで分かりやすく解説します。
ご自身や周囲の方の特性を理解し、より快適な生活を送るためのヒントを見つける手助けになれば幸いです。

アスペルガー症候群の主な特徴

アスペルガー症候群という言葉は、現在では「自閉スペクトラム症(ASD)」という一つの診断名に含まれています。
しかし、「アスペルガー症候群」という名称で呼ばれることもまだ多く、その特性について知りたいという方も少なくありません。
ここでは、アスペルガー症候群と呼ばれる特性を持つ人々に見られる、対人関係やコミュニケーション、物事への関わり方における主な特徴について詳しく見ていきましょう。
これらの特性は、決して本人のわがままや努力不足ではなく、脳機能の発達の仕方の違いによるものです。
正しい理解は、本人だけでなく、家族、友人、職場の同僚など、周囲の人々とのより良い関係性を築くために非常に重要です。

目次

アスペルガー症候群(ASD)とは?診断基準の変遷

アスペルガー症候群は、かつては広汎性発達障害の一つのタイプとして独立した診断名でした。
しかし、2013年に改訂されたアメリカ精神医学会の診断基準である『DSM-5(精神疾患の診断・統計マニュアル第5版)』において、アスペルガー症候群や自閉性障害、特定不能の広汎性発達障害といった診断名が統合され、「自閉スペクトラム症(Autism Spectrum Disorder: ASD)」という一つの診断名にまとめられました。
「スペクトラム(Spectrum)」とは、「連続体」や「グラデーション」を意味し、ASDの特性の現れ方や程度が一人ひとり多様で連続的であることを示しています。

この診断基準の変更は、自閉的な特性が「あるかないか」の二者択一ではなく、程度の差があるという考え方に基づいています。
以前のアスペルガー症候群は、知的発達の遅れを伴わないASDとして位置づけられていました。
現在でも、一般的な知的発達に遅れがないASDを指して、便宜的に「アスペルガータイプ」や「アスペルガー症候群」と呼ぶことがあります。

DSM-5におけるASDの診断基準は、主に以下の2つの主要な領域における持続的な困難さに注目します。

  • 社会的コミュニケーションおよび相互作用における持続的な欠陥
  • 限定された反復的な様式の行動、興味、活動

これらの特性が発達早期から見られ社会生活、学校生活、職業生活などで機能の障害を引き起こしている場合に診断が検討されます。
診断基準の変遷を理解することは、現在「アスペルガー症候群」と呼ばれている特性が、ASDというより広い概念の中でどのように捉えられているのかを理解する上で役立ちます。

アスペルガー症候群に見られる主要な特性・症状

アスペルガー症候群(ASD)に見られる主要な特性は、先述の診断基準にも示されているように、社会的なコミュニケーションや対人関係の困難さと、限定された興味や特定の行動へのこだわりという2つの領域に大きく分けられます。
これに加えて、多くのASDのある方に見られる特性として、感覚特性があります。
これらの特性は、子供の頃から見られますが、成長とともに現れ方が変化したり、社会生活の中で顕著になったりすることがあります。

対人関係や社会的なコミュニケーションの困難さ

アスペルガー症候群の大きな特徴の一つは、人との関わり方やコミュニケーションの取り方に難しさがあることです。
これは、相手の意図を読み取ったり、場の空気を察したりすることが苦手なことに関連しています。

空気を読むことや暗黙のルールの理解が苦手

私たちは普段の生活で、言葉にならないメッセージや、その場の状況に応じた「当たり前」のルール(暗黙のルール)を無意識のうちに読み取って行動しています。
しかし、アスペルガー症候群の特性を持つ人は、こうした非言語的なサインや状況判断が苦手な傾向があります。

例えば、会議中に皆が沈黙して次の議題に移る流れになっているのに、気づかずに前の議題について話し続けてしまったり、相手が忙しそうなサインを出しているのに延々と自分の話をしてしまったりすることがあります。
また、集団の中で「今は冗談を言い合う雰囲気ではない」「この話題は避けた方が良い」といった場の空気を察することが難しいため、意図せず不適切な発言をしてしまったり、周囲から浮いてしまったりすることがあります。
これは、悪意があってそうしているわけではなく、状況を読み取る脳の働きが定型発達の人とは異なるためです。

言葉を字義通りに受け取る傾向

アスペルガー症候群の特性を持つ人は、言葉を文字通りの意味で受け取る傾向が強いです。
そのため、比喩表現、皮肉、冗談、遠回しな言い方などが理解しにくいことがあります。

例えば、「猫の手も借りたいくらい忙しい」と言われて、本当に猫の手を探そうとしてしまったり、「ちょっと考えておきます」という言葉を額面通りに受け取り、実際には断りや先延ばしの意味だと気づけなかったりすることがあります。
指示を受ける際も、「適当にやっておいて」「いい感じに仕上げて」といった曖昧な表現ではどうすれば良いか分からず困ってしまい、具体的な指示がないと動けないというケースもよく見られます。
「普通はこうするだろう」といった共通認識に基づく行動が難しいため、周囲からは「融通が利かない」「マニュアル通りにしかできない」と思われてしまうこともあります。

相手の気持ちや意図を想像することが難しい

他人の感情を察したり、その行動の裏にある意図を推測したりすることは、スムーズな対人関係において非常に重要です。
アスペルガー症候群の特性を持つ人は、相手の立場に立って物事を考えたり、感情を推測したりすることが苦手な場合があります。
これを「心の理論の障害」と呼ぶこともあります。

例えば、相手が悲しんでいる時に、どう声をかけたら良いか分からず立ち尽くしてしまったり、相手が喜ぶと思ってした行動が、実は相手にとっては迷惑だったりすることがあります。
また、相手が何か隠し事をしている、嘘をついているといった複雑な心理を読み取ることが難しいため、騙されやすいといった側面が見られることもあります。
これは、相手への共感性が低いという意味ではなく、相手の感情や思考を「推測する」というプロセスが苦手であるという側面が強いです。

一方的な話し方や会話のキャッチボールの難しさ

会話は、お互いが話したり聞いたりすることで成立する「キャッチボール」のようなものです。
しかし、アスペルガー症候群の特性を持つ人は、会話のテンポやリズムを掴むことが難しく、スムーズな会話のキャッチボールが苦手なことがあります。

自分の興味のある特定の話題については非常に豊富な知識を持ち、それについて話し始めると、相手の反応を気にせず一方的に話し続けてしまう傾向が見られます。
質問されても、聞かれたこと以上の情報を細かく話しすぎたり、逆に必要最低限のことしか答えなかったりと、会話の「適切な量」が分からないこともあります。
また、相手が話している途中でさえぎってしまったり、話題が飛んだりすることも見られます。
これは、悪気があるわけではなく、会話を組み立てたり、相手の話に耳を傾け続けたりといった脳機能の特性によるものです。

限定された興味や特定の行動へのこだわり

アスペルガー症候群のもう一つの主要な特性は、興味の対象が非常に限定されていたり、特定の行動やルーティンに強くこだわったりすることです。

特定分野への強い関心と集中力

アスペルガー症候群の特性を持つ人は、一度興味を持ったことに対して、驚くほどの集中力と熱意を発揮することがあります。
興味の対象は、電車、恐竜、昆虫、特定の歴史上の人物、アニメのキャラクター、数学の公式など、非常に多岐にわたります。
徹底的に調べたり、関連するものをコレクションしたりと、その分野においては専門家顔負けの知識を持っていることも珍しくありません。

この強い興味と集中力は、才能や強みとなることもあります。
特定の研究分野や技術職など、深い知識や根気強い探求が求められる分野で能力を発揮し、成功を収めている人も多くいます。
しかし、興味のないことには全く関心を示さなかったり、興味のあること以外には時間を割くのを極端に嫌がったりするため、周囲からは「わがまま」「協調性がない」と誤解されてしまうこともあります。

ルーティンや習慣への強いこだわりと変化への抵抗

アスペルガー症候群の特性を持つ人は、毎日同じ時間に同じことをする、物事を特定の順番で行うといったルーティンや習慣に強くこだわる傾向があります。
これは、予測可能な状況を好むためであり、変化に対して強い不安や抵抗を感じることが多いです。

例えば、毎日の通学・通勤ルートが決まっていて、工事などでそのルートが使えなくなるとパニックになってしまったり、食事のメニューや座る席が決まっていないと落ち着かなかったりします。
予定の変更や急な出来事にも弱く、事前に知らされていなかったり、心の準備ができていなかったりすると、混乱したり強いストレスを感じたりします。
このこだわりは、安心感を得るための重要な手段である一方で、予期せぬ出来事がつきものである社会生活においては、柔軟な対応を困難にする要因ともなります。

感覚特性(感覚過敏または感覚鈍麻)

診断基準の主要な項目には含まれていませんが、アスペルガー症候群を含むASDのある人の多くに感覚の過敏さ(感覚過敏)または鈍感さ(感覚鈍麻)といった感覚特性が見られます。
これは、視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚だけでなく、固有受容覚(体の位置や動きを感じる感覚)や前庭覚(体の傾きやバランスを感じる感覚)など、様々な感覚に関わります。

音、光、匂い、味覚、触覚などへの過敏さ・鈍感さ

感覚過敏がある場合、特定の感覚刺激が非常に強く感じられ、不快感や苦痛を感じることがあります。

  • 聴覚過敏: 特定の音(例: 掃除機の音、赤ちゃんの泣き声、時計の秒針の音)が非常に大きく聞こえたり、複数の音が混じると聞き分けられなかったりする。
  • 視覚過敏: 蛍光灯の光がまぶしく感じたり、特定の模様や色が不快だったりする。
  • 嗅覚過敏: 他の人が気にならないような匂い(例: 香水、特定の食べ物の匂い)が強く感じられ、気分が悪くなる。
  • 触覚過敏: 特定の素材の服が着られなかったり、人に軽く触れられるのが苦手だったりする。
  • 味覚過敏: 特定の味や食感が受け付けられない(偏食につながることも)。

一方、感覚鈍麻がある場合、感覚刺激を感じにくかったり、気づきにくかったりします。

  • 痛みや温度に気づきにくい: 怪我をしていても気づかなかったり、寒さや暑さを感じにくかったりする。
  • 空腹や満腹に気づきにくい: 食事のタイミングを逃したり、食べ過ぎたりする。
  • 体の位置やバランスが分かりにくい: 不器用に見えたり、転びやすかったりする。
  • 強い刺激を求める: 体を強く叩いたり、ぐるぐる回ったりして感覚刺激を求めることがある。

これらの感覚特性は、日常生活におけるストレスの原因となることが多く、特定の場所(例: 人混み、騒がしい場所、明るい場所)に行くのを避けたり、特定の活動(例: 食事、着替え)が困難になったりすることにつながります。

大人のアスペルガー症候群(ASD)の特徴と困りごと

アスペルガー症候群(ASD)は、生まれつきの特性であるため、子供だけでなく大人にも見られます。
子供の頃は特性が目立たなかったり、周囲のサポートによって乗り越えられたりしても、社会に出て人間関係が複雑になったり、仕事で求められる能力が変わったりすることで、特性による困りごとが顕在化するケースが多くあります。
大人の場合、知的障害を伴わないため、周囲からは「変わった人」「空気が読めない人」「自分勝手な人」などと見なされ、本人の努力不足や性格の問題として捉えられてしまうことも少なくありません。

仕事や日常生活でよく見られる「あるある」

大人のアスペルガー症候群の特性を持つ人は、仕事や日常生活の様々な場面で特有の困りごとを抱えることがあります。

仕事での「あるある」:

  • 報連相(報告・連絡・相談)が苦手: タイミングが分からなかったり、何をどこまで伝えれば良いか分からなかったりする。
  • チームワークが難しい: 自分のペースややり方を崩せない、他の人との協力の仕方が分からない。
  • 暗黙のルールが分からない: 会社の文化や人間関係の機微が理解できず、トラブルになりやすい。
  • 指示が曖昧だと動けない: 具体的な手順や目的が明確でないと、どうして良いか分からない。
  • マルチタスクが苦手: 複数の作業を同時並行で行うのが難しく、混乱しやすい。
  • 突発的な出来事に対応できない: 予定外の仕事や急な変更があると、パニックになる。
  • 特定業務への強いこだわり: 興味のある業務には没頭するが、そうでない業務は全く手につかない。
  • 正直すぎる発言: 思ったことをそのまま口にしてしまい、相手を傷つけたり場を凍り付かせたりする。

日常生活での「あるある」:

  • 家事や片付けが苦手: 効率的な手順が分からず、手順通りに進められなかったり、こだわりが強く融通が利かなかったりする。
  • 予定管理が難しい: スケジュール通りに行動するのが苦手で、遅刻やドタキャンが多い。
  • 金銭管理が苦手: 衝動的に高額な買い物をしたり、計画的な支出が難しかったりする。
  • 人間関係のトラブル: 友人関係や恋愛関係で、相手の気持ちが理解できずに関係がうまくいかない。
  • 感覚特性による困難: 騒がしい場所に行けない、特定の食べ物が食べられない、特定の服しか着られないなど。

これらの困りごとが積み重なることで、自信を失ったり、強いストレスを感じたりし、うつ病、不安障害、適応障害といった二次障害を発症するリスクが高まります。
周囲からの理解や適切なサポートが得られない環境では、孤立し、より生きづらさを感じてしまうことがあります。

大人の女性におけるアスペルガー症候群の特徴

アスペルガー症候群(ASD)は男性に多いと言われていますが、これは女性の場合、特性が目立ちにくく、診断に至りにくいことが一因と考えられています。
大人の女性におけるASDの特性は、男性とは異なる現れ方をすることがあります。

  • 人間関係への強い努力: 女性は子供の頃から、周囲との協調を学ぶ機会が多く、対人関係の困難さを「カモフラージュ(擬態)」するスキルを身につけやすいと言われます。
    定型発達の人の話し方や振る舞いを真似したり、マニュアル化したりすることで、表面上は円滑な人間関係を築いているように見えることがあります。
    しかし、これは非常にエネルギーを消耗し、強い疲労感やストレスにつながることがあります。
  • 興味の対象が人間関係に向けられる: 男性はモノや特定の分野に興味を持つことが多いのに対し、女性は人間関係や心理学、特定の人物(アイドルや友人など)に強い興味を持つことがあります。
    これも一見ASDの特性とは分かりにくく、診断を見送られる原因となることがあります。
  • 感情の表出の仕方が異なる: 感情の理解や表現が苦手な点は男性と同じですが、感情を抑え込んだり、適切な感情表現が分からず戸惑ったりすることがあります。
  • 感覚過敏が強い傾向: 触覚や聴覚、嗅覚などの感覚過敏が男性よりも強く出るという報告もあります。

これらの特性から、大人の女性ASDは周囲から理解されにくく、「変わっているけど、まあ普通」と見なされがちです。
しかし、内面では強い生きづらさを抱えており、誰にも相談できずに苦しんでいるケースも少なくありません。

大人のアスペルガー症候群の会話の特徴と改善のヒント

大人のアスペルガー症候群の特性を持つ人の会話には、以下のような特徴が見られます。

  • 一方的に長く話す: 自分の好きな話題になると、相手の反応を見ずに話し続けてしまう。
  • 正直すぎる、ストレートすぎる: 相手への配慮なく、思ったことや正しいと思うことをそのまま口にしてしまい、相手を傷つけたり驚かせたりすることがある。「似合わない」「美味しくない」などを悪気なく言ってしまう。
  • 建前や社交辞令が理解できない: 本音と建前を使い分けることが難しく、ビジネスシーンやフォーマルな場面での対応に困ることがある。
  • 質問の意図が分からない: 相手が何を求めて質問しているのかが分からず、的外れな回答をしてしまう。
  • 会話の間(ま)が取れない: 相手の言葉が終わったタイミングでスムーズに自分の言葉を始めたり、適切な沈黙を保ったりするのが苦手。
  • 非言語的なサインを読み取れない: 相手の表情、声のトーン、ジェスチャーなどから感情や意図を読み取ることが難しい。

これらの会話の特性は、意図的なものではなく、脳の機能的な違いによるものです。
しかし、円滑なコミュニケーションを妨げ、人間関係のトラブルの原因となることもあります。

会話を改善するためのヒントとしては、以下のようなものがあります。

  • 会話のルールを意識的に学ぶ: 「人の話は最後まで聞く」「質問にはまず答える」「相槌を打つ」など、基本的な会話のルールを意識する。
  • 「報告・連絡・相談」のフレームワークを学ぶ: 特にビジネスシーンでは、これらのフレームワークを意識することで、必要な情報を漏れなく伝える練習をする。
  • 視覚的な情報を活用する: 会話の内容をメモしたり、話す前に要点を書き出したりする。
  • 曖昧な言葉を具体的に聞き返す: 「それって具体的にどういうことですか?」「例えばどんなことですか?」など、分からない点を具体的に質問する。
  • 会話のペースを意識する: 相手の話す速さや間に合わせて、自分の話すペースを調整することを意識する。
  • 事前に話題を準備する: 会う相手や場面に応じて、話す内容をいくつか準備しておく。
  • 信頼できる人にフィードバックをもらう: 自分の会話のどこに難しさがあるのか、信頼できる家族や友人、専門家からアドバイスをもらう。
  • ソーシャルスキルトレーニング(SST)を受ける: コミュニケーションや対人関係のスキルを学ぶための専門的なプログラムを活用する。

これらのヒントは、すぐに完璧にできるようになるものではありませんが、一つずつ意識したり練習したりすることで、コミュニケーションの困りごとを軽減していくことができます。

アスペルガー症候群とADHDの主な違い

アスペルガー症候群(ASD)とADHD(注意欠如・多動症)は、どちらも発達障害に分類されますが、その主な特性は異なります。
しかし、一部の特性が似ていたり、両方の特性を併せ持っている人も多くいます(併存)。
それぞれの主な違いを理解することは、適切な理解と対応のために重要です。

特性 アスペルガー症候群(ASD) ADHD(注意欠如・多動症)
社会性・
コミュニケーション
対人関係や相互的なやり取りの困難さ一方的なコミュニケーション言葉の字義通り理解、非言語サインの理解困難さ 衝動的に話す、人の話をさえぎる、会話の順番が待てない、多弁
興味・行動 限定された特定の興味への強いこだわりルーティンや習慣への強いこだわり、変化への強い抵抗 不注意(集中力の維持困難、忘れっぽい、物をなくしやすい)、多動性(落ち着きがない、じっとしていられない)、衝動性(順番が待てない、後先考えず行動する)
衝動性 比較的少ない 目立つ
計画性・
実行機能
こだわりが強く、融通が利かないことがある、手順通りに進めようとするが、臨機応変な対応が苦手 計画を立てたり、物事を順序立てて実行したりするのが苦手、整理整頓が苦手
感覚特性 感覚過敏・鈍麻が見られることが多い(診断基準には含まれないが多くの人に見られる) 感覚過敏・鈍麻が見られることもあるが、ASDほど顕著ではないことが多い
こだわり 強いこだわりが特性の核の一つ 特定のものへのこだわりが見られることもあるが、ASDのそれとは質的に異なることが多い

ASDは対人関係の相互性限定された興味・行動に特徴があるのに対し、ADHDは不注意多動性衝動性に特徴があります。
ASDの人は、特定のルールや手順にはこだわるものの、臨機応変な対応が苦手な傾向があります。
一方、ADHDの人は、計画を立てたり、それに沿って実行したりするのが苦手で、衝動的に行動しやすい傾向があります。

しかし、前述の通り、ASDとADHDは併存することが多く、両方の特性による困りごとを抱えている人も少なくありません。
例えば、「空気が読めずに衝動的な発言をしてしまう」「特定の興味には没頭するが、それ以外の課題には不注意で取り組めない」といった形で現れることがあります。
どちらの特性が強いのか、あるいは両方の特性がどのように組み合わさって困りごとが生じているのかは、専門家による丁寧なアセスメントが必要です。

アスペルガー症候群の診断について

アスペルガー症候群(ASD)の診断は、専門家によって慎重に行われる必要があります。
診断を受けることには、自分の特性を正しく理解し、適切な対応や支援につながるといったメリットがあります。
一方で、診断名がつくことへの不安を感じる方もいるかもしれません。
診断はあくまで、その人の特性を理解し、生きづらさを軽減するための手段であると捉えることが重要です。

診断基準(DSM-5)の概要

現在の診断は、基本的にアメリカ精神医学会の診断基準である『DSM-5』に基づき、「自閉スペクトラム症(ASD)」として行われます。
DSM-5におけるASDの診断基準の主要なポイントは以下の通りです。

  1. 社会的コミュニケーションおよび相互作用における持続的な欠陥:
    • 対人的・情緒的な相互性の欠如(例: 会話が成り立たない、興味や感情を共有しない)。
    • 非言語的コミュニケーション行動の欠陥(例: 目が合いにくい、表情やジェスチャーの理解・使用の難しさ)。
    • 対人関係の発展、維持、理解における欠陥(例: 友人を作ったり関係を維持したりするのが難しい、社会的状況への適応が難しい)。
    • これらの欠陥は、現在の発達水準にそぐわない。
  2. 限定された反復的な様式の行動、興味、活動:
    • 常同的または反復的な体の動き、物の使用、話し方(例: くるくる回る、物を並べる、エコラリア)。
    • 同一性への固執、ルーティンへのこだわり、変化への抵抗(例: 同じ道を毎日通る、特定の儀式的な行動、予定変更への強い抵抗)。
    • 限定され固執した興味(例: 特定の分野への過度な没頭、異常に強いこだわり)。
    • 感覚刺激に対する過敏さまたは鈍感さ、あるいは環境の感覚側面に対する並外れた興味(例: 特定の音に耐えられない、特定の物に触れ続ける)。
    • これらの行動、興味、活動は、現在の発達水準にそぐわない。

これらの基準に加えて、以下の点が重要視されます。

  • 発達早期から症状が存在する(ただし、成長して社会的な要求が増えるまで顕在化しないこともある)。
  • 症状によって、社会生活、学校生活、職業生活などの重要な領域で機能の障害が引き起こされている
  • 症状は、知的発達症(知的障害)や他の精神疾患によってはよりよく説明されない

診断は、これらの基準に照らし合わせながら、本人の生育歴、現在の困りごと、行動観察、心理検査などを総合的に評価して行われます。

アスペルガー症候群の簡易診断テスト(チェックリスト)について

インターネット上や書籍などで、アスペルガー症候群(ASD)の傾向を調べるための簡易的なチェックリストや診断テストを目にすることがあります。
例えば、「AQ(Autism Spectrum Quotient)」や「SRS(Social Responsiveness Scale)」といった質問紙などがあります。
これらのチェックリストは、自身の特性に「気づく」ための一つのきっかけとしては有効かもしれません。

しかし、これらの簡易テストは、あくまで傾向を知るための目安であり、医学的な診断に代わるものではありません
チェックリストの点数が高いからといって、必ずしもASDと診断されるわけではありませんし、逆に点数が低くても専門家による詳細な評価が必要な場合もあります。

簡易チェックリストによる自己判断は危険です。
自身の特性について深く悩んでいる場合や、日常生活に大きな困難を感じている場合は、チェックリストの結果だけで結論を出さずに、必ず専門機関を受診し、医師による正式な診断を受けるようにしましょう。
専門家は、チェックリストだけでは分からない、生育歴の詳細な聞き取りや、行動観察、他の検査などを通して総合的に判断します。

専門機関での診断プロセスと受診先

アスペルガー症候群(ASD)の診断は、主に精神科や心療内科、児童精神科といった精神医療機関で行われます。
子供の場合は、小児科の発達外来や児童精神科が専門となります。
その他、発達障害者支援センターや地域の相談支援事業所などが、受診先の情報提供や相談に乗ってくれる場合があります。

診断プロセスは、医療機関によって多少異なりますが、一般的には以下のような流れで進みます。

  1. 予約: まずは医療機関に電話やウェブサイトで予約を取ります。
    発達障害の専門外来は混み合っていることが多いため、初診の予約が取りにくい場合があります。
    数ヶ月待ちとなることも珍しくありません。
  2. 問診・予診: 受診の前に、問診票の記入を求められます。
    現在の困りごと、子供の頃からの発達の状況、家族歴などを詳しく記入します。
  3. 医師による診察: 医師による問診が行われます。
    問診票の内容に基づいて、さらに詳しく話を聞いたり、現在の状態を観察したりします。
    子供の頃からの具体的なエピソード(保育園や学校での様子、他の子供との関わり方など)を詳しく伝えることが重要です。
    家族から話を聞くこともあります。
  4. 心理検査・発達検査: 必要に応じて、公認心理師や臨床心理士による心理検査や発達検査が行われます。
    • 知能検査: 知的な発達の程度や得意・苦手な領域を把握します(例: WISC-IV、WAIS-IV)。
      アスペルガー症候群は知的障害を伴わないとされていましたが、ASDとしては知的発達に遅れがある場合もない場合も含まれます。
    • 発達検査: コミュニケーション能力や対人スキル、こだわりの傾向などを詳細に評価するための検査(例: ADOS-2、ADI-Rなど、専門的な機関で実施される検査)や、質問紙による検査が行われることがあります。
  5. 行動観察: 診察室や検査中の様子、待合室での振る舞いなど、専門家が本人の行動を観察し、診断の参考にします。
  6. 診断と説明: これらの情報(問診、生育歴、検査結果、行動観察など)を総合的に評価し、医師が診断を確定します。
    診断名とともに、その根拠となる特性や、今後の生活での留意点、利用できる支援などについての説明があります。
  7. フィードバック・支援計画: 診断結果や特性について詳しく説明を受け、今後の生活でどのように特性と向き合っていくか、どのような支援が有効かなどについて、本人や家族と話し合います。
    必要に応じて、支援機関や行政のサービスへの連携なども検討されます。

診断は一度の受診で確定しないこともあり、複数回の診察や検査を経て確定に至る場合もあります。
また、診断に納得がいかない場合や、他の専門家の意見を聞きたい場合は、セカンドオピニオンを求めることも可能です。

受診先の例:

  • 精神科、心療内科: 大人の発達障害の診断・治療を行っている医療機関を探します。
    専門外来を設けているところもあります。
  • 児童精神科: 子供の発達障害の診断・治療を専門としています。
  • 小児科(発達外来): 乳幼児期や学童期の発達について相談できる場合があります。
  • 発達障害者支援センター: 診断は行いませんが、発達障害に関する相談に応じ、適切な医療機関や支援機関の情報を提供してくれます。
  • 地域の相談支援事業所: 障害福祉サービスに関する相談や計画作成を行います。
  • 精神保健福祉センター: 精神的な健康に関する相談に応じます。

受診を検討する際は、事前に医療機関のウェブサイトを確認したり、電話で問い合わせたりして、発達障害の診断に対応しているか、予約方法などを確認しておきましょう。

アスペルガー症候群の特性への理解と具体的な対応・支援

アスペルガー症候群(ASD)の特性は、本人の努力や甘えではなく、脳機能の特性であることをまず理解することが、本人にとっても周囲にとっても最も重要です。
特性そのものをなくすことはできませんが、特性による困りごとを軽減し、生きづらさを和らげるための様々な対応や支援があります。

本人への対応・支援:

  • 自己理解を深める: 自分の特性を知り、どのような状況で困りやすいのか、何が得意で何が苦手なのかを理解することが第一歩です。
    書籍や情報サイトで学ぶ、専門家から説明を受ける、同じ特性を持つ人の体験談を聞くなどが有効です。
  • 困りごとへの対処法を学ぶ: コミュニケーションのスキル、感情の調整方法、ストレスへの対処法などを具体的に学び、練習します。
    ソーシャルスキルトレーニング(SST)や認知行動療法などが有効な場合があります。
  • 得意なこと、興味のあることを活かす: 強い興味や集中力を、仕事や趣味に活かすことで、自己肯定感を高め、充実感を得られます。
  • 感覚特性への配慮: 苦手な感覚刺激を避ける工夫(例: ノイズキャンセリングイヤホン、サングラス)や、心地よい感覚刺激を取り入れる工夫(例: 特定の触感の物を持つ)をします。
  • 環境調整: 働きやすい、生活しやすい環境を整えます。
    職場で合理的配慮を求める、自宅の環境を工夫するなどが含まれます。
  • 休息を十分に取る: 社会生活で多くのエネルギーを消費するため、一人でリラックスできる時間や、好きなことに没頭できる時間など、心身を休める時間を意識的に確保します。

家族・周囲(職場、学校)への対応・支援:

  • 特性の理解: 本人の行動や言動を、特性によるものとして理解する努力をします。
    悪意があるわけではないことを念頭に置きます。
  • 明確で具体的なコミュニケーション: 曖昧な表現や抽象的な指示を避け、具体的で分かりやすい言葉で伝えます。
    必要に応じて、視覚的な情報(メモ、リスト、図など)を活用します。
    • 例: 「適当にやっておいて」ではなく、「〇〇の書類を△△の棚の一番上に、□□の順番で並べておいてください。」
  • 変化を事前に伝える: 予定の変更や新しいルールなど、変化がある場合はできるだけ早く、具体的に伝えます。
    心の準備ができる時間を与えることが大切です。
  • 肯定的なフィードバック: 良い点や努力している点を具体的に褒め、肯定的なフィードバックを伝えることで、本人の自信につながります。
  • 特定のこだわりやルーティンへの配慮: 無理にやめさせようとせず、可能であれば本人のこだわりやルーティンを尊重します。
    それが難しい場合は、代替案を一緒に考えるなど、柔軟に対応します。
  • 感覚特性への配慮: 本人が苦手とする音、光、匂いなどがあれば、可能な範囲でそれらの刺激を軽減する環境調整を行います。
    休憩できる静かな場所を設けるなども有効です。
  • 困りごとを具体的に話し合う: 何に困っているのか、どのようにすれば困りごとが軽減できるのかを、感情的にならずに建設的に話し合います。
  • 専門家や支援機関との連携: 診断を受けた場合は、医師や専門家からのアドバイスを受け、必要な支援サービス(カウンセリング、グループワーク、就労支援など)を利用することを検討します。

利用できる支援機関・サービス:

  • 発達障害者支援センター: 発達障害に関する相談、情報提供、医療機関や支援機関への紹介、ペアレントトレーニングなどを行います。
  • 就労移行支援事業所: 障害のある人が一般企業への就職を目指すための訓練やサポートを行います。
    発達障害に特化した事業所もあります。
  • ハローワークの専門窓口: 障害のある人の就職相談や求人紹介を行います。
  • 地域障害者活動支援センター: 創作的活動や生産活動の機会提供、地域交流活動などを行います。
  • 相談支援事業所: 障害福祉サービスを利用するための計画作成などを行います。
  • 精神保健福祉センター: 精神的な健康に関する相談に応じます。

これらの対応や支援は、一人ひとりの特性や困りごとの内容によって異なります。
重要なのは、本人と周囲が協力して、特性を理解し、その人に合った方法を見つけていくことです。

まとめ:アスペルガー症候群の特徴を知り、適切な理解へ

アスペルガー症候群は、現在では自閉スペクトラム症(ASD)の一部として捉えられています。
その主な特徴は、対人関係や社会的なコミュニケーションの困難さと、限定された興味や特定の行動へのこだわりです。
これに加えて、多くの人に感覚特性が見られます。
これらの特性は、知的な遅れを伴わない場合でも、社会生活において様々な困りごとを引き起こす可能性があります。
特に大人の場合、特性が周囲から理解されにくく、生きづらさを感じやすい傾向があります。

アスペルガー症候群(ASD)の特性は、単なる「変わった性格」や「努力不足」ではなく、脳機能の発達の仕方の違いによるものです。
特性を知ることは、自分自身や周囲の人の行動や言動を理解するための重要な手がかりとなります。
簡易的なチェックリストはあくまで目安であり、正確な診断は専門機関で医師によって行われる必要があります。
診断を受けることで、自身の特性を深く理解し、適切な対応策や支援サービスにつながる道が開けます。

特性を理解した上で、具体的なコミュニケーションの工夫や、環境の調整利用できる支援機関の活用などを通して、困りごとを軽減し、本人らしく能力を発揮できる環境を整えることが可能です。
アスペルガー症候群(ASD)のある人も、ない人も、お互いの特性を理解し、尊重し合うことで、より生きやすい社会を共に作っていくことが大切です。

もしご自身や周囲の方の特性について悩んでいる場合は、抱え込まずに、まずは医療機関や発達障害者支援センターなどの専門機関に相談してみてください。
適切な情報や支援につながることで、状況が改善される可能性があります。

免責事項: 本記事の情報は一般的な知識を提供するものであり、医学的な診断や助言に代わるものではありません。
ご自身の状態については、必ず専門の医療機関で相談してください。

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